幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#33 若いうちはとりあえず肉だ。 肉を食っていれば、人間は幸せになれるぜ

7/17

・肉フェス

 

「飲み物、プリントした地図、モバイルバッテリー、準備よし」

 

 部屋で少し大きいバッグに荷物を詰め込みながら忘れ物は無いかチェックしていく。明日は蓮、竜司、祐介と肉フェスだ。今回はメイドルッキンパーティーと違ってちゃんと誘われたからな。嬉しみ。

 

『なぁ明日肉フェス行かね!!』

 

 いやぁ俺のこと好きすぎかよ……。なんて冗談は置いといて明日の予報は晴天、そして夏の代名詞、猛暑だ。熱中症対策は必須ということで準備は万端にしなければいけない。それにTV中継される程のデカい催しものだ。人がいっぱいで何も食べれないなんてことが無いように計画を……。

 

 べ、別に誘ってもらって嬉しいんじゃないんだからねっ! 勘違いしないでよねっ!

 

 

 ***

 

 

7/17 日曜日 晴れ

 

 

 ……ちょっと早く来すぎたな。

 

 午前9時半。まだ昼前ということもあって、会場にいる人はまばらでまだ混んではいない。開場はしてるのだが、フェスが始まって店が開くのは10時からだもんな。結構混むものと思ったけどそんな気を張らなくてもいいのか。

 

 ほう、北海道産 特上牛タンにA4プレミアム牛カツ、厚切り牛タンステーキ……アイツら来る前に何品か一人で食うか。

 

 

***

 

 

 

「あ、胡桃お前先に来てたのかよ!」

「おう。来たか」

 

 三時間後、俺が場所取りしてるテーブルに蓮、竜司、祐介が汗だくでやってきた。

 

「んじゃコレ」

 

 とりあえず適当に買っておいた肉をテーブルに置いていく。カツサンド、ケバブ、肉巻き寿司等々。

 

「大人気のところは流石に人数分買えなかったけど、他のところはそこそこ買えたからよ」

「おまっ……神か?」

「おう、もっと崇め奉れ」

 

 ゲームじゃあんまり肉を食べれずに徒労に終わったからな。ちょっと不憫だと思ったから肉を食わせてやりたかったのもあるけどなによりこの前の恩返しの意味合いがある。

 

「まぁ……俺からの感謝料ってのと迷惑料でもあるからな」

「なんだそれ?」

「ほらパレス攻略で俺なんも出来なかったし、あとちょっとした"エール"のお返し」

 

 俺がペルソナを出せなかった理由とは関係ないけど、それはそれとして竜司と祐介の励ましは少し嬉しかったのも事実。肉フェスではその恩返しも含まれてる。……今度、真にもなにか返さなきゃな。

 

「んじゃいただきまーす!! ……っ! やっべぇ……これ」

「うまい……! うますぎる!」

「んまい」

 

 三人は舌鼓を打ち、これ食ってみろよとお互いにシェアしつつ肉を楽しんでいる。ここまで喜んで食べてもらうとちょっと早めに来てよかったと思える。

 

「ん? 胡桃、お前の分はどうした?」

「あぁ俺は先に来て色々食ってたから大丈夫」

「へぇどんなの」

「行列が出来てるあそこの飲むハンバーグと、ローストビーフ丼」

「飲む……ハンバーグだと……!?」

「ローストビーフ丼……! レンレン! 祐介!」

「よし来た」

「悪い胡桃、ちょっと席外す」

 

 竜司含め三人が席を立つと、食べかけている肉を持って行列に並びに行った。

 

 目玉のメニューはもう売り切れてるからすぐに戻ってくると思い、スマホを弄って『怪盗お願いチャンネル』を開いた。どうせならこの夏休みの最期に、腕試しとして一人でターゲットを改心させたい。書き込まれている内容を見ていく。

 

【ウザイ上司がいる。改心させてほしい】

【受験に落ちてほしいやつがいる】

【コイツ殺して】

 

 なんというか、怪盗団をなんでも屋とか呪術師とかとでも思ってんのか? それともそれを分かった上で宝くじ感覚でここに書き込んでいるのか。あわよくば、運が良ければ、不愉快な人間が消えるかもって。自分が変わる努力もせずに他人任せか。こりゃ悪神も動くわ。

 

 ……まぁ俺が言えた立場じゃないか。

 

「……ん?」

 

 一つ、目に留まった書き込みがあった。

 

【こいつ調子に乗ってるから“わからせて”。秀尽高校の乙守胡桃って奴】

 

 うへぇあ。名指しでご指名かい。そんなに嫌いか俺のこと。どれどれ……。

 

【・真面目だったのに転校生とつるみだしてから調子乗ってる。

 ・部活入ってないのに運動出来るアピールはウザい。

 ・その気の無い女子に手を出し過ぎ、そして飽きたら捨ててる。

 ・他人に良い顔しすぎ、八方美人。

 ・視界に入れたくない】

 

 嫌われ過ぎだろ……さすがにへこむぞ。まぁでも決めたわ。夏休み中にコイツを特定してメメントスで会いに行く。倒すのはそいつと出会ってから考える。

 

  ~~♪

 

 すみれからの着信が来た。三人はまだ行列に並んでいて帰ってこないのを確認をすると通話に出た。

 

「ほいもしもし」

『先輩っ……! 私……私やりました! うぅ……』

「ど、どうした?」

 

 電話口からは今にも泣きそうなすみれの声が聞こえてきて焦ってしまう。

 

『大会で獲りました……金賞!』

「えっマジか!?」

『マジです!』

 

 あまりに予想外の報告に思わず立ち上がってしまった。だってこの時点のすみれはまだスランプで大会で結果が出ないはずだ。

 

「……おめでとうすみれ。俺がこんなこと言うのは違うかもしれないけど自分のことみたいに嬉しい。だって頑張ってたのを知ってたから」

 

 だがシナリオが変わった驚愕以上に俺は心の底から祝福した。だってこれは俺が直接介入していない結果だ。事故とはいえ芳澤かすみを救い、芳澤すみれは怪盗団に加入した。間接的に彼女らの運命を変えているのかもしれないが、大会で結果を出したのは紛れもなくすみれの努力であり、それは誰のおかげでもない。すみれ自身が掴み取った結果なんだ。

 

『はいぃ……うぅ』

「はは、泣きすぎだろ」

『だってぇ……え、あ、ちょっとかすみ……。あ、はーい今替わりました銀のかすみです』

「どうも乙守です。妹が表彰台の上を獲った気分はどう?」

『滅茶苦茶おめでたい! けど、次は絶対に負けないって気分がごちゃまぜですよ! ……それですみれが何か言いたいことがあるみたいなのでもう一回替わりますね!』

 

 そう言って電話口の声が遠くなる。微かに聞こえるのは揉めているほどではないが、何やら言い合っている声。会話の内容までは聞こえない。

 

『替わりましたすみれです。えっと、先輩に伝えたいことがありまして』

「ん、なに?」

『そ、そのですね。私がここまで頑張れたのは怪と……ん゛んっ、えっと周りの方々と先輩のおかげだと思っているのでお礼を言いたくて……』

 

 今、怪盗団って言いかけたな? 人前だから気を付けろよ。

 

「真面目過ぎると大変だな。結果が出たのは本人の努力のおかげだし、俺にお礼とか言われる筋合いないでしょ」

『……まだ覚えていますか? 2年前の雨の日の事故のこと』

「え? ああ、まぁ」

 

 俺がすみれを庇って車に轢かれ入院した出来事のことだ。ゲームでは芳澤かすみが亡くなった日。

 

『あの日、もしかしたら先輩が助けてくれなかったら私死んでいたのかもしれません。それにパレスで助けてくれたときも。……他にも買い物した出来事とか。以前に言ってくれた頑張れって言葉も今も私の胸の中にあります。

 

 ……それに誰よりも先に結果を報告するぐらい、胡桃先輩のことを特別に思ってるんですよ?』

 

「……」

『ん…………? すみませんごめんなさい一旦切りますごめんなさい』

「おう」

 

 すみれは自分の発言に気づいたのか、少し早口になって通話は切れた。

 

「くっそー! やっぱ人気なとこは売り切れてたわ」

「成果は肉巻きおにぎりだけか……」

「おーい胡桃のも買ってきたぞ」

「……悪い今ちょっとお腹いっぱいだから代わりに誰か食って」

「夏バテか? 顔も少し赤いから気をつけろよ」

「……かもな」

 

 

 ***

 

 

「うあぁぁぁぁ……」

 

 通話を切ったすみれは羞恥でその場にしゃがみ込む。

 

「大胆だね~。“特別に思ってる”ね」

「いや、だって。お礼とか言われる筋合いないとかハッキリ言われたからムッとしちゃって言い返しただけだし」

「特別なのは否定しないんだ」

「うっ……かすみ嫌い」

「まぁまぁ、とりあえず写真撮って送ろうよ。お礼になった人たちに報告するために」

「……うん」

 

 スマホを起動して画角に収まるように二人は身を寄せる。

 

「すみれ」

「なに?」

「……次は私が勝つよ」

「……望むところ」

 

 彼女らのこれからをスタートする合図のようにパシャリ、とシャッター音が鳴った。

 

 スマホの画面には、乙守胡桃の知っている未来では見れなかった双子の笑顔が表示されていた。

 

 

 ***

 

 

 7/18 月曜日 曇り

 

 日は沈み昼のような灼ける暑さは無い代わりに、人込みによる熱と汗で出来たうだるような蒸し暑さが駅に充満している。なぜなら今日は花火大会。どこを見ても人、人、人。そして横には男、男、男、そして猫。

 今、俺達は女性陣が来るのを待っていた。ちなみにすみれは練習で来れないと連絡が来た。

 

「おっせーなアイツら」

「しょうがないだろ。女の人は着付けに時間かかるらしいし」

「……お前らは私服なんだな」

 

 この中で唯一浴衣を着てきた祐介は俺達三人を見る。うーん。祐介、お前ハマりすぎだろ。

 

「花火大会?」

「うちらもなんだけど一緒にどう?」

 

 待ち合わせをしているところに、髪色が派手な二人組の女性が話しかけてきた。いわゆる逆ナンだ。

 

「これ逆ナンってやつ?」

「だろうな。お相手の目的は祐介っぽいけどな」

 

 二人の女性は目線は俺たちの方を見向きもせずに祐介を見ている。

 

「待っててもしんどいしさ、お姉さんと行くのってアリ?」

「ナシだ」

「馬鹿かお前」

 

 竜司の提案を一蹴すれば、祐介は二人組の女性を追い払っていた。

 

「祐介はそういうの興味無いの?」

「無いな。というか友人との約束を破って女性と遊ぶのは人として無いだろう」

「だってよリュウジ」

「るっせ。つかお前ら二人も興味無いのかよ」

「「ノーコメントで」」

 

 まぁ正直、ワンナイトの関係ってのは後腐れ無くていいかもしれないけど、リスクが多いからな。金の出費やら人間関係諸々。

 

「というか、聞いたこと無かったけどオマエラってモテんのか?」

「俺は、「リュウジ以外に聞いてる」テメェ!」

「俺は何人か告白されたことはあったが、その時は環境が環境だったばかりにな。絵に集中したいからと言って交際は断っていた」

「へぇ、じゃあ今は誰かに好きです付き合ってくださいって言われたら付き合うのか?」

「それは……その時になってみないと分からないな」

「芸術分かってくれる人が見つかるといいけどな」

「かつ、俺のインスピレーションを刺激するような女性が好ましい」

「……理想高くね?」

「見つけたら生涯の伴侶になるかもな」

「ロマンチックだよなーそういうの」

 

 初恋が実って結婚ってどのくらいいるんだろう。俺もそうなりたかったな。

 

「お待たせー待った?」

 

 中身がありそうで無い男子高校生の恋バナをしてると、改札から杏と真がやって来る。浴衣を着ている二人は、人込みの中にいても目を惹くほど華やかだった。

 

「ぼちぼち待ったわ」

「リュージ、そこは『ううん今来たとこ』って言うんだぞ」

「今どきそんなベタな台詞は言わないけどね」

「じゃあモテ男代表の蓮。この場合はなんて言う?」

「『浴衣、とても似合ってて綺麗』だな」

「……まぁ正解、かな」

「流石。女心もお手の物ってか」

 

 蓮に褒められて、少し気恥ずかしそうに笑う杏と真。さっすが魔性の10股男。でもそんな事ばっか言ってると、いつか痛い目に遭うぞ絶対に。

 

「んじゃ混む前にいこっか」

 

 花火を見る場所を取られないように、見物客を掻き分けて歩いていく。車道には警官が赤く光る誘導灯を振って交通整理をしている。歩道には人が密集していて前に中々進めない。

 やがて、時間になって、破裂音の方を見ると、夜空に綺麗な花火が上がっていた。……建物に隠れてなければもっと綺麗だったろうに。夜空を見上げていると肌に水滴が落ちてくる。

 

「ん、雨だ」

 

 ポツ、と降ってきた雨はすぐに本降りになって、大粒の雨粒が降りかかってくる。

 

「一応こうなると思って持ってきたぜ。折りたたみ傘」

 

 ゲームで知ってたからな。ポーチから二本取り出して一本を杏の方へ渡す。

 

「一つ杏と真が使って、もう一つは俺達が使えばいい」

「おおナイス胡桃。流石じゃん」

「まぁ褒めても――」

「何故俺達四人で相合傘しなきゃならないんだ?」

「……いや男女で分けるだろ普通」

「4:2で分かれるより3:3で分かれた方が良くないか?」

 

 祐介自身どう考えてるかは知らないが、その発言の意図を男達は汲み取り、一瞬の静寂の後にじゃんけんの構えを取った。

 

「確かに」

「それはそうだな」

「やるしかねぇか……!」

「おーい男子共ー。濡れるし狭くなるからうちらは4:2でいいんだけど?」

「多数決とるか。3:3が良いと思う人」

「「「「「はい」」」」」

「モルガナ入れるのズルくない?」

「民主主義国家なんで。つーわけでいくぞ。じゃんけん――……」

 

 

 ***

 

 

「祐介、お前一番背高いんだから傘持てよ」

「なら胡桃がもっと中詰めろ」

「いやこれ以上は無理。竜司の肩幅がデカいんだよ。削れ」

「つかなんで傘二つしか持ってきてないんだよ」

「折り畳み三つも持ってくんのかさばるし、しんどいんだよ」

 

 勝者は蓮でした。うん分かってた。こっちは男三人で汗臭く相合傘してます。

 

「ちょっと男子うるさーい」

「ふふ……うるさーい」

「うるさいわよ(ダミ声)」

 

 蓮はこっち見て眼鏡をクイっと上げて笑っている。なんだその口調は。

 

「んーでもこのまま帰るのかぁ……」

「花火も中途半端だったからな。今度リベンジでどっか行くか」

「あれ、私は楽しかったけど?」

「ホントか?」

「うん。私こうやって友人とイベントに向かうって初めてだったから。準備から楽しかったかな」

「そうか。よかった」

「いやいや解散の雰囲気出してるけどまだ帰さないけど? カラオケいっぞ!」

「賛成!」

「カラオケ……私流行りの曲とか歌えないかも」

「なら童謡とかでも盛り上げるぞ俺らが」

「とりま行くぜ!」

 

 その後、SNSのグループにカラオケではっちゃけている俺達の記念写真が貼られていた。

 

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