#11 あっ! これ進〇ゼミでやったところだ!
「――が悪い子だったからサンタさん来なかったねぇ」
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「……あ゛あん?」
期末の勉強してたら机で寝落ちしてたみたいだ。体が痛い。時計の針を見ると朝の七時半。学校行くまでにはまだ時間があるから、目を覚ますためにシャワーでも浴びるか。
……なんか夢を見てた気がするんだよな。凄い鮮明だった気がするんだけど、起きたら夢の内容忘れてしまった。
まぁどうでもいいか。
「サイン、コサイン、タンジェントっと……」
今日は5/11。中間試験初日だ。カモシダパレスの一件から色々イベントはあったが、平和に事は進んだ。
三島から怪盗お願いチャンネルの立ち上げを告白され、屋上で新島真に問い詰められ、メメントスに怪盗団が入ってシャドウ中野原を倒したこと&ジョゼに会ってホシを貰った事。
そこに芳澤すみれが居たこと以外はほぼ全て予定通り。イレギュラーに頭を抱える必要なく、期末の勉強に集中できた。
「
高校生二周目と言っても、勉強しなくても点数が取れる程俺は頭は良くない。逆に高校生の期末試験を、ノー勉で全教科満点取れる奴なんて日本探して一握りぐらいだろ。俺はそんな天才じゃない。でもゼロからの学びではないのでそこそこの学力はある。いつも学年10位ぐらいをキープしてる程度だ。
「
………………ねむ。暖かいシャワー浴びると体がリラックスして眠くなるな。さっさと朝食とって学校行こ。
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「ふわ~~ぁ……」
電車の通学時間を利用して仮眠をとった。自分の降りる駅で目が覚める現象は、人類の七不思議に入れて良いと思う。
「れ……」
通学路に蓮が見えたので、話掛けようと思ったが、女の子と話しながら登校しているので、気付かれないように影を薄くする。
出来る男ってのは、こういう時に空気を読める男……って、蓮の隣にいるの芳澤かすみじゃね?
すみれと面識は無かったのに、芳澤かすみとは面識があるのか。へー……
つーか横にすみれの姿が見えない。時間ずらして登校してんのかな。普通、兄弟姉妹って一緒に登校するもんじゃないのか? 居たことないから知らんけど。
……一緒に登校しない芳澤姉妹。蓮と面識がある芳澤かすみ。そして発生していない4/12のイベント(芳澤すみれが主人公と顔見知りになるイベント)……
――その時、俺に電流走る!!
もしかして、4/12に蓮と会ったのは芳澤かすみの方だったのでは? それならすみれと蓮が知り合いじゃない辻褄は合うんじゃないか?
まぁ、だからどうしたって話だな。きっと4/12のイベントが無くても、蓮とすみれがコープを結ぶフラグは立つとは思うし。今は期末試験に集中するか。
***
「はい、解答用紙後ろから回してー」
期末試験三日目。やっぱり期末試験なんて嫌いだというのを再確認する。学校の先生の好みで出る問題を解いて、その正答率で学力の優劣を決めるシステムに何の価値があるんだ。これ受けるぐらいだったら、全国模擬試験を受けた方がマシでしょ。
それでも試験期間中は早めに帰宅できるという点は唯一好きな点だったが、それもこの後の全校集会で多少ではあるが時間が潰れてしまう。少し不満だ。
全校集会のため、体育館へと移動中に後ろから後ろから肩を叩かれる。そのまま首を回して振り返ると、頬に人差し指がブスリと刺さる。
「あっ、引っ掛かった」
「……ビックリした。こんなベタな悪戯に引っ掛かる俺に」
悪戯してきたのは鈴井さんだった。
鴨志田の事件の後、鈴井さんは転校せずにこの学校に残った。芳澤かすみ生存と同じレベルの、原作とは違う
杏が丸喜先生の理想の現実で願ったのは、『鈴井志帆と、平和にショッピングする』という幻想。それが叶った今、杏がこれ以上の理想の世界を望まない限り、丸喜先生の『曲解』に影響される可能性は限りなく低いだろう。
……結果として俺の首を絞める結果になったが、後悔はしていない。
過程はどうであれ、結果がどうであれ、動機が何であっても。悲劇を救えたという事実を肯定する。鈴井さんが笑える未来を否定しない。
誰が何と言おうと、俺だけは俺を肯定する。……まぁ、俺が大変になるだけだしな。最低限以上の犠牲を出さなかったから俺の美学に反さなかったし。
「乙守君。今日のテストどうだった?」
「楽の勝」
「やっぱりかー」
まぁ、今日の現国は、川上先生からテストに出る範囲をあらかじめ教えられてたから、正直楽勝ってレベルじゃなかったな。もう目を瞑って逆立ちして回答出来ると言っても過言。
「ね、このタイミングで全校集会って……」
「十中八九、鴨志田の件じゃん? 無暗にSNSに呟かないでくださーいって」
「もう割と手遅れだと思うけどね。『怪盗お願いチャンネル』が出来ちゃってるし」
「だよなー」
本当は知ってんだけどな、この後の全校集会の内容。待望のご対面だ。
……実際に見るのは二回目だけど。
***
校長の紹介で壇上に上がってくる、白衣を着た男性。自己紹介をしようと喋りはじめたが、マイクの不調で、声が出なくなり少々手間取ってしまう。
「丸喜、拓人と申します。よろしくどうぞ」
出鼻を挫かれた丸喜は、礼儀正しくお辞儀をするもマイクに頭をぶつけてしまう。その後軽いユーモアを挟みながら自己紹介をした後に丸喜は退場した。
突如やってきたカウンセラーに対する生徒の反応は様々。
優しそうだの、声が渋いだの、色めきだつ生徒もいれば、
胡散臭いだの、頼りないと、疑う生徒も見られ、しまいにはそんな事より明日の期末の勉強をしたい生徒は、聞く耳を持たずに単語帳とにらめっこしていた。
だがただ一人、乙守胡桃だけは尊敬の目を向けつつ、今後のことを考えながら丸喜の事を見ていた。
(……さて、どうやって接触すっかな)
その顔に、僅かな笑みを浮かべて。
***
「乙守君、君はカウンセリングに行くようにね」
「時間あったら行きま~す」
帰り際、荷物を持って教室から出ようとしたら、担任の蛭田からカウンセリングを受けるように言われた。鴨志田と関わりが深かった生徒は必ずカウンセリングを受けなきゃいけないらしい。と言ってもすぐではない。トークグループで、今日は杏が行くとのメッセージがあったので、俺はまた今度にしよう。
つーか、そもそも丸喜先生と会ってどうするかもまだ決まってない。一応やろうとしている事は二つ。
一、『俺は最初からあなたの味方。何でも協力します』
二、『俺、未来知ってます。好きに使ってください』
まず一つ目。丸喜先生からしたら俺も“患者”の一人だ。普通に過ごしたら治療の対象になる。だから俺は丸喜先生に、『あなたの協力者です』と売り込まなければならない。
ならばどうするか、それが二つ目。協力者として隣に置くことのメリットを提示する。別に未来見えますとかじゃなくとも、戦闘出来ますとか、研究手伝えますとかでも良し。役に立つことをアピールせねば。
取り敢えず今は俺の目的は明かさず、怪しまれないように接触する。そして機を見て、俺の目的と、正体を明かす。過干渉して変なこと起こったら困るからな。今は様子見で。
……蓮がバッドエンドの道を選べば俺は苦労しなくても済むんだけどなぁ。
***
夕食の豆腐ハンバーグをちゃちゃっと平らげ、自室で期末試験四日目に向けて勉強していたところ、机に置いてたスマホから通知が鳴る。メッセージの差出人は芳澤すみれだった。
『先輩はカウンセリング受けるんですか?』
『受ける。なんか受けなきゃいけんらしい』
適当に返信してスマホを置く。勉強を再開しようとしたところ、同じ差出人からまたもメッセージが届く。
『いつ行くんですか?』
……それ関係ある?
『時間見つけたら適当に』
またも超適当に返信する。そしてペンをとって、机に向かおうとすると、再度スマホが震える。
『どんな相談も受けるって本当なんでしょうか?』
………………電話すっか。
***
芳澤すみれは自室で悩んでいた。もちろん期末試験の事も頭の隅には置いてはいるが、今はそれよりもカウンセリングの事が頭を支配していた。
カウンセリングで相談したい事は、もちろん新体操のことだが、一つではない。
自分の演技に足りないものをどうやって補うか。
演技の出来について漠然とした不安。
そして、姉、芳澤かすみへのコンプレックス。
特にコンプレックスに関しては、ペルソナに覚醒した今でも、ねちっこく心の底の方にこびりついていた。真正面から自分のことを認めたら視認できたコンプレックスという名の黒い靄。
“姉と比べると劣っている”
練習をしていても、その言葉が頭にちらついてしまう。このままじゃいけないと分かっても、その事実に焦っても足踏みを繰り返すばかり。
どうしようと考えたら突如やってきたカウンセラーの存在。渡りに船とばかりに早速相談しに行こうと思ったが、カウンセラーにスポーツの相談ってしていいのか? とか、そもそも、事件で被害を受けた生徒のメンタルケアをしにやってきたのに、個人的な悩みをするのは少し気が引けてしまう。
悩んだ末に出した答えは乙守胡桃にどうしようかと相談することだった。
(……ちょっとしつこかったかも)
相談と言っても具体的なものではなく、少しばかりの勇気が欲しかっただけ。なにかしらの言葉をくれたら前に進めると思ったのだ。
(……こーゆーとこなんだよなぁ)
だが少しばかり遠回りな言い方すぎたのか、トーク履歴を見ても疑問形しかなく、質問攻めするしつこい奴になってしまったことにネガって机に突っ伏してしまう。
(……もう少しで何か掴めそうなのに)
う~ん……と唸っていると、スマホに着信が来る。トークの通知ではなく着信。画面に表示されているのは乙守胡桃の文字。
「っ!! ひゃい!! 芳澤すみれです!!」
『……ひゃい。乙守胡桃です』
「……聞かなかったことにしてください」
『ひゃい』
「……先輩?」
『ごめんて』
慌てて電話に出ると、舌が回らなくて噛んでしまい、それを乙守にいじられる。
『なんか言いたそうだったから電話した』
「……先輩ってもしかしてエスパーだったりします?」
『いや、あんな質問攻めされると察するでしょ。トークだと長くなりそうで面倒だったから』
で? と乙守が問うと、芳澤すみれは口を開く。
「え、と。私、カウンセリングを受けようと思ってて……」
『いいんじゃね?』
「あ、でも、私が行っていいのかなって、メンタルケアのために来て下さったのに、個人的な理由だけで行ってしまって……」
『いいんじゃね? 丸喜先生も言ってたじゃん。色々な相談オールオッケーって』
「でも……」
『うーん、何を悩んでいるか分かんないけど、一人で悩むのは限界があると思う。一人より二人の方が絶対いい結果になると思うし』
まぁ、極めて個人的な主観の見解に過ぎないんだけどね。と言葉が続く。
「……先輩って“まぁ”っていうの口癖ですよね」
『え、あぁ……確かに結構言ってるかも。……まぁ言いやすいからな!!』
「フフッ、そうですね……先輩、一つ我儘いいですか?」
『何?』
「“頑張れ”って言ってください」
『頑張れ』
「はい!! ありがとうございます!! 吹っ切れました!! 芳澤すみれ頑張ります!!」
『……ならよかった』
「はい、では明日の試験頑張りましょう!!」
『ん、おやすみ』
「はい、おやすみなさい」
通話が切れる。
聞きたかった言葉を耳に入れ、芳澤すみれの体に力が入る。
言われたかった言葉はまるで、大会で声援を受けたようで、活力が漲る。
「よし、頑張るぞ……!!」
また目標に向かって前を向くという決意が、その独り言に含まれていた。
補足説明
乙守の口癖の「まぁ」ですが、数えて見たところ、11話までに41まぁ言ってました。(地の文含め)