緑谷出久の限界突破(オーバードライブ)   作:Red_stone

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第7話 雄英体育祭

 

 栄えある雄英体育祭はその一言で始まった。

 

「俺が一位になる。せめて跳ねのいい踏み台になってくれ」

 

 爆豪のその一言。だが、周囲の反応は原作と少し違う。ネガティブなことは同じだが……爆豪を嘲る雰囲気すらある。

 身の程知らず、とは彼が出久に吐いた言葉だが。

 

「おいおい、恥ずかしくないのか? オールマイトの弟子が居るんだぜ。一位を取るのは彼だろ」

「そうそう、どうせ一位なんて穫れるわけもないのにビッグマウスだな」

 

 その傲慢が不愉快だという声に交じって、そんな嘲りの声がある。

 人の口に戸は立てられないもので、出久がオールマイトの弟子というのは知れ渡ってしまった。

 まあ、あれだけの連携を見せれば当然だろう。そして、それだけの実力も持ち合わせているのだから。

 

「爆豪君。あまり雄英の品位を貶めるような真似はしてほしくないんだが」

「違うぜ、天哉。かっちゃんは自分を追い詰めるためにああ言ったんだよ。まごうことなき本気だぜ、奴は」

 

「それならば……いや、待て。爆豪君のせいで1-Aがとばっちりを受けているのは変わらないのでは?」

「そうだったな! HAHAHAHAHA!」

 

「笑い事ではないぞ、これだから……!」

 

 第一種目は障害物レース。ボキボキ骨をぶち折りながらの限界突破は禁止されているものの、覚醒した結果として100%のワンフォーオールは完全に扱える。

 なお、リカバリーガールはすでに諦めている。原作の緑谷は反省して顧みることができたが、このオーバードライブは反省しても、顧みるなんて機能はない。

 何を言ったって無茶をするのだから、後はリカバリーガールが治療するかしないかの話になってくる。だから治療することにした。

 

 とはいえ、100%……それですらオーバーキルである。

 そんなものに勝てるのはプロだってそうはいない。当然、ぶっちぎりの一位をとった。その速さを前にロボは彫像も同然で、崖は走り幅跳びの要領でひとっ跳び、爆発は炸裂する前に走り抜けた。

 そして、轟と爆豪がデッドヒートを繰り広げていた。

 

 第二種目は騎馬戦。もちろん、出久が勝利した。峰田が女性陣を騙してチアガール姿を曝したのも原作と同じ流れ。1対1の第3種目へ。

 

 そして、運命の第一戦目。心操人使VS緑谷出久。

 

「お前はいいよな、緑谷。凄い人に目をかけてもらえて。……なあ、羨ましいなあ。どうせ、馬鹿にしてんだろ。どいつもこいつもゴミみたいな個性ばかりだってさ」

 

 ねめつけるようなじっとりとした眼を向けられる。羨ましい、ずるい……そんな負の方向性が煮詰まったかのような瞳が出久を威圧する。

 

「まさか。個性はそいつの人生だ。尊敬こそすれ、侮りなんてしねえ」

 

 それで委縮するような出久ではない。笑って見せた。

 

「そうか。素晴らしい言葉だな、マスコミに聞かせてやりたいよ。……そして、俺の勝ちだ」

「――は」

 

 心操の頬に拳が突き刺さる。

 そのまま倒れる。

 

「……え?」

 

 頬に手を当てる。熱い、痛い……今何をされた? 殴られた?

 それはおかしいだろう。なぜなら。

 

「なんだ、さっさと使って来いよ。心を操るのがお前さんの個性なんだろ? すげえじゃねえか。それがあればヴィランを無傷で捕まえられる。俺にはできない素晴らしい個性だよ」

 

 言葉とは裏腹に出久は一歩づつ足を進める。

 このままでは蹴られ、場外まで出される。

 

「なら、俺の問いに答えろ! お前、まいったと言う気はあるか!?」

「――ない」

 

「うわっ!」

 

 どすん、と足が落ちてきた。心操はそれを必死にかわす。

 

「なんだ、やればできんじゃねえか。じゃあ、こっからは殴り合いと行こうか!」

「ふざけるな! なんなんだよ、お前! 個性を消す個性でも持ってんのかよ!?」

 

「いいや、そんなものは持っていないが」

 

 種を明かせば簡単至極。

 心を強く保っているから効かないというだけの話。プロヒーローなどおよびもつかないほどの強靭な意思が心を操る能力を踏み潰す。

 つまりは異常者だ。正しい方向を向いているだけの異端である。

 それに、他が弱いということではない。出久が心による個性の進化を可能にできるほど頭がおかしく強いというだけの話だ。

 

「――ま、いいさ。個性が使えない、それで諦めるならヒーローも諦めちまえよ」

 

 出久が拳を振る。

 心操としてはたまらない、当たればものすごく痛いのだ。人体をどう破壊すればいいのかを完全に心得ている彼の拳は後遺症を残さない痛みの与え方を知っている。

 場外へ倒れ込みそうになる。

 

「ふざけるな」

 

 それでもふんばるのだ。

 痛みに負けてもういいです、と場外に逃げる? そんなことは認められない。だって、憧れたのだ。

 痛みを我慢して立つヒーローの雄姿に憧れたからこそ。

 

「負けてたまるかよ! 1-A! 緑谷! オールマイトの弟子だからって調子に乗ってんじゃねえぞ!」

 

 生まれて初めて人間を相手に拳を握り、殴りかかるのだ。殴り方も知らない、けれどそれ以上に……ここで逃げたくなかった。

 

「いいぜ。来いよ、言いたいことがあるなら拳で語り合おうぜ!」

 

 逃げないかわさない。出久はその一撃を顔で受け止め、一撃を返す。

 

「……痛えんだよ、クソが!」

「どんどん来いや! 全部受け止めて、最後には俺が勝つ!」

 

 試合は個性=能力なしの泥試合の様相を呈した。交わした拳の数が100を超えた。

 

「俺に勝ったんだから、みっともない負け方すんなよ。出久」

「もちろんだ、人使」

 

 心操は前のめりに倒れていった。

 

 

 各1回戦が終わる。

 出久が待機室に向かう途中、彼と出会う。

 

「おォ。いたいた」

 

 エンデヴァー。彼の目はただ目に映るだけで人を委縮させる。

 もっとも、委縮するような心は出久は持ち合わせていないが。

 

「なんでこんなところに……? あなたの息子は逆方向にいるだろう」

「パワーだけで言うならオールマイトに匹敵する素晴らしい個性。そして、彼に直接指導を受けている」

 

「別にあんたの息子だって直接指導は受けてるだろ、生徒なんだから」

 

 エンデヴァーは無視して続ける。

 

「ウチの焦凍にはオールマイトを超える義務がある。君との試合はテストベッドとして有益なものになる。くれぐれもみっともない試合はしないでくれたまえ」

 

 心操と同様の言葉。けれど、こちらは心にまったく響かない。

 言い捨て、去る彼に出久は言葉をかける。

 

「あいつはお前じゃない。我も人、彼も人だから尊重する。人を人形としか思わないなら、お前はヴィラン側の人間だ」

「……あまり強い言葉を使うなよ。これは忠告だが、有名になるにあたり発言には責任が伴うようになる。覚えておけ」

 

 そして、出久の言葉もまたエンデヴァーには届かない。ただの学生、何を言おうとも中身は伴わない。

 

「やれやれ。これはアイツも歪むわけだ」

 

 だが、出久は救わない。

 それは光の亡者の道ではない。正しきを成し、悪をくじくが、どうにも弱きものに寄り添うことは苦手なのだ。

 傷ついても前に進むから、傷ついて立ち止まる人の心が分からない。

 

 ――そして、様々な思惑が地獄の底のように沈んだまま試合が始まる。

 

「緑谷。お前、クソ親父に会ったのか」

「ああ、会ったぜ。気になるか?」

 

「別に。聞いても不愉快なだけだ」

「そうかよ」

 

 上滑りする言葉。どちらも心に踏み込まない。

 試合が開始される。

 

「……!」

 

 スタート直後のいきなりの氷結が出久を襲う。一回戦ではこれで試合が終了した。強力な個性にあぐらをかいた、しかし間違いのない攻撃である。

 だが。

 

「……」

 

 つまらなそうな顔で叩き潰した。

 今の出久ならば、そんな範囲が大きいだけの攻撃は通用しない。100%を使える今、自傷するまでもなく氷など砕ける。

 

「……ッチ」

 

 何度かやってみても、それは同じだ。

 

「なんか言いたいことあんのかよ、緑谷? 馬鹿にしてるのか?」

 

 初めてこちらを向いた。

 だが、それはどうにも思い通りにならないことにイラついているようで。

 

「いや、聞いていいことでもないと思ったから言わなかったんだが。……お前、それはどうよ? 父親にコンプレックス抱いてるのは分かるが、どうも腑に落ちないんだよな」

 

 出久はほおをかく。

 素直な疑問を吐露してく。煽りにしか聞こえないだろうが、それは本当に人の心を理解できていないだけなのだ。

 

「単純な疑問なんだが、お前はエンデヴァーに嫌がらせをしたいんだろ? それとヒーローを目指してる状況がどうにも噛み合わなくてな」

 

「あいつの力の左を使わず、右で昇り詰める。そうした時こそ初めてあいつを否定できる。何かおかしいことでもあるのか?」

「いや、おかしいだろ。どう考えても目的と手段が合ってない。要は目標と手段だよ。なあ、それこそ氷で勝てたとして、お前にはエンデヴァーの血が入ってる。氷だけで一位を獲ったからって、ならそれは自分の遺伝子が優秀だったという結論だろう。……そのあたり、どうなんだ? 嫌がらせならヴィランにでもなればいいと思うが」

 

 出久に悪気はない。ただ、人の気持ちがわからないだけだ。

 嫌がらせ、という意味では手段と目標があっていない。エンデヴァーがああして苦い顔をしているのは”それではNo1になれない”と確信しているからだろう。

 前提を無視して、氷だけでNo1になれたのなら……エンデヴァーとしてはそれでも良いのでは? という意味だ。

 

「そんなこと、やってたまるか。ヴィランになれば、迷惑がかかる」

「親父に迷惑をかけるのが目的なんだろ? いや、人に迷惑をかけないのはいいことだと思うが」

 

「……俺は! 右だけでヒーローになると決めた!」

 

 叫んだ。が。

 

「いんや、お前さんは左に頼ってるだろ。騎馬戦の時だって、どうせ左を使えばとか思ってたろ。そんなに頼ってるようじゃ、お前どうしようもないぞ」

「――あ」

 

 図星。左を使うか? とは、不利になった時はいつでも思っていたことを思い出す。

 だからこそ。

 

「なら、証明してやる。右だけで勝つ!」

 

 意地になった。

 左を使うか? という思考は今もあった。だが、その考えを捨てる。それが父に頼るということになるなら、もうそんなことはしない。

 

「いいぜ。なら限界を超えろよ。耐えられる冷気には限界があるんだろ? それで、いつも左を使えば解決とか思ってんだろ? 頼りっぱなしじゃねえか、情けねえ」

「言うなァ!」

 

 氷結。砕く。

 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。 氷結。砕く。

 何度も何度も繰り返して……

 

「っぜえ。はあ――」

 

 轟がガタガタと震える。もう限界だ。唇が真っ青を通り越して紫色になっている。

 

「っへ。ちょっとは良い面構えになってきたじゃねえか」

 

 そして、出久。こちらのほうも無理を通している。すでに拳の皮がむけて血まみれだ。普通の人ならもだえ苦しむほどの激痛を、笑顔で受け流している。

 まるで痛みなど感じていないかのように。

 

「ああ、使わないと決めてみればこれほど気分のいいことはないな」

「なら、もっとやろうぜ」

 

「望むところだ!」

「行くぜ!」

 

 氷結と拳がぶつかり合う。けれど、進化もできない身では出久は突破できない。そろそろ轟の身体が限界だと察し、勝負を決める。

 砕き、砕き、彼の元まで到達する。

 

「……まだだ! 動け、俺の身体‼ 震えるな!」

 

 激情を口にした。

 それは初めて父以外の人間に対抗しようとした証。動かないくせに震える体を叱咤して、拳を握る。

 そして、左はもう頭にはない。

 

「おおおお!」

 

 カウンターを決めた。

 轟はヒーローになるため、過酷な訓練を受けてきた。その経験は裏切らない。

 

「良い拳だ!」

 

 もっともこちらだって耐えて殴り返すのだ。ただの根性論だが、ずっとそうして生きてきた。

 

「おおおおおお!」

 

 もはや叫ぶことしかできないかのように。

 気合で無理やり体を動かして。しかし、5発が限界だった。限界まで冷気を酷使した上に無理やり体を動かして。

 腹への一撃が、彼の意識を刈り取った。

 

 

 次の戦い、飯田との戦いはレシプロバーストの最高速さえ上回った出久が勝った。そして、決勝戦爆豪との戦いは下馬評通りに出久が制した。

 爆豪は別人のようにおとなしくなり、うつむきながら体育祭を終えた。

 オールマイトが出久に送った言葉だけ抜粋する。

 

「君と私の関係はもはや隠せなくなってしまったな。正直、すまないと思っている。それだけの重責を君にかけてしまったこと、私は後悔さえしていた」

 

「だが、君はそんなもの歯牙にもかけなかった! 君の強さは君自身のものだ、君が私の弟子となってくれて本当に良かった。君は私の誇りだ」

 

「――だが!」

 

 カメラに向き直る。

 

「今回は彼らだった、私の弟子だった。しかし皆さん! この場に居る誰もがここに立つ可能性はあった‼ ご覧いただいた通りだ」

 

「競い、高め合い、さらに先へと昇っていくその姿! 時代のヒーローは確実にその芽を伸ばしている! てな感じで最後に一言!」

 

「「「「PLUS ULTRA!」」」」

 

 見事に唱和した。

 

 





 最後の一言は師弟交流でオールマイトのコミュ力が原作よりも上がったという表現でした。訓練しかできなかった原作とは違い、普通に出久と一緒に外食とかもしています。

 また、オールマイトから出久君への呼び方が原作と違っていますが、これも意識して書いています。
 師弟として強い絆を持っているため、特別な関係がバレバレでした。そこが師弟バレにつながっています。
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