5/19 木曜日 雨
マダラメ・パレス攻略2回目。杏とモルガナが班目の家を“攻略”してる最中、ジョーカー、スカル、ヴァイオレット、俺の四人はパレスで待機中だ。
作戦はこうだ。
1、まず杏が喜多川の気を引いている隙に、モルガナが例の扉を班目の目の前で開ける。
2、認知の書き換えが起こり、パレスで通行止めだったところが進めるようになる。
3、その後俺達が、制御室みたいなものを探し、二度と閉じないようにロックを解除。
割と単純な作戦だがタイミングと速度が命だ。ゲームじゃ、制御室に辿り着くまでに中ボスが一体出現する。それを速攻で潰すのが俺の役目になるだろう。
取り敢えずドアの解除が来るまでひたすらに待つ……
「あいつらマジで大丈夫か? 『演技で誘惑してみせる』とか大分ハードル高いこと言ってたけどよ」
「しかも扉が開くところを班目さんの目の前で見せなきゃダメなんですよね? ……それ自体がかなり難しい気がしますが……」
「ソワソワしすぎだろ運動会系コンビ」
スカルとヴァイオレットは落ち着かない様子で体を揺らしていた。
「逆にジョーカーとブルは何でそんな落ち着いてんだよ」
「俺は二人を信じてるから。きっとうまくいく」
ジョーカーは、ポケットに手を入れながら余裕を口にする。なにそれかっけぇ。俺も真似しよ。
「――俺も二人を信じてるから、きっとうまくいく……フッ」
言った途端ジョーカーに肘で小突かれた。
「お二人はホントに緊張してないんですね」
まぁ、俺は成功するって知ってるからな。ジョーカーは……こういうヤツなんだろ。図太というか、緊張に強いタイプ。さすがジョーカー。さすジョさすジョ。
「まぁ、待ってる間退屈だから何かしてようぜ。こうなる事見通して暇つぶしの道具持ってきたから」
「何持ってきたんだよ?」
「トランプ」
「……は? する気か? ここで? パレスのど真ん中で?」
「大富豪がいい」
「なんでオメーは乗り気なんだよ!!」
ジョーカーが乗ってくるが二人でトランプは味気ない。あと一人欲しい。
「……私も混ぜてください」
「は? マジかよ!?」
「オイオーイ、これで三対一だなスカル……」
「クソ……シャドウから金銭ゆする時と同じ顔しやがって……」
「そんな悪い顔してねぇだろ!!」
スカルが頭を抱えながら唸ったあとにこちらに近寄ってきた。
「……で、何すんだよ」
「大富豪。革命・8切り・都落ちあり。他にローカルルール知ってたら入れていいぞ。俺負けねぇから」
「大きく出たな……俺も大富豪は結構強いぞ。二度とそんな口利けないようにしてやろう」
「二度とトランプを触れない体にしてやるよ……!!」
「あれ、これトランプですよね……?」
男ってのは勝負事になると血が滾っちゃうから口が悪くなるのは仕方無い。
***
「開いた……!!」
ガチャリ……と錠が外れる音と共に班目邸の開かずの扉が開かれる。
「そこで何をしている!!」
しかもタイミングよく通りがかった班目が開いた扉の存在に気付く。これでパレスの認知は書き換わり、通行止めが解除される。
「こっち……!!」
モルガナと杏は喜多川を引っ張り、開かずの間へと侵入する。
これでモルガナと杏の仕事は果たした。後はパレス班が上手く動くのみ。
(後は任せたよ……皆……)
***
そのころ一方パレス班は
「はいスカル都落ち~!!」
「クッソまたお前の勝ち逃げかよ!!」
大富豪で盛り上がっていた。
一ゲーム終わってまた手札を配りなおそうとしたところで、通行止めとなっていた赤外線で作られた壁が消えた。
「「「「…………ッ!!」」」」
一瞬、何が起こったかとお互いの顔を見合わせ、瞬時に本来の目的を思い出し、その後全員がトランプを置いて走り出した。
「うーん……ちょっとリラックスしすぎた?」
「そうかもですね」
「やべーぞ!! さっさと制御室行かなきゃあいつらにどやされちまう!!」
慌てて走る一行の目の前に一体の警備シャドウが立ちふさがる。
「ぬっ!! なんだお前達は⁉」
警備シャドウの形が崩れ、ヌエへと変わっていった。
「ちっ!! 早速かよ!! どうす――」
「赤・灼・爆・拳!!」
全員が武器を構えるより早く、ブルとそのペルソナは飛び出し、熱が籠った鉄拳をシャドウへと浴びせた。
ヌエは火炎弱点。アギ系が使えるブルにとってカモである。そして最大限に威力を増幅させた技をヌエが耐えられる訳もなく。
ドゴォン!! とパレスに響く様な轟音と共にヌエは吹き飛び、後ろに建ってある金の班目像へとぶつかった。爆炎で生じた煙が晴れたあと、そこにいたヌエの姿は跡形もなく消えていた。
「よし、さっさと制御室行くかあぁぁ……」
ブルの言葉が尻すぼみになった後、そのまま倒れた。
「おい大丈夫か!!」
「大丈夫!! お前らはさっさと制御室でセキュリティ解いてくれ!! 多分すぐそこだ!! ――俺の事は置いて先に行け!!」
「……それ死亡フラグじゃね?」
一行は取り敢えずブルを回復させようとしたが、ブルの言う通り制御室がすぐそばにあったので先にセキュリティを解くことにした。
***
「……あ。美味しいこれ」
「口に合ったようでなにより。……追手が来る前にここから離れるぞ」
「ん、了解」
ジョーカーが持ってきたルブランのコーヒーを飲み干し、その場から離れる。
「……そういえば、杏先輩とモルガナ先輩は無事に逃げられたんでしょうか」
「そうだなあいつらもうまくやってりゃいいんだけど……」
「いやああぁぁぁぁぁぁ!!」
親方!! 空から赤いラバースーツを着た女の子と長身のイケメンが!!
「うぐっ!!……うがっ!!」
そしてついでに猫バスもどきに変身できる黒猫も!! ジブ〇映画かここは。
「おーい大丈夫かー」
「なんだお前ら⁉」
突如パレスに入ってきた喜多川は混乱している。
「落ち着いて喜多川君!! 私だってば!!」
「……高巻さん? じゃあお前らはあの時の……!! ……そこの着ぐるみとレオタードを着ている人は見覚えが無いが」
「初めまして喜多川さん。私はヴァイオレットと言います」
「ヴァイオレット? 外国人か?」
「えーとそういう訳では無くて……」
「色々話すと長くなる。取り敢えず出口まで移動しながら説明するから立て」
ジョーカーが面倒くさそうなやり取りをぶった切る。ここでジッとしてたら騒ぎを駆け付けたシャドウがやってくる。
「なぁ……ここは一体どこなんだ?」
「心の中だよ。班目のな」
***
何も知らないであろう喜多川に、この世界の説明と、班目の黒い一面を教えていく。喜多川は最初こそ班目の裏を否定していたが、班目の汚い心を反映させたパレスを進む度に、喜多川の根底が揺らいでいく。
「……こんな、まさか」
綺麗な絵に水を掛けてインクを落とすように、喜多川の中にあった班目の像がぼやけていく。気付きたくなかった真実を目の前で見せられる。
「……」
そんなはずはない。認めたくない。だが、確かめなければならないと喜多川の中にある気持ちが膨らんでいく。
そして『無限の泉』があるフロアを通り過ぎれば、出口に出られるといったところでシャドウに道を阻まれる。
「くっく……ようこそ、班目画伯の美術館へ」
怪盗団を挟む形で現れたのはこのパレスの主『マダラメ』だった。
「王様の次は、殿様かよ!!」
「見た目はバカ殿って感じだな」
「先生……なのですか? その姿は……嘘ですよね……?」
スカルとブルはマダラメの見た目に言及する。喜多川も普段見ている姿とは真逆で動揺している。
「あんなみすぼらしい恰好は演出だ。有名になってもあばら家暮らし? 別宅があるのだよ……オンナ名義だがな」
「……っ!! ならばなぜ、盗まれた筈のサユリが保管庫に!! 本物があるのにも拘わらず、なぜあんなに模写があったのですか⁉ 聞かせてくれ、あなたが先生だというのなら!!」
「まだ気づかんのか青二才め。盗まれたなど私が流したデマだ。全部、計算し尽くされた『演出』なのだよ!!」
そう言ってマダラメは『演出』を語る。その話は班目の悪行をしていることの証拠となり、なにより喜多川の一縷の希望を打ち砕くものだった。
「そんな……」
喜多川は絶望で膝から崩れ落ちる。
「絵の価値など、所詮は『思い込み』……ならばこれも正当な『経済行為』だ。……まあ、ガキには想像も出来んか!」
「さっきから金、金、金……どうりでこんな気持ちわりぃ美術館ができる訳だ!」
「フン!芸術など、金と名声稼ぎの道具でしかないだろう!祐介にもだいぶ稼がせてもらったな」
「なら、あなたの才能を信じている人は……天才画家と信じてきた人々は……!!」
「……これだけは言っておいてやる、祐介。この世界でやっていきたいのならば、私には歯向かわんことだな。私に異を挟まれて、出世できると思うか?」
フハハハハハ!! とマダラメが下品な高笑いをする。
「こんな……こんなヤツの世話になっていたとは……」
「ただの善意で引き取ったとでも思っておったのか? 有能な弟子を集め、着想を吸い上げ、才能ある目障りな新芽を摘み取れる……着想を頂くだけなら大人よりも言い返せん子供の将来を奪った方が楽だ」
「なんてことを……!!」
「家畜は毛皮も肉も剥ぎ取って殺すだろうが!! それと同じだ馬鹿者が!!」
貴様らは家畜と同類だと。そう宣言した。
「……喋り疲れたわい……そろそろ……」
「……許せん」
一言。喜多川が零す。
「許すものか……お前が、誰だろうと!!」
喜多川は目の前の恩師。否、
「ふん……!! 長年飼ってやったというのに、結局は仇で返すか……くそガキめ!! 者ども!! この賊どもを始末しろ!!」
マダラメは一通り喋ったあと、シャドウに怪盗団の始末を命令した。
怪盗団は臨戦態勢をとる。喜多川を守ろうと前に出ようとするが……
「……面白い」
その必要はない。喜多川が立ち上がる。
「事実は小説より奇なり……か」
目を逸らし続けていた悪は、どす黒い色をしていた。
絶望は怒りへ。
目の前の敵と、見て見ぬふりをしてきた自分に対しての憤怒。
「そんなはずはないと、長い間目を曇らせてきた……人の真贋さえも見抜けないとは……節穴は、俺の眼だったか……!!」
***
――ようやっと眼が覚めたかい?
――真実から目を背けるキサマこそが何より無様なまがい物
――たった今、決別するのだな
――いざや契約、ここに結ばん
――我は汝、汝は我
――人世の美醜の誠のいろは
――今度はキサマが教えてやるがいい!!
***
仮面を剝ぎ取る。
反逆の意志を身に纏い、青い炎と共に彼のペルソナが現れる。
「絶景かな」
目を開き、周りのシャドウを一瞥。
「まがい物とてこうも並べば壮観至極……悪の華は栄えども、俗悪、醜悪は滅びる定め……!!」
喜多川が手を振り払うと、ペルソナから発せられた身を凍らせる冷気がシャドウを襲う。
「フン……いきがりおって……何も知らず死んでいくがいいわ!! 出会え出会えー!!」
マダラメの呼び出しに応え、複数のシャドウがまた現れる。
「貴様を親と慕った子供達……将来を預けた弟子達……一体何人踏みにじってきた……? いくつの夢を金で売った⁉」
着想は盗られども、未だこの手には反逆の刃。
「俺は貴様を絶対に許さない……!!」
さぁ、今こそ成敗を。かつての師と未熟な自分を斬り捨てよ。