緑谷出久の限界突破(オーバードライブ) 作:Red_stone
そして、体育祭の片づけを終えた。祭りが終わった後特有の満足感と寂しさが同居する感覚を残したまま、祭りは無情にも終わっていく。
さっぱりとした面持ちの者、悔しい気持ちを抱える者。様々であるが、一様に帰路に就く。
そして、出久は幼馴染に声をかける。
「よ、かっちゃん。どっかで何か食ってかねえか?」
「ふっざけんな、このクソデクが! テメエ勝者だからって調子に乗ってんじゃねえ! すぐに追いついて、追い越してやる! 覚えとけ!」
走り去って行った。
完膚なきまでに負けた。だが、ワンフォーオールの100%全開を前に、耐えられなくとも仕方ないのだが。
この時点では『爆破』の個性も戦闘に向いていると言うだけで、その類まれなる戦闘センスを磨けていない。これからだろう、光るのは。
よって、今回の敗北は約束されていたのだが……その現実を認められるほど大人でもない。
「……やれやれ。ま、あいつは這い上がってくる奴だろ。次の機会が楽しみだぜ」
苦笑した。
それでも、出久は信じている。彼なら、その悔しさを前に躍進することができると。
彼はガラスの天才などでなく、打ちひしがれてもそこから這い上がれる強さを持っていると信じているから。
「お、天哉。丁度いいトコに。打ち上げ行かねえか?」
だから、彼のことは放っておいて、他に声をかける。
「いや、僕は君と違って表彰されなかったんだが。というか、緑谷君! 登下校中の寄り道は校則で禁止されているぞ」
表情に影が落ちていた彼、飯田。
なにがあったかは知らずとも、友達なのだから力になることはできる。今は、思い切り遊んで発散させてやった方がいいだろう。
「じゃ、一度家帰ってから集合な?」
「うむ! では、30分後に校門で集合だ! ……あれ?」
いつのまにか行くことになってしまった。と、飯田は首をかしげる。
「ねえねえ。うちも行っていいかな?」
「麗日君か! 良いとも!」
「ああ、歓迎するぜ」
「……なら、俺も混ぜてくれねえかな」
「切島君か。爆豪君のことはいいのか?」
「今はあいつを一人にさせてやった方がいいんだよ。それで手が空いちまったからな。家に帰るだけってのも味気ねえし」
「ケチケチしたこと言ってんじゃねえよ、天哉。切島、一緒に行こうぜ!」
出久がバンバンと切島の肩を叩く。
「ああ。俺は俺で、ちょっと発散したい気分だったからな」
はにかむように、笑った。
そして、横で見ている者が一人。
「……お友達と一緒に外食。……打ち上げ」
とても羨ましそうに見ている。
「あんたも来るかい? 八百万」
「いいのですか?」
「おう、遠慮すんな。クラスメイトだろ」
「ありがとうございます! 実はこういうの、憧れてたんです!」
打って変わった喜びようである。
天然お嬢様とは、クラスメイト共通の認識だろう。
「ああ、お嬢様だと厳しいイメージある」
「そういうこともないのですけど。でも、あまり簡単に外出を許してくれなくて……」
「お嬢様だ!」
「……は、恥ずかしいですわ。麗日さん」
「麗日さんって他人行儀やね。お茶子でええよ」
「では、お茶子さんと。私のことも
「じゃ、百ちゃん」
「お友達に名前をちゃん付で呼ばれたのは初めてですわ……」
感動していた。
まあ、お嬢様学校では名前を呼ぶのもさん付けで、ちゃんは新鮮だったのかもしれない。
「……じゃ、一度解散な」
そして、解散した彼らがまた集合してファミレスに入る。
それぞれが頼んだものが届く。食べ盛りの高校生、とは言え家で夕食があるから軽いものを。……のはずなのに。
「うわあ」
麗日が思いがけず漏らした。
運ばれてくる皿、皿、皿。胸焼けしそうなほど大量に料理が並べられていた。
「あ……あの。ごめんなさい、ちょっと加減が分からなくて」
机に並べきれないほど料理を頼んだ八百万が赤面していた。
「ま、いいんじゃね? よく食べるなあ、くらいにしか思わんし」
出久は淡々としている。
女子として大食漢のイメージはどうなのだろうと思う八百万本人に対し、彼はそんなことは歯牙にもかけない。
「いや、まあよく食べる女の子っていいと思うぜ」
切島がフォローに回った。微妙に焦っている。
「八百万君! その食事は農家の方々が作ってくれたもの。そして料理人の方が精魂込めて料理してくれたものなのだ! 残すなど言語道断!」
「た、食べますわ! 家ではもっと食べてますもの。……あの、個性の関係上、よく使うとお腹が減ってしまいますの。だから、これくらいは……ねえ?」
「た……大変だね。ちょっと百ちゃんの個性羨ましいと思っとったけど、私はちょっと勘弁かな……」
「そ、そうだ。皆さん、お好きに食べてくださいな。私ばかり食べているのも、ちょっと……!」
「お、そう言うことなら少し貰うぜ」
出久がさらっと食べ始めた。
まあ、これも気遣いだ。遠慮する方が気まずくなる。
「ええ……と。じゃあ、私も」
「じゃあ、俺ももらっていいか?」
「はい。もちろんですわ」
そういうトラブルはあったが、会話は和やかに進む。
そして、やはり”個性”にたどり着く。
何と言っても雄英生、一番気になるのはそこだろう。
「緑谷の個性は、その……オールマイトと同じ超パワーなのか?」
切島が聞いた。
USJの事件を経て、もはや公然の秘密となった出久がオールマイトの弟子であると言う事実。あれだけの大立ち回りを見せておいて言い訳は利かない。
「まあ、厳密には同じ個性なんてないんだが……細かいことを抜きにすれば同じ個性と言ってもいいな」
ひょうひょうと嘘をつく。
そこらへんは如才ない、機密事項は友や家族にも知らせぬモノだ。やはりこのあたりの気質は軍人に近い。
「……じゃあ、だから――そんなに強いのか? オールマイトと同じ超パワーだから、その……」
「それは違うぞ、切島」
断言した。
そう、出久は受け継いだことを誇りに思っていても、ワン・フォー・オールだからなどと特別扱いはしていない。
個性は個性だ。扱いきれないなら、捨てた方がマシまである。
「個性が強いっていうのは違いねえが、それじゃ何も見てねえよ。まあ、PCに例えてみるか。お前はそれを凄い凄いって言うが、じゃあPCに例えてみると何が凄いんだ?」
皆、そこを誤解している。
仕方ないことであるが……個性が強いとか誰もが言う言葉だけど、その中身を考えることなど殆どない。
『爆破』だから『半冷半熱』だから――強いのはアプリの名前などではない。その”何”が強いのかを。
「……え? 個性が。つっても、お前の超パワーと違って、俺のは硬化で地味だし……」
切島は誤魔化すように鼻をかく。自分の言葉がみっともない嫉妬のように思えて、妙に気恥ずかしくなった。
「つまり、PCだって色々あるだろう。中身のアプリだけじゃない……CPUにメモリ、グラフィックそれらを総合した結果がスペックだ。どういう個性かってのは、ただの指標の一つだな。俺や、例えば焦凍が強いのは単にメモリがでかいんだよ」
だが、出久は気にかけず理路整然と論理を組み立てる。
あまり人の感情、それも嫉妬とかに興味がないのだ。重要なのは駆けるための燃料とくべられるかどうかでしかない。
光の亡者とはそういうものだ。
「メモリが?」
「そう、氷壁を見れば分かるだろ? 単純に”出力がでかい”んだ、あれだけの力が発揮できれば……麗日ならステージごと裏返して勝てただろ。発揮できる力の総量の関係で、言うなれば力押しだな。その点では俺らは完全にズルしてるが……」
「ズルだと? どういうことだ、緑谷君! 不正は決して許さない!」
「不正ってわけじゃ……あるかもしれねえな」
「――」
「ま、グレーゾーンって奴だな。その辺で個性を使用することは法律上は禁止されているから。良い指導者がいて、個性を使い続ければメモリがでかくなる。それが俺たちのチートだよ。つか、それを言ったらお前だってズルだろ? ヒーロー一家で指導してもらってるんだから」
努力努力努力、それがこの二人の力の源。
まあ、轟に関してはむしろ虐待かもしれなかったが、出久はそれに区別をつけない。
要するに後々の個性強化鍛錬だ。ヒーローと関わりがある者はこの時点で雄英のカリキュラムを先取りしている。
「それに、オールマイトも言ってただろ? 優勝者は誰であってもおかしくなかった。確かに俺はオールマイトの弟子だが、次の平和の象徴はお前らかもしれねえ」
「……次の?」
「後人の役目として、先人を超えるのは当然だろう」
静かに言った。
エンデヴァー以外は誰も本気で言ったことのない言葉、”オールマイトを超える”。それを彼は当然のように口に出す。
「だから、お前は強いのか?」
すとんと納得できた気がした。
この男がなぜ強いのか。それは
「努力した方が勝つ。……当たり前の話だろ?」
そして、その頃爆豪は。
「オールマイト。待ってたぜ」
「ば、爆豪君!? いや、そんな闇討ちみたいな……」
幽鬼のような顔をした爆豪に少しビビってしまったオールマイト。
「なあ、あんたはなぜデクを弟子にした? なんで俺じゃなかったんだ? 俺じゃ、アンタの後継者になれる器じゃねえってか!?」
叫ぶように、すがるように。
彼の自尊心はヒビだらけだ。彼はまごう事なき天才、だが、それはガラスであれば粉々に砕け散るほどの衝撃があった。
「君は強い。きちんと学んでいけば、君なら十分にNo1を目指せる」
「……なら、なんで!」
「個人的な話になるが……嬉しかったんだ。彼は私を尊敬すると言ってくれた。始まりは本当にそれだけだった」
「なんで、デクなんかに……俺じゃ……俺じゃいけなかったのかよ……」
膝をついた。
誰彼構わず喧嘩を売り歩くような人間だったが、尊敬する人の後継者になりたいと思うのは当然だろう。
そして、見下していた相手が”そう”となれば、胸中に複雑なものが蠢くのもむべなるかな。
「あいつばかりに教えて。あいつばっかり強くなっちまう……! 俺を飛び越して、行っちまう……!」
涙を見せる。プライドの高い彼が、人前で。
ヒビの入った心は砕けかけていた。
「ならば、立て爆豪少年。確かに私は出久に戦い方を教えた。だが、教師として素人であっても――生徒を差別する気はない」
「……オールマイト?」
「立て、少年。一つ、拳の握り方を教えてやろう」
「おう」
ぐいっと涙を拭き、立ち上がった。
「……こうだ」
出久に教えるにあたり、オールマイトも成長した。
拳を握り、ゆっくりと打って見せる。言って聞かせるよりも、やって見せた方がよほど身に付くと学んだ。
もとより解説が巧い性質でもない。
「こうか?」
「腕! 足! 腰がちょっと高い!」
「こうかよ!」
「今度は低い! 腕はこう!」
「こうか、クソが!」
「いいや、こう!」
「ちくしょうが! やってやるよ、こん畜生!」
「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」 「――」「――」 「――」
「よし! このくらいだな!」
一通りやって満足いくものに仕上がったのか、オールマイトは一息ついた。
帰宅時間のこともあって早足でやっていたのもあって、爆豪の息は絶え絶えだ。陸に打ち上げられた魚のごとく空気を求めている。
「ぜぇ。はぁ……やってやったぞ」
だが、弱音は吐かない。
プライドにかけて、二度と泣くものかと誓った。
「じゃ、これを一日1万回ね」
「はぁ!?」
「あれ、出久はやったんだけど」
「楽勝だわ、クソが!」
実は今では一日5万回やっているのだが、そこは黙ってあげる優しさがオールマイトにはあった。
ハンターハンターの修行法でした。まあ、この二人に武に感謝する発想はないと思いますので、空いた時間は本数を増やすのに使うでしょうね。
努力描写はスキップか描かないかですが、そこはきっちりとやっています。
基本、光の亡者はどこまでも努力した上で、乗り越えられない壁を根性でぶち砕いて行く方々です。