幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#18 チャリで来た

 謎の緊張感に包まれた二人のショッピングを少し遠くから見ている影が二つ。

 

「なんかおかしくない? どっちも」

「緊張してるみたいだね。胡桃君も口数がいつもより少ない」

 

 二人の前日のショッピングに付き合った杏と志帆だった。お互いに明日の行く末が気になり、示し合わせたわけでもなく同じ場所同じ時間でバッタリ出くわし、野次馬根性ですみれと胡桃を尾けていた。ちなみにかすみの方は今日は練習で来れなかった。

 

「取り敢えず気まずそうな雰囲気が流れそうだったら私達が助け船を出してあげよう」

「うんそうだね。……そういえばだけど今日何するどこ行くとかすみれちゃんから聞いて無いの?」

「取り敢えず買い物に付き合ってもらうって言ってただけだから、何買うのかも知らない……あっ、あの店入ってくよ」

 

 すみれと胡桃の二人がメガネ専門店に入って行くのを見て、杏達は隣のブティックからこっそりのぞき始める。

 

「メガネ……すみれちゃん用のメガネかな?」

「いや待って志帆。二人が眺めているのは成人男性向けのメガネ……これはお父さんへのプレゼントと見たね」

「なるほど~。でも確か父の日って6/20だから一か月先だよね。お父さんの誕生日かな? それとも本命の買い物は他にあるのかな」

 

 するとメガネを選んでいる胡桃が今日日見ないであろう、パーティーで掛ける鼻眼鏡を手に取る。

 

「おっ……一発笑いを取って堅苦しい雰囲気を無くす作戦かな?」

「胡桃君ならありうる」

 

 が、手に取っただけで元にあったところに置く。

 

「あれ? いつもなら『やばなにこれ?』とか言って取り敢えず掛けてみるのに。そして取り敢えず何かモノマネでもしそうなのに」

「あーあれは『真面目に選んでいるのにふざけるのはダメでしょ』って考えてるね」

「変に真面目なところが出てるのか……」

「でも見て、最初よりはお互いの顔見て話せてるかも」

 

 お互いに真面目にメガネを選び、意見を交えつつ慎重にこれかそれともこれかと候補を挙げていく。言葉を交わすにつれて距離が最初より近づいている。

 

「うんやっぱり、今はすみれちゃんには真面目に向き合う方が胡桃君には合ってると思う」

「……ねぇ前々から思ってたけどさ、志帆は嫉妬しないの?」

「嫉妬?」

「胡桃と志帆って中学からの仲だけどそれ抜きでも結構仲良いじゃん? 恋愛感情とか無いの?」

 

 志帆はうーんと考え込み、無いよ。と答えた。

 

「胡桃君はどう思ってるのか知らないけど。私はどちらかというと手のかかる弟みたいだなって思ってる」

「そんな可愛らしい存在だと思えないんだけど」

「確かにちょっと怖い雰囲気あるかもだけど、中学はもっと一人ぼっちで……いや多くの人から話掛けられたりはしたんだけどね、嫌われてないしむしろ好かれてた方」

「じゃあ何で一人ぼっちなんて思ったの?」

「……たまにすっごく寂しそうな顔するの。まるでこの世界で自分だけ仲間外れにされてるみたいな……そんな風に見えて勉強教えて欲しいとか言って話し掛けちゃったんだよね。でも話してみると面白いし良い人だし優しいし案外子供っぽいし……なんかほっとけなくなっちゃったんだよね」

「(それはもう好きじゃん)」

「あ、二人共移動するよ」

 

 志帆の話に杏はツッコミたくなったが、メガネを買い終わって店から出ようとしたのを見て、言葉を飲み込み二人の尾行を続ける。

 

 

 ***

 

 

「次はここです」

「アクセサリーショップ?」

 

 胡桃とすみれが次に足を運んだのは煌びやかなアクセサリーショップ。煌びやかと言っても店の前に置いてある物だけで、安いのは五百円から高いのは五万まで、どちらかというと小物が多い店だった。

 

「ここでリボンを買いたいんです」

「リボン? いつも着けてる赤いやつじゃダメなの?」

「前にも言いましたけどあれは姉のかすみとお揃いなんです。今日買うのは色の違うものが欲しいんです」

 

 すみれはあらかじめ買うものが決まっていたようで他の商品には目もくれず、棚に置いてあった黒いリボンを手に取る。

 

「パレスに入ってしまったら色はあまり意味ないんですけど……気分的な問題です。赤いリボンを着けてるとかすみのことが脳裏をよぎるんです」

 

 鏡映しのように同じ顔、同じ色のリボン。だが才能までは同じではなかった。

 

 優秀な姉と比べられ、失望されるのが怖かった。そんな自分から逃げるように姉とは違う姿をとりだした。

 

 比較されるのはもう嫌だ。私は私だと主張するように。だがそうやって逃げ続けても姉の呪縛は纏わりついた。

 

「だからこれは自立と決別の意味です。かすみはかすみで、私は私。あの優秀な芳澤かすみの妹で、それを超えていく芳澤すみれです」

 

 だからもう逃げない。現実を正しく認識し、たとえ傷つくことがあっても前に進む覚悟。

 

 生まれ変わった証のため、すみれは黒いリボンを買いに来たのだった

 

「なるほどね……買うだけなら俺いらなくね?」

「いえ胡桃先輩には私の誓いの見届け人としていてほしかったので」

「それなら蓮の方が良かったんじゃない? リーダーだし」

「あー……別に誰でもよかった訳じゃ無いんですよ。……先輩がいいんです」

「俺が?」

 

 すみれの言葉の意味が理解出来ず、分かりやすくハテナを飛ばす胡桃。

 

「えっとですね、私としては胡桃先輩にすでに二度も助けられていて、恩人なんですよ」

「大袈裟すぎる……別に俺が助けなくても、誰かが助けてただろ。パレスの時だって別に俺と同じ立場に置かれたヤツだったら助けてただろうし」

「……鈍感。確かに胡桃先輩じゃなくても救われたかもしれません、だけど救ってくれたのは胡桃先輩だったんです。……まるでヒーローみたいに助けてくれた先輩は私の中で新しい目標で、憧れです」

「ヒーロー……」

「そんな先輩だからこそ見て欲しいって思うんですよ! 手を差し伸べてくれた人を裏切りたくないです!」

「お、おう」

 

 気持ちが高ぶったすみれに圧される胡桃。

 

「あー……じゃあ、俺がリボン結ぶか? それなら俺がここにいる理由になんとなく納得できると思う」

「それならぜひ、お願いします」

「……適当でいいよな」

 

 胡桃は慣れた手つきで丁寧にすみれの赤い髪を束ね、黒いリボンを着ける。

 

「(あれ。これって大分恥ずかしいことなんじゃない? 家族以外の他人に髪を触られるのなんて全然無いから緊張……)」

「はい終わり」

 

 緊張ですみれの心臓が早鐘を打つ前に、髪を結うのは一瞬で終わった。

 

「どうですか?」

「可愛いと思う」

「かっ⁉ ……ん゛んっ。お世辞でも嬉しいですありがとうございます」

「別にお世辞じゃなくて思ってる事口にしただけだけど」

「あ、あり、ありがとうございます」

 

 

 ***

 

 

「今度はすみれが耳まで赤くして固まっちゃった」

「多分胡桃君の素直に恥ずかしいこと言う攻撃を喰らったね。胡桃君は基本的に思ったこと素直に言うし大体肯定的だし、褒められ慣れてないとダメージもらうよ」

「……もしかして胡桃って中学のときモテてた?」

「修学旅行の時、女子同士お泊り特有の恋バナで話題に出る程度には。大体『胡桃? あれは無いわー』とか『まぁでもいい人ではあるね。対象にはなんないってカンジ』みたいな評価だった」

「それって女子特有の本命の牽制みたいなヤツでしょ。本命の悪口言って嫌わせて手を出さないようにしとくみたいな」

「好きな子は他にいるみたいだから告白してきた人は全員断ったらしいけど」

「へぇー………………………………え?」

しまった……あ、リボン買い終わったよ次どこに行くのかな?」

「いやいやいや、ちょ、ちょっと待って⁉」

 

 爆弾発言を投下しておきながら二人の後を尾けていこうとする志帆の腕を掴んで歩みを止めさせる。

 

「好きな子がいる? 詳しく聞かせて」

「あー……誰にも言わないでね本当に」

 

 志帆は胡桃に心の中で謝りながら、杏に話し始める。

 

「昔好きだった人がいてそれをずっと覚えてるんだって。それだけしか私知らない」

「元カノってこと?」

「そこは適当にはぐらかされたからわかんない。胡桃君っておしゃべりに見えて秘密主義だから」

 

 基本的に自分の事は話したがらない胡桃を知る丁度いい機会かもしれないと思い杏は志帆に問いかける。

 

「……知りたくない? その人のこと」

「胡桃君が話したくなさそうだったから聞かなかったけど、本音を言えば………………気になる」

「だよね? ていうかこのデートの意味がなくなっちゃう」

「デートじゃねぇし。意味はすみれの買い物なんだよ」

「ひっ‼」「きゃあ‼」

 

 コソコソ話していた二人の背後にいつの間にか胡桃が立っており、額には青筋を立てていた。胡桃の後ろには「あはは……」と苦笑いを浮かべるすみれも立っていた。

 

「い、いつからそこに……?」

「俺の昔好きだった人を詮索しようとしたところ……志帆さん?」

「……ごめん。うっかり口滑っちゃって」

「違うの、志帆は悪くないの。私が追求しちゃったから」

「本当にね……」

「志帆⁉」

 

 胡桃の追及から庇おうとしたら背後から刺され、いきなり見捨てられる杏。

 

「陰から面白がって見られてるのいい気分しなかったよ」

「「ごめんなさい」」

「ま、まぁ。お二人共私達が心配だから来て下さった訳ですから……」

 

 尾行されていた件に苦言を呈され、志帆と杏は平謝りする。すみれは別に謝られるほどのことではないと思っているのかすぐにフォローを入れて先輩達の頭を上げさせる。

 

「……じゃあ腹減ったし四人でどっか食べに行くか」

「え? 私達ついていっていいの?」

「いいに決まってるじゃん友達だし。すみれもそれでいい?」

「はいもちろんです!」

「あ、じゃあ私気になってるフレンチあったから行きたい!」

 

 杏がスマホで場所を調べて三人に画面を見せる。

 

「……足りるかな」

「お金のことなら、尾行していたお詫びとして代わりに払うけど」

「いえ、お腹の事情です」

「相変わらずだな」

 

 すみれのお腹の事情以外は問題ないみたいなので、四人でそのフレンチへと向かった。

 

 

 ***

 

 

 その後、ランチタイムが終わっても遊び盛りな高校生の行楽道中は続き……

 

「『俺ら最強マジ卍。みんなズッ友。チャリで来た』……」

「プリクラでホントにそれ書く人初めて見ました」

「ところで杏は……それは……何?」

「え? 怪盗団のマークだけど」

「「「……わぁー。前衛的ー」」」

「でしょ? モデル兼表現派アーティストいけるかな?」

「……杏の絵は死後評価されるタイプの絵だから」

「いやそこまで褒めても何も出ないって! サインいる?」

「一瞬で調子乗ってるとこ悪いけど志帆さん絶対気を使ってるだけだから」

「ダメですよ志帆さん。欠点は甘やかしちゃ取り返しのつかない事になります」

「ゴメンね……杏」

「ひどくない?」

 

 ゲーセンでプリクラを撮り……

 

「花屋か……」

「私母の日にカーネーション渡すの忘れてて……すみませんちょっと待っててください!」

「いいよ。こっちも中で花を見て待ってるから」

「ふーん……結構色んな種類があるな。あ、胡桃(オレ)の苗木」

「胡桃の花言葉は確か『知性』だよ」

「へー志帆、花言葉に詳しいんだ。あ、こっちには(わたし)の花もある」

(あんず)の花言葉は『臆病な愛』『乙女のはにかみ』だね」

「ぱっと出てくるの凄いな。……じゃあこの百合の花言葉は? 俺この花好きなんだよね」

「百合は全般で『純潔』。でも色ごとに花言葉が違うから胡桃君が持ってるオレンジは『愉快』とか『軽率』っていう花言葉が存在するよ」

「……ちなみに黒い百合って花言葉はなに?」

「黒はね――」

「すみませんお待たせしました!! なんのお話されてたんですか?」

「今は志帆の花言葉教室開いてたとこ。ちなみにすみれの花言葉って何?」

「それも色ごとに違うけど、有名なのは『誠実』『謙虚』かな」

「「うわ、それっぽい」」

「……?」

 

 花屋で知識を深めたりと、四人が四人共本来の目的を忘れて楽しんでいた。

 

 

 ***

 

 

「あれ? 私何か忘れてる気がする」

「それだけ胡桃君には隠したいことだってことだよ。次は本屋行くんだよね? そこ右だよ杏」

「あ……うん……うーん。ま、いっか!」

 

 

 ***

 

 

「たーだいまー」

 

 家に帰ってすぐに部屋に行ってベッドに倒れ込む。

 

「疲れた……楽しかったけど」

 

 すみれの買い物に付き合い、その後は志帆さんと杏と合流し、昼食を食べて、ゲーセン行って遊んで、その後三人でショッピングに付き合わされて気付いたら夜になってしまった。

 

 女子の買い物って何であんなに長いの? 買うものが決まってから買い物に行く俺とは根本的に違う……。世の中の女性全員とまでは言わないけどあの三人は絶対に長い人種だ俺には分かる。

 

 あー、やっべ。凄い眠い。ご飯後にしてちょっと寝るか。今後の予定は起きたあと考えるか。

 

「……ぐぅ」

 

 強烈な眠気に襲われ、俺はすぐに意識を手放した。

 

 

 ***

 

 

 暗転。後に明転。

 

 そこは青を基調とした不思議な空間で、俺は椅子に座らされていた。

 

 夢か現か分からない空間。手足が動かず目だけを動かした。

 

 目の前の鼻の長い老人と目が合うと、その老人はゆっくりと話し始めた。

 

「ようこそベルベットルームへ。哀れな駒よ」

 

 




すみれ回はまだ考えてるので今回は控えめに。
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