幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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『憤怒』の金字塔
#32 お茶でも飲んで……話でもしようや……


『今日メメントス行きたい』

『じゃあ俺も行こう』

 

7/11 月曜日 晴れ

 

 今日は蓮とモルガナと一緒にメメントスに潜った。アステリオスを取り戻した後の調子を確かめたかったから、一人で潜りたかったんだけど、蓮が用事無いからって言って付いてきた。蓮は今日はすみれと明智と一緒にお茶するイベントあったよな? だから今日を狙って一人でメメントスに潜りたかったんだけど、何故かイベントは発生しなかった。 なんで?

 

 まぁそこまで重要なものでもないしそこはスルー。蓮とモルガナがついてきたのも、今のこいつらの戦力を測る丁度いい機会だと思えばいい。なんせカネシロパレスは俺ほとんどいなかったし。ポジティブシンキング大事。うん。

 

 それに。

 

「しゃあ!! ぶっっっ壊れろ!!」

「ヒホー!!? ヒホ……」

 

 久々に暴れると気持ちいい。これ大事。うん。

 

「調子はすっかり戻ったみたいだな。ブル。むしろ強くなったか?」

「まぁな。これは俺の強化イベントみたいなものだったからな」

「強化イベント?」

「分からないなら適当に聞き流しといて」

 

 丸喜先生がアステリオスに施した『曲解』もそのままだ。氷結耐性が弱点から普通になったのは爆アド。でっけぇわ。このまま曲解を続けたら滅茶苦茶強くなれる。先生には早くあの力を使いこなしてもらわないと。

 

「それで原因はなんだったんだ?」

 

 馬鹿正直に『前世の人格』と『今の人格』とで揺れてたとか言えるわけない。

 

「原因は俺にも分からない。でも俺には怪盗団がいるって再確認できたから、お前らが前に進んでるのに、俺が折れるわけにはいかないってなったから」

 

 嘘ではない。怪盗団を打ち倒すまで俺が倒れるわけにはいかない。

 

「そうか、また()()あったら頼れよ」

 

 俺が思う、その"何か"を思いつく限り頭に思い浮かべた。

 

 今日の戦闘で分かったが、蓮の成長は凄まじく速い。先程の戦闘で見せた蓮のペルソナの『ヴァルキリー』、あれはレベル44で作れるペルソナだ。次のフタバパレスに出てくる敵シャドウのレベルは20~36だ。成長が早い。このまま行くとマルキパレスを攻略する頃にはレベルはカンストしていることだろう。……勝てるだろうか。

 

 それに擦り切れていく前世の記憶。睡眠を行うと人は学んだことをインプットするというが、どうやら俺は逆みたいだ。ゆっくりと何かが抜けていく感覚が朝目覚めるたびに襲う。それに今ここに立って演じている『乙守胡桃』が肯定されている状況は、胸の裏側を痒くさせる。

 

 そして俺に聞こえる謎の声とその存在。何かがいる。

 

「もう大丈夫だから心配すんなよ」

 

 懸念すべきことはたくさんある。だがそれをひっくるめて蓮の言葉に笑顔で返した。

 

「ならよかった。……じゃあ今日はここら辺で切り上げよう」

「ああそうだな。リハビリには丁度よかった」

 

 まぁ全部ひっくるめて一言言えるとしたら、もう頑張らないでくれって言いたいよお前には。

 

 

 ***

 

 

「あれ? 雨宮くん?」

 

 今かよ。

 

 明智&かすみとお茶するイベントが、メメントスから出た瞬間発生した。でもかすみは居ないな。別イベントか?

 

「あっ、雨宮先輩と明智さん! それに、えっと……乙守先輩!」

「こんにちは」

 

 そう思っていた時期がありました。あ、でも芳澤かすみがイベント通りに合流したけど、すみれも一緒に付いてきてるな。

 

「えっと君たちは、芳澤かすみさんと、芳澤すみれさん。だよね?」

「はい久しぶりです。明智さん」

「明智と知り合いなのか? どういう関係?」

「うちのお父さんTV局で働いているんです。『情熱帝国』って知ってます? あれのディレクターをしてて」

 

 ああ、班目の特集をしてた番組か。今思ったけどあれのディレクターってすごくないか?

 

「お父さんの番組に何度か呼んでもらってね。その繋がりであったことあるんだよ。というか君らも芳澤さんたちと知り合いだったんだね」

「前に助けていただいて、そこからご指導頂いてます。姉妹ともども!」

「こちらこそ有難い技術を教えてもらってる」

「……へぇ、君たちそうだったんだ」

「はい。それでですね報告したいことがありまして。雨宮先輩に話した夏の大会……」

 

 芳澤かすみは言葉を溜めてすみれの手を取った。

 

「その代表に選ばれたんです! すみれと二人で!」

 

 へぇ。ここはゲームでは芳澤かすみ(だと思っている芳澤すみれ)が代表として選ばれるシーンだ。だから選ばれるとしたら芳澤かすみだと思ってたから、二人選ばれるのはちょっと意外だ。

 

「おめでとう」

「芳澤さんたちが通っているクラブってかなりの名門だったよね。そこの代表なんて相当すごいんじゃない?」

「えへへ……ありがとうございます」

「代表の名に恥じないように頑張ります」

「うん。応援してるよ」

 

 激励の言葉を二人にかけた後、明智は俺たちを見て言った。

 

「せっかくなら、この五人でどこか寄ってかない?」

「わぁ! 嬉しいです! すみれも行くよね?」

「うん。……先輩たちはどうですか?」

 

 蓮と目線を交わす。蓮の方は答えは決まっていたようだった。まぁ俺も参加するか。別にここ重要イベントじゃないし。

 

「大丈夫」

「OK」

 

 全員の意見が一致したところで、明智おすすめのカフェへと向かった。

 

 

 ***

 

 

 カフェに入って各々、飲み物を頼んだ。明智はホットコーヒー、芳澤姉妹は試合前だから体を冷やさないようにホットティー。蓮と俺はアイスコーヒーを頼み、俺はテーブルにコーヒーが運ばれた途端すぐに砂糖とミルクを入れた。

 

 席は俺の両隣に蓮と明智、向かいに芳澤姉妹。合コンかな?

 

「明智さんは甘いもの好きそうなイメージでしたけど、フラペチーノとか頼まないんですか? この前もテレビで揚げパンを食べていたような」

「ああ、あれはイメージ戦略だよ。その方がファンが喜んでくれるから」

 

 明智はイケメンだが、男前というより甘いマスクを持っている美男子というタイプだ。そういうキャラが甘いものが好きというステータスは、お姉さま方の心にクリティカルヒットするんだろう。

 

「どうせ辛い物好きだったとしてもギャップ萌えでキャーキャー言われるんじゃねぇの?」

「それも考えたよ。僕自身辛い物嫌いじゃないしね」

 

 嘘つけ。お前文化祭でロシアンたこ焼き食って胃の中大炎上してたろ。

 

「気になっていたんですが、お三方はどういう知り合いなんですか?」

 

 芳澤かすみが俺達を見て質問する。

 

「僕が出た番組に、彼らが社会科見学に来たんだ」

「そっか2年はテレビ局でしたもんね」

「そこで少し意見交換したんだけど、考え方が面白くてね」

「わかる気がします。私も、雨宮先輩の意見に助けていただくことが多くて」

 

 ……ん?

 

「なぁ、蓮。お前、芳澤かすみと仲いいの?」

 

 コソコソと耳打ちすると、蓮は首を縦に振った。

 

「実はワイヤーの技術を学んでパレスで活用してる」

「マジかよ」

 

 おいおい、じゃあなんだ【信念】のコープをすみれじゃなくてその姉と結んでるってことかよ。

 

 ……えっと、その場合どうなる? 

 まず、ゲームだとすみれとのコープが進まないということだから丸喜エンドに行く条件を満たせない。だが、この世界でそういうフラグは無いはずだ。そこは問題ない。

 次に、すみれのペルソナが超覚醒ペルソナ(ヴァナディース)と三学期ペルソナ(エラ)に進化しない。コープが進行しないんなら当たり前だ。

 

 以上。……あれ? これアドだな。すみれがこのまま初期ペルソナなら、見切りスキルどころか固有スキルの『マスカレイド』(クソ強物理スキル)も覚えないし。ナイス! 蓮&かすみ!

 

「そういえばさっき。指導してもらっているって言ってたよね? それはすみれさんも一緒なのかな?」

「いえ私は蓮先輩ではなく、胡桃先輩の方からアドバイスを」

 

 ……? 俺なんかしたっけ? という疑問を飛ばす前に、明智が芳澤姉妹に問いかけた。

 

「じゃあちょっと遊びだけど、二人にも同じ問いかけをしようかな。 怪盗団のことをどう思う?」

 

 社会見学と同じ、俺達を問いかけたのと同じ質問だ。蓮は怪盗団を『正義そのもの』、俺は怪盗団を『利用するもの』と答えた。あの時怪盗団には蓮を怪しまれないようにするためになどと弁明したが、半分は本心だ。

 

 二人はしばし思考した後に、最初に口を開いたのは芳澤かすみだった。

 

「人助けは素晴らしいことだと思っています。けど私は賛成できないかもしれません」

「なるほど。理由を聞いてもいいかな」

「怪盗団の存在って結局世の中のためにならない気がするんです」

「どうして?」

「例えば、壁とか問題が目の前にあったら、それは自分の力で乗り越えないといけないと思うんです。周りの人に助けてもらうことがあってもあくまで自分の力で解決する……けど怪盗団の存在がいたら努力することを止めてしまいそうで。もちろん一概には言えませんし問題の大小もあるんですが、本人が頑張ることを止めて全部怪盗団任せになる世の中も良くない気がするんです」

「なるほど、人の成長という点ではむしろ妨げになっている……ということか」

 

 ゲームと同じだ。芳澤かすみの意見は『否定』だ。多分根底にあるのは無関心という第三者的な目線があるんだろうか、当事者じゃないときっぱり善悪の区別は難しいから、かすみの意見は一般的な意見でもある。

 

「私は……居てもいいと思います」

「すみれさんは賛成派かな。理由を聞いてもいいかい?」

「……確かにかすみの言うことには一理あります。でも怪盗団の姿を見て勇気をもらえる人だっているはずです。悪は正しく裁かれる姿を見て、自分も悪には屈しないって思うかもしれないですよ?」

「へぇ面白い。姉妹で一緒に育ったとしても意見が逆なのか」

 

 すみれは賛成派か。まぁ怪盗団に入ってるから当たり前といえば当たり前か。

 

「ねぇ、そこの二人ももう一度怪盗団について聞いていいかな?」 

「俺は怪盗団は正義そのものだと考えている」

「雨宮君は変わらないね。乙守君は?」

「あー……うん。俺も変わらず利用するものだな。というか正義の価値観って人それぞれだろ」

「それもそうかもね。じゃあここで言う正義っていうのは朝のヒーロー番組のような『分かりやすい正義』ということにしようか」

「なんか子供っぽいですね」

「はは、そうかな。でも僕は子供の頃ヒーローごっこして遊んでたよ」

「意外だな」

「誰しも生まれた瞬間から探偵ってわけじゃないからね。無邪気な時代もあったよ。それで、ヒーローというものにもそのスタンスは色々あるだろう?

 

 例えば、他人に認められなくても自分の正義を貫く者。

 例えば、自分がヒーローであるために求められるように振る舞う者、とかさ。

 

 ちなみに皆が思うヒーローってどんなだい?」

 

「自分の正義を貫く者」

「即答かよ」

 

 蓮が間髪入れずに答えた。まぁ前者がお前の生き方そのものだからな。

 

「私は明智さんの言ってた後者の方が共感できますね。私、新体操で結果を出してるんです。それに対して嫉妬や羨望の目を向けてくれてる人も多くいます。だからこそ私は相応の振る舞いを維持するのが、強者としての義務だと考えています」

 

 その次に口を開いたのは芳澤かすみだった。なるほど、強者という立場を振る舞う、か。それもまたヒーローなのかもしれないな。

 

「私は……諦めないこと。目標に向かって進み続けることが出来る人がカッコいいというか……ヒーローに近い人間かなと思います」

「いいね。それじゃあすみれさんも目標に向かって新体操を頑張っているからヒーローだ」

「そんな、恐れ多いです」

「そして、君は?」

 

 明智が俺に振ってきた。俺にとってヒーローか。

 

「……自己犠牲の精神がある奴。どんなに傷ついても大丈夫って言って必ず立ち上がって人を助けるような。……昔見たヒーロー番組がそんな感じだった」

「なんだ自己紹介か?」

「どういうこと?」

「それは胡桃自身だろってこと」

 

 ……………………。

 

「驕りすぎてる。俺はそこまで……」

 

 ――善人じゃない。その言葉は喉の奥で飲み込んだ。その言葉は『乙守 胡桃』という人間は言わない。

 

「そこまで……自己犠牲に溢れたやつじゃない。だって俺って完璧すぎてダメージ喰らう前に問題を片付けるから。パーフェクトヒューマンだから」

「はいはい。それで明智は?」

「……僕は、他人に求められる人がヒーローってことで。求められていない正義は独善的とも言えるからね。

 ……さて、お腹も減ったことだし、何か食べようか」

「じゃあ私BIGカツサンドで!」

「それじゃあ私も!」

「大丈夫? ここのカフェ、普通サイズでも結構ボリュームあるけど……」

「明智は知らないのか。この姉妹の健啖家具合を……」

 

 その後、芳澤姉妹がテーブルを占領するほどの大きさのカツサンドをぺろりと食べて、デザートも食す姿を見てドン引いていたレアな明智の顔が見れた。

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