幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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戦闘不能と死は別だと考えてます。




#20 なにからなにまで計算づくだぜーッ!

「くっ……!」

 

 お互いのペルソナがスキルを発動しぶつかり合う。だが相殺はされず、火力で押し切ったのは胡桃の方だった。

 

 破壊の余波で煙が舞い、視界が不良。お互いの位置が把握できない状態となった。

 

(さてどう来る……?)

 

 お互いに煙が晴れるまで膠着状態。だが槍を構え待ち構える胡桃の頬に掠る銃弾。出どころは煙の向こう側。

 

(……威嚇射撃か? この煙の中で当たるわけないだろ。待ってりゃすぐ晴れるのに焦りやがったな)

 

 銃弾が飛んできた場所を警戒しつつ、距離をとろうとすると、再度煙から飛び出してくる。だが今度は銃弾ではなく球体だった。

 

 投げられたと思わしき球体は胡桃の槍に弾かれ床に落ちると煙を吐いて爆発した。

 

(ドロン玉⁉ こういう使い方じゃねぇだろうが!)

 

 ドロン玉は通常戦闘から逃げるために使う煙幕だ。蓮はそれを胡桃の視界を塞ぐために使った。

 

(だが煙が出てるってことはあいつも正確に銃弾を当てられないはず)

 

 そんな思惑を打ち消すかのように背後から氷塊が襲い掛かり、ダウンを取られる。

 

「うっ……」

 

 ダウンさせられながらも背後を振り返ると視界は蓮の脚を捉え、そのまま蹴り抜かれた。

 

「……ってぇなぁ‼」

 

 何とか持ちこたえ荒々しく槍を振り返すも、すでに蓮は目の前から消えており、空を切った。

 

 ドロン玉の煙が晴れると、それとはまた別に胡桃を囲むように煙幕が張られていた。

 

(炙り出してやるよ)

 

 煙の中からカラン! という金属が擦れる音。

 

 胡桃は仮面に手を掛けペルソナを呼び出す。

 

「アステリオス!」

 

 マハラギダインを物音がした方向に放つ。炎の嵐で煙が晴ると、そこには蓮の姿は無く、ただナイフが転がっていただけだった。

 

 デコイだと気づいた時にはもう遅く。背後から氷塊が襲い掛かり、先程と同じくもう一度顔面に蹴りを入れられる。

 

 今度は胡桃は槍を振り返さず距離を取った。

 

 蓮はすぐさま銃を取り出し引き金を引く。接近していた敵に当てるのは造作もなく、見事胡桃の右肩に着弾した。

 

「……容赦ねぇなオイ」

 

 所詮はモデルガンだが、この世界では人を傷つける道具へと変わる。本物の銃弾ではないにしろ威力は十分。胡桃の右肩からは僅かに血が出ていた。

 

(当たっても重傷じゃないが、体全体に響くな。肩が衝撃でビリビリしてる)

 

 煙幕は再度張られており、蓮の姿は見えない。胡桃は右肩を抑え、深呼吸を始めた。

 

(煙幕からのヒットアンドアウェイか……それに上手く使()()()()()

 

 先程のペルソナによる攻撃をデコイで躱され、SPを消費させられた。大技しか持たない胡桃にとって手痛いミスだ。

 

(マハラギダインは残り三、四回だな。HPを消費するギガントマキアは回復してくれるやつがいないタイマンじゃリスクが高すぎる。かといって回復アイテムを使わせてくれる隙をくれるかと言ったらそれは無さそうだ。……面倒臭いな)

 

 思考で足を止める胡桃。

 

「………………」

 

 攻撃する絶好のチャンスだが、煙の中で足音を立てず蓮は出方を伺っていた。

 

(作戦に気付かれたか……? だがやることは変わらない。胡桃にもう一度ペルソナを誘発させて攻撃を叩き込む)

 

 こちらから仕掛けるとカウンターさせられる恐れがあるため、蓮が狙っているのは攻撃後の隙。

 

(次で仕留める!)

 

 先程回収したナイフをもう一度煙幕の中で放り投げ、胡桃の攻撃を誘発させる。

 

 狙い通りにナイフに向かってペルソナを使って攻撃した胡桃の背後をとり、蓮もペルソナを出現させる。

 

 現れるはスイキ。繰り出すはブフーラ。胡桃は氷結属性を持つ攻撃でダウンを取られ、蓮は近寄って攻撃するのではなくもう一度ブフーラを放つ。

 

 胡桃の背後に出ていたアステリオスの姿は消え、胡桃自身も動いている気配はない。

 

「勝負あった。とでも思ったか?」

 

 スナイパーライフルを上に掲げそのまま引き金を引いた。俺はまだ負けてないと叫ぶように。

 

「おーおーそのまま煙幕の中にずっと隠れてろ。俺はここにいるぞ」

 

 煙幕の中にすぐに身を隠した蓮を煽るように、胡桃はもう一度ライフルを天井に向けて撃つ。

 

「……っ」

 

 胡桃との一騎打ちはきっと一筋縄ではいかないとは想定し、蓮は胡桃を倒すために道具を作成し、作戦を立ててこの勝負に臨んだ。

 

 だがその作戦を覆すような想定外が一つ。

 

(こんなにタフだったのか……っ)

 

 胡桃のポテンシャルを見誤ったこと。現に弱点属性の攻撃を四度叩き込まれ、銃弾を喰らっても、それを気にすることなくピンピンしている。

 

 だがそれもその筈、胡桃は怪盗団の前で全力を出したことはあるものの、一度も本気で戦ったことは無い。

 

 本来、胡桃の怪盗団での戦闘の役割は三つ。

・スナイパーライフルによる援護射撃。

・ピンチになった際に胡桃のペルソナによる状況の打開。

・強敵のシャドウに対して、隙を見つけ大技で叩き、詰める。

 

 特に後者二つは彼のペルソナの燃費から来ている問題で、回復しないと数発しか打てないが威力が抜群の彼にしかできない役割。

 

 考えたオリジナル技である『赤・灼・爆・拳』もHPとSPを大幅に消費するため、一撃必殺のような技だが、胡桃自身も倒れて戦闘終了となる。

 

 基本的に仲間のカバーと、ピンチヒッターで敵諸共自爆するような役割。雑魚戦での出番はほとんどない。ボス戦も仲間の力を信じて戦っている。

 

 胡桃はまだ、蓮達に底を見せたことが無い。

 

「この小細工はいつまで続くんだ?」

 

 故に蓮は推し量ることが出来なかった。

 

「俺はいつまでも続けられるぜ。何回でも攻撃を受け続けてやる。だがお前は道具の限界があるだろ?」

 

 彼の体力の高さも。彼の本来の戦い方も。

 

「道具が切れ、ペルソナも枯れたとき、お前を完膚なきまでにぶっ潰してやる」

 

 彼が敵になったときの恐ろしさも。

 

(どうする……?)

 

 蓮は思考を巡らす。手元には煙幕を張る道具を持っているが数はあと僅か。それを使いきっても胡桃を倒せないと判断し懐にしまった。

 

(……賭けだが……やれるか?)

 

 蓮は腹を括ると煙幕から飛び出し、ナイフを拾い胡桃に突撃した。

 

「そっちの方が好みだよ」

 

 お互いペルソナは使わず、ナイフと槍を交え戦闘する。

 

「何故そこまでして強くなろうとする?」

「こんな力を持ったら振るいたくなるだ、ろっ!」

 

 蓮の隙を突いてナイフを叩き落とし、蹴り飛ばしてナイフは床に転がっていく。だがやり返すように、蓮はワイヤーを使って槍に括り付け、そのまま器用に投げ飛ばしてメメントスの壁に刺さった。

 

 武器を無くしたお互いが次に繰り出す攻撃は、――拳。

 

「ふっ……!」

「おらっ……!」

 

 一瞬。拳は交わり、お互いが紙一重で躱した後に示し合わしたように一歩下がる。

 

 一歩踏み出したら拳が入る距離。武器を取りに行くよりも先に、銃を取り出すより先に拳が飛んでくる。

 

 その距離を先に崩したのは蓮だった。前へと出て右ストレートを繰り出す。それを胡桃は頭を後ろに引くことで既で躱す。

 

 胡桃はすぐさまカウンターで拳を構えるも、ジャブが飛んできて攻撃を中断し両腕を使ってガードする。だが勢い全てを殺すことが出来ず上腕が弾かれた。胸部ががら空きだ。

 

(……ここだ)

 

 隙間を縫うように飛ぶ捻りを加えた右拳は、遠心力を纏い膨大なエネルギーを生む。

 

「……がふっ!」

 

 肺から空気が抜け、口に胃酸が上る。胡桃は思わず唾液を吐き捨て距離をとる。

 

「何、今の? お前ボクシングでもやってたの?」

「竜司とジムに行ったときにお遊びでコークスクリュー練習してたらなんかできた」

「……今度混ぜろや」

 

 呼吸を整え、今度は胡桃が距離を詰めていく。蓮の間合いに入ると同時にがら空きの顔面に拳が飛んできた。

 

 ガードは無い。そして防ぐ気も無い。

 

「……痛って」

 

 胡桃は頭突きで受けた。拳に衝撃が伝播した蓮は思わず体勢を立て直そうとするが、足を踏まれその場に縫い付けられる。

 

「捕まえた」

「……ぐっ!」

 

 フォームも何もないただ力任せの一撃だが、蓮の意識を揺らがせるには十分すぎた。

 

 膝をつく蓮に追撃を喰らわせる。蓮は朦朧とする頭を回し拳銃を取り出し、引き金を引いた。

 

「……当て勘も良いのかよ」

 

 銃からはカチリと音がして残弾が無くなったことを知らせていた。残った弾丸は全て着弾したものの胡桃を倒すにはまだ遠い。

 

ペル……ソナ

「……もう終わりだな」

 

 ふらふらと立ち上がる蓮を見て、トドメをさすためにアステリオスを呼び出す。

 

「ストレス発散にはなったよ。ありがとな」

 

 そうして荒ぶる雄牛の咆哮が響き渡り……

 

 胡桃が力なく地面に倒れた。

 

 

 ***

 

 

「……もしかして俺負けた?」

「起きたか」

 

 目が覚めると知ってる天井だった。メメントスの赤黒い色が目に悪い。

 

 身体を起こすとすでにモルガナの治療を終わっているらしく、体に痛みは無かった。

 

「蓮……最後何した」

「こいつを使った」

 

 蓮は仮面に触れると一体のペルソナを呼び出した。『イシス』。確か祝福系の攻撃が得意なペルソナだったはずだ。

 

「ハマオン……即死系か」

「ご名答」

 

 一定確率で対象を即死させるスキル『ハマ系』もしくは『ムド系』。体力が残っている俺を一撃で殺せるのはそれしかない。

 

「そいつ持ってんなら何で最初から使わねーんだよ連打してたら勝てたろ」

「確率で勝って、それで強いって言えるか?」

「運も実力の内って言うだろ」

「やれることをやって最後に残るのが運なんだ。最初から運に頼るのはただのギャンブルだ」

 

 まぁ、一理あるな。

 

「じゃあ俺はこれでメメントスに一人で潜れなくなったわけだ」

「いや……それについては不問にしよう」

「は?」

「オイ! 話が違うぜ!」

 

 俺だけではなく、近くにいたモルガナも蓮の条件の変更は急の事で驚いていた。

 

「……ゴメン胡桃。さっき胡桃に俺達のことを信じたことないって言ったが、俺も胡桃の強さを信じきれてなかった。正直ここまで強いと思ってなかった」

「……正直お前の気持ちは分からんでもないよ。こんな危険な活動してるリーダーで、仲間の命を預かってる身だもんな。勝手な行動するヤツが居たらたまらない」

 

 心配されないように、今度からはバレないようにするよ。

 

「そういえば一つ聞きたかったんだけどさ、あの煙の中どうやって俺の位置を把握してたんだ?」

「ああコレ」

 

 と言って取り出したのは銃に取り付けるスコープだった。

 

「サーマルスコープ。店長が言うには熱を検知して視覚化するやつ」

「拳銃に取り付ければ良かったじゃん」

「いやこれはピストルに取り付けるタイプじゃなくてライフルに取り付けるようだから。だからこれ」

 

 そんな重要なものを俺に押し付けてくる。

 

「これで射撃の精度上がるだろ」

「俺最近は外してねぇから!」

「祐介の初陣のとき、外したけど『ステイ』とか言って誤魔化してただろ」

「あーあー聞こえない聞こえない」

 

 何でバレてんだよ。

 

「俺も聞きたかったんだが、さっきの勝負のとき何で『赤・灼・爆・拳』使わなったんだ?」

「あんな自爆技タイマンで使う訳ないじゃん。使う時は周りに仲間がいるときだけ。避けられたらその時点でほぼ負け確定だからな」

「ちゃんと考えてるんだな……さっきの不問の話。条件がある。一人でメメントスに潜るときは俺に連絡をとること、そしてその日の0時までにもう一度無事の連絡を寄越すこと」

「それだけ?」

「……信じるから、胡桃の強さ。一人でくたばるような奴じゃないって」

 

 連絡が無かったら俺が直々にメメントスに向かうから。と俺の敗北条件を緩くしてくれた。

 

「じゃあ俺もメメントスに潜るのは出来るだけ控える」

「そこで曖昧にするのが胡桃の狡いとこだよ」

 

 仕方ないだろ俺は俺でお前達に勝たなきゃいけないんだから。蓮相手にここまで苦戦してると最終決戦に勝てるか怪しい。丸喜先生と一緒に戦っても勝率は五分あるか怪しいな……。俺が蓮とタイマンしてる隙に丸喜先生は他の怪盗団をやっつけてくれたらワンチャンあるか?

 

「おい」

「あでっ」

 

 他に策はあるかと考えてたら額にチョップを喰らった。

 

「また何か変な事考えてるだろ」

「まさか。怪盗団の為になることに決まってるじゃん」

「それならもっと俺達を頼れ。仲間で。友達なんだから」

 

 あーうん。だからこそ言えないんだよな。これから裏切る仲間に腹の底とか見せたくない。

 

「気が向いたら。そうする」

 

 

 ***

 

 

 自室でこれからのことを考える。大分計算が狂った。

 

 怪盗団と戦えるようになるまでの課題が多い。

 

 まずは対応力。今は俺のレベルと体力でゴリ押しできそうだったが、終盤になったらそうはいかない。あいつらだって俺と遜色ないレベルで成長してくるだろう。今より多彩な攻撃が出来るようにならなければ。

 

 で、そうなると出てくるのが弱点の氷属性が痛すぎるわけで。いくら倒す算段がついてても、ダウンさせられて詰められたら作戦なんて意味ない。

 

 じゃあそうなってくると耐久力が必要だ。あいつらの攻撃を耐えて反撃のチャンスが欲しい。

 

 でも俺はこっそりメメントスでレベル上げが出来なくなった。一応許可申請で潜ることになったが、潜りすぎて怪しまれるのは避けたい。

 

 ……あー詰みそうだ。どんな縛りプレイだよクソ。

 

 怪盗団では仲間が欠点を補い合うことで戦いを有利に進める。実際俺も助かったり助けたりしていた。

 

 でも最後は俺一人だ。誰にも頼れない分俺は総合的に強くならなきゃいけない。だがその手段も限られている。手段が無いものでさえある。

 

 もう――

 

「違う」

 

 危ない。折れそうだった。

 

「大丈夫……大丈夫……怖くない……平気……大丈夫」

 

 俺は俺しかいないんだからしっかりしないとダメだ。

 

「怖くない。平気。大丈夫」

 

 鏡を見てひどい顔を誤魔化すように笑みを作った。……完璧だ。

 

 前世とは顔も身体も変わっているが前世を思い出す。俺の笑顔だ。

 

 もう大丈夫だ。

 

「よっしゃ! 明日から頑張るかー!」

 

 取り敢えず疲れたから今日はもう寝よう。先のことは先の俺が考えてくれる。

 




装備:二等航海士バッジ 
効果:最大HP10%増加
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