怪盗団はカネシロパレスの最奥、カネシロのオタカラが眠る場所に来ていた。銀行を模したパレスの中のエレベーターを使い、地下の開けた場所に足を踏み入れた。
そこで待っていたのは、欲望の悪魔となったカネシロと豚型機動兵器『ブタトロン』だった。
「ゴミ共がYO! 俺様に大人しく潰されちまえって!」
『ブタトロン』の巨大な体躯と多彩な攻撃に翻弄されるも、新たに加わった新島真こと『クイーン』が、メンバーに的確な指示を飛ばしているおかげでブタトロンは撃破。
だが自慢の秘密兵器を破壊されただけでは諦めるカネシロではなかった。
「クソッ! こうなったら俺が直々に相手をしてやZE! カモ―ン! SP!」
パチンッ! とカネシロが指を鳴らすとどこからともなく二体の護衛のシャドウが現れた。一体は空中を縦横無尽に駆け回り、もう一体は屈強な体で大人一人分の大きさはある盾を両手に一つずつ構えている。
「って、お前は戦わないのかよ!」
「正々堂々金の力で戦ってんだろぉぉん!? 金があれば! 全部潰せて!! 人生変えられんだよぉ! これが俺の築き上げた力だ!」
「金の力が全て、ね。惨めな人」
「あぁん⁉ 今の一言は俺のハートにヒートを点けたZE‼ あいつらをぶっ潰せよ俺の護衛達!」
「「イエス、ボス」」
二体の護衛シャドウは怪盗団に襲い掛かる。
「このぐらい……」
「させないZE! 俺の歌を聞けYO オゥ! イェア!!」
カネシロが不気味な歌を口ずさむ。その歌声は脳と体に不可思議なやすらぎを与え眠りへと誘う。
「な、なにこれ……意識が」
「ふぁ……ねむ……zZ……」
「俺の
「睡眠ならワガハイのゾロのパトラで……」
「させるかYO! 迸るイナズマ! 電撃リリック!」
「っぐあぁっ!」
「モルガナ!」
カネシロの放ったジオンガがモルガナに命中する。雷が弱点のモルガナはダウンしてしまう。
「今だお前たち! 総攻撃チャンス!」
「「イエス、ボス」」
護衛のシャドウとカネシロが目配せをして、息を合わせて怪盗団に総攻撃を仕掛けた。カットインを幻視するレベルの息の合った連携で怪盗団を攻撃する。
「ぐっ……クソ!」
怪盗団は状態異常と大ダメージをもらい立て直しが必要な状況だ。
「これが金の力だ! このままお前らをプチっと潰してやるYO!」
だが、その隙をカネシロが見逃すはずがない。
もう一度カネシロが怪盗団に攻撃を仕掛けようとしたその瞬間。
――チン。とエレベーターが到着する音が聞こえた。
カネシロにとって間の悪い来客、怪盗団にとっては流れを変えるかもしれない人間。疑念と期待が交錯し、互いの視線はエレベーターへと向けられた。
「お。いいところに来た感じか?」
エレベーターの扉が開かれた。のんきな声で姿を現したのは、乙守胡桃だった。だが怪盗服を着た姿ではなく制服の姿のままだった。
「……ったく。おせぇんだよお前は」
「悪い、ちょっと迷った」
「あぁ? 誰だテメェは?」
「おー、ちょうど良い問題。『俺は誰でしょう?』、はい! ジョーカーくん!」
カネシロの問いをそのままジョーカーへと投げた。
「ブルだ。いいところを一人で掻っ攫う……俺らの仲間だ」
「……ああ、そうだよ。その通り」
「ハッ! たかが一人、それもよく見りゃあの時何も出来なかった役立たずじゃねぇか! そんな奴が一人増えたところで変わらねぇYO!」
「……いいや違う。何も出来ない役立たずじゃねぇよ。だって俺はもう『乙守胡桃』なんだから」
胡桃の周りの空気が震える。その顔にはいつの間にか牛の仮面が被らされていた。
***
『――よぉ、思い出したかよ。オレと最初に契約した時に言ったテメェのしたいことは』
俺自身が変われないから。この世界をぶっ壊す。
『――だがテメェは自覚した。自身の存在と価値について。それでもなおこの世界を壊すか?』
それだけじゃねぇよ。俺自身もぶっ壊してやる。ぶっ壊れてやるよ。
『――アハハハハ! テメェ自身も気に食わねぇと来たか!』
だからもう一度力を貸せよアステリオス。再契約だ。
『――いい覚悟だ! 我は汝! 汝は我!』
『さぁ! テメェの気に食わないもの全部、跡形もなくぶっ壊しにいこうぜ‼』
***
熱と暴風が辺りを覆う。その発生源はもちろん乙守胡桃だ。全身が青い炎に包まれ、熱のせいで周囲の景色が揺らめいている。爆発音と共に青い炎が勢いよく爆ぜると、乙守胡桃が怪盗服姿で立っていた。そしてその背後には巨大な牡牛が顕現し、パレスを震わす程の雄叫びを上げた。
「怪盗団の秘密兵器、ここに大復活だ」
「何っ……!」
「さぁて。久々にやるか、あの必殺技!」
胡桃がぐるぐると腕を回すと、背後のアステリオスも腕を回し始める。次第にアステリオスの拳は熱を帯び始め赤く光り、燃焼した拳が空中に軌跡を描く。
「防御したほうがいいぜ。カネシロ」
「舐めんなYO! いけお前ら!」
「「イエスボス」」
護衛のシャドウは胡桃に飛び掛かったが、それより僅かに速かった胡桃とアステリオスの拳が、二体の護衛シャドウの体にめり込んだ。衝撃と共に爆発が起こり、二体の護衛のシャドウはカネシロの元へと吹っ飛んでいった。
「何ィ!? ……クソ、お前ら立ちやがれ、テメェら雇うのにどんだけ金かけたと思ってやがる!」
「「い……イエスボス」」
二体の護衛のシャドウはフラフラと立ち上がってまだ雇い主を守る契約を全うするつもりだった。
「金の繋がりっていいよなサバサバした関係って感じがして、ぶっ飛ばすのに情けをかける必要はないからな……ジョーカー!」
名を呼ばれたジョーカーはブルの隣に立つ。今、怪盗団の中で動けるのはジョーカーとブルだけのようだった。
「今は俺達二人だけだが………やるぞ……総攻撃だ!」
「ああ!」
ブルとジョーカーはカネシロに飛び掛かり、先程の仕返しとばかりに息の合った連携攻撃で見舞う。
二人の息の合った怒涛の攻撃は、護衛のシャドウもろとも故障しているブタトロンまで吹き飛ばした。
そして、ぶつかった衝撃でブタトロンの機体は限界を迎え大爆発した。
その光景をバックにブルは拳を掲げて怪盗団らしくポーズを決めた。
「……ってか他の奴ら起こさなくてもやっつけられちまったな」
「ん、ふわ~ぁ……あ、よく寝た……あれ、なんで胡桃……じゃなくてブルがいるの⁉」
「大復活した。最強無敵の怪盗団の秘密兵器は何度でも蘇る……つまり今の俺はフェニックス・ブル……翼を授かった赤い牛……そうレッドブ」
「それ以上はいけない」
「なんか元に戻った感じですね。安心しました」
「あー起きた起きた……あれ何でブルがいんの?」
「大復活した。つまり俺はレッ」
「もうそのくだりはいいわよ。……カネシロに交渉しに行きましょ」
真が茶番を止めて怪盗団を連れてカネシロの元に向かった。当のカネシロは最後に残った金塊にしがみつき、ぶつぶつとうわ言を呟いている。
「全部、全部俺の金だ……誰にも渡したくねぇ……借金はチャラにしてやる、だから」
「んなもん当たり前だろうが。つか人から奪った金だろ」
「貧乏でバカでブサイクでバカにされた俺が成り上がるにはこれしかなかったんだよ……居場所が欲しかったんだ分かるだろ?」
「何が居場所よ! あんたが楽して儲けるために利用できる奴らを集めただけじゃない!」
「それにテメェだけがレッテル張られて苦しんでると思ってんのか⁉ 俺もこいつらもみんな戦ってんだ!」
カネシロは自身の境遇を話し、同情を誘うが怪盗団には通用しない。なぜなら今ここにいる怪盗団も居場所が無い者ばかりが集まり、居場所を奪おうとする悪人と必死に戦っているからだ。
「でも居場所はできたわよ。一生かけた償いの舞台がね」
カネシロはクイーンの言葉に観念したのか、怪盗団に向き直り座り込む。
「……ったく、お前ら要領悪いぜ、そんな力持ってんなら金儲けし放題なのによ……」
「テメェと一緒にすんじゃねぇよ」
「そんな青臭い正義感意味あんのかね。やってるやつがもういるってのに」
「もういる……?」
その言葉に疑問に持った怪盗団にカネシロは説明した。パレスを使って好き放題しているやつがもういる。そいつは『廃人化』や『精神暴走』なんでもしており、そいつの力は怪盗団の比じゃないと。
「言え! そいつは誰なんだ!」
「お前らじゃ敵わねぇよ。せいぜい出くわさないことだ」
そう言ってカネシロは光に包まれ成仏していった。カネシロの最後の表情は毒気が抜けたような穏やかな表情だった。
「黒いアイツの情報は無し……か。とりあえずオタカラを回収しよう」
「そうね。どうせなら一番大きいのを」
「ニャッフウウゥゥウウ!!!!!!!!!」
「な、なに⁉ ものすごい勢いでオタカラに飛びついてるけど」
「見るの初めてでしたっけ。発作です。すぐに元に戻りますよ」
「ほらモナ、さっさと車になぁー……れ‼」
オタカラに文字通り食い付いてるモルガナを引き剥がし、何もない空間に投げるとモルガナが車に変化した。
「生き物投げんじゃねーよ!」
「ほらさっさとオタカラ盗って逃げるぞ。パレスの主がいなくなってパレスが崩れ始めてる」
怪盗団は具現化したカネシロのオタカラを急いでモルガナの荷台に積み、怪盗団の面々も脱出のためモルガナに乗り込む。
「よし、脱出だ!」
モルガナカーがエンジンを噴かせ、パレスから脱出しようと走りだす
……が、このパレス自体が空中に浮いてることをこの場にいる全員忘れていた。
「「「「「「「うわぁああああああああぁ!!」」」」」」」
怪盗団は空中から落下する浮遊感と共にパレスから脱出した。
『ナビゲーションを終了しました』という音声が最後に聞こえた。
「Say who I am!!」
意訳:俺の名を言ってみろ!!
総攻撃した際に出てくる背景に書いてある台詞(乙守胡桃ver)です。