幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#12 (よし、楽しく話せたな)

 5/14 土曜日 曇り

 

 今日は期末試験最終日であると同時に喜多川祐介(きたがわゆうすけ)と遭遇するイベントがある。なので今日は早めに家を出て駅で主人公達を待っていた。

 

 そして予定通りにイベントは進み……

 

「君こそ、ずっと探していた女性だ!! ぜひ……俺の絵のモデルになってくれ」

 

 うわメッチャ美形。身長高くて顔が良いってチートだよな。俺にくれよ。

 

「やれやれ、いきなり車を降りたと思えば呆れる程の情熱だな。結構、結構……」

 

 そして車からこちらに話しかけているのが、斑目 一流斎。次のターゲットだ。

 

 この人が『情熱帝国』に出てくれたおかげで、俺はこの世界がP5Rの世界だと気づけたから、ある意味では恩人と言えなくもない。だからといって悪事を見逃したり、改心しない、なんてことはあり得ないけども。

 

 ……いつから班目は悪人になったんだろう。悪人は生まれた時から悪人ではない。班目にも純粋に芸術を追い求める時代があったはずだ。少なくとも幼い喜多川を引き取った頃はまだ悪に染まり切ってなかった。

 

 喜多川の才能に嫉妬した時?

 楽に稼げる方法を知った時? 

 それとも第三者に唆されたから?

 

 考えられる理由は数あれど、いずれも弱い心に負けてしまったのが原因だろう。優しくて真面目な奴ほど壊れやすい。

 

 共感はする。同情もする。理解も出来る。だから『改心』させたい。

 

 鴨志田と違ってあんまり敵意が湧かないのは、俺の周りに被害が出てないのと、過去をほんの少し知ってしまったからかもしれない。

 

「すみません先生!! 今、戻ります。……明日から駅前のデパートで先生の個展が始まる。初日は俺も手伝いに行くから、是非来て欲しい。モデルのことはその時にでも」

 

 考えている間に話を進み、喜多川がチケットを差し出す。このチケットで明日は班目展に行き、シャドウ中野原が言ってた班目の噂が本当かどうか、確かめるイベントが入る。

 

 喜多川から人数分のチケットを受けと………………

 

「……俺の分は?」

「すまない。今は手持ちが三枚しか無い」

 

 喜多川から渡されたチケットは三枚。俺に渡せなかった事を謝罪するが、あまり申し訳そうには見えない。まぁ、俺の事が目的じゃないからな。

 

 ……仕方ない。俺いなくても成り立つから明日は別の事して過ごすか。

 

「じゃあ明日!是非会場で!」

 

 喜多川は班目の車に乗って去っていった。

 

「……うーん。胡桃これいるか? 俺あんまゲージツ? 興味無いし」

「いや行って来いよ。 班目ってこないだメメントスで聞いたろ? 明日はその情報収集ってことで。……諜報活動って怪盗団っぽくてカッコよくね?」

「……確かに。んじゃ明日班目展で諜報活動な!!」

 

 竜司がチケットをこちらに差し出してくるが、適当に言いくるめる。

 

「その前に期末を無事に乗り越えてからだな」

「うへぇ……張ったヤマ当たんねぇかな」

 

 ……竜二はヤマ張るほど勉強してねぇだろ。

 

 

 ***

 

 

 HR終了のチャイムが鳴ると、生徒達は一斉に席を立ち、放課後の予定に沿って活動していく。

 

『悪い。今日は放課後集まれんわ』

 

 怪盗団のトークグループに今日は行けないと投稿すると、『了解』と短く返ってくる。

 

 今日は、丸喜先生と接触したいと思う。タイミングも期末が終わって丁度いいだろう。

 

「……」

 

 保健室の扉の前に立って、深呼吸をする。……多分緊張している。これから始まるのはカウンセリングではなく交渉だ。

 

 一手でも間違えたら、怪しまれてお終い。

 

 かといって慎重になって、距離を取り過ぎても最後に俺を横に置いて一緒に戦ってはくれない。

 

 怪しまれず、信用されるのが大事。……なにそれギャルゲー?

 

 ……まぁ、なるようになるだろ。

 

「……失礼します」

 

 保健室の扉を開けると、椅子に座ってる丸喜先生の姿があった。

 

「いらっしゃい。もしかしてカウンセリングかな?」

「はい。期末が終わってタイミングがいいので」

「そっか。お疲れ様。手ごたえを聞いてもいいのかな?」

「俺、優等生なんで。超絶楽勝でした」

「はは、頑張ったんだね。取り敢えず座って話そうか」

 

 一言二言交わし、座って話そうと提案され椅子に腰を下ろす。

 

「つっても先生に言われて来ただけなんですけどね。あんまり悩み事無いし」

「あはは、そうだよね。……うーん、悩み事が無かったら。世間話とかでもいいよ」

「……そうっすねー」

 

 世間話……ジャブ入れてみるか。

 

「……先生、怪盗団って知ってます?」

「うん、知ってるよ。学校であったちょっとした悪戯だよね?」

 

 ……ちょっと攻めてる話題だと思ったが、丸喜先生の表情は変わらず、動揺している様子もない。この様子ならもうちょっと踏み込んでもいいかな。

 

「悪戯……ですか。俺ホントに居ると思ってるんですよ。怪盗団」

「へぇ……それはまたどうして?」

「だっておかしくないですか? 鴨志田って野蛮で横暴で、まるで王様みたいな奴だったのに、そいつが今更自責の念に駆られて自白? ……絶対に外的要因があったに違いないと思うんですよ」

「なるほどね……それが怪盗団だと?」

「そうです。怪盗団は何かしらの方法で、鴨志田の心を歪ませて改心させた。……まぁ、全部俺の中の妄想と推測ではありますけどね」

「いや、良い考えだと思うよ。……人ってね、自分で変わるのが難しいんだ。年を重ねると尚更ね。『改心』に第三者の影響があったというのは良い着眼点だと思うよ?」

「……ありがとうございます。」

 

 丸喜先生の反応はぼちぼち、悪感情は持たれていないはず。……もう少しだけ攻めるか。

 

「……じゃあ先生は怪盗団肯定派ですか?」

「え?」

 

 恐らくここが勝負所だ。

 

「もし、本当に怪盗団という存在が居て、鴨志田の改心をしたとします。だけど改心の方法はきっと合法とは言えない。心を捻じ曲げるんですから、おそらく洗脳みたいな違法スレスレの方法だと思うんです。……でも、その方法で救われた人も少なくはないと思うんです」

「……つまり、グレーなやり方で生徒を救った怪盗団は、清廉潔白の正義ではないと?」

「そこは人それぞれの価値観です。困ってる人を救った怪盗団は正義だという人もいると思うし、人に言えないことをしている時点で、それは悪だと糾弾する声も出るかもしれない。……それで先生はどっちかなって」

「ふむ……かなり難しい質問をするね……」

 

 まぁ、こういうのは難しい問題だろう。世界中の人が同等の価値観とモラルを持っていたら、戦争なんて起きて無いし、正義と悪なんて言葉も生まれてない。その一定の基準を設けたのが常識であり、法律だが、行動するのは自分だ。

 

 結局、正義か悪だなんて決めるのは自分自身だ。

 

「僕は……怪盗団という存在が、道を外れない限り、正しい存在だと思っている」

「……なーんかいまいちパッとしない答えですね」

「そ、そうかな。でもかなり際どい問題だからね……でも、もし人の心を変える力があるのなら、心に傷を負っている人に対して使ったりしてもいいのかもね。人の心を自分の手で変えて、その人が感じている痛みを無くす……みたいな」

 

 そう言うと、丸喜先生はメガネを掛けなおし神妙な顔になる。そしてぽつりと願いの様な夢を口にした。

 

「いいですねそれ。そんな事が出来たら誰も痛くない世界の完成ですね……本当にそんな世界があればいいのに」

 

 ならばその夢に肯定を。俺はあなたの味方ですから。

 

「……そうだね」

「……うーん。この話凄い難しい話になりそうだから他の話しましょうか」

 

 今日はこのぐらいでいっか。少しは好感度上がったんじゃないか?

 

 後の時間は最終下校時刻のチャイムが鳴るまで他愛のない雑談をした。

 

 

 ***

 

 

「じゃあ、俺はこれで」

「うん。中々楽しかったよ。……本当は僕が楽しんじゃいけないんだけどね」

「いやいや、俺もすげー楽しかったんで。また怪盗団とかの話に来てもいいですか?」

「うん、いつでも来ていいよ」

 

 乙守は「じゃ、また来ます」と一言言うと、保健室の扉から出る。

 

「……ふぅ」

 

 丸喜は溜息を吐きながら椅子に深く座る。乙守との対話からきた精神的な疲れだろう。

 

(……こっちの思惑はバレてはいないはず)

 

 丸喜は怪盗団を利用し、認知の論文を完成させようと考えていた。

 

 カウンセリングと称して怪盗団に話を聞けるのは、これはまたとない大チャンスなのだが……

 

(なのになんだろう、この違和感は。……()()()()()()()

 

 丸喜は乙守に微かな違和感を抱いていた。怪盗団の身分を隠しているのならあまりにも隙がある。少し突っ込んだ質問をしてしまえば「自分が怪盗団だ」と、自白してしまいそうな雰囲気。

 

(怪盗団としての行動した結果に自信が持てなかったとか? 自分のやった事の結果に罪悪感がやってきた……いやそれはなさそうだ。彼はそういうタイプじゃない気がする。まるで、わざと隙を見せて、怪盗団である事に気付いてほしかったような)

 

 う~ん……と唸るも答えは出ない。

 

「……乗ってあげてもいいのかな」

 

 

 ***

 

 

 帰宅し、『† 定められた黙示録(アポカリプス)†』を開きながら先生にいつ正体を明かすか考える。

 

「……んむぅ」

 

 大事なのはタイミングだ。候補としては11月中旬の論文が完成するタイミング。論文が完成したという事は、先生の中の理論が完成したという事。世界を変える力はペルソナの力だが、その力を最大限に引き出せたのは先生の力に他ならない。ならそのタイミングで、俺は自身の正体を明かして先生に手を貸す。「先生の理論を形に出来る世界を教えますよ」と言えば、計画には一枚噛ませてくれそうだ。

 

 あとは12月24日のラスボス倒した後、先生がペルソナに目覚めた途端すぐに先生にコンタクトを取って、味方するのも手だ。というかそっちの方が原作通りに進むから良いのかもしれない。

 

 どちらにしても時が来るまでは、じっくり先生と親睦を深めよう。

 

 




 補足説明

 班目が歪んだ原因は執着心から。『サユリ』が処女作であり、代表作である事から、画家としては遅咲きの部類。若い頃に苦労して獲得した栄華だったからこそ、それに対する執着で班目が歪んでしまったらしいです。(『ペルソナ5』みんなで作る調査報告書vol.2参照)
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