梨子視点、鞠莉との恋愛小説です。
※pixivにも同一作品を投稿しております。
「うん、ここまではいい感じだよ。それじゃ五分休憩ね」
放課後の
みんなは何となく、いくつかのグループに分かれた。私は気づく。
ふたりが笑いあっている。
よかった、と思う。でも――。
ぎゅっと胸が痛んだ。
「はい、
私はどんな表情をしていたのだろう。
「ありがとう」
そう
つい、ふたりを目で追ってしまうのを無理に
・
夏休みのことだから、二か月も前だ。私がピアノコンクールに出ることになってAqoursのライブに参加できなくなり、Aqoursは八人で予備予選へ
ライブの直前、東京にいた私は、私の代わりになった曜ちゃんに電話を掛けて――そのときの私の言葉は、本心からだった。曜ちゃんが千歌ちゃんのことを誤解したままでいるなんて、私には耐えられなかった。だって私は、曜ちゃんのことも好きだから。
でも、それがこんな風になるなら、私はどうすればよかったのだろう。
ずっと千歌ちゃんは、私のことを一番に考えてくれていた。そう思っていた。
転校初日からの、スクールアイドルをやろうという猛烈なアプローチ。私はずっと、それが嬉しかった。私のことをこんなにも求めてくれる人がいるなんて。
Aqoursを始めてからも、曲のこと、ライブのこと、勉強のことだって、千歌ちゃんとはずっと一緒だった。
「夢で夜空を照らしたい」の曲の歌詞を千歌ちゃんの部屋で考えていたとき、ふと千歌ちゃんが漏らした言葉。
「梨子ちゃんは聞き上手だね。なんか、自然に会話が弾むっていうか」
嬉しかった。あのとき、曜ちゃんも一緒にいたんだっけ――思い出せない。
そしてつい先日。「君のこころは輝いてるかい」を私たち三人で一晩で仕上げたとき。私は高揚感に包まれていたけれど、ふたりの間に何かなかっただろうか。たとえばふたりだけで通じる、何かが。
胸が、また痛くなる。
そうだ、あの日、初めて、私はこの胸の痛みを感じたんだ。歌詞が完成して喜ぶ千歌ちゃんに曜ちゃんが抱きついて、千歌ちゃんが輝くような微笑を彼女に向けたとき。
・
練習後、私は更衣室のロッカーにコートを忘れてきたことに気づいて、取りに戻った。みんなから遅れて施設を出ようとすると、出入り口の前にふたつの影が見えた。
私はつい、立ち止まってしまう。
「あのときはありがとう、鞠莉ちゃん」
曜ちゃんが話すのが聞こえた。
片方の影が首を振る。
「いいえ、結局、私のアドバイスは役に立たなかったんでしょ」
「でも、きっかけになったのは間違いないから。私、あのときの言葉がなかったら……千歌ちゃんに素直になれなかった気がする」
千歌ちゃん――。
「そう? それならいいけど」
自動扉が開いてみんなの声が聞こえてくる。
扉がふたたび閉まるまで、私はじっとしていた。
・
数日後。学校が終わり、私たちAqoursのメンバーは
空は一面、黒々とした雲に
先頭を行くのは千歌ちゃんと曜ちゃんで(今日も楽しそうに話している)、そのあとには一年組。果南ちゃんとダイヤちゃんが続き、少し離れて鞠莉さんが、すっと背筋を伸ばして歩いている。
「あの、鞠莉ちゃん」
私は鞠莉さんの横まで行って話しかけた。
「なあに、梨子?」
「あの……」
私はわずかに歩くペースを落とした。少しだけ、前との距離が開く。
問い掛けるような鞠莉ちゃんのまなざしに、私は深呼吸してから聞く。
「曜ちゃんに何か話したんですか。その……私が東京に行っていたときに」
鞠莉ちゃんは一瞬、たしかに驚いた顔をした。でもそれはすぐに笑みに変わった。
「別に、大したことは話してないわ。きちんと伝えなさいっていっただけ。……ほら、覚えてるでしょ」
ちらっと鞠莉ちゃんは先を行くふたりに目を
それはわかる。
でも、鞠莉ちゃんが曜ちゃんにアドバイスをしなかったら、ふたりは。私は――。
私が何もいえないでいると鞠莉ちゃんはいたずらっぽく笑う。
「誰の心にも、嫉妬ファイヤーはあるのよ」
そして足を速めて前のふたりに合流した。
嫉妬ファイヤー。鞠莉ちゃん一流の言葉遊びだろうか。わかってる。私だって。でも、止められないのだ。
・
ちょっと視点を変えただけで、いろいろなことが見えてくる。
私たちAqoursは仲がいい。それは自他ともに認めるところだ。でも何もないということでは、決してなかった。九人も集まればその中には苦手な関係だって、少しだけ特別な関係だってある。
たとえば一年生の三人。三人とも仲良しだけれど、よく見ると
三年生はどうだろう。一年生よりもずっと強い絆で結ばれている。でも三つはまったく同じだろうか。ダイヤちゃんと鞠莉ちゃんは少なくとも私たちの前では「色を付けない」よう
そして二年生は、どうなのだろう。
当事者である私には、わからなかった。――いや、わかりすぎるように、わかっていた。でもたぶん、ふたりは――少なくとも千歌ちゃんは、わかっていない。それが救いだった。
・
中間試験が近づいたある日、練習は少しだけ早めに終わりになり、自由行動になった。終バスの時間まではわずかだけれど、私は千歌ちゃん、曜ちゃんと一緒に買い物に行った。
はた目に見れば仲良し三人組だろう。でも、私は感じてしまう。
ちょっとした仕草、呼吸。千歌ちゃんが私を見てくれていた間は気にならなかった、相手にだけ通じる
――違う。そんなのは関係ない。出会ってすぐに恋に落ちる、ってことだってある。
あるべきところに落ち着いただけ。私ひとりを残して。もしかして、私がいたから、ふたりは。
私は雨。
また、胸が痛む。
・
翌日、試験勉強のため練習は休みで、私は放課後、千歌ちゃんの家に集まる約束をしていた。
授業の終わりのチャイムとほぼ同時に、私のスマートフォンからメッセージの着信音が鳴った。
鞠莉ちゃんからだった。理事長室に来てほしい、ただそれだけのメッセージ。
私は千歌ちゃんと曜ちゃんに先に行っていてほしいと告げて、鞄を持って廊下へ出た。窓の外では雨が降っていた。
理事長室の扉の前で深呼吸して、ノックをする。声が応えた。
「失礼します」
扉を開けると鞠莉ちゃんはノートパソコンに向かって何か作業していた。ちらっと顔を上げて微笑む。
「悪いけど、ちょっと待っててくれる? 呼び出しておいてごめんね」
「いいえ」
私は後ろ
少しだけ近づいて鞠莉ちゃんを見つめる。透き通るような、という形容はきっとダイヤちゃんと同じで、でも彼女とは明らかに違う、かすかに赤みを帯びた白い肌。長いまつげ。ふわふわの金髪。――触ったらどんな感じなのだろう。
すぐに鞠莉ちゃんはふうっと息を吐いた。
「よし、終わり」
鞠莉ちゃんはパソコンを閉じて私を見つめた。
「わざわざありがとう、梨子。この部屋にも椅子を用意しておくべきね」
「そうね」
私は微笑んで、次の言葉を待った。
鞠莉ちゃんは立ち上がると私に背を向けた。
「ねえ、梨子。昨日、私もウインドウショッピングをしたのよ。ダイヤと果南と一緒に、ね」
「そう、ですか」
私も。私も。
鞠莉ちゃんは、何をいいたいんだろう。
「自分の一番の人が、自分を一番に想ってくれない。それって、当たり前だけど、よくあることよね」
ずきり、と胸が痛む。
私にアドバイス? 曜ちゃんにしたように? どうすればいいのか、わからないのは、その通り。でもそんなのは、いらないのだけれど。素直になんてなれない。彼女のことを考えたら。
「……それって、私のことですか」
「あくまでも、一般論よ」
私がまた何もいえなくなると、ゆっくりと鞠莉ちゃんが振り返る。
「ねえ、梨子。ひとつ提案なのだけれど」
「提案、ですか」
「ええ、そう。提案」
机を回って私の近くへ。手を伸ばせば届きそうな距離へ。
私の視線を捉えて彼女は話す。
「梨子。私の一番になってくれないかしら?」
私は息をのんだ。時間を置いて思考が追いつく。私が鞠莉ちゃんの。えっと、それって――?
「代わりに、私をあなたの一番にしてちょうだい」
にっこりと彼女は笑って、また私の思考は置き去りにされる。――しばらくして、ようやくそれが追いついて私はぎくしゃくと笑う。
「……そんなの、無理に決まってるじゃないですか」
「あら、そうかしら。日本には伝統があるじゃない。ホンネとタテマエっていう」
こんなときに冗談めかすなんて、ずるい。
でも、本当は、建前で生きているのかもしれない。私も、鞠莉ちゃんも、Aqoursのみんなも。みんな仲良し。
「本気ですか……?」
「もっちろんよ!」
明るい声だけれど、私はどうしてかわかる。これは彼女の本音だと。
雨の音が急に意識された。私は雨。
ふうっと私は、わざとらしくため息を
「わかった。そういうことにしてもいいわ」
「そういうこと、じゃなくて、そうなのよ」
あくまでも建前。そういい
「ありがとう、梨子」
彼女の手は温かかった。千歌ちゃんと同じように。私はタイミングを逸する。
「それじゃ、約束。はい」
鞠莉ちゃんが小指を立てる。懐かしい。最後にしたのはいつで、誰とだろう。覚えていない。
私も小指を立てる。私たちの言葉が重なる。
「指切りげんまん、嘘ついたら針千本のーます、指切った!」
鞠莉ちゃんがくすくすと笑い、つられて私も同じように笑った。
・
私の毎日は変わらなかった。
練習の
でも、そんなときふと視線を感じると、鞠莉ちゃんが私に向けて微笑んでいた。ウインクした。ペロッと舌を出していた。私もうなずき返した。唇を緩めた。小さく手を挙げた。
私の痛みは、少しだけ
私は応えられていただろうか。わからない。でも彼女を目で追うことが前より増えたのは間違いなかった。約束。
東海地区予選が使づいて、練習は厳しくなった。
ライバルは身近にもいる。私たちのパフォーマンスは目に見えて向上した。
ある日、練習の帰り。
バスの最後尾の座席で居眠りをしていた私は目を覚ます。いつの間にかバスの中は静かだった。
千歌ちゃんと曜ちゃんは、仲良く互いに寄りかかっている。
その後ろでは窓際のダイヤちゃんに向かって果南ちゃんが盛大に傾いていて、ダイヤちゃんは苦しそう。
前にいる一年組の三人は、背もたれに隠れて頭のてっぺんしか見えない。
鞠莉ちゃんは私に軽くもたれかかり、触れたところから体温が伝わって、温かかった。
こんなに近くから彼女の顔を見つめるのは、初めてだった。彼女の髪に触ってみたくなったけれど、止めておく。
ふと、彼女が寝言をつぶやいて、私は少しだけ耳を近づける。
「……ダイヤ」
鞠莉ちゃんは吐息とともに、そう漏らした。
私は顔を上げた。みんなは眠っている。さっきと同じように。同じような距離で。
私は外を眺める。私の見ている間に、月が雲に隠れていった。
・
私と鞠莉ちゃんが話す機会が以前より増えたのは間違いなかった。私も千歌ちゃんや曜ちゃんと話すより、鞠莉ちゃんとの方が気が楽だった。
みんなは気づいているだろうか? わからない。けれど、別にどうでもよかった。居心地が悪くなって――居場所がなくなって、勘のいい誰かに気づいたりされるよりはずっとよかった。
「ねえ、梨子ちゃん。このあと買い物、一緒に行かない?」
練習が早めに終わりになった日、千歌ちゃんが私を誘った。曜ちゃんが私たちを見ていた。その後ろで、鞠莉ちゃんも。
「ええと」
建前って大事だ。
「今日はちょっと、行きたいところがあるから」
「そっか」
千歌ちゃんは、また今度ね、と微笑んだ。
なんとなくゆっくり着替えて、最後に施設を出る。
「梨子」
背中から鞠莉ちゃんの声がした。振り返ると、彼女が微笑んでいた。私は思い切って彼女の手を取った。鞠莉ちゃんはびっくりしたような顔をしてから、私の手を強く握り返した。
鞠莉ちゃんとふたりで遊ぶのはその日が初めてではなかったけれど、その日がそれまでで一番、楽しかったと思う。
私たちは終バスを
「ありがとう、梨子。今日は楽しかった」
後部座席で鞠莉ちゃんがいった。
「私も、楽しかった」
私は思いついて付け加える。
「……あの約束は、果たせてるかな」
「ええ、間違いなく、ね」
鞠莉ちゃんは笑った。
「ありがとう、鞠莉ちゃん」
彼女は私のことを思ってあの約束をしてくれたのだろう。私のことを見るに見かねて――。
「……そんな風にいわれると、ちょっと気まずいわね」
鞠莉ちゃんは私から視線を
「ごめんなさい、梨子」
私はハッとする。鞠莉ちゃんは私のことを全部わかっていて、曜ちゃんと話したのだろうか。最初に私が――疑ったように。
でも彼女を怒る気持ちは、わいてこなかった。
彼女は独り言めいて続ける。
「もちろん、ああなるなんて考えてなかった。でも、誰かさんはいいな、そう思った。半年ですっかり仲良くなって……。私なんて、たった二年、離れていただけなのに」
ぎくりとした私は思わず話す。
「でも、三人とも、仲良しじゃないですか」
「そう見える? 見えるわよね。でも、ふたりの間だけで通じる何かがあるって、気づいちゃったの」
――ああ、そうか。私も鞠莉ちゃんを見ていられなくなって、窓の外を眺める。
「……いえ、違うわね。最初からだった。私が無理をしたのも、彼女の気を惹きたかったせいかもしれない。私だってできる、って」
彼女はずっとずっと、私よりずっと――。
でも、鞠莉ちゃんは、約束は果たせている、そういってくれた。
「それでも、ありがとう。鞠莉ちゃん」
「梨子……」
鞠莉ちゃんがうなずくのを、私は感じた。
沼津の市街地を抜けたころ、鞠莉ちゃんが唐突に話す。
「梨子は、聞き上手なのよね」
同じことを千歌ちゃんからいわれたことを思い出して、私の返事は少し遅れる。
「……そうかな」
「ええ、間違いないわ」
私の指に、鞠莉ちゃんが指を
「梨子、ありがとう。私の約束を守ってくれて」
そのあと鞠莉ちゃんは私にもたれて眠ってしまい、私も彼女の温かさを感じながらうとうとと
・
地区予選、私たちAqoursは今までで最高のパフォーマンスを出して(だって千歌ちゃんだ)無事に突破した。
その日、私たちは朝まで浦の星女学院で結果を待った。
結局、理事長室に椅子は追加されていなくて、鞠莉ちゃん以外は床に座った。
私たちにできることは、待つことだけだった。
日付が変わったころ、一年生たちがコンビニに食べ物を買いに行く。
「ちょっと私も、外の空気を吸ってくるわね」
そういって鞠莉ちゃんが理事長室の机、パソコンの前から離れた。代わりに千歌ちゃんがそこに座る。
少し時間をおいて私も立ち上がる。
「私も行ってくるわ」
みんながうなずいたのを見て私は廊下に出た。理事長室よりずっと冷えた。
鞠莉ちゃんはどこだろう。
私は屋上へ向かった。予想した通り、屋上へ出る扉のカギは開いていた。
静かに外へ。黒い空を背景に彼女の背中が見えて、金髪が月明かりに照らされ輝いていた。綺麗だった。
背後で扉がゆっくりと閉まり、ガチャンと鳴った。
「梨子」
鞠莉ちゃんは振り向かずにいった。私は答えずに彼女の横に立つ。黒いミカン畑、白く浮かび上がる道路。その先には内浦の海。
何をいえばいいのか、わからなかった。鞠莉ちゃんはやるだけやった。そんな月並みなことをいっても仕方ない気がした。
代わりに私は彼女の手を握る。
鞠莉ちゃんがまっすぐ前を見たまま、ぽつりと話す。
「昨日ね、夢を見たわ。ぎりぎりで百人、集まる夢」
「現実になるといいわね」
「ええ、ほんとうに」
鞠莉ちゃんは私を見て笑う。
「なぜか梨子が知らせに来て、抱き合って喜ぶのよ」
私が。ほかの誰でもなくて。
「……その部分は、必ず現実にする」
「ありがと」
鞠莉ちゃんの肩が震えているのは寒さのせいだけではない気がした。
私は彼女にぴったりとくっついた。彼女が私の腰に手を回した。ふたりの呼吸が重なった。
道路の先に白く三つの人影が見えてくるまで、私たちはそうしていた。
・
数時間後。結局、統廃合阻止は
私たちはひとりずつ、あるいは数人で下校した。
私はひとり、校門を出たところで目立たないように待った。
丘の上から見る
千歌ちゃんと曜ちゃん。一年生たち。果南ちゃんとダイヤちゃん。最後に鞠莉ちゃんが現れる。
「鞠莉ちゃん」
私が声を掛けても彼女は驚かなかった。
代わりに彼女は私に近づくと――私を抱きしめた。
「鞠莉ちゃん」
私の胸に顔をうずめた彼女の背中を、ゆっくり叩きながら私は話す。
「私なんかでいいんですか。……今なら、間に合いますよ」
鞠莉ちゃんは首を振った。
「でも……」
ようやく顔を上げる鞠莉ちゃん。目は真っ赤で、私はきゅんと胸が締め付けられる。
「わかってるでしょ。私が一緒にいたいのは。私の一番は……こんなときに、建前なんていってられない」
「ごめんなさい、鞠莉ちゃん」
私は彼女に腕を回して、ぎゅっと力を込めた。この想いが伝わるように。
・
年が明けて、閉校式に先立って閉校祭が行われることになり、私たちAqoursを含めた全校生徒が準備に
浦の星に来て、最初で最後の文化祭のようなものだ。私はワクワクが止まらなかった。
浦の星がなくなることは、たった一年しかいなかった私だけれど、寂しかった。
でも、スクールアイドルを始めて、Aqoursのみんなと出会えて、本当に私は幸せだったと思う。
閉校式前日の夜、土壇場まで掛かった準備はようやく終わり、帰る前に私は千歌ちゃんと曜ちゃんを呼びに行った。
(鞠莉ちゃんの家が下校のためのバスを用意してくれていた。)
たしか校門に建てるアーチの仕上げをしていたはず。
校門に行くと、ふたりはアーチを前に話し込んでいて、私は立ち止まる。
私の胸は、もう痛まなかった。
背中から声がして私は振り返る。
「ハイ、梨子。ふたりは見つかった?」
鞠莉ちゃんが微笑んでいた。
その髪の柔らかさを、彼女の好きな香りを、手の温もりを、私は知っている。
もうひとつの、幸せ。
「ごめんなさい、時間が掛かって。ちょうどふたりを見つけたところ」
「ノープロブレムよ。じゃ、帰りましょう」
「ええ」
ほんの一瞬、彼女が私の手に触れた。