幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#16 太刀筋が寝ぼけているよ

 5/22 日曜日 晴れ

 

 

 喜多川がデザインしたイカす予告状をばら撒き、マダラメのオタカラがパレスに出現した。しかしオタカラの目の前でマダラメが待機しているため、怪盗団はある作戦を練った。

 

 その作戦とは怪盗団を二部隊に分け、

 

 1.一部隊は電源を落として視界を奪い。

 2.もう一部隊はその隙にオタカラを取る。

 

 至ってシンプルかつ分かりやすい。俺は坂本、高巻、芳澤と電源を落とす係として制御室の前に来ていた。

 

「着いたけど、やっぱり敵がいるね……」

「結構派手に暴れましたからね。どうしましょう?」

「そんなん想定内だ。俺が声出しておびき寄せるからその隙に電源落とせ」

「いやその必要は無い」

 

 竜司が自身の囮作戦を提案するが却下。敵が一体ならもっとシンプルにいける。

 

「今制御室にいる敵は一体だろ? 四人で瞬殺した方がいい」

「でも、接敵する前に誰かを呼ばれたら……」

「その前に倒すんだ……よっ!!」

 

 そう言うや否や、俺は制御室に突撃した。

 

「なっ!! 誰――」

「――正体を見せろ」

 

 シャドウが何か言うより早くシャドウの仮面を剥いだ。

 

 シャドウの正体が首絞めの花少女(カハク)だと判明すると、そのままスナイパーライフルの銃身を突き出し、首絞めの花少女(カハク)を壁に縫い付けるように叩きつける。銃身を杭のように壁に固定すると、一発、二発と引き金を引いた。銃撃属性が弱点の首絞めの花少女(カハク)は耐え切れずにダウンし、そのまま消滅した。

 

「戦闘終わった。入っていいぞ」

「お前なぁ。一人で突っ走んなよ」

「一人で囮買おうとしたの誰だよ。それに俺が倒れてもお前らが後始末してくれるだろ……ほらこっちでフォックスの合図待つぞ」

「なんか一人で戦闘するの慣れてなかった?」

「気のせい気のせい」

 

 メメントスに一人で入ってレベル上げしているため、ソロの戦闘に関しては雨宮より慣れている自信があった。

 

 

 ***

 

 

 作戦は順調に進み、マダラメのオタカラをこの手に収め、現在怪盗団は警報鳴り響く美術館から脱出しようとしている最中だった。

 

「ヴァイオレット耳貸してくれ」

「……? 何ですか?」

 

 逃走している怪盗団の殿を務めていた乙守がすぐ近くにいる芳澤に手招きし、こっそり耳打ちした。

 

「これ多分誘い込まれてる」

「……その事皆さんに共有した方がいいのでは?」

「とは言っても一本道だ。別のルートは見当たらない。変な事言って混乱させたくないし、今ここで足を止めて敵に囲まれる方が危ない。それにモルガナのオタカラに過剰に反応する発作もあるし」

「戦闘は避けられないって事ですか?」

「ああ、奇襲されるかもしれない。ジョーカーは大丈夫かもしれないけど、俺とヴァイオレットはその時は他のメンバーのフォローに回る」

「了解です」

 

 

 ***

 

 

 乙守先輩の言っていた通りだった。

 

 

「小賢しい鼠め……」

 

 私達が盗んでいたオタカラは贋作であり、絵画にはへのへのもへじが描かれていた。私達がそれに気づいたと同時に奧からマダラメと、布を被せた絵画を持ったシャドウが現れた。

 

「偽物を用意してたってことかよ!」

「日本画では贋作は肯定されているのだよ」

「……っ何故変わってしまった⁉ 有名になったからか⁉ 育ての父に罪を問わなきゃならないこの痛みが……お前に分かるか⁉」

 

 マダラメは遠い日を思い返すように目を細める。

 

「……思い返せば、お前を預かったのはお前の母を世話した縁だったな。あの女は、夫が死んだ後も絵画への情熱は失わなかった。その技術と才覚には目を見張るものがあった」

 

 ――だから、と区切り。

 

「世話をしてやることにした。お前の母も、生み出した作品も……すべて、この私の『作品』だ」

「……腐ってる」

「冥土の土産に見せてやる。本物の『サユリ』をな!」

 

 そう言うとシャドウが絵を掲げる。そこにはメディアに取り上げられている私の知っている『サユリ』では無かった。

 

「あれが、本物の『サユリ』……」

 

 本物の『サユリ』は女性……いや、“母親”が赤子を抱えている絵だった。

 

「……母さん?」

「まさか、()()()()()んですか?」

 

 喜多川先輩のぽそりと呟いた一言が私に最悪な予想をさせ、思わず言葉が出てしまった。

 

「はぁ……小娘。お前は演出が分かってないな。こういうものは順を追ってネタを明かし、絶望させるものだろう?」

「……説明しろマダラメ」

「お前も薄々気付いているだろう? 『サユリ』はお前の母親の自画像だ。死期を悟った女が、残していくわが子への願いを描いたもの。だが、あえてその赤子を塗りつぶすことで、女の表情の理由は謎になる……寄生虫のような評論家気取りの俗人共はそこに惹きつけれるのだ。……全ては演出なのだ」

 

 ああ、今理解した。この人は芸術なんか愛していないんだ。金稼ぎの道具としか見ていない。

 

「本物のオタカラはそっちでも、本人の実力はさっきの落書きの方ってことだな」

「笑えるぜ、クソが!!」

「ふん。あくまで楯突くか。ならば私の『作品』となった祐介は私の未来のために刈り取らせてもらうぞ」

 

 『作品』。しかし目の前の男は平然と()()として扱う。一体どう生きてきたらこうなってしまうのだろうか。

 

「……」

「フォックス?」

「作品は一つも例外なく潰したと……母さんもなのか?」

「無論()()()()()さ。たまたま私の目の前で発作を起こしてな。その時思ったよ、絵をしがらみ無く手に入れられると」

「……ッ! なんてことをっ……!」

 

 人の命を何だと思っているんだ。

 

 怒りのあまり足が前に出たが、喜多川先輩に手で制される。

 

「……落ち着けヴァイオレット」

 

 しかしその手は怒りで小刻みに震えていた。

 

「俺を引き取ったのは、『サユリ』の真実に気づかせないためか。大人より幼い子供の方が支配しやすい……成程、実に合理的だ。」

「随分と冷静じゃないか祐す……」

「その名で呼ぶなっっ!!」

 

 マダラメの言葉が喜多川先輩の怒声によって遮られる。

 

「その名は俺の本当の親が付けた名だ。お前の様な腐った外道が口にするな!! ……それに冷静だと? 俺の怒りはすでに怒髪天を衝いている!!」

 

 鞘から刀を抜きマダラメに切っ先を向ける。

 

「……これは弔いだ。死んでいった母と、貴様に憧れを抱いていた過去の俺自身。そして悪鬼外道に墜ちた貴様のな!」

 

 喜多川先輩の啖呵にマダラメは一笑に付して返した。

 

「ハン! 若造が粋がりおって。貴様に何が出来る? お前一人が騒いでも世間は取り上げんぞ」

「心だけでなく、眼も腐りきっているな……俺は“もう”一人じゃない」

 

 目線が怪盗団へとちらと向いた。

 

「悪いが、付き合ってくれ」

「ハッ!! こっちは最初からそのつもりだったつーの」

「こんなヤツ許しちゃ置けないしね」

 

 雨宮先輩と乙守先輩も言葉は口にせずに、首を縦に振る。

 

「どいつもこいつも……! 人の美術館に土足で入って好き勝手しおって……」

「マズいッ! 離れろ‼」

 

 マダラメの足元から赤黒い泥が湧き出てくる。

 

「この世は持てる者がルールを作り、持たざる者を支配する! ましてや絵画の価値も『思い込み』! 美術界のルールはワシだ‼」

「……くっだらねぇ」

「ワシこそ至高! ワシこそ美術界の神なのだ!」

 

 マダラメの笑い声と図体も大きくなるのと同時に体が歪んでいく。

 

「塗りつぶしてやるぞぉぉぉ‼ ゴミ虫共めぇっ‼」

 

 はっきり姿が視認出来る頃には、先程までのバカ殿のような面影はなく、巨大な顔の絵画が顔のパーツごとに分裂し、不気味に浮遊する『悪魔』だった。

 

「斑目……欲望の為に他者を利用する貴様は、貴様が描いた絵ほどの価値もない……‼」

「何をしてくるか分からない。お前ら慎重に行くぞ‼」

 

 

 ***

 

 

 ……はっきりいって、ゲームしてきた中で一番弱いボスはマダラメだった。

 

 カモシダと違い、マダラメは攻撃箇所が4つある。口腔、右目、左目、鼻梁に分かれておりそれぞれ耐性が違う。ドラ〇エの某魔王みたいな奴だ。とは言っても適切に対処すれば倒すことは容易い。

 

「うっしゃ先手必勝だ! キッドォ‼」

「おいスカル! 慎重にって言ったろ!」

 

 竜司が先手でペルソナを出して、マハジオをお見舞いする。マダラメに電撃が命中する。

 

「ぐうっ……!」

 

 口と鼻に攻撃は通ったが、右目と左目は電撃を吸収した。

 

「なるほど、弱点を見極めて叩かなきゃ倒せないってことか」

「クソっ……面倒臭ぇ……!」

 

 ああ。面倒臭いからシンプルに行こう

 

「ジョーカー、ヴァイオレット。俺が大技ぶっ放すから、残った顔を叩け」

「でも、電撃の他にも吸収される攻撃があるかもしれませんよ? 一応信じて構えときますけど」

「ぶちかましてこいブル。骨は拾う」

「それ死んでねぇ? まぁいいや美味しいとこは頼む」

 

 蓮からの許可も下りたことだし、折角ダメージを与えてくれた竜司には悪いが派手にいかせてもらおう。仮面に触れペルソナを呼び出す。

 

 マダラメが吸収する属性は部位によって違う。吸収する属性は、

 

口腔:物理・銃

右目:火・氷・電・風

左目:火・氷・電・風

鼻梁:念・核・祝・呪

 

 というふうに分かれていてゲームだと万能属性のメギドラオン撃ってりゃ終わるんだけど生憎そんな激強スキル覚えていない。ならどうするか。

 

「ぶっ壊せ‼ アステリオス‼」

 

 ペルソナの咆哮と共に目の前に破壊が巻き起こる。

 

 <ギガントマキア>。アステリオスが覚える物理属性最強のスキル。取り敢えず攻撃が通る奴に対して全体攻撃でぶちのめす。

 

 案の定残った部位は物理を吸収する口腔のみ。

 

「ぐっ……ううっ!! 小癪な蝿が……だが、これしきワシの力で……」

 

 マダラメは回復スキルを持っている。残った部位をちゃちゃっと片付けなければ他の部位を復活させられるが……

 

「ペルソナ!」「サンドリヨン!」

 

 作戦通りに蓮とすみれが追い打ちをかけてくれる。攻撃を受けきれなかったマダラメは、倒れた部位同士が集まり、黒い泥の中からマダラメ本来の姿が出現した。弱ったマダラメを全員で取り囲む。

 

「ワシはあの『斑目』だぞ……個展を開けば満員御礼の……!」

「悔しいか? 俺達みたいな『無価値なガキ』に人生を滅茶苦茶にされるのは?」

「だけどそれがテメェのしてきた事だろ『無価値なジイさん』よぉ」

 

 俺の言った挑発に付け加えるように竜司がマダラメを煽る。

 

「黙れ! 現実を知ったような気になっている愚鈍な若造ごときがワシを見下すな!!」

「まだ言うかっ! 貴様に食い物にされた者の怒り、たっぷりと味わってもらう!」

 

 祐介が飛びかかるのと同時に怪盗団全員で総攻撃を仕掛ける。これで第一形態は終了。

 

「ワシは大家『斑目』だぞ!! それがわからぬなら……貴様らに見せてくれる!」

 

 次は第二形態。ここを乗り越えればマダラメ戦は終了だ。

 

「我が最大にして最高の妙技を……! その“神髄”を‼」

 

 第二形態も大して強くはない。さっきと同じ作戦でも攻略出来る。といった目論見は、眼前に広がる大量のマダラメによって掻き消された。

 

「なにこれ……マダラメばっか」

「なるほど。贋作、複製はお手のものだってか」

 

 そう第二形態は複製された赤、緑、黄、青、4体のマダラメと戦うこと。耐性もそれぞれ違っており、そして厄介な点が一つ。

 

「おわっと! あいつ攻撃反射しやがった⁉」

 

 先程の顔面バラバラ形態と違って吸収ではなく反射。ダメージがこっちに来るのは痛い。二重の意味で。

 

 それでも4体ならば多少のダメージと引き換えに倒せると思っていた。

 

「こりゃあちょっと多すぎないか……?」

 

 予想外だったのは目の前に広がる無数のマダラメ。目に見える範囲でも約二十体。マダラメを囲っているマダラメを含めるとそれ以上のマダラメが複製されているだろう。……ややこしいな。

 

 だが、これがさっき言った“神髄”って言ったやつか。窮鼠猫を嚙むとはこの事か。面倒なやる気出しやがって。

 

「はぁ……はぁ……小童共が……思い知ったか!」

「クソ! あいつらが邪魔で本物が見えねぇ!」

 

 本物の声が、複製されたマダラメ集団の奧から聞こえる。複製された個体が壁となって姿は見えないが、随分疲れ切っているようだ。

 

 ……なるほど。ゲームでは複製がやられた側から新たな複製を作り出すが、今はそのストック全部出しきって疲労してんのか。じゃあここにいる奴ら全部ぶっ飛ばしつつ、本体をぶっ飛ばして勝利だ。

 

「さぁ! 囲め囲め!」

 

 だがどうする。

 

 全体攻撃で攻撃したら反射してこない個体は倒せるだろう。しかし俺の攻撃に耐性を持った反射する個体にはゼロダメージ。むしろ俺がその全部の反射ダメージを受けることになって俺が終わる。

 

 なら各個撃破で一体ずつ片していくか? いやそうしても攻撃した後に他の個体に囲まれて集中砲火を喰らう。

 

 特定のイベントで使う黒のインクも近くに見当たらない。

 

「………………」

 

 まだ何か方法はあるか? いや考えてる時間はもう無い。マダラメ達に囲まれたら終わりだ。

 

「――ブル、落ち着け」

 

 攻撃を仕掛けようと仮面に触れようとした手は、隣に立っていた蓮が手首を掴んでそれを止めた。

 

「何をしようとした?」

「一か八か全体攻撃。俺はやられるかもしれないけど、半分は蹴散らせる。残った奴らと本体はお前らに任す」

「ダメだ」

「無理じゃない。これが一番の最適解だ」

「やれるやれないとかの問題じゃない。やめろって言ったんだ」

 

 蓮の顔を見た。仮面で表情は分かりづらいが、焦っているというよりも怒っているという言い方が合っているような目が俺に訴えかけてきた。

 

「……なんか他に作戦あんのかよ」

「おそらく本体のマダラメを倒せば複製された奴らは消える。本体の強さはさっきの総攻撃で大体分かったがそんなに強くない。今も疲弊しきっているから誰か一人だけでも戦えば無力化できるはず」

「でも複製マダラメの壁が邪魔して超えられない」

「今それを打開する作戦を伝える」

 

 蓮が仲間達に手招きすると、全員が背中合わせになりながら作戦を伝え始める。

 

「……それワガハイの負担デカくないか?」

「でも派手で良くない?」

「ワガハイ杏のために精一杯頑張る‼」

「オタカラのために頑張ってください……」

「俺は乗ったぜ。ここで縮こまってもジリ貧だしな」

「俺も賛成だ。実行部隊には俺が立候補したい。奴の始末は俺がつける」

「頼む」

 

 あとは俺が頷くだけで全員賛成みたいだ。

 

「……やるか」

「満場一致だな」

「んじゃジョーカー。合図頼むぜ」

 

「何をコソコソ話し合っている‼」

 

「――SHOW TIME(ショータイム)だ」

 

 蓮の合図と共に各自配置につく。

 

「モルガナ!」

「了解! あらよっと!」

 

 モルガナが車に変身し、蓮が乗り込む。

 

「奴はあそこだ!」

 

 モルガナカーの上に乗った祐介がマダラメの位置を教え、蓮がハンドルを切ってアクセル全開でそちらに突撃していく。

 

「あの化け猫車を止めろ!」

 

 複製されたマダラメがモルガナカーに向けて一斉に攻撃の態勢をとるが、それを邪魔するのが俺達の仕事だ。

 

「「「「ペルソナ‼」」」」

 

 竜司、杏、すみれ、俺でモルガナカーの行く手を阻むマダラメ達を食い止める。作戦会議の時に予め全員に攻撃する個体を指定し、効率的にダウンをとっていく。

 

「そぉれにワガハイは化け猫じゃねぇぇえ‼」

 

 足りなかった風属性の攻撃と氷属性の攻撃は車から戻ったモルガナと蓮が担当してくれた。

 

「フン! たかだかその程度の攻撃、痛くも痒くもないわ。物量で押し切れワシの傑作……」

「だがそれで貴様の背後が取れたぞ」

「なっ……ぅぐっ……‼」

 

 マダラメは背後に忍び寄っていた祐介に気付かず振り返った瞬間。鞘の柄を鳩尾に入れられた。

 

 その場でうずくまったマダラメは床で呻き蠢いている。それに共鳴するかのように複製されたマダラメが一人、また一人と消えていく。

 

「……い、いつの、間……に」

「あいつらが注目を引いてくれたおかげでな。複製された奴らの壁は車の上から飛び越えさせてもらったよ」

 

 そう、俺達はヘイト役。本命は祐介がマダラメの首を獲ってくること。

 

「即興にしては良い作戦だろ?」

「……俺の作戦の方が効率が良かっただろ」

「一人犠牲にして勝ち取るよりも、皆が平等に怪我して勝った方がいいと思う」

「犠牲になんてなるかよ。死にそうになったらお前らが助けてくれんだろ。俺は仲間を信じてるだけ」

「……そうか」

 

 蓮は何か言いたげだったが、今はオタカラの方が大事だと思ったのか言葉を飲み込み、マダラメの方へ蓮は近づいてく。

 

「オタカラは?」

「この通りだ。……もうここに用は無い帰ろう」

 

 祐介はすでにマダラメとの最後の会話を終わらせたのか本物のオタカラである『サユリ』を大事そうに抱えていた。

 

「あ、あやつは来ないのか? 黒い仮面の……」

「どういうことだ?」

「まさかパレスにワガハイ達以外の侵入者が……?」

 

 モルガナ達がマダラメの発言に疑問も持つも、パレスが崩壊する音で思考を中断する。

 

「わり。少しだけ待っててくれ」

 

 脱出の準備をする怪盗団とは正反対にマダラメの方へと近づき目の前でかがむ。

 

「な、なんだ?」

「質問は一つ、迅速に明確に答えろ」

 

 人差し指を立てる。

 

「その黒い仮面はお前に何をした?」

「き、脅迫されただけだ。『裏切るな』『裏切ったらどうなるか分かってるな?』と言って銃を突き付けてきた!」

「……なるほど」

 

 脅す、か。明智の他人の精神を暴走させる力は強力だが、他人の思考まではいじれないのか? 出来るなら脅すより洗脳する方が楽だ。いや一色若葉の件は徐々におかしくなっていったっていう過程があったから出来なくも無い……のか?

 

「おいブル! 早くしろパレスが崩れる‼」

「すぐ行く」

 

 ……どっちにしろマダラメの言ってることだけじゃ全部分からないな。明智の能力解析は一旦保留しよう。

 

「ちょ、ちょっと待ってくれ!!」

 

 脱出のためにモルガナカーに向かおうとすると背後からマダラメに声を掛けられ、足を止める。

 

「貴様らは祐介の……何だ?」

「……仲間で友達だ」

「……美術界で成り上がっていくのは厳しい。血の滲む努力をしても、手の届かない才能に絶望と嫉妬しながらひたすらに描いても評価してもらえない。あやつはこれから辛く苦しい日々を過ごしていくだろう。いずれワシと同じように惨めな気持ちを味わうだろう」

「悪いけどお前の思っているほど――」

「――だから祐介を頼む」

 

 振り返るとマダラメは額を地に付けていた。

 

「……なんだよ、それ」

「最後に残った良心の中の親心みたいなものだ。親を名乗る資格が無いのは分かってる。だがワシはここで終わりだ、残せるものも何もない。祐介には貴様らしかいないのだ……! 孤独にだけはさせないでやってくれ……!」

「安心しろ一人じゃない。きっとな」

「そうか……そうか」

 

 マダラメは顔を上げると満足した顔をして光に包まれながら消えていった。

 

 それを見届けた俺は急いでモルガナカーに乗り込んだ。

 

「あいつと何を話してたんだ?」

「黒い仮面の奴の話。脅されてたんだってさ」

「繋がりはあったということか……」

 

 アクセル全開にして美術館を駆けながら先程の話についての情報を共有する。

 

「あとは何か言ってたか?」

「特に何も」

 

 祐介を頼むと言われたことは言わなくてもいいだろう。悪は悪のままでいてくれ。

 

 それに一人になるわけない。

 

「どうせ最期は幸せな夢を見ながら朽ちていくんだから」

 

 零れた独り言はナビゲーションの終了音に掻き消され、誰の耳にも届かなかった。

 

 

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