「キツネ⁉」
「フォックスだ」
目の前にいた怪盗服姿の祐介を見て、開口一番そう発言した。まぁそうなるわな。
「静かにしろって。シャドウ達に気づかれんだろ」
「化け猫⁉」
「猫じゃねーよ!」
……まぁそうなるわな。お約束のやり取りもしたところで、この世界のことを新島真に説明した。理解が早く、一を聞いたら十を知るという感じで全部を細かく説明しなくても大体わかったらしい。
「そうか、『心を盗む』って認知を書き換えるってことなのかな……理屈だけはなんとなく。じゃあ私もこの世界のどこかにATMになった私がいるってこと?」
「かもな。ともかく『オタカラ』を盗れば、カネシロを改心させて自白させられる。うまくいけばな」
「うまくやるさ」
「それに金城みたいな悪党を改心させたら、怪盗団は注目浴びまくりだ」
「俺達の正義も揺るぎないものとなる」
「弱い人達にも勇気をあげられる」
「……弱い立場の人達のため、か。……お父さんと同じこと言うんだ」
俺達にはよく聞こえない声で、新島真は何かぼそりと呟いた。
「……金城に会いたいのよね?」
そう言うと新島真はあの空飛ぶ銀行へと歩いて行く、空飛ぶ銀行も新島真へと近づいていき、地面につくスレスレを低空飛行しながら止まった。
そして客を招くように地上に長いスロープを作り出した。
「マジか。向こうから来やがった」
「計画通りだな」
「取り敢えず入るか。正々堂々、真正面から盗みにな」
「……銀行に怪盗か……ザ・強盗って感じ」
***
銀行の中に入ると警備員のシャドウに案内され、応接室へと通される。そこに金城の姿は無く、代わりに応接室の机の上には、ゲームや漫画でよく見る、諭吉の山が置いてあった。
『不法侵入、その他迷惑行為。しめて300万の賠償金ですよね。現役美人生徒会長さん』
その声は応接室に設置してあるモニターから聞こえてきた。モニターに映し出される金城のシャドウ。紫色の肌に気色悪い笑顔を浮かべていた。
「金城っ……!」
『300万も集めるなんて大変でしょう? 融資しますよ。利子は一日一割で』
「一日30万って払えるわけないじゃないですか!」
「払う義理も無いだろうが」
『ご安心を、そんな貴方がたに親切なプランを用意してあります。……その容姿ならすぐに300万貯めることが出来るでしょう』
「……水か」
『いやぁ、若い女は良い。力が無くて頭が悪い』
汚い笑顔を浮かべこちらをあざ笑う。
「外道が」
「最初からそれが狙いだったんでしょう?」
『ご明察。……美人検事、新島冴の妹さん』
「……⁉ なんでそれを?」
『我々の情報網舐めないで貰いたい。無知が罪とは私は思いません。……だってバカがこんなに釣れるからなぁ!!』
確かに、詐欺を自衛出来なかったのはこちらの落ち度かもしれないけど、金城がやっているのは犯罪で法に触れる行為。完全に悪だ。
コイツは情状酌量の余地もない犯罪者だ。改心のしごたえがある。
「そこで待ってやがれ金城! テメェのオタカラふんだくってやるからよ!」
『笑わせるなよコソ泥。ここは最高峰のセキュリティで守られている俺の城だ。金さえ積めばどんな仕事も請け負う奴らばっかりだ。息をするようにお前らの命を奪うぞ? ……じゃ、頑張れよ』
モニターの電源が落ちると、応接室に警備員のシャドウが入り込んできた。
「カネシロ様の命令だ! お前らを確保する!」
「っ! 戦闘だ、全員構えろ!」
「よっしゃ! ぶちかませアステリオス!」
……………?
「どうしたブル?」
「あ、いや何でも無い。多分」
「そうか、とりあえず脱出だ」
俺がペルソナを出せない事に戸惑っている間に、戦闘は終わっていた。どうやら出てきたシャドウは雑魚で今の怪盗団では瞬殺だったらしい。
次々とやってくるシャドウ達をバッタバッタとなぎ倒して行き、銀行の出口へと向かう。だがいくら怪盗団が強くなったとしても連続で戦闘していたら消耗する。
「クソ、キリがねぇ!」
「でも、もうすぐ出口です!」
しかも、その行く手にシャドウが現れ、出口への道を阻む。
「……この銀行では迷惑な客は処分しているんですよ」
後ろから、複数の警備員シャドウと共に金城のシャドウがやってくる。なら今度こそもう一度ペルソナで――……
「囲まれた……!」
「ブル、出口の前のシャドウをペルソナで一網打尽にしてくれ!」
「…………出ない」
「え?」
「出ないんだ。……俺のペルソナ」
なんで今? 何故?
「ああ、そりゃ好都合だ。そちら側が一人役立たずとなりゃ、こちらも処分しやすい。足手まといが一人いるだけでその組織のレベルが下がるからな」
「……待って! あなたが必要なのはこの私でしょ⁉ この人達は関係無い!」
「ああそうだ。大事な商品には傷はつけない。……あーあ。可哀想なお姉ちゃん。こんな妹がいなけりゃ出世も出来たのにな。もうじき俺の奴隷だ」
「……っ、お姉ちゃんは関係無いじゃない!」
「じゃあ明日からお前が客とれよ」
下卑た笑顔を浮かべながら新島真を脅す。体を売れば姉は助かるかもしれないと。そんな保障するわけないのに。
「いいか? お前らに選択肢は無いんだよ。 お前らは俺の言いなり、絞りとられるしか無いの!」
「言いなり……」
「安心しろ。お前ならすぐに300万稼げるさ。ま、その時は人生滅茶苦茶になってるだろうけどな! ギャハハハハハハハ‼」
ムカつく。俺はコイツのコンプレックスを知ってるし、コイツがここまで堕ちた理由も何となく察しがつく。でもそれはそれ。人を陥れて、絞り取っている奴は許容できない。
……何故か今の俺はペルソナが出せなくてカネシロをぶっ飛ばせない。でも、俺と同じ怒りはこの場にいる全員が抱いていて。
「さっきから聞いてりゃ……」
誰よりも怒ってる奴がいる。
「ウゼェんだよ! この成金が‼」
新島真が吼えた。常に冷静沈着な彼女とは思えないほど大きく荒れている怒声だった。その怒声の後、彼女が頭を抑え始める。頭の中に流れているもう一人の自分の声を受け入れ、抗う力を手に入れようとしている。彼女の中にある意地や怒り、正義が彼女の足を支え、苦しみで頭を抑えながらも膝は付かなかった。
そして反逆の仮面が彼女に宿る。
「っぐ、ああぁぁあああああ!!!!」
勢いよく仮面を剥がす。青い炎と共に彼女の姿が変わりペルソナが顕現する。その姿は……世紀末覇者だった。
「……ペルソナ?」
「いやありゃ……バイクだろ」
ピッチリとしたスーツ肩にはトゲがあり、武器はメリケン。バイク型のペルソナにエンジンを噴かせながら乗っている姿は、不良……というよりどこかの世界からやってきた暴走族。
「ふん!!」
バイクのアクセルを踏み、警備員シャドウを轢いていく。それでいいのか生徒会長。……いや今はこれでいいのか。アレ人じゃねぇし。
「……もう絶対弱音なんて吐かない。飛ばすだけ飛ばすから……いいよね、ヨハンナ!」
複数体のシャドウがペルソナに轢かれて、形勢が逆転しそうだと感じたのか、カネシロは部下に指示を出して、後ろに引っ込んだ。
「……っ待て!」
「これ以上はカネシロ様の命令で通させん!」
「クソッ! ブル、ライフルでカネシロの足元に撃って、足止めを……ブル?」
「……………」
新島真が足止めしているうちにペルソナを出せない理由を考えろ。
どうして出ない。理由がいる。あるはずだ。探せ。今。原因。俺は一体何をした。あのエンドを変えるために俺はここにいる。だから丸喜先生に干渉した。深く干渉しすぎたのか? 乙守胡桃はこの世界に存在しないはずだから……
……………………乙守胡桃ってなんだ?
「……ッ! まずい! ブルの怪盗服が解除された!」
「な、なんで今⁉」
「一旦、ブルのことは後回しだ! 今はマコトの援護だ。迎撃するぞ!」
俺は俺のはずだろうが。俺は俺の欲望のためにここにいる。俺の名前は折本みくるで、乙守胡桃なんかじゃない。
『――証明しろ』
「……ぁ、今、誰か喋ったか?」
「あぁ? 必死に問いかけてるだろうが。さっさと逃げんぞ!」
『――どちらか、証明しろ』
今度ははっきりと聞こえた。自分の内側から。幾重にもノイズが重なり不快で無機質な声。しかし、どこかこちらを見下し、嘲りを含んで笑う声。
証明しろだと? 出来るわけないだろうが。俺はもう死んでるし、それを証明するものが無い。
『――ならばお前は乙守胡桃だ。お前の言う折本みくるは存在しない』
そんな訳ない。だって俺はゆりを死なせたことをこんなにも後悔している。だからこの世界を変えたいと思っている。この思いは確かに俺が抱いていたものだ。
『――だが証明できない。お前はもう、恋人どころか、自分の元の顔すら思い出せないんだろう?』
「……それは……その通りだ」
「おい! おいブル! もう戦闘終わったぞ! なにブツブツ言ってんだ、脱出するぞこっから!」
「どうした。突然糸の切れた人形みたいに動かなくなってしまったぞ」
『――ああ、無様で滑稽で愉快な生命体だ。エゴのために矛盾を抱え破滅するヒトという不完全な生命体そのものだお前は』
矛盾、破滅?
『――独楽が止まる。白と黒の二色で回転してグレーに見えていたものが、今ここで停止した。そしてお前は目を瞑ってきた白と黒の境界を認知した。もう戻れない』
「本当にどうしたの? 心ここにあらずって感じだけど」
「とりあえず抱えて……ってどうしたヴァイオレット?」
「……少しだけ下がっててください先輩方」
『――さぁもう一度問いかけよう。お前はどちらだ?』
……俺は――
「私です‼ 起きてください先輩!!」
「――ぇあ? ……っっ痛っった!!!!!! ……あ? 痛いけど? 何?」
「~~~~っ!!」
「あのね。芳澤さん。頭突きってデコをぶつけるんじゃなくて、頭を出来るだけ勢い良く相手の鼻っ柱にぶつけるのが効果的よ。それが一番痛くないらしいから」
「やっぱ経験者なのか生徒会長様は」
「そ、そんな訳ないでしょう! 正気に戻ったならさっさと脱出するわよ」
唐突な額の痛みはヴァイオレットの頭突きがもたらしたようだった。デコ熱い。湯気が出そう。てかデコじゃなくて仮面の固い部分に当たった気がする。
「ゴメン。なんかボーっとしてたみたいだわ。俺もう走れっから大丈夫」
「そうか。ならすぐにこのパレスから出るぞ!」
「ああ。……悪い迷惑かけた」
***
「……どうだ?」
「やっぱ無理だ」
あの後。新島さんに事情を説明してとりあえず今日のところは解散という形になった。が、俺は蓮を呼び出しメメントスに一緒に潜っていた。俺のペルソナのことを確かめたかったからだ。
「やっぱ出ない……か。怪盗服にも変わって無いしそりゃそうか」
「ごめん」
「いや、謝ることは無い。……モルガナ。突然ペルソナが出なくなることとかあるのか?」
「うーん……ワガハイもこういう事初めてだからなぁ。原因として考えられるのは、心情の変化、もしくは自我の不安定とかかぁ?」
「心当たりは?」
「無い」
「「言うと思った」」
「ぐ……。でもこれは本当に心当たりないんだよ」
「……しばらくはパレス攻略に参加するのは無理だな。俺たちでカネシロを落としとく」
「……ういっす」