体は動かない。何かに縛り付けられている訳ではないのに、上から何かに抑えられている圧迫感を感じる。
かろうじて椅子の上で身じろぐことが出来るので、事務机の挟んで向こうにいる男を見る。
「我が目を逃れ、随分と勝手をしているな」
コイツの名はイゴール……に扮しているヤルダバオトだ。本物のイゴールはコイツに封印された。
「器を手に入れて浮かれているのか? だが所詮は人間だ。必ずや私の支配下に置かれる」
コイツの目的は自らが人間を管理するための存在になること。
だからコイツはイゴールにゲームを持ち掛けた。
それぞれトリックスターとして選んだ者たちを使って戦わせ合いながら、大衆の本意を見極めるためのゲーム。
ヤルダバオトが選んだのが明智吾郎。明智が勝てば人間の世界を【壊して作り直す】
そしてイゴールに選ばれる筈だったのが主人公の雨宮蓮。蓮が勝てば人間の世界を【残す】
だがヤルダバオトが仕掛けてきたのは理不尽なゲームだった。
ベルベットルームは支配され、看守であるラヴェンツァは引き裂かれ記憶を失った。主であるイゴールも封印されてほぼ詰みの状態からのスタートだ。
卑怯かつ姑息な悪神。それが俺の印象だ。
「忠告をしておこう」
「……」
忠告? と声を出そうとしたが喋れない。プレッシャー云々ではなくこの空間がそういう風に設定してあるみたいだ。
「私が統制する世界に貴様の居場所など存在しない。この世界に貴様は一片たりとも入り込ません」
なんで俺こんなに嫌われてんだよ。
「貴様は存続させたいのだろう。愚かな人間蔓延るこの世界を。だが自ら盤面に上がってきたのが悪手だ。貴様に勝ち目はない」
ラスボスが俺を呼び出して何を言うかと思えば煽りかよ。常識もクソも無いな。神だから関係無いのか?
「盤面から降りないなら好きなだけ足掻くといい。貴様は私がいる限り何も出来ん。私の掌の上で無様に醜くもがくといい。哀れなトリックスターよ」
そう言って部屋にあるベルが鳴り始める。どうやらこの時間の終わりの合図みたいだ。
俺の意識は遠のき始め――
「――さっきから黙って聞いてりゃ……正確には黙らされて聞いてりゃよぉ……!」
意識は覚醒し、俺の怒りに呼応して、仮面が出現する。
喋れない様にして一方的に煽ってきて言い逃げとか許すかよ。なにより言われっぱなしなのが許せない。
「言いたい事だけ言って逃げるのが得意だな。レスバが強いだけの神様よぉ。本当は俺にビビってるから釘を刺しに来たんだろうが」
怪盗団の衣装を身に纏い立ち上がる。先程まで感じていた拘束は感じない。
「人類を愛し過ぎたお前に教えてやるよ」
事務机に飛び乗り、ヤルダバオトと目線を合せるようにヤンキー座りで屈む。
「お前の上から目線の決めつけた救いなんていらねぇんだよ。救い方は俺が決める」
目の前の悪神は面白そうに眼を細めた。
「ならば私はそれ相応の試練をお前に課そう」
「上等だ。全部捻じ伏せてお前を潰してやる」
「宣戦布告か」
「勝利宣言だ」
「期待せずに待っていよう」
ベルの音が大きくなり今度こそ意識が遠のき………………暗転した。
***
「……貴様の
***
「寝た気がしねぇ……」
起きたら朝になってた。昨日母親が作ってくれた夕飯を朝食として食べる。昨日の夕飯は健康志向の母親らしい野菜多めの食卓だったらしく、朝でも軽く食べられた。
「今日は、清掃活動日か」
今日は5/30。清掃活動イベントだ。鴨志田の件でイメージダウンした秀尽高校の苦肉の策のボランティアらしいが、そんな事生徒には知ったこっちゃなく、前日から不平不満を言う生徒が教室のあちらこちらから聞こえてきた覚えがある。
「ごちそうさまでした」
正直俺はこういう学内行事は好きな方だ。なぜなら授業を受けなくて済むから。かつ早めに帰っても怒られないから。
ここで起きそうな重要なイベントとか無いし。あると言えば主人公が【信念】のコープを結ぶだけだけど、もうすみれは仲間になってるから関係無いし。今日は羽を伸ばして休むか。
「おはよう」
「おはよー……ってあんた昨日帰ってきてすぐに寝たから聞けなかったけどどうだったの?」
起きてきた母親に挨拶すると、寝ぼけまなこだった母親がすぐに覚醒し、昨日の出来事について問い詰めてきた。
「特に何もないけど」
「そんな訳ないじゃない。何か一つぐらいはあったでしょ」
「あー、神に啖呵切ったことぐらい?」
「……宗教関係の子?」
「あーうん。そういうこと。じゃあいってきます」
昨日の出来事だから間違ってはいないだろ。すみれがとんでもない誤解を受けた気がするが訂正したらしたで余計追求されそうなので、そういうことにしといて逃げるように家を出た。ゴメンすみれ、今度一緒に教会に懺悔しに行こう。
***
「それでは各班に分かれて活動を開始してください」
井の頭公園につくと生徒会長の指示のもと班に分かれ清掃活動を開始する。ちなみに班の構成は学校側が適当に決めた男女四人組だ。
杏はともかく、蓮や竜司は鴨志田の件で色々誤解を受けて居心地が悪いだろう。後で遊びに行ってやろうとか思っていたら。
「すみません。ズバリ聞きますが乙守さんは怪盗団なんですか?」
「違います」
結構大きい学校で生徒数も多い中から四人適当に選んだとなれば顔も知らない生徒と組まされる可能性が高い。だから俺が所属する班もそうだと思ったが、ゴシップ大好き新聞部と組まされてしまった。他二人は一年らしき男女が二人。助け船は期待できそうにない。
あの神が言ってた試練ってこれ? 悪神はこれだから……
「では、あのとき被害者の鈴井さんの手を取って学校から出ていったのはなぜですか?」
「鴨志田がやってる事を知って、取り敢えず守らないとって思ったから」
「何故鈴井さん個人を救ったんですか?」
「友達だから」
さっきから一つゴミを拾うたびに、二、三個質問が飛んでくる。学校じゃ気付かれる前に距離を取って避けてたけどこうなるとは予想外だった。
「友達を救いたいその一心で先生に反抗するのは敬意を覚えます。ではその後鴨志田先生が改心したのは偶然だったと?」
「そそ、偶然」
「なるほど、では同じ時期ぐらいから例の転校生と絡み始めたのも偶然ですか? また、何故接触しようと思ったんですか?」
「偶然」
「……単刀直入に聞きますが偶然にしては出来過ぎだとは思いませんか?」
怠いなこの人。ゲームでもコープを結んでない一般人が唯一主人公の正体に気付いた一人でもあったから妙に勘が鋭い。
「まぁ、タイミングが良すぎだとは思ったけどな。でも一つ気になる事はあるけど」
「ぜひお聞かせいただきたいです」
「知りたがりの新聞部の耳にも届いてると思うけどさ、鴨志田の被害者って結構いるんだよ。でもさそいつらは何で言わんかったんだろうな?」
「それは鴨志田先生が学校を辞めさせられる力を持ってたから黙らざるを得なかったからだと思います」
「一個人が学校を支配する力を持ってると思うのかよ?」
「……」
語気を強くして問い返すと、彼女は少し動揺して口を閉ざす。
「俺が思うにさ。上から下まで鴨志田を利用したいヤツが悪行を隠蔽してたと思うんだよね」
「……何が言いたいの」
先程までの取材の態度とは一変して、警戒して敬語から普段の通りの口調になる。
「上は先生。下は生徒まで。特に鴨志田に気に入られることで得する連中。バレー部の奴らは外すとして、生徒の情報が握りやすい連中……新聞部とかな」
「私はそんなことしない」
はい知ってます。この人は最後まで平等で差別をしない。ゲームを通して学校では他の生徒から陰口ばっかりだったが、この人だけは対等に接してくれたからな。正直癒しキャラだけど、今は鬱陶しい。ちょっと距離をとってもらおう。
「真実を知ってそれを記事にしたいだけ」
「へぇ? じゃあ真実から見て見ぬふりしてたら記事にしなくていいから楽そうだな。それなら見捨てるのにも罪悪感は無さそうだ」
「はぁ?」
さすがにこの言い分は頭に来たようで、額に青筋を浮かべている。俺達を除いた二人の班員は、不穏な空気を感じ取ったのか止めに入ろうとする女子生徒と、見て見ぬふりをして距離を取っている男子生徒が距離を取っていた。
まぁ、さっきの発言は鈴井さんを一年間放置した俺にもブーメラン刺さってんだけど。
「干渉したらその悪行に嫌でも加担するか退学に迫られるかの二択だもんな? 見て見ぬふりが一番賢い選択だよ」
「……馬鹿にしないでよ。君は何も知らなかったくせに私に偉そうに説教しないでよ」
「はは。説教されてるっていう自覚あんの?」
「………………」
「………………」
「はいごめんね! ちょっといいかな⁉」
口論がヒートアップして無言の睨み合いが続き、一触即発になりそうになったところに丸喜先生が豚汁を持って間に入ってきた。おお
「豚汁できたから味見して欲しいんだけどどう?」
「……いや私は」
「はいこれ割りばしね」
両手に持った豚汁を俺と新聞部に無理矢理押し付けてくる。「食べて、食べて」とジェスチャーしてくるので遠慮して頂く。豚汁に浮かんでいる里芋を口に運ぶ。
こ、これは……‼
「「まっっっず」」
新聞部の人と同じ感想が口から出ていた。里芋はまだ中まで熱が通っていなくて半生みたいなものだった。固いし味も染み込んでない。
「あ、あれ失敗かな~?」
「せ、先生。人の心を汲み取るのは上手なのに、料理は下手なんですか~?」
「そ、そうみたいだね~灰汁はうまく汲み取れたのにね~」
「「あっはっは……」」
先生の白々しい演技の意図を汲み取ったのか、先程から言い合いを止めようとおろおろしてた女子班員が猿芝居に乗って場を和ませようとする。
「いやそんな上手くなくないすか?」
そんな二人の頑張りをもう一人の班員が空気を読まずにぶち壊してくる。微妙な顔をした丸喜先生と班員二人を細目で見ながら汁を飲む。……汁も水っぽいなコレ。
「……ご馳走様でした」
んじゃ厚意を無駄にしないためにも収拾つけるか。丸喜先生に空のトレーを押し付けた後、新聞部の人にゴメンと言って頭を下げる。
「正直しつこく聞いてきたのがうざったくてイラついて喧嘩腰になった、ゴメン」
「いや、私こそごめんなさい。あなたも被害者なのにデリカシーの無い質問をして……プライバシーの侵害でした」
「じゃあ二人共謝ったから、もう二人共悪くないってことでめでたしだね」
先生は俺達の言い争いがひとまず収まったのに安堵して肩をなで下ろした。
「先生~。まだできてない豚汁持って何してんの~?」
「あ、ゴメンすぐ戻るよ」
じゃあ仲良くね。と言って丸喜先生は調理場へと戻っていく。てかまだ未完成だったのかよ。
「未完成の豚汁を振る舞う心理カウンセラー……“アリ”かな」
「ねぇよ」
「冗談だよ。小見出しにも使えない」
ふふ。と笑う新聞部の表情からはもう怒りは見られない。
「あの。俺里芋食えねーんですけど、どうしたらいいっすか?」
「泥水でも啜ってろ」
「酷くねーすか?」
***
清掃活動が終わり、昼食の豚汁を片手に一人ベンチに座り汁を啜る。
「沁みるわ……」
先程丸喜先生が持ってきた未完成の豚汁ではなく、ちゃんと調理されたもので、全然食べれる。味があるって素敵。
「やぁ。隣いいかな?」
「丸喜先生。どうぞ」
丸喜先生は、空いてる俺の隣に座って豚汁を食べ始める。
「先生さっきはありがとうございました」
「なんのこと?」
「さっきピリピリした空気を見かねて作りかけの豚汁持ってきてくれましたよね」
「あー……バレちゃうかそりゃ」
「演技力は磨いた方がいいですよ。世渡りしやすい」
嘘を吐くという分かりやすいものだけでなく、相手に感情を上手く伝えるという演技も社会には必要とされる。愛想がいい奴が先生に気に入られやすいってのもそれだ。
「雑談しに来たんですか? 怪盗団絡みのネタは無いですよ」
「いや今度は僕から提供しようと思って。鴨志田先生の改心と怪盗団の関係の話。いいかな? 気分が悪いかもしれないけど……」
「先生なら別にいいですよ。どうぞ」
では。と言って姿勢を正して講義を教えるように話し始める。
「前は鴨志田先生の改心は自発的なものではなく、第三者による介入の可能性が高いって話し合ったよね。今度はその改心の方法について僕なりについて考察してみたんだ」
「……ふーん」
「君は『ペルソナ』って知ってるかな?」
「んぐっ!?」
「だ、大丈夫かい?」
「……大丈夫です。むせただけなので」
何故それを? もう既に先生はあの認知世界のことに気が付いているのか? それはそれで好都合っちゃ好都合だけど。
「心理学者のユングが提唱した概念でね。自己の外的側面のことを言うんだ」
「ああ、そっちの……」
心理学用語の方か。元は仮面って言う意味からも取ってるんだっけか。
「そのペルソナは鴨志田と何が関係してるんですか?」
「改心した瞬間さ。僕は直接見て無かったけど、聞いた話によると人が変わったかのように謝罪し始めたんだろう? そこから考察して鴨志田先生の中には良心ってものが残ってたんじゃないかな?」
「いや無いでしょ」
即答しちゃった。パレスで成仏した瞬間は“それっぽかった”らしいけど。あるとしてもミリぐらいでしょ。
「良心があったと仮定して。彼はその良心を痛めないように悪役の
「被るメリットは……自分の利益のためか」
そう言われれば一理あるのか? まぁ確かに最初から悪い奴なんていないから鴨志田もどっかで間違えたんだろうな。それを知ったところで嫌いだけど。
「じゃあ怪盗団はその僅かに残った良心を増幅させたってことですか?」
「そこだよね。僕の考えは逆だと思う」
「逆?」
「悪い仮面を引っぺがして壊したのさ。そしたら鴨志田先生は良心しかなくなるだろう?」
鋭いな。俺達はオタカラを盗んで歪んだ欲望を取り除く。丸喜先生が言ったことはキーワードは違えど俺達がパレスでやってることと的中している。
「……という感じに考えてみたんだけどどう思う?」
「……理論が合ってると仮定しましょう。それをする手段が不明なのも目を瞑るとして出てくる問題があるでしょう」
「え?」
「動機と標的ですよ。怪盗団はなぜ鴨志田を狙ったんでしょうか?」
勘付くのが早すぎる。だけど好機だ。ここで俺に興味を持たせろ。
「それは悪い事を止めようとして……」
「やりようは他にあるでしょう。警察を呼ぶとか児相に相談するとか。……怪盗団は『改心』しか手段を取れなかった。もしくは『改心』出来る相手を探していたとか?」
「『改心』の相手?」
「俺、似てる事件に心当たりがあるんです。最近多発している『精神暴走事件』って知ってます?」
「知ってるよ。もしかしてその一連の騒動と『改心』は全て怪盗団の仕業だと?」
「
それを聞いた丸喜先生は口を抑えながら考え込み始める。
「……方向性は違えど突発的に精神を変異させる。確かに似ているが何故手段と結果が違う? ……ペルソナの有無? 大きすぎるペルソナは解離性人格障害として結び付けられるから怪盗団の手段はそこで分岐しているのか? 未熟なペルソナは精神暴走へ、鴨志田先生のようなペルソナが大きい人物は改心という手段に。であるならば何故そんな事を? 『改心』が出来るなら全てそのようにすれば………………いや出来ないのか! もしや『精神暴走』は『改心』の失敗か? いやだけど標的が無差別すぎるし、それなら今更何故鴨志田先生を……?」
何やら怪しげなことをブツブツと言っている。
「……気になる」
そりゃそうだろう。目の前に怪盗団がいるしその手段を聞きたいだろう。だけど聞けない。そのことを聞いたら俺は遠ざかってしまうと思っているから。先生は論文を完成させるために俺達が怪盗団である事に気づいていないフリをして近づくしかない。
だが俺のガードは緩めたぞ。
「じゃあ俺はこの辺で帰りまーす。お疲れ様でした」
「あ、うんお疲れ様。気を付けて帰ってね」
取り敢えず先生に俺の正体はバレてはいるが、今は自らバラすタイミングではない。
帰路に着きながら情報を整える。まず先生が今把握していること。
・俺達が怪盗団である事はバレている。
・改心の方法はほぼ合っている。
結構決定的なことだが俺達の目的についてはまだ把握できていない。
俺達の目的は善か悪か。今さっき先生にはその思考の材料をばら撒いてきた。まぁほぼブラフだが。
だがこれで先生は俺と接触して詳しく聞きたくなるはずだ。先生は蓮と俺以外の怪盗団メンバーには接点がほぼない。いきなり『改心』の話を持ち掛けたら警戒されるのは目に見えて分かってるから。先生は俺か蓮の二人から聞き出さなくてはならなくなったが、それなら口が軽い乙守胡桃から情報を聞き出そうとするのが楽なはずだ。
次、会話するのは斑目が記者会見開いてからでいっか。
***
5/31 火曜日 曇り
メメントスの敵は天候により変化する。
晴れは影響なし。雨は敵が乱入してきやすい。ヒートアイランド時は炎上していることが多いし、寒波は凍結していることがある。
今日は朝の天気予報で花粉注意報が出ていた。花粉の日は敵が居眠りしてる事がある。つまり絶好の狩り日。学校が終わり今日は怪盗活動はないそうなので放課後一人でメメントスに向かう。
周囲を確認し後を尾けられていないことを確認するとメメントスに入る。今日はエリア7まで行って帰るかと思って階段を下りホームにでると思わぬ人間が立っていた。
「来たか」
影は二つ。モルガナと蓮がホームの前で立っていた。
「奇遇じゃんどうしたの?」
「……一応ルール違反なんだが」
「怪盗団のルールは全員一致の場合のみターゲットを決め改心を行うってことだろ? 俺は別に改心は行ってないしメメントスに蔓延るシャドウを倒してるだけ」
そう言った蓮は少しご立腹のようだ。
「なら一人で戦闘を行うのは危険だからやめろ」
「それは一人でメメントスに潜るのはやめろってこと?」
「ああ」
参ったなそれは困る。最終決戦に怪盗団と戦うことになると考えると、こいつらと同等の強さじゃ勝てっこない。なんせ怪盗団は全員で九人いるから束でかかって来られたら困る。
俺だけこっそりレベリングしたいんだけども……。
「分かった分かった。やめるよ。今後は一人で来ない。じゃあ今日はもう帰るよ」
仕方ない。今度バレないようにこっそり来よう。
「おっと……そうはいかないぜ」
今日は素直に言う事を聞いて帰ろうとしたら、モルガナカーに行く手を塞がれた。
「あー………………何の真似?」
「今日が一回目じゃないだろ胡桃」
「まぁ、二、三回目ぐらいだけど?」
「いやもっとだ。目撃者がいる」
何回も潜ってることばれてーら。何で知ってんだよ。つーか目撃者って誰だよここには誰もいない………………ベルベットルームの奴らか。
「胡桃がすぐに納得するとは思わない。一方的に条件を出されてはいわかりましたって言う事を聞く人間じゃないことはわかる」
だから。一区切りしてナイフをこちらに差し向ける。
「――だから戦おう。ここで胡桃が勝ったら今後も一人でメメントスに潜ってもいい。だが俺が勝ったらもう一人で戦闘を行うのはやめろ」
「パスするよ。別にそんなことしなくても一人で戦闘を行ったりしないって」
「それも嘘だろ? 後でこっそりメメントスに入るだろう胡桃は」
「俺ってそんな嘘吐くように見える?」
「さっき言った」
うーん怠いな。ここであんまり怪しまれたくないし、素直に撤退したいんだけど。
「俺はさ、折りに来たんだよ胡桃。その傲慢さからくる強さを。胡桃は強いのは理解してる。だからこそ戦いたいのも。だけどそれはいつか破滅に繋がる」
「そんなバカみたいな自滅しないって」
「違う。自滅じゃなくて仲間を庇って死ぬんだよ。もしくは庇われて胡桃以外の仲間が死ぬ。胡桃……戦闘で俺達のこと信じた事ないだろ? だから一人で無茶をする。鴨志田の時は大怪我だったし、斑目の時だって止めなきゃ自爆してただろ。それは自分が一番強いって思ってるからだろ? 『自分が無理を通せば仲間は守れる』って」
「………………」
「俺は怪盗団のリーダーだ。仲間の命に責任を持たなきゃいけないし俺だって全員守りたい。そして胡桃……お前も“仲間”だ」
あぁクソ。あの神が言ってた試練ってこれの事かよ。
「……俺が強いことが分かったんならモルガナ以外にも連れてくりゃ良かっただろ」
「モルガナは戦闘が終わった後の回復のために来させた」
「まさか俺とお前の
「当たり前だろ。これは俺の強さを胡桃に示すための戦いでもあるからな。胡桃より強かったら俺のこと頼ってくれるだろ」
蓮は挑発するように笑いながら啖呵を切る。
「だから――戦えよ。俺の方が強いってこと証明してやる」
「勝手で傲慢だな。誰に似たんだよ?」
「自覚がないなら後で教えてやる」
「はは……――乗ってやるよその勝負」
腹を括れ。ここまで煽られちゃ引きたくなくなった。
「でも仲間を呼ばなくて正解だったな蓮。リーダーが負ける姿は誰も見たくないだろうからな」
「その挑発も勉強させてもらうよ胡桃。足元に転がってるお前を見ながらな」
お互い武器を構えつつ仮面に手を伸ばした。
臨戦態勢。ゴングは要らない。
「「ペルソナッ‼」」
互いの反逆の意志をぶつけ合う音がメメントスに響いた。