幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#21 真実はいつも一つ

 6/6 月曜日 雨

 

 昼休み、蓮の元で竜司と駄弁っていると杏が社会科見学はどこに行くのかと聞いてきた。

 

「社会科見学! サボりてぇ~」

「俺も社会科見学はちょっとやだなー」

 

 正直竜司と同意見。この前の清掃は別に良いが、社会科見学はレポートあるじゃん。それが怠い。

 

「だったら一緒にテレビ局とかどう?」

 

 というかもうそんな季節か。社会科見学で明智と出会うイベント。一目みたいから俺もテレビ局にするか。

 

「よっし胡桃もテレビ局にしようぜー!」

「芸能人のサインあったら貰いたいな。あと声優」

 

 竜司は芸能人に会えるかもみたいな話を出したら社会科見学にやる気を出した。

 

「テレビか……ちょっと髪切ってくかな……!」

 

 

 ***

 

 

 6/9 木曜日 晴れ

 

 

「頭くんなぁ! 俺ら客だろ? なんで雑用やらされるわけ?」

「まぁそうだよな」

 

 社会科見学でウキウキしてた竜司の期待を裏切るように、取り敢えず楽な仕事やらせとけ精神の雑用。そしてテレビに出てくるような有名な芸能人は影も形も無く、ただ退屈な時間を過ごすだけだった。

 

 ADに言われるがまま雑用させられた後、人気のない通路に集まって愚痴っていた。

 

「俺達はただ長いケーブルと格闘してただけだったな」

「お互い災難だったな」

 

 杏は杏で下心丸出しのADに絡まれてたし。

 

「こんなのが明日もあんのかよ」

「サボんなよリュージ」

「わーってるよ……いい子ちゃんだろ?」

「そういえば今日、現地解散なんだって。日頃あんま来ない方向来たし、気晴らしにどっか寄って帰らない?」

「ワガハイあそこがいいぜ! 来るとき見えた『デカいパンケーキ』みたいな場所!」

 

 モルガナが言ってる『デカいパンケーキ』とはドームタウンのことだ。おそらくパンケーキの部分は野球場のことで、周りが遊園地やスパやゲーセンなどと娯楽施設が多く存在する。ビル街のど真ん中であるのにかなり本格的な絶叫マシーンが建っていたりする。

 

 この後はそこに行って遊ぼうという流れに。

 

「失礼。その服、秀尽の学生さんですよね」

「なに?」

 

 その時曲がり角からベージュの制服に身を包んだ青年が声を掛けてきた。

 

「たまたま近くを通ったから挨拶でもって。明日一緒に出演するから。ああ僕、明智(あけち) 吾郎(ごろう)っていいます」

 

 そうこの人物こそ表はイケメン探偵、裏は精神暴走事件の犯人。プレイヤーからはパンケーキの愛称で愛される明智吾郎である。顔が良すぎて腹立つ。

 

「これからケーキを食べに行くのかい? 僕もお腹空いたよ。お昼食べて無くてさ」

「あ? ケーキ? 何の話?」

「あれ違ったかな? パンケーキとか聞こえたから……あ、ゴメン時間がないや。じゃあ明日スタジオで」

 

 と言って踵を返して去っていった。

 

「あいつ駆け出しの芸人かなんかだな。髪型変えねぇと人気出そうになくね?」

「あいつ一応最近話題の高校生探偵」

「ふーん。ま、いいや、どうせ明日会うんだし。んじゃ早速行こうぜドームタウン!」

 

 ワイドショーに興味無い竜司はもちろん明智にも興味を示さず遊びを優先させる。

 

「な、なぁゲロ酔いマシンやめてパンケーキにしない?」

 

 ジェットコースターに乗りたがらないモルガナを連れて『ドームタウン』へと向かった。

 

 

 ***

 

 

 6/10 木曜日 晴れ

 

 

「さて、続きまして『今、会いたい人』のコーナーなんですが……前回の大好評を受けまして、本日も彼に来てもらってます」

「現役高校生探偵『明智吾郎』くんです!」

「どうも」

 

 明智が紹介されると、観覧席から黄色い声が飛ぶ。傍から見てもイケメンかつ現役の高校生で探偵をしているっていう異色さが人気なんだろう。知らんけど。

 

「明智君ゴメンね忙しいところ。しかし凄いね人気!」

「僕も驚いてます。ちょっと、恥ずかしいですけど……」

「なんでも探偵として、今気になってる事件があるとか」

「そうですね。斑目画伯のスキャンダル、でしょうか」

「でた怪盗騒動! 明智くんも気になってたんだ! ズバリ訊いちゃうけどさ。正義の怪盗どう思う?」

「本当に正義のヒーローなら居て欲しいですよ、夢があるし。サンタクロースとか実在したらいいのにって、未だに考えますから」

 

 ユーモアを交えながら答えるとエキストラらしき人物に混ざって女性からも笑い声が聞こえてくる。全部コイツの演出なんですよお客さん。甘いマスクを被っときながらその裏側はドロドロに歪んだ承認欲求ですからね。

 

「でも、もし仮に本当にそんな怪盗がいるんだとしたら……僕は、法で裁かれるべきだと思います」

 

 しらーっと聞き流してるとやっと本題に切り込んでくる。

 

 明智の主張は、斑目のやったことは許されないことだが、それを法律以外の尺度で勝手に裁くのはただの私刑であり、正義から一番遠い行為だと。

 

「第一、人の心を無理矢理ねじ曲げるなんて、人間が一番やっちゃいけない事ですよ」

 

 怪盗団の方をちら、と見ると明智に向ける表情が昨日とは変わっていた。

 

 蓮は理解はするがそれでも自身達の行いは正義だと思っていること。

 竜司は何言ってんだあいつと憤慨し、

 杏は、確かに一理あるかもと思って沈んでいる。

 モルガナは蓮のバッグの中でもごもごしている。

 

 三者三様(+一匹)の考えみたいだ。正直明智の言い分には一理どころか百理ぐらいあるが、精神暴走事件起こしているお前が言うなって話だ。

 

 そもそも明智の意見だって第三者の意見だ。鴨志田のときは八方塞がりの状況で誰かが犠牲になるしかなかった。『改心』という手段は、唯一全部がご都合主義に解決できるたった一つ残された手段だった。廃人化させる覚悟もして状況の打開を図った。斑目の時だってそうだ。俺達がやってなかったら誰かが犠牲になっていた。俺達は確かに人を救ったんだ。何もしてない第三者にとやかく言われる筋合いなんてない。

 

 ……何で俺こんなムキになってんだよ。くだんねー。

 

「では、明智くんと同世代の高校生達にも、怪盗について訊いてみましょう。まずは『怪盗は実在する』という方はお手元のスイッチをどうぞ」

 

 スタジオのパネルが楽し気な音を出しながらスイッチを押した人数が表示される。

 

『17』。このスタジオに入ってる人数が五十人弱ぐらいだから三割強ぐらいだ。

 

「結構多いですね。驚きました。みんなは怪盗の行いについてどう思っているのかな」

 

 女性アナウンサーが立ち上がりこちらに歩み寄ってくる。俺達が座っている列に足を止めると蓮の方へマイクを向けた。

 

「まずは、こちらの学生さんに訊いてみましょうか。もし仮に、怪盗がいるとして……彼らのこと、どう思いますか?」

「正義そのものだ」

 

 即答。もうちょっと怪しまれないように濁せ。

 

「怪盗は法で裁かれるべきだ、と主張した明智くんとは反対の意見だね」

「ええ、ここまでハッキリと怪盗を肯定するのは興味深い。じゃあ、彼にもう一つ訊いてみたいことがあるんですが……もし君の身近な人……例えば、君の隣に座っている友達。ある日突然、彼らが心を変えられたらどうする? 怪盗の仕業だとは考えない?」

「全く考えない」

「はは迷いがないね。じゃあもう一人聞きたいかな」

「じゃあ隣の君」

「ゑ?」

 

 油断してたらこちらにマイクを差し出される。怪しまれないように適当に流すか……

 

「俺も明智さんと同じ意見で怪盗団はかなり危険な存在だと思っています。今は悪人を裁いているけどそれが一般人に向けられたらと思うとぞっとしません」

「うん。君は僕と同意見……」

「ですが、見て見ぬふりをしているだけの何もしない警察やメディアよりは役に立ってますよね」

 

 とでも思ったか。言ったったぜ。悪いけどこちとら人助けしてんのに、第三者にとやかく言われるのは癪に障るんだよ。

 

「はは。はっきり言うね。怪盗団は警察の代わり?」

「代わりまでとは言いません。でも使いようによっては便利だとは思いますけどね。

 あともう一つの質問は、ある日突然、隣に座っている友達が心を変えられたらどうするでしたっけ? 隣の金髪は見ての通り割りとヤンチャ気味なので真人間に改心してくれるなら両手を挙げて喜びますけど」

「おい」

「取り敢えず俺は『怪盗団は利用するもの』です。正義とか悪とか関係ないです」

「なるほど。貴重な意見をありがとう。でも確かに正義か悪かの前にもっと大きな問題がある気がするんです。それは『人の心をどうやって変えたのか』という問題です。心を操作する……そんな力があるなら、自白だけに使われるとは限らないですよ。もしかしたら僕達が普通の犯罪だと思っているものはそうやって起きているのかもしれないし……」

 

 仮定でしかありませんが。という前置きのあと。

 

「もし、そのような力を持つ輩がいれば無視はできません……僕らの暮らしに対する脅威に他なりません」

 

 スタジオから感嘆の声があがり、明智が警察と足並みをそろえて事件の解決をしていくなどの発言をして番組の収録は終わりとなった。

 

 

 ***

 

 

「オイ! 誰がヤンチャ気味だって?」

「ちょギブギブギブギブギブ!」

 

 収録が終了後はそのまま現地解散という流れだったが、先程の明智の発言が尾を引いているのか怪盗団のメンバーは他の生徒がスタジオをあとにしても残っていた。かくいう俺は竜司にヘッドロックをかまされていた。

 

「ねぇ、アイツの言ってること、ちょっとそうかもって思っちゃった……」

「俺らが悪党みてえな言い方しやがって。気に食わねぇ。つか胡桃ももっとなんか言い返せよ」

「俺は明智とバチバチのリーダーからヘイトをずらす為にちょっと捻っただけですー」

 

 蓮は俺に心配されたことが何やら不服だったのか、ヘッドロックされてる俺の額にデコピンしてきた。割と痛いやつ。。

 

「ってか、悪ぃ……ちょっとトイレ。すぐ戻っからよ、ここで待っててくれ」

「も~! 私、先に行ってるからね」

 

 と言って拘束は解除しトイレに向かう竜司と、先にスタジオを出ていく杏。残ったのは俺と蓮だけになった。

 

「……つか俺らのやった事にもっと自信持てよ。数は少ないけど救ったんだぞ人を」

「竜司はともかく杏は繊細だから俺達みたいに割り切れないんじゃないのか? それに客観的にみたら明智の言う事にも一理はある」

「……だけど~?」

「間違ったことはしてない」

「だよな」

「あ、君たち」

 

 噂をすれば影。蓮と二人で話合っていると、話題の人物である明智が声を掛けてきた。

 

「会えてよかった、お礼が言いたくてね。やっぱりアンチテーゼがなきゃ、アウフヘーベンは起こらない……」

「アウフヘーベン……?」

「ほら蓮あれだよ穴空いてるやつ」

「……バウムクーヘンのことかな。君は自分のことを低能にしてボケようとするのやめた方が良いよ。本当に頭悪く見えるから」

「オレ コイツ キライ」

「……まぁ、胡桃のことは一応頭良いと思ってるらしいから」

 

 本当か? こいつからはなんか人を下に見てる匂いがプンプンするんだよな。実際主人公のこと屋根ゴミって言ってたし。

 

「ああやって自分の意見をハッキリとぶつけてくれる人が、僕の周りにはあんまりいなくてね」

「「ふぅん」」

「大人達は若者を利用するばかり、同世代は流されるまま肯定するだけ……無責任な人々のあまりに多い時代だ。君たちが怪盗を望むのもわかるよ。……怪盗は君達が思う通り、本当に善意の存在なのかもしれない。真実は僕には分からないし、君達にも分からない。特別な力を持った彼らは、きっと正義感や使命感に燃えているんだろう。でもその正義は、言わば万能感の裏返し……だからもし、彼らを追い詰める存在が現れたとしたら、その時はあっけなく逃げ出すと思うよ」

 

「怪盗は逃げない」「そんなのには屈しない」

 

 蓮と言葉は違ったが言いたいことは一緒だったようだ。怪盗団は忌々しいことに理想の現実を壊してでも戦ってくるから厄介だ。だからきっと……逃げない。

 

「君たちやっぱり面白いね。議論のしがいがありそうだ。よかったら、今後も話を聞かせてくれない?」

「構わない」

「俺はパス」

 

 さすがに明智の好感度上げる暇があったら丸喜先生の好感度上げるわ。

 

「それは残念だな。じゃあ君だけでも」

 

 蓮は明智と握手をして、連絡先を交換する。近い内にまたねとだけ残して明智はスタジオをあとにした。

 

「ワリーワリー……って、今の明智か?」

 

 明智と入れ違いでトイレから戻った竜司が合流する。

 

「スカしたツラしやがって……! 一緒の空気吸うだけで気分最悪だぜ。杏も待ってるしよ、さっさと行こうぜ」

「おっけー。……ところで竜司アウフヘーベンって知ってる?」

「あ? 穴空いてるアレだろ?」

「あ、本物のバカだ」

 

 その後俺は竜司にヘッドロックされながらスタジオから出ていった。

 


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