・メイドルッキンパーティー‼
「……誘われなかった」
斑目のオタカラは無事盗みだし、後は改心を待つだけの期間。要は自由に行動できる期間だが、斑目のパレスを攻略した二日後に起こるイベントがある。
それがメイドルッキンパーティー。ご大層な作戦名だが要はメイドの家事代行サービスを呼び出しメイドを観賞する。
思春期の男子高校生らしい、まぁ客観的に見ると下らないし誘われたら断ろうと思ってたけど。
「………………誘われなかった」
時刻はもう夜。今頃メイド姿の川上先生が来てわちゃわちゃしてるんだろう。
いや別に? そういうのに興味があるわけでは無いですし? ただそうやってわちゃわちゃやって、青春の一ページとしてあんなこともあったなーって思い出の中に入れないのがちょっとアレなだけで……いやいやいやそもそも断るし羨ましいとか思って無いし。
……なんか自分だけが呼ばれてない打ち上げをやったことを聞かされている感じ……こんな気持ちだったのか。
誘われなかったことが寂しいとか思って無いし。どうせ最期は俺含め皆幸せな幸せな夢の中に墜ちていくんだからいくらでも後で記憶改竄出来「♪~」……‼
『買い物に付き合う約束覚えてますか?』
通知の着信音に反応しスマホに飛びつくと、メイドルッキンパーティー組からではなくすみれからトークの通知で肩を落とさないが? 普通に嬉しいし。
『覚えてる。いつにする?』
『それでは今週の日曜日でどうですか? 待ち合わせはいつもの駅の改札でお願いします』
『おっけー』
日曜日は5/29か。大した用事も無いし重要なイベントも無かったはず。出かける予定をノートに書き込む。
台所から夕飯が出来たと母親の声が聞こえたので自室を出てリビングへと向かう。
……今日は鳥のむね肉メインのヘルシー料理か。たまには体に悪いカロリーと糖分多めが食べたいな。
「そういうのが食べたいなら友達と食べてきなさい。そういうのを計算に入れて家では健康的なもの出してるんだから」
「勝手に心読むのやめてくれない?」
「……ごめんなさい胡桃。デリカシーの無い事言ったわ」
「勝手に友達いないって決めつけるのやめてくれない? ちゃんといるしむしろ日曜日に出かけるし」
「へぇ誰と?」
「後輩」
「性別は?」
「女子」
「デート?」
「違う」
脳内ピンクなのか? 今の母親は。
「正常よ。何しに行くのよ」
「だから心を読むなって。ただ買い物に付き合うだけ」
「デートじゃない! 本人が否定しても客観的に見たらデートじゃない‼ 年頃の男女が買い物はデートよ、超デート‼」
「ご近所に迷惑だから防音室作ろうか」
「うちにそんな金無いわよ」
「ところがどっこい今なら口を閉ざせば全部タダ」
「あらお得。ところでちゃんと出かける用の服はあるわよね?」
うまく口車に乗せたと思ったら騙されなかった。これなら変なマルチ商法にも騙されないから安心だな。
「い『いつものはだめ!』……言葉を先回りして言わないでくれない?」
「あんたパーカーとジーンズしかないじゃない。大体同じデザインで大体色違い。売れてないソシャゲのキャラの方がまだ多様性あるわよ」
「く、組み合わせたら可能性は無限大だし……」
「使い古された売り文句使うんじゃない。それにあんたはパーカーとジーンズしか着ないから可能性は無なのよ。あと変なチョーカー着けてるし」
「うるせぇな。チョーカーは俺のマストアイテムなんだよ」
仕方ないわねと母親はバッグから財布を取り出し諭吉数枚をテーブルに置いてくる。
「新しい服買って来なさい無課金アバター。あ、間違えた胡桃」
大分酷いことを言われてる気がするが、金を受け取ってしまったので何も言えなくなってしまった。だが俺はオシャレがよくわからないから誰かにご教授お願いしたい。
さて、誰に頼もうか?
***
「という訳でお願いします」
「デート?」
「違う」
翌日、昼休みに鈴井さんのとこに訪ねて昼飯を食べながら相談する。なんか周りにこっちを見ながら言ってる奴がいるが、睨むとそそくさと教室から出ていった。
ていうか相談する相手失敗したか? 鈴井さんの頭の中も割とピンクだったか。
「失礼な。私は客観的に見てそう思っただけだよ」
「なに? 俺ってそんな心読めやすそうな体質してる?」
「顔に出やすいだけだよ。それで? 自分は乗り気じゃないけどお金を受け取ったからには取り敢えず買い物に行かなきゃいけない、でも自分じゃどういう服装が良いのか分からないから誰かに相談しようとして、男の子に聞くより女の子の方が異性にどういうのを着てきて欲しいか分かるから私に相談してきたんだ」
「一を聞いて十を知る天才?」
そんな事まで言ってないと思うけど、さすが中学からの仲だ。こういうのを以心伝心の仲って言うのかな俺は全然鈴井さんの心分かんないけど。
「まぁ、そういった訳だからちょっとアドバイス欲しい」
「んー、と言ってもこういうのは共通の友達の杏が向いてると思うけど……」
「杏は却下。からかってきそうなのが目に見えてヤダ」
別にデートじゃないけど、そういうのからかってきそう。ある程度のライン引きしてきて来るとは思うけど怠いんだよなそういうの。
「頼むよ鈴井さん。鈴井さんしかいないんだよ。鈴井さんのセンスで俺に似合いそうな服見繕ってくれるだけでいいから」
「……それ自分が何言ってるか分かってる?」
鈴井さんが目を瞑ってこめかみを抑えている。俺なんかまずいこと言った? 周りの生徒もちらちら見てきてるし。
「分かった一時間で一万払う」
「もうそういうアレじゃんいらないよ。……土曜日空いてるから一緒に選ぼ?」
「よっしゃ」
「二度とパーカーとジーンズ着れない体にしてあげる」
「え? 体バラバラにされる?」
「そういう意味じゃないよ」
という訳で買い物に付き合うための、買い物に付き合ってもらうことになった。
***
時は少し遡り
『おっけー』
メッセージを見つめる芳澤すみれ。胡桃の返事を見るとスマホをベッドに置いて柔軟を始める。
「ねーすみれーそっちの箪笥に私の下着入ってなーい?」
「……かすみ。入ってくるならノックしてって言ってるでしょ」
「とんとん失礼しまーす」
「もう」
勝手に部屋に入ってくるかすみを無視してすみれは柔軟を続ける。かすみはすみれの下着が入ってるベッド下の引き出しに近づき……
「……え、デート?」
「ぶっっ⁉ ちょ、スマホ見たの⁉ 変態‼」
突飛のない姉の発言に吹き出しベッドの方へ振り返るとスマホを手に取った姉の姿。すぐさま引ったくり画面をスリープさせるが時すでに遅し。
「いやごめん目に入っただけでさー。で、デートするの?」
「べ、別にデ、デート? とかじゃないし」
「そっかデートか」
「話聞いてた?」
笑顔ですみれの話を聞くかすみ。私は分かってると肩をポンポンと叩く。
「いや本当に違うから付き合ってもらう先輩は別にそんな感じじゃないしあっちもきっとデートじゃないと思ってるし」
「はいはいそうだねー」
「話聞いてる?」
かすみは部屋にやってきた目的を思い出したのか下着が入ってる引き出しを開けて自分の物が混ざってないか探し始める。
「ていうかビックリだよ。すみれが男の人と遊びに行くなんて中学じゃ影も形も無かったのに」
「……かすみの方が凄かっただけだよ。結構告白されてたじゃん」
「全部断ったけどね。新体操に集中したいからごめんなさいって。ていうかメガネ掛けて髪下ろす前はすみれも結構モテてたよ。なんでリボン着けるのやめちゃったの?」
「……それは」
「うわーなにこれ勝負下着?」
「ちょっと何してんの広げないでしまってよ‼」
少し色が派手な下着を見つけまじまじと見るかすみの手から奪い取り奥の方へとしまう。
「穿いてくの?」
「穿くわけないじゃん‼」
「ふーんつまんないの。じゃあ服は露出多め?」
「かすみは私のことなんだと思ってるの? 普通の着てくよ」
「ダメです‼」
かすみは両手をクロスさせバツを作りそのままクローゼットを開けて服を選び始める。
「私が服選んであげる」
「それは死んでも嫌」
「そこまで⁉」
「いや、そのかすみって運動神経良いけどそういうセンスはちょっと……ホラ。例えば料理とか前衛的で……ダメじゃん」
「オブラートに包んだのに最後に落とすのやめてよ」
別に悪くないと思うしと壊滅的なセンスを自覚してない独り言を呟く。
「でもその先輩には嫌われたくないんでしょ?」
「そりゃあ、まぁ……」
「だったらその人に嫌われないように精一杯オシャレしなきゃダメだよ」
「そう、なのかな?」
「そうだよ絶対‼ 私頑張って服選ぶから‼」
「それは絶対嫌……頼れる先輩がいるからその人に聞くよ」
***
「という訳なんです杏先輩」
「デート?」
「違います」
あの親友にしてこの親友あり。同じ返答をする杏。
「まぁ、事情は大体分かったから別に良いけど……」
「「ありがとうございます‼」」
「二人希望?」
頼みこんで来たのはすみれ一人ではなく、隣にはかすみの姿があった。
「申し遅れました私一年の芳澤かすみです。妹のすみれがお世話になってます」
「いやいやそんな畏まらなくたって。あ、私二年の高巻杏ね。よろしく」
「よろしくお願いします。それでよろしければ二人まとめてコーディネートをお願いしたいんですけど」
「任せて。双子コーデとか楽しそうじゃん!」
後輩に頼られてやる気満々の杏。
「では新体操の練習の無い土曜日はどうですか?」
「ん、いいよ! よーしオシャレで悩殺するぞー!」
「「「おー‼」」」
***
という訳でやってきた土曜日。待たせるのは悪いとは思い30分前には待ち合わせ場所に行ったがどうやらすでに鈴井さんが待っていたみたいでこちらの姿を見るなり手を振って歩いてくる。
リブのロングワンピースにジージャンを羽織って……なんというかオシャレだ。ちょっと俺の語彙力じゃ凄いヤバイのでパネェ。
「どうしたの?」
「いや、中学の時そんな格好してたかなーって。ほら打ち上げとか」
「ふふ、可愛い?」
「とっても麗しゅうございます」
「ありがと。まぁもう高校生だからね。それに杏もいるし、少しは服装を気にするようになるって。乙守君はあんまり変わってないみたいだけど」
「変わらないことが美学なので」
俺は今も昔も変わらずパーカーにジーンズ。後は首にチョーカーをつけているだけだ。
「体格は良いから似合ってない訳じゃないんだよね」
「何でも似合うからこそあまり頓着が無いというか。本当に服装のこだわりは無いから」
何でも似合うが故に何でもいいんだ本当に。
「じゃあ私好みに染めれるわけだ」
「お手柔らかにお願いします鈴井さん」
「……ねぇちょっと聞いてみたかったんだけど、杏とか後輩の芳澤さんは下の名前呼びなのに私は苗字?」
「え、いやだってほら、あそこの奴らは特別? というか……」
「ふ~~ん」
わざとらしく拗ねた様に口を尖らせる鈴井さん。
あ~あいじけてしまいました。誰のせいですか? え、俺のせい?
「私は特別じゃないんだー残念だなー」
「今更呼び方変更するの恥ずかしくない?」
「泣いちゃおうかなー」
「……志帆……さん」
「よし行こう乙守君!」
「ちょっと待て」
何事もなかったかのように歩き始めてるので手を掴んで引き留める。
「俺だけ言わせてそれはないでしょ」
「今更呼び方変更するの恥ずかしくない?」
「それさっき俺が言った」
俺にだけ呼ばせておいて自分は免除はちょっと腑に落ちない。
「胡桃……君。これでいい?」
「う、うんそれでフェアです。はい」
急に下の名前で呼ばれると恥ずかしいな。中学からの仲だからいきなり呼ばれるとむず痒くなる。
「じゃあ行こっか」
「あ、はい」
そうしてすず……志帆さんに引きずられながら服屋を見て回ることとなった。
……これいつ手離せばいい?
***
「取り敢えずコレとコレ。あとコレ着てみて」
「はい」
試着室に入れられ鈴井さんに着せ替え人形にさせられる。
「ねぇこれとこれ何が違うの? どっちも黒い上着じゃん」
「生地」
「……わぁー職人みたい。でどう?」
試着室のカーテンを開けて、持ってきたコーディネートを着てみせると、口元を抑えて考え込む。
「何か差したほうがいいか」
「ナイフ持つ?」
「刺す方じゃないよ」
ツッコミを入れつつも差しの説明もないまま服を取りに行く鈴井さん。手に持ってきたのは赤色のジャケット。
「胡桃君、赤好きだったよね」
「差しって差し色のことか。いや目立ちすぎない?」
「いつも無課金アバターみたいな服装してる人からしたらそうかもね」
「おっと、言葉のナイフが飛んできたけど?」
「ごめん。でもこれはアリかも。派手なの好きでしょ?」
試着室の鏡でくるくると回りながら自身の姿を見る。まぁ派手なのは嫌いじゃないしこれでいいか。
「じゃあこれで決定」
「次は二着目だね」
「……まだやるの?」
予想以上に張り切ってる鈴井さんに振り回され、洋服の買い物が終わったのは試着を初めて二時間後だった。
***
一方その頃、芳澤姉妹と杏達は原宿でショッピングをしていた。
「やば、なにこれ。虎の顔がアップしてプリントされてる。ウケる」
「なるほど。これはこれで“アリ”かもしれないですね」
「ナシだよ」
女三人寄れば姦しいということわざがあるが、その語源の例に漏れぬように楽しく服を選んでいた。
「これは可愛いけど男受け悪そうかなー?」
「別に胡桃先輩と出かけるだけなのであんまりそういうの気にしなくても……」
「はぁ~これだからすみれは。我が妹ながら悲しいよ」
「……なに」
やれやれというポーズをしたかすみに少しカチンと来たのか強めの口調で返答する。
「いい? 別にデートじゃなくても、二人きりで出かけるってことはその人と一緒のところを見られるってことなの」
「……? 当たり前じゃん」
「つまり、片方がダサい恰好してたらそれに付き合ってる人もダサいと思われるの。ほらパンツ一丁の変態おじさんの隣を歩きたくないでしょ?」
「例えが極端すぎる」
「それに、折角ならその胡桃先輩に可愛いって思って欲しくない?」
「それは……まぁ……少しは」
「杏先輩見てください。恥じらってるすみれ可愛くないですか?」
「そだねー」
胡桃のことを持ち出され、少し赤面しながら答えるすみれを、かすみは杏に自慢しようとするが、杏は服を選んでいるため超適当に流される。
「すみれの方は清楚系でかすみはカジュアルな方向性にしよっかな」
「ありがとうございます! ファッション番長!」
「番長はヤダな。せめて女王って言って」
謙遜はしない杏。それもその筈ファッション誌のモデルをやっているためセンスは抜群なのだ。
「取り敢えず一通り試そっか」
その後杏と何故かコーディネートされる筈だったかすみに着せ替え人形にさせられ、買い物が終わったのは二時間後だった
***
5/29 日曜日 晴れ
「お、おはようございます先輩」
「……おはよう」
お出かけ当日。お互いに待ち合わせの時間前に到着し何も問題なく買いものに行けばいいはずなのだが。
「きょ、今日はいい天気ですねー」
「……あっ、うん暑いぐらいヤバイ」
「…………」
「…………」
どことなくお互いぎこちない。
(さっきの会話不自然じゃなかったよね? いつも通りだったはず……)
(普段見せてる俺ってあんな感じで返答してたっけ……忘れた)
それもその筈、他の人々から散々デートと揶揄われ、言われる度否定してきたが、それが逆にお互いに意識をさせてしまっていた。
(いつもと同じで……平常心でいかないと……だって……)
(ヤバイ。なんで俺こんなに緊張してんだ? 別に……)
「……じゃあ行くか」
「そ、そうですね」
((デートなんかじゃないのに!))
謎の緊張感に包まれながら二人は歩き出した。