5/16 晴れ
放課後、今日は班目宅に行くために渋谷セントラル街を抜け住宅街を歩いている。すみれは新体操の練習があるので今回の調査は見送りだ。
班目宅は渋谷セントラル街の先にある住宅街。本当の自宅は他にあるらしいが、メディアで公表しているガワの家がそこだ。
「班目ねぇ……中野原が言ってたことが本当なら大スクープだけど」
「それを確かめるために行くんだよ」
「あ。あれじゃない?」
杏が指差したのは、オンボロの今にも倒壊してもおかしくない家。間違いない。ゲームで見た家と同じだ。
***
『ナビゲーションを開始します』
班目宅に突撃するも、しらを切られあっさり退却。取り敢えずパレスがないか確認しようってことでイセカイナビを起動するとあっさりヒット。蓮が言った『美術館』というワードが引っ掛かり、景色が歪み始める。
「あばら家が……美術館……マジ……⁉」
『イセカイナビ』を起動して、キーワードを入れるとあら不思議。あんなボロボロで雨漏りしてそうな家が、瞬く間に絢爛豪華の美術館に!!
「マダラメがあばら家をそう認知してるってことだな」
「でも、何で……? 普通に個展で絵を飾っているのに、自分の家を美術館って認識する?」
「その理由は入ってみりゃ分かるっしょ。でも一つだけ言えることは、パレスが存在してそこに『歪んだ欲望』があるって事だ」
「ああ、ブルの言う通りだ。とにかく潜入してみよう」
モナに従って、美術館の裏からこっそり入って、天窓から潜入する。
入るとそこには、自画像とその人の名前のタイトルが飾ってあった。班目は門下生の作品を自身のものとして発表しており、要らなくなった門下生は破門、もしくは美術界では一生食べていけない立場へと追いやられる。
つまるところ、門下生は班目にとって『作品』なのだ。人として扱ってはいない。
「おい……コイツって……!!」
そして、喜多川の自画像もそこの展示に飾ってあった。幼い頃から見ていた喜多川も班目にとっては作品なのだろう。しかも才能があり、育ててくれた恩があるため裏切る事は無い。なんて都合のいい道具か。
ロビーを抜けさらに奥へ進むと、『無限の泉』という名の巨大な作品が展示室のど真ん中に鎮座していた。説明によると
『彼らは、班目館長様が私費を投じて作り上げた作品群である。彼らは自身の着想とイマジネーションを生涯、館長様に捧げなければならない。それが叶わぬ者に生きる価値無し!!』
と書いてあった。
「生活を保証する代わりに、画才ある弟子の着想を奪ってるって訳だ。これが本当なら、マトモな絵描きですらないぜ」
「なんで祐介はこんなやつかばってんだよ!庇う理由ねーだろ!」
「きっと、引き取ってくれて、今まで家に置いてくれた恩だろうね」
命の恩人ってのは厄介な存在だ。だって命は金に換えられない。いくら不当に金をせびられても、着想を奪われても『この人が命を救った』という大恩が、自身の中で大義名分として働いてしまって納得してしまう。質が悪いと一生その事を盾に、絞られ続けることもある。
だから誰にも迷惑を掛けず生きていくのが好ましい。そうすれば人生の枷にはならない。まぁ……そんなことは出来ないけど。基本そんな事故が起きるのって運だしな。喜多川は運が悪かった。
「これ、もう斑目が次のターゲットでいいだろ」
「待て、全会一致だろ。すみれに聞かないと」
「それにまだ俺達は班目のことを知らなすぎる。門下生本人に聞くか、喜多川に聞こう」
スカルが班目を次のターゲットに狙いを定めようとするが、怪盗団のルール、『ターゲットは全会一致』が満たされていないため、一応止める。そしてジョーカーも班目の悪事の裏は取りたいとの事で今日はここでパレスを後にした。
***
『――ってなわけで明日の放課後は班目宅に行くという話で』
『すみません。また部活があって行けそうにないです。すみません』
『それはしゃーない。部活の忙しさっていうのは俺は知ってっからよ。こっちは任せて遠慮なくしばかれてこい!!』
『了解です!! そっちも頑張ってください!!』
怪盗団のトークグループのやり取りを見て少しだけ笑みが零れてしまう。竜司がこうやって先輩風吹かしてるのは初めてみた。確かにゲームじゃすみれと関わってるのは一か月ぐらいしかないし、唯一の年下は双葉だもんな。先輩風吹かすタイミングがないよな。劇中じゃやろうとして失敗してたし。なんというか、高校生らしさってこんな感じなんだろうなって思う。
それはさておき、期末が終わってからはスケジュール通りに進んでいる。これはかなり喜ばしい。このまま何も起きなければいいのに……。っていうかカモシダパレスの時が異常だったんだよ。なんだよ芳澤すみれが加入って。いや俺も鈴井さんを助けて色々ルート乱したけども……。
マダラメパレス編に起きる出来事として、同じ時期に発生するイベントは無いよな? 無かったはずだ。無いであれ!!
***
5/17 火曜日 晴れ
「じゃあ、始めよう」
班目宅で、杏をモデルにスケッチが始まった。俺達三人は、喜多川が杏に変な事をしないように見張りと、単刀直入に班目の悪事を聞くためにやってきた。
「ねぇ……」
「……」
杏が何か聞こうとしているが無視。声が聞こえていない程の集中力。班目の事を聞けるようになるのは絵が完成した後だろう。
「なにしてんだ胡桃」
「ん、ア〇プラでアニメ見てる」
時間がかかりそうなので、こっちはこっちで暇をつぶさせて貰おう。
「なに見てんだ?」
「不死鳥戦隊フェザーマン」
不死鳥戦隊フェザーマンとは、この世界の特撮アニメである。ネオフェザーマンやフェザーマンRなどと続くが、俺は初代が好き。
「見るか? 喜多川きっと長くなるぞ?」
「じゃあ、遠慮なく」
「あ、俺も」
「イヤホンがねぇな。スマホのアプリで画面共有しながらみるか」
急遽、『不死鳥戦隊フェザーマン』の鑑賞会が始まった。
***
「ダメだ……すまない、今日は調子が出ない……悪いが、日を改めさせてくれないか?」
ちょうどアニメが見終わった時点で喜多川から今日はもう無理だと言われる。
「ふざけんな!! こっちは何時間待たされたと思ってんだ!! あと一話で1クールが終わるところだったんだぞ!!」
「結構楽しんでんじゃん……」
「……? お前らは監視のために来たんじゃないのか?」
「まぁ、それもあるんだけども。本題は班目の噂についてだな」
やっと本題に入れる。
喜多川に班目の噂について聞いた。班目の作品は盗作だという事と、弟子のことをモノのように扱っているという事を言及したら。
「お前達の言う通り、俺達は……先生の『作品』だ……だが俺は、自分から着想を譲ったんだ。これは盗作とは言わない」
「絵具みたいに搾り取られたの間違いだろ。物は言いようだな」
「違う!! 先生を侮辱するな!! 今はスランプなだけだ!!」
「だとしても。弟子の着想ありきの作品を我が物顔で展示する奴だろうが」
「……それ以上言ったら名誉毀損と迷惑行為で訴えるぞ。そもそも今日は『モデル』を頼んだんだ。お前達を呼んだ覚えは無い」
「やってみろよ」
「ちょっと落ち着きなって!!」
少しヒートアップしすぎたみたいだ。喜多川はスマホを取り出し、今にも通報しようとしている。が、落ち着きを取り戻し、スマホをしまった。
「通報はしない。ただし条件がある。高巻さんにモデルを続けて欲しい」
「え、でもさっき違うって……」
「あれは俺が無意識に君に遠慮してしまっていたから……けどもう心配しなくていい。君が全てをさらけ出してくれるなら……」
喜多川は一呼吸おいてとんでもない事を口にしようとする。
「俺も全身全霊を込めて、最高の裸婦画に仕上げてみせる!!」
「裸婦ぅ⁉」
はい始まった。
***
『――ってなわけで杏が全裸になります』
『マジですか』
『ならないから!!』
グループチャットで今日起きた出来事を報告している。すみれに情報共有しとかないとな。報連相大事。
『てか、班目の事でヤバイ事が分かった。盗作されて自殺した弟子がいるんだと』
『本当か?』
おそらく本当だ。明日イベントで中野原から班目の悪事について告白される。その言質で怪盗団が『改心』に動くのだ。
『まぁ、取り敢えず明日は新しいアジトへに集合でいいか?』
『そうだな。渋谷駅の連絡通路に集合って事で』
***
5/18 水曜日 曇り
『イセカイナビ』を起動して、マダラメパレスに潜入する。
つい先ほど、中野原から班目の悪事を聞かされた。盗作のせいで自身の兄弟子は自殺。喜多川も「逃げ出せるものなら逃げ出したい」との発言。その二つから怪盗団は班目の『改心』を決行を決めた。さすがに人が死んだとなれば動かざるを得ないみたいだ。
「ふっ……ほっ……」
「やる気満々だなブル」
パレスに入る前に準備運動をしていると、モナに声を掛けられる。
確かに気合いは入っている。マダラメパレスは、オタカラルート確保の日数に最低でも二日はかかる。その理由は班目の認知がパレスに影響し、通行止めになっている箇所があるからだが、その通行止めの箇所に辿り着くまでに日数はかけたくない。それは単なる日数ロスだから。
幸いにも通行止めの箇所までそんなに遠くは無い。油断さえしなければ楽に行けるだろう。
ただ今はそれ以上に……
「まぁ。久しぶりの大物だからちょっと気合い入ってんだわ。でもやる気あるのはみんなも一緒だろ?」
やる気があるか問うと、全員が首を縦に振る
パレスがある大物となるとそうはいない。俺一人でメメントスに入って少しレベルアップしていたが、今進めるところにいるシャドウじゃ相手にならなくなってきた。正直言うと物足りない。というかレベルアップの効率が悪い。だからパレスに行けばある程度敵は強くなる。それにマダラメパレスには宝魔も湧くしな。経験値と金が上手い。
「……ジョーカーの瞑想が終わったからそろそろ行くか」
瞑想(ベルベットルームでペルソナ云々)が終わったので、ジョーカーの方も準備万端。
「怪盗団『ザ・ファントム』としての初仕事だな」
「ああ、派手に行こうぜ!!」
よし!! 何が来てもぶっ飛ばしてやるぜ!!
***
「ハデニ……イコウゼ……ナニガキテモ……ブットバス……」
「オイ、ブルが何か呟いてるぞ」
「ほっとけ」
俺、出番無し!!
……アギ系はパンサーが使えるから、俺のペルソナは出番無いし、ちょっと堅い敵が出てもジョーカーがゴリ押しして勝っちゃうし。ジョーカーだけマンパワーとびぬけ過ぎじゃね?
なんて思いながら進んでると、中央に金色に壺が飾ってあるフロアに入る。
あーここは確か……
「よいしょ」
ライフルを取り出し、数メートル先に置いてある金色の壺に向かって引き金を引く。ガキン!! という金属がぶつかる音と共に、金色の壺は台座から落ちて後ろへと落ちた。
「お、おまっ、オマエ~~!! 折角のお宝を~~!!」
「いたた……叩くなよ。よく見ろあれ」
モナが肉球で足を叩くので、指さして金色の壺の正体を教える。
見事銃弾がヒットした金色に壺は、みるみる内に形を変え、宇宙人の様な姿をしたシャドウへと姿を変えた。
宝魔リージェント。言うなれば経験値が上手いレアモンスターだ。
絶対に仕留めたい敵、ならばやる事は一つ。どこのゲームでも一緒だ。レアモンスターを狩る時は先手必勝。からの瞬殺だ。
「もう一発!!」
トドメを刺すためもう一度引き金を引く。命中はしたものの銃撃耐性がある為ダメージはあまり入っていない様子。
なら丁度いい。そろそろペルソナでぶっ飛ばしたかったところだ!!
「アステ――」
「マカミ!!」
「え゛」
俺が攻撃するより速く、ジョーカーがペルソナを出して目の前にリージェントにフレイをぶちかました。……リージェントの弱点は核熱。見事ダウンを取り、交渉することなく、そのままジョーカーの仮面の一部としてストックされた。
「……」
「あんま膨れないでよ。楽に戦闘出来たのは、ブルが先手打ってくれたおかげだし」
「別にいじけてはないし」
ただちょーーっと戦闘に貢献出来てないから、俺の必要性っていうのを感じてる。俺はいざという時のリーサルウェポンだけど、その『いざ』が無いと戦闘できない。
なんつーか、こう……暇。
「げっ……なんだこりゃ」
軽い不満を抱えながら進んでいくと、目の前に赤外線で囲まれたフェンスが行く手を阻む。
側に立っている看板には、『外から開けられないから警備員は注意されたし』的なことが書いてあった。この通行止めがマダラメパレスを一日で攻略できない理由だ。ここから先に進むには、現実で班目の認知を変えなければいけない。
一旦撤退しなければいけない。今日のパレス攻略はここまでか……。
***
『一肌脱いでくれ』
『だから脱がないから!!』
***
・杏が脱ぐ。