幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#25 ビビってる奴いる?

6/19 日曜日 昼間

 

 

【ナビゲーションを開始します】

 

 周囲の景色が歪み、認知世界へと転移する。怪盗服へと変わったジョーカー、パンサー、スカル、フォックス、ヴァイオレット、ブルは、金城の認知世界を歩いて金城のシャドウを探す。

 

「まさか銀行だと思っているのがこの渋谷全体だなんて強欲というか、邪悪というか」

 

 変わり果てた渋谷にはATM人間が歩いていた。この街の人間を金が出るATMとしか見てない金城の認知だ。道の片隅や裏路地に入ると壊れたATMが捨ててあった。

 

「酷いな……出せるまで出してボロボロにして……捨てるのか」

「最悪、そういう店に斡旋されて働かされんだろうよ。全部奪われてな」

 

 話せる個体のATM人間が居たが、話せるだけで会話にならなかった。こちらを見てひたすら怯えている者や、ただうわ言を発していたりと、意志疎通は難しいものだらけだった。だが肝心の金城のシャドウがいるパレスが見当たらない。

 

「肝心のパレスが見当たらないね」

「銀行という事ですが、それらしいものは見当たりませんし……」

「足が付かないってことは高い場所にあるとかか? ここら辺だと高層ビルとか」

「おい、あれ見ろ」

 

 フォックスが指を差したその先には、銀行が浮いていた。

 

「えげつねぇ絵面……」

「足がつかない、か。そりゃ浮くわけだ」

 

 大きな円盤の上で立派な銀行が鎮座しており、円盤の下には大きなホールがあり、そこから地上にある札束を吸い上げている。

 

「あんな高いとこどうやって行くんだよ」

「……モルガナ」

「なぁんだその目は。ワガハイにだって無理な事はある!」

「……なら今日はここで解散かもな」

 

今の怪盗団に、あの空飛ぶ銀行に侵入する方法は無い。これ以上ここにいるのも無駄だということで、一度現実世界に戻ることにした。

 

 

***

 

 

6/20  月曜日 放課後 曇り

 

 俺達はあの空飛ぶ銀行に行く方法を探して話あっていた。とは言ったものの具体的な案が出るわけでもなくいたずらに時間が過ぎていくだけだった。

 

「……何かいい案ある人」

 

 沈黙。まぁいいだろう。この後、新島真が来て、わざわざ自分を犠牲にして金城の客、つまりあのパレスで見たATM人間になりにいく。だから今俺がする事は新島真が来るまでここに怪盗団を居座らせること。

 

「随分と手こずっているようね」

 

 ほら来た。展開的にナイスタイミングだけど、俺達怪盗団の立場からしたらバッドだ。何故ならこっち今手詰まりで困って、ピリピリしてるのに、安全圏から上から目線の依頼人が煽りにきたんだから。

 

「様子を見に来たってわけ? いくら生徒会長でもこっちの仕事は役に立たないから」

 

 杏が少し喧嘩腰で言い返す。杏は新島真には良い印象を持ってない、何故なら鴨志田の件で、鈴井さんの体罰を学校ぐるみで隠していたと思っているからだ。もちろんそこに生徒会も関与していると思い込んでる。実際には新島真はあの件は何も知らない。だから多少なりとも嫌味を言ってしまう。

 

「役に、立たない……?」

 

 しかも今の新島真にとっては【役立たず】というワードは地雷だ。つい先日、実の姉から『今のあなたは役立たず』と言われてそこから自身の評価については敏感だ。

 

 ……今一番苦しいのは新島真だ。父を無くして、遺された姉に迷惑を掛けないようにして優等生として振る舞うことが正しいことだと思って、あらゆる事を我慢してきたのに今その軸がぶれ始めて不安定になっている。

 

「実際そうだろ」

「高みの見物してればいいのよ。それともお得意の盗聴でもしてみる?」

「……その金城ってやつに接触出来ればいいのね?」

「お、おいどこ行くんだ?」

 

 だから暴走する。今の自分に自信が持てないから、これが正しい事だと証明して、自分に自信を持って軸を保ちたいから。新島真は思い詰めた表情をして怪盗団と別れ、どこかへと立ち去った。

 

「おい、あいつどっか行ったぞ」

「金城の居場所に心当たりがあるのか?」

「でも、なんか思い詰めてませんでした?」

 

 この場を去った新島真の話をしていたら、蓮のスマホに着信が入る。相手はもちろん先程までここにいた新島真だ。

 

『ねぇ私新島真。いいからこのまま聞いて、録音も』

 

 蓮が皆に聞かせるようにスピーカーに切り替える。

 

『ねぇ、あなた達、金城って知ってる?』

 

 その声は今ここにいる蓮に向かって言ってるわけではなく、電話の向こう側にいるある男達に向かって喋っていた。

 

「おいやべぇだろこれ!」

「ああ、追った方がいい!」

 

 怪盗団の面々が新島真が何をやろうとしたのか察しがつき、今話してる現場へ向かう。

 

「……場所は⁉」

『……金城の部下の人達ってこんな時間にこんなところにいるんですね。まさか渋谷のセントラル街の裏路地に居るなんて、ジムにでも行ってたんですか?』

 

 新島真は俺たちの意図を汲み取り、さりげない会話で場所を伝える。

 

「ジムか、とは言っても数あるぞ手分けして探すか?」

「いや裏路地にあるジムはあそこしかねぇ! 俺についてこい!」

 

 竜司を先頭にして渋谷セントラル街を駆け抜けると、そこに新島真といかにもな連中が、今にも車に乗ってどこかへ行く直前だった。

 

「おい待て!」

 

 叫び虚しく、新島真を乗せた車は発進し、どこかへと走っていった。

 

「竜司タクシー、祐介は……」

「わかってる、車のナンバーはバッチリだ。伊達にクロッキーやってないぞ」

 

 竜司が道路に体をだして無理矢理タクシーを止めると、全員乗り込ん……

 

「すみませんお客さん。このタクシーって四人乗りなんですよ」

「「え?」」

「杏とすみれは待機。なんかあったら連絡する」

 

 蓮の指示の通り男四人でタクシーに乗り込み、新島真を乗せた車を追った。

 

「お客さん目的地は?」

「「「「あの目の前の車を追ってくれ!」」」」

 

 ……全員の声が合わさった。

 

「こんな場合だけど一度言ってみたかったんだこの台詞」

「こんな場合しか言わないだろ」

 

 

 ***

 

 

 タクシーが止まったのはとあるクラブだった。中に乗り込むと妖艶なライトの光が紫色の室内を照らしている。その部屋の真ん中で新島真が複数の男達の手によって組み伏せられていた。

 

「あぁ……何だそういうこと」

 

 女を侍らせて奥に座っている肥満体型の男が全てを察して呟いた。あれこそが金城潤矢だ。

 

「つけられやがったなクソが!」

 

 大声を出すとテーブルの下から大きなジュラルミンケースを取り出す。暗証番号を入れて開けるとそこにはギチギチに詰まった札束が入っていた。

 

「前見たバッグの……アレいくら?」

「えー300ぐらい」

 

 金城はジュラルミンケースからおそらく300万ほど取り出すと隣の女に渡す。

 

「わーっいいの?」

「そいつらにお礼言えよ? ……俺、今すっげーイラついてんの。金使うとストレス発散になるだろ?」

 

 それについては一理ある。ソシャゲに課金してガチャ回すとちょっとスッキリ……いやしないわ。目的のキャラでないとストレス増すばかりだからな。課金は程々に。

 

「隙間見える? イラついたせいで300万分空いちまった。埋めねーと余計イラつく。俺完璧主義なんだよ」

「話が見えないな」

 

 すると突然金城はスマホを取り出しこちらを撮影した。

 

「なんだよみんな表情固いな~。『未成年がクラブで乱痴気騒ぎ』。これ学校に送っていい? あ、やべ酒とタバコ映ってる」

 

 こうやって無理矢理ネタを作って強請る。そしてもう後戻り出来ない。

 

「いいか? お前らみたいなバカは俺の餌なの。 分かる? 現役美人生徒会長サン? ……いいかお前ら警察にチクってみろ家族から潰してやる。……いつも通りひと月と言いたいところだが、大勢いるしな。三週間だ。それまでに300万持ってこい」

 

 300万。……ぶっちゃけここゲーム2周目だと普通に払える額なんだよな。財布に現金何百万入れてる高校生ってなに?

 

「もうすぐ夏のボーナスだろ? ママとパパに頼めばすぐだよ。……わかったら今すぐここから立ち去れ、これからお楽しみなんだよ」

「はぁ? ざっけんな!」

「かまうな、今はマコトの安全が第一だ」

 

 モルガナが歯向かおうとする竜司を諫める。確かにクラブには金城の部下が俺達以上にいる。今ここで乱闘しても返り討ちに遭うのが目に見える。

 

 解放された新島真を連れて、俺達はクラブを出た。三週間で三百万という大変な事態になったが、これでアイツのパレスに行く準備は整った。

 

 

 ***

 

 

 連れ去られた場所へ戻ると、すみれと杏がすっかり暗くなった路地に座って待っていた。

 

「遅い、それでどうなったの?」

「三週間で300万用意出来なきゃ俺ら破滅。警察にチクったら家族ごと破滅」

「ええっ⁉ どうしてそんな事に?」

 

 良いリアクションありがとう。とりあえず残ってた二人に事情を説明した。

 

「……ごめんなさい」

 

 二人に説明し終えると、改めて自分のしでかしたことが軽率な行動だったのか、新島真が重々しい口を開き謝罪した。

 

「まったくだぜ」

「悪いが同感だな。想像出来なかったのか?」

「ちょっと祐介」

 

 まぁ責めるのはしゃーない。心配して駆け付けたらこれだもんな。

 

「本当にごめんなさい。役に立たなきゃって一人で焦って……」

「あーもういいだろ。やっちまったもんは戻らねぇんだから」

「まぁ一番悪いの金城ですしね」

「…………お姉ちゃんにも迷惑かけちゃう」

「お姉ちゃん?」

 

 新島真の姉。新島 冴(にいじま さえ)。女性の検察官で、ファンから『どうなのおばさん』とか呼ばれてる。正直作中じゃそんなに『どうなの⁉』って言わないしおばさんっていう年齢じゃない。

 

 あと唯一、ジョーカーが攻略出来ない女性キャラ。でもアニメのバレンタイン回は登場した。

 

「私の姉は立派な仕事に就いてて、私よりずっと優秀で、3年前父を亡くしてから色々あって今は姉と二人で暮らしているんだけど……私は子供だから負担しかかけてなくて……どうにか誰かの役に立ちたくて」

 

 妹を一人で育ててきた苦労ははかり知れない。そしてそれを新島真本人は分かっているからこそ、何か役に立ちたいと焦っていたんだろう。

 

「でもよ、よく知らねーけど、子供だから役立たずってのは違くねぇ?」

「でも、事実だから……それに特に貴方には悪い事をしたと思ってる」

「え? 私?」

 

 真は杏の方を見た。

 

「鴨志田のことは今思えば学校ぐるみで隠ぺいしてたんだと思う。私心のどこかで気付いていたのに何も出来なかった。ううんしなかったのよ。その気になれば何か出来たはずなのに……私みたいな人間こそ本当の『クズ』って言うんでしょうね」

「本当のクズは自分のこと『クズ』って言わないし。……それに何にも出来なかったのは私も同じだよ。私だって一番近くにいたのに志帆からいってくれなきゃ気付かなかった……それに悪いの鴨志田だからそれは私も志帆もこの場の誰もが分かってる」

「……高巻さん」

「君も居場所が無かった……そういうことか」

「私、も?」

 

 心を落ち着ける場所なんて無かったんだろう、いつも気を張っていたのかもしれない。……真面目な人間ほど壊れやすい。そういう意味で怪盗団は新島真にとって心が落ち着ける居場所になればいい。

 

「取り敢えず。お金は私が何とかするから。金城の件はここまでにしましょう?」

「そりゃ無理だ。俺らだって狙われちまった。……あの銀行さえ何とかなりゃあなぁ」

「銀行……そうか銀行か! カノジョ、大手柄かもしれねぇぞ!」

 

 モルガナが何か閃いたように大声で鳴く。気付いたんだろう彼女が金城の客になったことに。

 

「大手柄? どういう意味?」

「なんで皆猫と話してるの? えっと? 頭が……」

「ワガハイ達は金城の標的になった。つまり金城の客になったってことだ」

「そうか今まで入れなかったのは客として見られていなかったからか」

「連れて行こう。こうなった責任は取ってもらう」

「彼女にも知る権利はあるしな」

 

 猫と会話してる俺達を見て混乱している新島真を、無理矢理認知世界に連れ込んだ。

 

 

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