緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
「――『UNITED STATES OF SMASH』!!!!」」
神野での一幕を経て、オールマイトがオール・フォー・ワンへと拳を振るう。彼らしくないフェイントでぶち込んだ最高の一撃は、完全に意識を刈り取る一撃だった。
オール・フォー・ワンはたまらず倒れ込み……結晶のように砕け散った。
「……なんだと!?」
「殺してしまった――と思ったかな?」
オールマイトが最後の力を振り絞ってオール・フォー・ワンを打倒したかに見えたその瞬間、奴は結晶から復活した。
工業地帯を思わせるマスクはそのまま、だがオールマイトが与えた乾坤一擲のダメージは消え去った。死力を尽くして戦った結果が、徒労に帰した。
「何度でも覚醒するといい。僕はその度に何度でも生き返ろう。君は絶望と恥辱の中、あらゆる苦痛を味わいつくした末に終わるのだよ」
それは勝利宣言。オール・フォー・ワンが描いた勝利の図式。――即ち、負けなければ勝利以外ない。打倒不能の魔王の前にあるものは、ただ蹂躙のみなのだと。
その絶望的な力の前にオールマイトは膝をつく。もはや戦う力は残っていない。
ここで、弟子としてオーバードライブが現れていたのなら、師弟の絆が限界突破を起こして奇跡を起こしていたのだろう。
が、今回現れたのは。
「下がっていてくれ、師匠」
「……うちたちが、来た!」
ウラビティ、そしてオーバードライブのコンビだった。
「――おやあ? おやおや、耄碌したことだオールマイト。こんな幼い子供を生贄に差し出して、僕がもしや躊躇うとでも?」
学生ではあれど規格外の力を持つ二人だ。オール・フォー・ワンが放つ禍々しいプレッシャーをものともせずに見返す。
「ダメだ、そいつは私がなんとかしなきゃ――」
「いいや。そんなことはないさ」
「うん、オールマイト先生はよくやってくれた。だから、あとは任せて」
オールマイトの前で、次の相手は自分たちコンビなのだと啖呵を切る。
その姿が、オール・フォー・ワンには癪に障る。魔王を前にその気概、舐めているのかと。恐怖を知らないのなら、教えてやろうと指を動かす。
「くっくっく。付け焼刃のコンビネーションなど、綿菓子のように引き裂いてあげよう」
指をピストルの形にした。二人の中間点に衝撃波を放つ。しかも、ご丁寧にかわせばオールマイトに直撃するコースだ。魔王の力は、ガキが対抗できるような生易しいものではなく更に嫌がらせまで欠かさない。
「……」
「――」
言葉をかわす必要もなく、役割分担は終わっている。ウラビティがオールマイトを後方に下げ、そしてオーバードライブが殴りにいく。
ただの一瞬でも逡巡があれば、三人まとめて戦闘不能に陥っていた紙一重。
「くはっ。ロートルのガスマスク野郎め、動きが鈍いぜ!」
「ヒーローの卵風情がちょこざいんだよ……!」
懐に入り、拳を振るう。だがこともなげに耐えたオール・フォー・ワンは衝撃波をとばして薙ぎ払う。
「全方位の衝撃波、確かに回避不能だが――」
「一息にやってはあげないよ。君がオールマイトの希望なら、苦しむ顔を彼に見てもらわなきゃもったいない」
弾き飛ばされたオーバードライブめがけ追撃を放つ。これが実力差、かろうじてついていこうにも手順さえ踏めば順当に踏み潰せる。
「範囲攻撃で動きを止めて締めってトコか。ああ、おそらくそいつを喰らったら俺でも動けねえが」
「動きが鈍いって、言うたやろ」
が、ウラビティが空中に浮かされた彼をひっつかんで避けた。
コンビならなんとかなる。速度と力、なによりも1対2のアドバンテージを活かせば隔絶した実力差についていける。
「なるほど。その子の速さなら何とかなると考えたんだね。でも――」
嘲るような声。そして、彼の背後から無数の枝が生えてくる。
そう、厳然とした実力差が埋まったわけではない。2手で潰せないなら、詰将棋で対抗手段のすべてを摘み取るだけだ。
「軽いよ。羽虫じゃ僕は殺せない」
その無数の枝は、ウラビティでは一本に対抗するのが精一杯。一本を相手にしているうちに他の数十本が迫ってくる。
「確かに一本一本折り砕いてちゃ切りがない。けれど」
「そん時ゃ、俺の出番だ。『Calolina Smash』!」
オーバードライブがその枝をまとめて折り砕く。
「この……!」
「大技の前には隙ができるね」
道が開いた。その隙を見逃さず、ウラビティがオール・フォー・ワンの身体を浅く切り裂いた。
「だが、この程度で止められると思うんじゃないよ!」
その傷に結晶が生え、砕け散ると同時に回復している。戦えているように見えても、この不死には打つ手がない。
魔王の攻撃をかろうじて凌いで隙を見出しても。
「少し遅らせれば十分。『Smash』!」
腹いせに更に力を入れたその瞬間にオーバードライブの拳が突き刺さる。
「っが! この――うざったいな!」
オール・フォー・ワンの体がくの字に曲がる。ダメージは与えた、だが――
「いくらお前ががんばろうと、この不死身の体には通じないんだよ!」
結晶化し砕け散ると、無傷のオール・フォー・ワンが現れた。
まともに考える頭があれば諦めている。攻撃は通じない。凌げているとはいえ、細かい傷は入っているのだ。勝ち目は存在せず、油断か疲労で終わるときを待つだけ。
「本当の不死身なんてありはしない」
「殺せないなら――死ぬまで殺すだけ」
だが、このコンビはまったく引きはしない。その努力が通じないと見せられた上で……それは”やらない”理由にはならないのだと啖呵を切る。
その、希望を信じる若者の姿は――
「不快だな。ああ、不愉快だその姿。希望を信じて? 願えば叶う? そんな能天気な連中を絶望に落とすのが魔王の醍醐味ってものだろう」
また、オール・フォー・ワンから棘が生える。
「元気が有り余っているようだから、もう少し相手してあげよう」
無数の棘を相手に、オーバードライブとウラビティが奮戦を続けるが――
「ぐ……! 出久。麗日少女……ッ!」
オールマイトは後方で歯を食いしばる。手は届かない、覚醒しない。このステージは、このコンビのものだ。
「くはははは。みじめだなあ、オールマイト! どうだ、未来ある若者達を戦わせて一人観戦する気分は⁉ まったく、いい気なものじゃないか」
「なにが――いい気だ。私だって戦え……! げほっ。ごほっ!」
オール・フォー・ワンへ嫌味を飛ばすが。
「おい、どこを見てるんだ? 寂しいぜ」
「……ッ! 弟子風情が……!」
「――『Smash』!」
ズドン、ともう一発。いいのが入ったが関係ない。そもそも――
「学ばないな。オールマイトの、弟子ごときが。お呼びじゃないんだよ!」
「……くははっ。大振りだな、疲れてきてるんじゃないか?」
「そんな攻撃じゃ、うちらは倒せん」
衝撃波を、ウラビティの手を借りてかわす。
「お前たちが、いくら手を取り合ったところで――この魔王は倒せない! 貴様らはそろいもそろって学習しないのか! 無駄なんだよ、どれだけ頑張ろうと!」
「いいや、俺たちは諦めない」
「一人では無理でも二人ならなんでもできる。そう信じてるから」
「……”二人”ね。そんな絆など引き裂いてやる! そして、ワン・フォー・オールを渡せ。もとより貴様の価値などそれしかないのだからな――入れ物め!」
いい加減に切れた。馬鹿の相手は慣れているつもりだったが、ここまでの馬鹿はついぞ目にかかったことがない。
目の前が見えていないどころか、今何を体験したかすら理解していないのか! このトチ狂ったヒーロー志望は!
「随分と、直截な物言いだな。やはりお疲れだな、ご老人!」
「この絆は引き裂けない。個性だって渡しはしない!」
やはり棘を伸ばしてくる。そして、合間に他の個性で攻撃をしかけてくるが。
「攻撃が雑になってきてるぜ。個性をばらばらに使うだけじゃ俺たちは捉えられねえ!」
「オーバードライブ! この、棘に触ると個性が吸い取られる」
「クハッ。いいじゃねえか、それだけ的も必死だってことだ」
「うん。……必ず、勝とうね」
一つのミスが致命につながる中、その目の輝きはますます増してくる。一人じゃない、コンビが生み出す力というものを見せつける。
「――何をいい気になっている! 本気になったのは、いい加減にお前たちの顔を見飽きたからだ! おま……!」
「「『Twin-Smash』!」」
オーバードライブの拳とウラビティの影猫の手が敵の頭を粉砕した。だが、やはり結晶化して蘇る。
「お前たちが何をしようと無駄だからだ! コンビの力だと? そんなものはただのゴミだ。オールマイトは、そんなものに頼らなかったぞ!」
「先人は尊敬すべきだろう。だが、だからこそ俺たちは先に進む」
「一人じゃオールマイトには届かない、あなたを倒せない。でも、二人でなら超えられる……!」
「無駄な……ことを――ッ!」
オール・フォー・ワンが激怒し、攻撃の密度が上がるが……それは雑になっていた。遠目に見ると絶対的ピンチでも、この猛攻の中にいるなら活路を見出せる。
感情に任せた攻撃は、更に多くの隙を生んでいた。もっとも、それで本体まで突破されようと不死身があるから負け筋にはならないのだが。
「……だが、確かに埒が明かねえな」
「一発でだめなら百発、百でだめなら万を。……でしょ?」
「よこせ……! よこせ、ワン・フォー・オールを!」
オール・フォー・ワンは別に二人を絶望に落とすことにこだわってはいない。標的はあくまでオールマイト、この二人など飛び回るハエでしかない。
特別なことがあるとすれば、それを持っていること。それを手に入れるために舞台を仕組んだ、長い時間をかけた仕込みは進行中だ。だが、あまりのうざさに忍耐袋の緒が切れた。
「与一を、か?」
オーバードライブの中で何かが弾けた。使い倒してきたワン・フォー・オールの力、宿敵ならば奮起しろとけしかけ――無理やりにでも糸口を掴めば力技で掴みとる。
蓄えてきたのは力だけではない。記憶も受け継いだ。ならば使うのみ。――なぜなら、彼はオーバードライブなのだから。
「なぜ、その名を……! いや、そこに居るからな。その個性にはまだ、弟が残っている。だから差し出せ。それは――
不死身の個性とはいえ、精神的な疲労は免れない。そして、いい加減にじれったくなってきた。準備を積み上げてきたとはいえ、できるならもうここで盗ってしまえばいい。
その顔はもう、見飽きた。ぐちゃぐちゃにして残骸からそれを引き揚げてやろうと更に攻撃を繰り出す。
「ああ、話したさ。だがな、これは残り香なんだよ。そもそも忘れたのかよ……なあ、死柄木全よ」
「僕の名前を。やはり、そこにまだ居るんだな。与一、兄の元へ来るんだ――でなければ、もっと多くの人が死ぬことになる」
「いいや、死んだ人間は生き返らない。お前の元へ行くこともない。ただ、生きていた証が残るだけだ。お前が殺したんだ、オール・フォー・ワン」
「違う! 与一は、僕の家族は生きている。お前の中に居るんだ、だからよこせ!」
空を覆い尽くすかのような棘が、一斉にオーバードライブに向かっていく。それを――彼は受け入れる。
「なあ、与一はもういないじゃないか。そんなことも、お前には分からなかったのか?」
「――ッ⁉」
触れた、その瞬間にオール・フォー・ワンはビクリと震える。次の瞬間に棘が崩壊していく。
「ワン・フォー・オールがなくても俺は俺だ、オーバードライブだ。オーバードライブとして、誰かと手を取り合っていける。だが、お前はどうだ……死柄木全。手を血で汚すばかりで、果てには死人に手を伸ばすしかないお前には――」
オーバードライブは静かにその様を見守る。
内部での会話は一瞬、いやそれは会話ですらなかった。ワン・フォー・オールに残された残り香から必要な情報を引き出した。理解のために会話形式をとることこそあれ、それは心の中で思ったことでしかない。
引き出した情報を心の中で検討して、そして実行した。昔にオール・フォー・ワンはワン・フォー・オールを奪うことができなかった経緯がある。ならば、攻撃的に叩き込むことで致命的なダメージを与えられると判断した。残留思念達の想いがあるなら、それすら利用するのみ。
「おおおおお……! 与一、僕を拒むと言うのか!」
「お前はガキだな、死柄木全。それはすでに死人だ。死者は先に進めない、同じところを回るだけ。100万の言葉を尽くそうが、それに意味などありはしない」
「黙れ……! 黙れ、オーバードライブ。貴様に何が分かる!? 僕と与一は特別な絆で結ばれた――」
棘が崩れ、血を吐き、よろめくオール・フォー・ワン。すでに魔王の威厳は失われている。圧倒的な力も、ただ一点の
「人のものを羨んで取り上げるばかりで、他人に与えない奴は輪の中に入れない。お前は魔王なんかじゃない。妬み家で、ひねくれた――孤独なだけの、ただの人間だ」
「なんだと。ならば、見せてやろうじゃないか。僕と与一の力を……っぐあ!」
個性を発動させようとするがうまく発動しない。ワン・フォー・オールが中からすべてを叩き壊す。それはただの残留思念、こびりついたそれが命ずるままに存在意義を実行する。――ただ、オール・フォー・ワンを壊す。
「それによ――男なら、求めるんじゃなくて与えてやれや! 誰かに寄り添ってほしかったのなら、誰かのその人を守るんだよ! それが、カッコを付けるってことじゃねえかよ……なあ、悪者気取り!」
「があっ!」
身体にひびが入り、限界を迎えたような姿のオール・フォー・ワン。今はもうやせ衰えた老人のような哀れな姿に躊躇なく拳を叩き込む。
だが――
「オーバードライブ、一緒に」
「ああ。悪は砕く。それが」
二人で拳を握る。覚悟はできている。この”悪”は見逃せない。
今がチャンスだ、時間を与えれば復活することは容易に想像できる。そもそも苦しんでいるのは抵抗しているということであり、ワン・フォー・オールを完全に掌握したときが終わりだ。
「待っ。待ってくれ、出久。麗日少女……ッ!」
ゆえに、哀れな姿の老人を相手にしても躊躇はしない。
「「『Twin-Smash』!」」
息の合った一撃が、オール・フォー・ワンを確かに葬った。
この小説を書いているときは、ぼんやりと麗日か八百万のどちらかがメインヒロイン。オールマイトルートのノーマルだとエリかなと思って、結局ノーマルル-トに落ち着きました。ちなみに実際にルートを決めたのは異能解放戦線のあたりです。
エンドの方から見ていくと、分岐点はオール・フォー・ワンの決戦かと思ったので分岐を書いてみました。ここから正義の音楽性の違いでヒーローたちと対立、残党殲滅でエンディングになるのでしょう。