「また明日、って言ったのなぁ…」
最初からただの女の人じゃないのは分かっていた。
青い髪、青い目。里ではあまり見ないから。
多分あやかしの類なんだろうな、とは思っていた。
「…貧乏神かぁ。それは流石に分からなかったなぁ」
いつものように紫苑ねーちゃんの居た橋のたもとに行ったら、どっから拾ってきたか分からないようなちり紙に、細っこくてきったない字で書かれた手紙が、石で止めてあった。
風で飛ぶ以外にも色々と無くなる要素はあっただろうに、たったそれだけなのに無くならずにそこにあったのは、妖力とかそういうのなのだろうか。
内容は自分の正体について、そして突然居なくなった理由。あとは謝罪の言葉で埋め尽くされていた。
「僕の夢の邪魔をしてしまう…か。まあ、貧乏神ならそりゃそう、なんだろうけど、ね?」
けどね、ねーちゃん。違うんだよ。別にねーちゃんが貧乏神だろうが何だろうが、僕は知ったこっちゃ無いんだ。
元からあやかしだって分かってたもの。なんなら僕、そのうち食べられるんじゃないかなーとか思ってたんだけど。
だからね、ねーちゃん。僕がねーちゃんに求めてたのはさ。
「痛みや苦しみを共有する相手が欲しかったんだよ?僕は。だから貧乏になったくらいでさ、不幸になるわけないだろ?」
石を投げられた。便所に顔を突っ込まれた。草鞋の緒を切られた。川に投げ入れられた。親に疎まれた。
僕がやったわけでもない悪い事で、僕が責められる。
そう言った苦難を、解決できなくても、共有するだけの相手が欲しかったんだ。
それを失った僕は、今。
「空っぽだぁ…何にもないよ。ねーちゃん。胸の中が空っぽで、苦しくて、悲しくて、でも涙すら出ないんだよ」
だから。
決めたよ、紫苑ねーちゃん。必ず迎えに行く。この空っぽを埋めるために、ねーちゃんを幸せにするために
自分が何を言ってるのか分かってる。
それは僕が夢を捨てるのと同じ事。
ねーちゃんと一緒になれば、間違いなく僕は貧乏になって、里一番の商人にはなれなくなる。
けど。
だけどさ。
この空っぽを抱えたままで生きるのは、それ以上に耐えられない。
紫苑ねーちゃんは僕にとって、そんな存在だったんだよ。
それにね、ねーちゃん。僕が話したこと、忘れてるだろ。
この里の周りには、沢山たくさん凄い人がいる。
妖怪寺の住職さん。魔法の森の魔女。山の神社の巫女さん。寺子屋の慧音先生。なんかよく分からないお皿を割る宗教の人。そして博麗の巫女様。更には妖怪変化の数々。
その中に誰か一人くらい、ねーちゃんの能力を抑えてくれる人がいるかもしれない。
それを探さずに諦めるなんてこと、僕はしたくない。
ねーちゃんが忘れてることは他にもある。
僕とねーちゃんの約束。指切りしたんだよ?
僕はまた明日って言ったけど、ねーちゃんはずっと居るって。また話そうって言ったの。
その約束を破るなんて、僕は許さない。
「覚悟しとけよ、紫苑ねーちゃん。ねーちゃんの夢と僕の夢、両方叶えてやっからな。ねーちゃんをお嫁さんにして、貧乏神すら下した里一番の商人になるよ」
そうしたら僕は無敵だ。誰にもバカにされない。ねーちゃんを、誰にも傷つけさせない。僕が守ってあげる。
その為にはやらなきゃいけないことが山ほどある。
こんなところで立ち止まってる暇はない。
僕は手紙を手に走り出す。
まずは算術、読み書き。それから商売。
いじめっこに負けないように、体も強くしなきゃ。
色んな力をつけて、強くなるんだ。
必ず、全部叶えてやる。