幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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ほのぼの


#27 足手まといなのは力のない者では無い、覚悟の無い者だ。

 あれから数日が経った。

 

 俺以外の怪盗団のメンバーはカネシロパレスに潜入して順調にオタカラまでのルートを開拓している時間、俺はお留守番だ。パレスに行かなくても仕事はある。といっても必要な薬とか武器とかその購入をするパシリだが。……なんつーか寂しい。

 

「というわけなんですよ」

「それは大変ですね」

 

 そんなわけで俺は、マルキパレスで白衣さんに相談していた。

 

「なんというかですねぇ、俺が大変じゃないのは助かるんですけど、それはそれとして頼られなくなるのは寂しいんですよ。まぁ最近は俺が必要無い場面も多かったけども」

「疎外感を感じて寂しいのですね? 本人達に打ち明けてみては?」

「『寂しいからもっと関わって欲しいって?』 それなんかカッコ悪いんで嫌ですよ。俺はペルソナの力を取り戻して颯爽と怪盗団に戻っていきたいんですよ。確かに今、俺はピンチですけど見方を変えればチャンスなんですよこれは!

 仲間が力を失い弱体化した……その展開のお約束とは……」

「……お約束とは?」

 

 白衣さんがピンと来ないみたいなので、俺はカッコつけて指を鳴らして答えを言う。

 

「そう。これは俺のパワーアップイベントなんですよ! 弱体化した仲間がパーティーを離脱、そして戻ってくる頃には力を取り戻すどころか新しい技を覚えて帰ってくる! いやープレイヤーだったらこの熱い展開テンション上がりますよ」

「パワーアップする手段は?」

「無いです」

「力を取り戻す方法は?」

「わかんないです」

「無理では?」

「はい……」

 

 ぶっちゃけこう考えないとやっていけないんだよくそー……。

 

「そういえば丸喜先生また論文進んだんですね」

「ええ、主のパレスもどんどん広くなっています、このままいけばこの世全ての患者を救うことが出来るはずです」

 

 蓮が【顧問官】のコープ進めたか。先生も怪しまれずにうまくやっているみたいで順調順調。

 

「とりあえず頑張って状況をどうにかできるように頑張ってみます。じゃなきゃ取引が破綻しますから。じゃあ今日は愚痴に付き合ってくださりありがとうございました」

「乙守様。あなたがペルソナを出せないのには心が関係していると思っています。我が主に一度相談してみては?」

「……一応、最後の手段に考えてはいます」

 

 では。と言って俺はパレスを後にした。

 

 

 

 ***

 

 

 6/25 土曜日 曇り

 

 

「まぁ、悩んだら体動かすのは良い案ではあると思うけどもさ。まさかこんな地下闘技場みたいなところ連れていかれると思わなかったじゃん」 

「フィットネスボクシングの一日体験出来んだよここ。前から気になってたんだよな」

 

 休日、竜司に連れていかれたのは今話題のフィットネスボクシングジム。受付を通り案内されたのは地下。ライトに照らされたサンドバックが等間隔にぶら下がっており、部屋の中央には歩き回れるほどのステージがある。

 

「俺、場違いじゃないか? 周り社会人ばっかだしムッキムキやで」

 

 参加者の顔ぶれを見ると、肩にでっかい重機を乗せてそうなマッチョや、お年を召した方でも上腕二頭筋がチョモランマみたいな人など、いかにも筋トレ大好きみたいな人が集まる施設らしく俺らみたいなビギナーが来ていいものなのか。

 

「そんぐらいの方が、頭空っぽにしてハードに運動できんだろ」

「……まぁストレス発散になるか」

「そーそー。ほらジャブ打てるか?」

 

 係員に指定されたサンドバックの前に立ってパンチを2,3発打つ。

 

「様になってるぜ。これなら世界獲れるぜ」

「どこから目線だよ」

「……仲間目線、的な?」

「……?」

「あ、ほら来たぜインストラクター」

 

 竜司がステージに指を差すと外国人のムッキムキのインストラクターが現れた。

 彼が軽く準備体操をするとフロアに音楽が流れ始め、おもむろにマイクを取りだした。

 

『イェエエエエエエエイ!!!! 元気かー!!勇気ある筋肉狂人者共ー!!』

「「「「マッチョ!!」」」」

『よし』

 

 何がよしなんだ?

 

『よっしゃ今から、初めての参加者もいることなので注意点を言いますので耳を傾けて聞いていただきます。まず第一に――』

 

 あ、そこは真面目に言うんだ。

 

『――はい。今言った点に同意したものは……拳を掲げろ!!』

「「「「……………………(無言で拳を掲げる)」」」」

 

 ここはマッチョ‼ って返事しないんかい。

 

『いいか。今、目の前にあるのはサンドバックではない。目の前にあるソレはお前らのストレスの元だ。……気に食わない同僚もしくは上司。終わらない仕事や課題。イラつく元カレ。煩わしい人間関係。自身の価値観。なんでもいいが、ソレが目の前に存在する。今日はソレを‼ 掲げた拳で‼ 粉砕する‼』

「「「「イェエエエエエエエイ!!!!」」」」

『早速始めるぞ‼ 目の前のクソッタレの現実を全部ぶっ壊してやれ‼ ミュージックスタート‼』

 

 腹に響くような重いロックの音楽と共に始まるレッスン。基本的にはステージに立ってるインストラクターの指示通りに打つだけだが、これが思ったよりしんどい。けど、目の前のサンドバックを殴ることに集中していると疲れは覚えない。むしろ無心で打つことで雑念が消えて頭がスッキリしてくる。

 

「ハァ……なぁ知ってるか胡桃? このサンドバックってカウンター付きらしいぜ。殴った回数を記録してレッスン終わった後に殴った回数分、会員カードにポイント付与されんだと」

「……入る予定あんのかよ」

「いや、勝負しようぜ、ってこと」

「………ハァ……乗った。少なかったほう昼のラーメン奢りな」

「しゃあ、俄然……燃えてきたぜ!」

『ネクストォ~~……ラッァアアアアアアアシュ‼ 乱打で殴り殺せ‼』

「「おあああああああああ‼」」

 

 

 ***

 

 

「あ~~……ジム終わりの塩分と炭水化物は沁みるわぁ……」

「あぁマジでな。今日の運動が無に帰す糖分とカロリーを摂取してる罪悪感が余計うまさに拍車をかけてる」

 

 あっさり目の塩ラーメンだから食べやすく、するすると胃に入っていく。ちなみに対決は俺が勝った。

 

「……あー、なんつーか。チョー今更なんだけどよ」

「……? なんだ竜司にしては歯切れ悪いな」

「俺あんま頭よくねぇし。多分怪盗団の奴らと比べてコレっていう特技もねぇけどよ。体は張れっから。なんつーの? お前一人だけで悩みすぎんなよって話」

「……」

「柄にもねーこと言ったわ。忘れろ」

「そんな事ねーよ。……ちなみに替え玉も奢ってくれんの?」

「負けたからな! お前遠慮せずに全部盛り頼むんだからな。ここまで来たら奢ったるわ!」

「……ん。ありがとう」

「……おう」

 

 店員に替え玉を頼んだところで、スマホに通知が来た。祐介からだ。

 

『明日、空いてるか?』

 

 

***

 

 

6/26 日曜日 曇り

 

「あ痛たたたた……」

「大丈夫か胡桃?」

「いや最近パレスに潜ってないから昨日のジムが久しぶりの運動だったもんで筋肉痛が…………でもここに来るのは久しぶりな感じだな」

「あぁ、俺もつい最近まで住んでいたのに懐かしさを覚えるよ」

 

 祐介と俺は休日に班目のアトリエに来ていた。前と変わらず今にも倒れそうな質素な家だった。鍵は開いていた。 建付けが悪いドアを開けて祐介の部屋に訪れる。

 

「懐かしいな。杏をヌードモデルにしようとした記憶が蘇る。あの頃から先生のことを改心しようとしてたのか」

「まぁ、黒い噂は聞いてたからな」

「……恋は盲目というが、憧れもまた、己の目を曇らしてしまうのかもな」

「憧れは理解から最も遠い感情っていうからな。でも祐介の場合は見て見ぬふりしてただけだろ」

「……そうだったな」

「…………で、ここに何しに?」

「絵を描こう」

「……俺の裸は高いぞ」

「違う。胡桃が書くんだ」

「……祐介のヌードを?」

「違う」

 

 祐介がどこからかキャンバスを持ってきて絵を描く準備をしつつ説明をしてくれた。どうやら俺が絵を描くらしく、描くものなんでもいいらしい。

 

「何のために描くわけ?」

「気分転換だな。俺から見るに、胡桃は何か悩みがあるみたいだが、その悩みを解決するために何をすればいいかを迷っているように見える。胡桃の悩みのタネが見えるかもしれないぞ」

「勘がいいよなーこの怪盗団って。実は糸口すらわかってない」

「なおさらだな。普段と違うことをすると何か得るものがあるかもな」

「……つっても資料無しで書くのは難しいから、スマホで資料調べるわ」

「ああ。俺も何か絵を描くかな」

 

 そうしてスマホで写真を調べ、絵を描き始める。

 

 

 ***

 

 

 二時間程経った頃だろうか、背景はまだしもメインの被写体を書き終えて満足していた。……いやこれは背景無い方が被写体が映えるからこれで完成でいっか。別に背景書くの面倒だからとかじゃないし。

 

「ん、祐介。描き終わった」

「そうか、見てもいいか?」

「どうぞ。まぁ、素人だから下手ではあるけど」

 

 祐介が立ち上がって俺が書いた百合の花の絵を見に来る。

 

「ふむ……綺麗な絵だな」

「お世辞はやめろよ。花弁の大きさがバラバラでバランスとか取れてないし、色もその……黒だからちょっと汚いし」

「いや、俺は写実主義ではないからな。別に本物の百合の花を書けなくても下手だとは思わないさ」

「印象派とか、象徴主義ってやつ?」

「よく知ってるな」

「授業で習った。……ところで祐介はなんの絵を描いてたんだ?」

「よくぞ聞いてくれた。俺はな……【胡桃が絵を描いている絵】を描いた‼」

「え、気色悪」

「な⁉」

 

 自信満々で見せてくる絵画の中の俺は背を見せて、ひたすらキャンバスに向かって筆を走らせている。描いている最中何となく背後から視線を感じると思ったらコレ描いていたからか。

 

「つか、これ本人の許可無く描いたから肖像権の侵害だからな」

「……なんとか示談にならないか?」

「金がないお前が何払うんだよ」

「そうだな……今使ってた絵筆やパレットを代わりに洗っておこう」

「微妙に助かるラインだな……」

「この絵も胡桃に渡そう。というのも実はもう俺の部屋に絵を飾れる場所が無くてな。貰ってくれたら非常に助かる」

「……じゃあサイン書いとけ、端っこに祐介って」

 

 祐介がサインと書いている傍ら、俺は俺が書いた絵を持ち帰れるように丸めていく。

 

「ちなみに聞くが、何故その花を書いたんだ?」

「……昔の知り合いが好きな花だったから」

「……そうか」

「……ほら祐介。サイン書き終わったならくれ。丸めて持ってく。……それともこの後一緒に昼飯食うか? この前竜司が美味いラーメン屋教えてくれたしさ」

「む。中々に魅力的な提案だが、遠慮しておこう。久々にここに来たんだ。まだここで考えたいことがある」

 

 そっか。と一言だけ告げると俺は二枚の絵画を手に持つと

 

「胡桃、一人で抱え込みすぎるなよ」

 

 と、祐介が言った。

 

「事情は分からない。付き合いが浅い俺が相談に乗れるとも思えない。だが、頼られれば力になろう」

「むず痒いな……ありがとさん」

「ああ」

 

 俺は少し天然が入ってる芸術家に別れを告げて家を出た。

 

 少し胸が温かい。

 

 周りに味方がいるってこんな感じなのかもしれない。落ち込んだ時に、悩んだ時に、頼りになる仲間がいるって心強いもんだな。

 

 ……俺はゆりの味方になれていたんだろうか。いや、なれていなかったから後悔しているんだ。

 

 俺と、彼らとの違いは、一歩踏み込む勇気が俺には無かったからだ。

 俺は、俺自身と彼女を傷つけるのが怖くて見て見ぬふりをした。

 あの時必要だったのは覚悟だった。どんなことになっても救うという覚悟が足りなかったんだ。

 

 ……とんだ皮肉だ。あの時必要だったものが、死んで転生した後に分かるなんて。しかも心の怪盗団に。

 

「……額縁買ってくか」

 

 今の自分の気持ちが何だか面白くなくて、祐介のサインを隠すように絵の端っこを少し折った。くっきりと消えない折り目がついた。

 

 

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