#1 ザ・エンドってね
「元気な男の子ですよー」
「オギャアァァァ!!(情緒ぉぉぉおぉぉぉっぉぉっ!!!!!)」
これが人生二度目の産声だった。
***
あれから五年経ち、現在は元気に公園のブランコを漕いでいます。
イヤッッホォォォオオォオウ!! ブランコ超楽しいぃぃ!!
じゃなくて。今は今後の人生についての作戦会議をしなければならなかった。落ち着け落ち着け。
……どうやら俺は転生したらしい。
死ぬ前の最期の記憶は、大学のサークルで酒飲んでたことだ。先輩と同世代の奴と飲み比べしてたら、急に目の前が暗くなって……そして目が覚めたら、
――体が縮んでしまっていた!!
前世の死因が急性アルコール中毒ってマジ? 情けなさすぎるだろ。
人間は死ぬと地獄や天国に行くんじゃなくて転生するのか。これ広めたら世界の宗教が傾いて俺は神の子ってことになるんじゃね? いい案だぜぇ……証明が不可能って点を除けばよぉ……
……なんてことを考えて現実逃避したくなる。先程まで全力でブランコを漕いでいたのには抑えきれない衝動があったからだ。
――ここはペルソナ5の世界だ。
最初俺は二度目の人生を前世の記憶ありで歩んでいるものだと思っていた。でもテレビのニュースである人物を見てここがペルソナ5の世界だと分かった。
今日の『情熱帝国』に、あの斑目一流斎が出ていたからだ。一瞬人違いかと思ったが、ちゃんと『サユリ』も番組で紹介されていて「あっ、ペルソナだ」って言ってしまった。その後ネットでこの世界のゲームを調べても、『ペルソナ』なんてシリーズは出ていなかった。
ペルソナの世界に転生した。その事実が胸を躍らせた。だって前世で俺はペルソナ5とペルソナ5Rを合計で10周するぐらい大好きで全てのスケジュールが頭に入っているほどだ。思わず外に走り出して、近くの公園でブランコを漕いで興奮を発散していたというわけだ。五歳児の体で良かった。前世の二十歳近い体で漕いでたら今頃通報されてた。
で、どうするかってハナシ。
転生したからと言って、俺はメインキャラじゃない。本当なら物語の本筋に関われないただのモブAだ。物語の背景にいる小石と変わらない。まぁそれでも構わないけど。でも折角転生したんだったら関わりたいじゃん。
……ていうかゲームやっててちょっと引っ掛かってたことがある。ペルソナ5Rのトゥルーエンドのことだ。
あのエンドは本当に正しかったのか?
いや別にあの終わりに不満は全く無い。むしろ感動して泣きながらエンドロールを見たぐらいだ。怪盗団の正義も丸喜先生の正義もどっちも分かる。だからこそ怪盗団は丸喜先生から、自分たちの幸せを『奪った』。そして怪盗団は現実に戻る選択をとった。それについては全く異論は無い。素晴らしい物語だった。
だがあの世界の他の弱者たちは?
主人公達は強い。弱きを助け強きを挫く、自分の正義を貫ける強さを持った人間だ。だがそれは主人公達だけであって他の人はそんな強くない。悪意に簡単に負けてしまうし、間違ってる選択を気付かずに進んで破滅へと向かってしまうこともある。丸喜先生はその弱者達を全て救おうとしたんだ。怪盗団と丸喜先生がやっていたことは、加害者の心を変えるか、被害者の心を変えるかの違いでしかない。
俺は……トゥルーエンドより丸喜エンドが幸せな結末だと思ってる。
辛い現実に耐えられない人だって存在するし、それから逃げても絶対に悪くないはずだ。実際俺だって……いや前世の話になるからやめよう。いくら理由付けしてもそれは全て俺のエゴイズムだ。客観的に見れていない。
ともかく俺は、この人生では丸喜先生に味方する。そう決めた。違うルートに入ろうとしたら矯正してやる。
……一を捨てて全を救おう丸喜先生。
***
あの誓いから九年の時は流れ十四歳。中三になった。
前世の記憶があるので知識チートして中間試験一位、期末試験一位を連発して、チート主人公ってこんな気持ちなんだろうなぁと思いながら中学生活満喫してます。中学の問題ってその時点ではすごい難しく感じるけど、高校に上がると、何でこんなのも解けなかったんだ? ってなるんだよな。成長って怖い。高校生もこんな感じでチート無双すっか。え? 数Ⅲ? あんなに記号と英語入ってたらもう数学じゃねぇわ、無理。
とか思ってると一人の女子が近づいてくる。頭が良いっていうのは割と目立つステータスでクラスの皆からは秀才君って呼ばれたりする。うん悪くない。それでもって頭が良いから勉強教えて~って言ってくる女子もいる。悪くないですねぇ!! それで今やってきた彼女もその一人だ。
「えっと、今時間ある? ちょっと教えてもらいたいところあって……」
「いいよ鈴井さん。やっぱり数学? 今日出た応用問題難しかったもんね」
ありがとう。と言いながら鈴井さんは目の前の席に座る。
「鈴井さんってどこの高校受けるんだっけ?」
「えっと……秀尽学園」
「あそこ結構偏差値高いよね? 大丈夫?」
ここで俺が入学を阻止すればその話は無くなる。鴨志田による悲劇も起こらないし、何より主人公のメンバーに高巻杏が入らない。最終決戦で一人欠けてるっていうのは大分大きい。
「模試ではC判定だけど……でも入りたいんだ」
「へぇー何でそこまで?」
「あそこバレー強いんだよね。私高校でもバレー続けたくてさ」
「ふーん。じゃ頑張らないとね」
なんて。入学の邪魔をすることも考えたけど、多分一人欠けたら12/24のラスボス倒せない気がするんだよな。だからあえて止めずに入学させて高巻杏を怪盗団に入団させる。でもだからって黙って自殺未遂を見ている訳じゃない。
鈴井さんは中一からの仲だ。中一の頃から一生懸命部活を頑張って、今やレギュラーになっている。誰に対しても誠実で友達もたくさんいる。そんな人が悪意で心折れる姿なんて見たくない。そして少し愛着も湧いてる。
だから出来るだけ被害を最小限にして立ち回る。主人公が転校してきたら、即座に部活を辞めさせて鴨志田の改心が終わるまで、鴨志田から守る。
丸喜先生のやり方だったら最後は病院のベッドの上でも幸せな夢を見ているかもしれないけど、どうせならそこまでの過程による犠牲は最小限にしたい。というか普通にそういう悪意を見過ごせないかもしれない。
クサいかもしれないけど、これが俺の美学だ。
***
一年後。無事に秀尽学園入学。もちろん鈴井さんも一緒だ。合格発表の時にお互いの受験番号を発見した瞬間、嬉しさのあまり抱き合ったのは、今でもちょっと恥ずかしい思い出だ。
今は入学式で退屈な校長先生の話を聞いてるだけだけども、見渡したら見たことあるキャラがわんさかいて、ちょっと興奮する。
キョロキョロ見渡してたら隣にいた鈴井さんがチョイチョイと指で突っついてくる。小声で「そわそわしすぎ」って怒られた。仕方ないじゃん念願の本編の舞台に入れたんだから。そんな気持ちを鈴井さんは知ってか知らずか、微笑んで「一緒のクラスになれたらいいね」と言ってくる。その笑顔を見て罪悪感で胸を締め付けられながら「そうね」とぶっきらぼうに返した。
ゴメン鈴井さん。一年間、地獄に耐えてくれ。
***
事件です。いや事故です。いややっぱり事件です。
単刀直入に言いますと芳澤すみれを助けてしまった。
ある雨の日、赤信号なのに走って渡る人がいて、車に轢かれそうだったから思わず道路に飛び出て庇ったら、芳澤すみれだった。言い訳すると傘で顔が分からなかったから助けた後に気付いた。……いや別に顔が分かったとしても目の前で見捨てる選択はしなかったと思うけど。
俺は病院に運ばれたが、芳澤姉妹は無事で怪我一つ無い。原作と違う未来になった。
これによって起きる変化は少し大きい。
まず一つ。丸喜先生が『曲解』を使って芳澤すみれを芳澤かすみだと思い込ませるイベントが無くなる。
原作では姉を亡くした芳澤すみれは心に深い傷を負い、塞ぎこんでしまい、身も心も衰弱してしまった芳澤すみれはカウンセリングを受けることとなった。その担当だった丸喜先生は、当時から使えていた認知の『曲解』を使って、芳澤すみれに自身のことを芳澤かすみだと思い込ませていた。原作じゃビックリポイントだが、芳澤のコープを進めて行くと所々に伏線があったりして感心した記憶がある。
そのイベントが無くなったってことは、この世界線では芳澤姉妹は幸せに生き続けるってことだ。それについては別に丸喜先生にもたいして影響は無いはず。
そしてもう一つ。怪盗団からヴァイオレットが居なくなること。これが大きい。
一番危惧していたのが、12/24まで出来るだけ原作通りに事を進め、2/3の丸喜パレスでも最終決戦までの間に、ペルソナを持っていない俺がどれだけ怪盗団の戦力を落とせるかって事。
何しろ丸喜先生のペルソナが覚醒するのが12/24の現実とメメントスが融合した日だ。まず先生のペルソナを覚醒させないと話にならない。なので出来るだけ原作を壊さないように日程を進めて行き、その後は……ノープランだったけど、まぁ適当に怪盗団の面々を潰して戦力を削いでいこうとか考えてたから、ここでヴァイオレットの脱落は嬉しい誤算だ。何しろ12/24までのシナリオにヴァイオレットはほぼ関わってこない、ここで脱落しても問題ないキャラクターだからだ。手間が省けた。
……まぁ現状の問題としては、足が骨折して全治二か月貰ったことだな。
今日は3/11。主人公が転校してくるまでちょうど後一ヶ月だ。
はぁ……待ち遠しい……
***
本当に待ち遠しい。早く来いダボ。
なんというかもう鈴井さんの傷が見てられなくなってきた。痛々しすぎる。
一応カウンセリングって訳じゃないけど一緒に話して愚痴を聞こうとするも「なんでもない」の一点張り。真相を知ってるからやるせない気持ちが湧くと同時に怒りも湧いてくる。もちろん鴨志田にも怒っているが俺にもムカついている。なんだかんだ言っても俺は見てるだけじゃないかと。
だから明日、行動に出る。
明日は4/11。主人公が転校してくる日だ。そして同時に鴨志田のパレスに潜入する日でもある。潜入と言っても事故のようなものだけど、その事故を利用して俺も認知世界に行ける
……鈴井さんと知り合ってもう五年だ。物語上では鴨志田の被害者になった可哀想な女の子っていう役回りだったけど、関わってみて分かった。
ちゃんと嬉しい時に笑って、悲しい時に泣く。辛くて苦しいのに逃げ出せなくても、誰かに助けを求められない弱い人間だった……ただ鴨志田の言いなりになっている
俺の美学に則って、死んでも鈴井志帆は自殺未遂させない。
***
4/11 雨
急な雨に降られ雨宿りをする、くせっ毛の少年。教師の車で学校まで行くブロンドヘアの少女。その車を追っかけようとした金髪の少年。
「いやー困った困った。いきなり雨降ってくるもんだから」
そして白々しい台詞を吐きながら、その場に入ってくる少年。
「あ? ……なんだ
「おい坂本。下の名で呼ぶなっつったろ」
「えっと……」
「……2年だけど見たことないな……もしかして転校生か?」
「多分」
「いや多分って……まぁここで会ったのも何かの縁だし、三人で一緒に行こうぜ。こんな雨大したことねーだろ遅刻すんぞ。……お前名前は?」
「
「俺、
「
――今日、この日この瞬間から、乙守胡桃の世直しが始まる。