幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#35 やはりエジプトか……いつ出発する?わたしも同行する

7/25 月曜日 晴れ

 

「「「暑っっつ!!」」」

 

 フタバパレス潜入時のキーワードを入力し、俺達は砂漠へと飛んだ。

 

 ここが佐倉 双葉の認知世界。遠くに見えるピラミッドこそが双葉が自身の家だと認知しているものだ。あそこに盗むべきオタカラが存在する。

 

「とりあえずモルガナカーでピラミッドまで行くか」

「あいよー……っこらせっと。暑いからさっさと乗り込めよ」

 

 変身したモルガナカーに真と杏は、運転席とその助手席に座った。残りの座席は三人用の座席が二つ。そして残りは男が四人で女が一人。

 

「「「「……」」」」

 

 瞬間、俺含め男達は奇しくも同じ考えが浮かんだだろう。"このクソ暑い車内で男三人肩突き合わせて座らなければならない"と。

 

「……デジャヴというのはこういう事を言うのだろうか」

「祐介、俺も同じこと思ったよ」

「次は勝つ」

 

 俺達各々が勝負の準備をしているのを、訳も分からずすみれは傍から見ていた。

 

「えっと、私三人の方に座っても大丈夫ですよ?」

「いや、これは俺たちの問題なんだ」

 

 その考えは確かにあった。ただ後輩の女子をより暑い席に座らせるのは、男たちの僅かばかりある先輩のプライドが許さなかった。

 

「勝者が後ろ。敗者は三人で座る」

「わかりやすい。じゃあ始めよう」

「この前の借りは返すぜ……!」

「いくぞ!! じゃん! けん――!」

 

 

 ***

 

 

「「「暑っつ……」」」

「暑いって言うと余計暑くなるから言うのやめて……」

 

 どこ座っても滅茶苦茶暑いです。なぜならモルガナカーの冷房は生温く、窓を開けようものなら熱風が入ってくる始末で車内はサウナ状態。じゃんけんの勝者は俺だが、別に得した気分にならねぇな。

 

「ここで死ぬ……か」

「熱中症で死なないで下さい。飲み物ありますよ」

「ああいや、そうじゃなくて双葉が言ってたこと。……水分は貰うけど」

 

 すみれからペットボトルを貰い、一口ほど口に含んで喉に流し込んだ。すみれに水を返したとき少し顔を赤くしてペットボトルを見てたから、本人も随分喉が渇いてたらしい。

 

「……なぁ死ぬならどうやって死にたい?」

「そこフォーカスするんですか? なんで双葉さんが死にたいとかじゃなくて?」

 

 まぁ双葉が死にたい理由は知ってるし。彼女が罪悪感によって死ぬべきだと自分で思っているから、キーワードが【墓場】なのもそういうことだ。

 

「……まぁ、好きな人の腕の中で息を引き取りたいですかね……」

「好きな人に殺されたいの?」

「なんでそうなるんですか!? 普通に老衰ですよ!」

「あぁなんだ。ロマンティックな死に方かと思ったら無難だった」

「……じゃあ先輩に聞きますけど。先輩はどうやって死にたいんですか?」

「あー……周りから呆れられそうな死に方以外ならいいかな」

 

 そう例えば酒を飲みすぎて死ぬとかね。前世に残してしまった母親に申し訳ねぇよ。

 

「先輩も案外普通じゃないですか」

「そうかも。あんまり実感無いし」

「でも私はどちらかと言うと死を悼む立場にいたいですから周りより長く生きていたいですね」

「残される立場ってのも中々きついぞ」

 

 当たり前のことだけど、亡くなった人は話せない。死んだ命は回帰しないということがどれほど恐ろしく、後悔してもしきれないのかを俺は知っている。

 

 だから佐倉 双葉の心の傷については痛いほど理解できるし、救いたいと思っている。

 

「双葉はさ、母親の死が処理しきれていないんだ、心が整理しきれていないからこれ(パレス)が存在する」

「じゃあ母親の死と向き合ったらパレスは消滅する……?」

「何も向き合うことが正解なんじゃない。苦しいなら全部投げ出せばいい。……例えば母親のことを全部忘れるとか」

「それはいくらなんでも」

「だよな冗談。でも人間の自己防衛でそういう機能が付いてるって話を聞いたから」

 

 あまりにも強いストレスがかかると人間は自身を守るためにその記憶を消す。そう思うと人間って複雑で都合のいい機能が付いててすげぇな。

 

「人間って不思議だよな。生物的には自己完結してるのにあまりにも他人に左右されすぎてる。怪盗団に対する世論を見てると常々思うよ」

「まぁ自分が――」

「あ、でも交尾するにはもう一人必要だから、自己で完結してねぇや」

「こっ!? ん゛んっ……! 先輩今日どうしたんですか本当に?」

「……暑いと思考がほわほわすんのかな?」

 

 ぼーっとして前を見てたら、前に座ってる三人が、杏と真の透けブラ見てしばかれてた。

 

「……お前ら何色だった?」

「 先 輩 ?」

「すいません」

 

 圧やば。

 

「というか先輩ってそういうこと興味あったんですね」

「そういうことって?」

「え!? あ、その、え、えっちな……

「やーいむっつり」

「なっ!? ……もう嫌いです先輩」

「ごめんて。ほら見えてきたぞピラミッド」

 

 からかって拗ねた後輩に窓を見るように指を差す。そこには太陽よりも光輝たらんと鎮座す、巨大な金字塔が建っていた。

 

 ***

 

「涼し~~!!」

「生き返る~!!」

「オアシスだこれ」

「ピラミッドなのにオアシスとはこれ如何に」

 

 ピラミッドの中に入ると日陰とはいえ外とは比べ物にならない清涼な空間が広がっていた。

 

「おそらくピラミッドは双葉さんの家という認知だからクーラーがかかって涼しいのかも」

「服が怪盗服に変わっていないのも俺達が招かれてここにいるからって事かもな」

「警戒されてないんだね」

「とりあえず進みましょう。今回は簡単にオタカラ盗めそうです」

 

 パレスを進み、数百段はあるであろう階段を上っていくと目の前に女の子が現れた。

 

 オレンジ色の髪、小顔の半分を覆うようなレンズの大きいメガネをかけ、そして現代から浮世離れした格好をしている。

 

「お前が佐倉 双葉だな」

「……」

 

 返答は無いが、このパレスの主であるシャドウの『フタバ』だ。

 

「我が墓を荒らす者、何しに来た」

「は? そっちが盗って欲しいってお願いしたんだろ?」

「盗れるものなら盗ってみるがいい。我がパレスはこのようになっているのだから」

 

 直後、パレス内にこだまする罵声の数々。

 

 

『人殺し』『お前のせいだ』『産まなきゃよかった』

 

 

 老若男女問わず聞こえる罵詈雑言の嵐。その中により鮮明に聞こえる女性の声があった。

 

 

『鬱陶しい』『お前さえいなければ』

 

 

 内容からして母親の声だろう。

 

「そう、私がやった。私が母を殺した」

 

 突然、罵詈雑言の嵐が止み、次にやってくるのはパレス全体を揺らす地響き。

 

「ここには母もいる。私はここにいる。死ぬまでずっとここにいる」

 

 フタバの姿が消えると、俺達は怪盗服の姿になった。

 

「警戒されたのか! どうなってる!?」

「取り敢えず安全な場所で――……」

 

 真の言葉を遮ったのは、ズガン! と大きいものが落ちる音とその正体。巨大な岩石で出来た球体が、階段の上から重力に従い加速しつつ転がってきた。

 

「マズい……オマエラ走れぇぇえええ!!!!」

 

 叫びながら入り口まで走り、物陰に身を隠して球体をやり過ごした。一旦の難は去ったが、先程までは無かった扉が階段の前に立ちふさがっていた。

 

「事情を聞こうにもこれじゃ会うことすら厳しいな」

「……取り敢えず一旦退いて態勢を整えてから行こう。一筋縄じゃいかないみたいだ」

 

 

 ***

 

 

 俺達はパレスを出てルブランで作戦会議を始めた。

 

「メジエドが指定したXデーは8月21日。その前には佐倉双葉を助けないと。期限は8月19日かしらね」

「ワガハイ達の墓場にならないようにくれぐれも気を付けて行動するぞ!」

「っはは! とんでもねぇ夏休みになりそうだな。世界的ハッカー相手にして、ピラミッドでオタカラ探しだぜ?」

「あんたさぁ……怪盗団存続の危機だよ? 分かってんの?」

「わあってるよ」

 

 竜司は普通から逸脱したこの状況が楽しいらしく、逆に杏は真剣らしい。

 

 おそらく杏がこんなにも真剣なのは双葉の境遇に同情してしまったからだ。杏も母親と離ればなれで暮らしており、親の繋がりが希薄だからこそ、親のいない孤独や寂しさが人一倍分かるんだろう。

 

「よし。一度解散して各々体を休めておいてくれ、解散」

 

 

 ***

 

 

7月26日 火曜日 晴れ

 

 翌日から俺達はフタバパレスの攻略に取り掛かっていた。階段の前に壁があるため、地下から潜り込み内部へと侵入した。このパレス、ゲームだとギミックが多いし、敵もそこそこ強いから苦労した覚えがあるんだけども……。

 

「戦闘終了。楽勝だったな」

 

 楽々と中ボスも倒し、パレスを攻略していく。俺達強くなりすぎてるわ。道中の雑魚シャドウ【瞬殺】してたしな。そのぐらいレベルの差があった。

 

 苦戦すること無くパレスを攻略していると、一つの操作盤へとたどり着く。

 

「……? なんだこれ?」

「とりあえず起動するか」

 

 ジョーカーが触れると、目の前に図柄がバラバラの壁画が現れた。今度は図柄を揃えるパズルのギミックだ。すでに知識のパラメータが『博識』になってそうであるジョーカーが瞬時に図柄を揃えると壁画が完成した。

 

「これは、大人が泣いてる子供に何かを読んでいる絵だろう。……描き手の心情がよく表れている」

 

 祐介がそう言うと、壁画から声が聞こえてくる。

 

『双葉なんて産まなきゃよかった』『鬱陶しい』『お母さんは双葉ちゃんのことで悩んでたんだろうね』『育児ノイローゼだったんだろう』

 

 ……この壁画は双葉に母親の遺書を読み聞かせている画だ。母親が亡くなって精神が不安定な双葉に対し、大人たちが若葉の遺書を読み上げ『母親が自殺したのは育児ノイローゼだった。双葉のせい』と告げている。

 

 だがそれは間違った真実だ。大人たちは一色若葉の『認知訶学』の研究を独占したいがために、一色若葉を殺し、死の責任を双葉に擦り付けて心を折った。そのために偽物の遺書を作って読み上げたのだ。

 

 目の前で、大きな声で、大人の目を浴びせながら。

 

「……っ」

 

 奥歯を強く噛みしめ、怒りを抑えた。実際に壁画を見て、ゲームじゃわからなかった細かい部分まで気付いたからだ。

 

 ――こいつら楽しんでる。

 

 泣いてる双葉に対して、口元を隠し笑っている者、面白がって母親の気持ちを代弁しようとする者、周囲の人間に噂を流布しようとする者。

 

 こんなものはいじめだ。弱者を寄ってたかって叩いて悦に浸り、他者の心を殺して自身の心を満たす。たとえこいつらは双葉が自殺しようと、「だって命じられてやったことだから」という大義名分を掲げて罪悪感すら感じないだろう。

 

「クソに群がる蝿共がよ……」

 

 双葉は周りの大人とその状況を客観視出来ないほど、母親の死とその遺書の内容がショックだったんだろう。

 

「……早く助けてあげないと」

「ああ」

 

 

 ***

 

 

 二つ目の壁画の下まで来た。今度は車に一色若葉が飛び込んでいる様子が描かれている。

 

「目の前で死んだ、ってことだよな?」

「……辛いね」

 

 ただこれも自殺などではない。一色若葉の『認知訶学』の研究が欲しくて連中が殺したのだ。そしてその犯人は明智吾郎だ。一色若葉の精神を暴走させて自ら道路へ飛び出させ、車に轢かれた。

 

「……」

「ブル?」

「なんでもない。大丈夫。進もう」

 

 

 ***

 

 

 最後の壁画へと辿り着いた。そこには子供が構って欲しくて母親の服を引っ張っている絵が描かれている。

 

『……お母さん……わたし、いつも一人ご飯なの嫌だ……コンビニの弁当ばっかり……どっか行きたい、連れてってー!』

『ワガママ言うんじゃないの! お母さんだって頑張ってるんだから! ……ああ、もう!』

 

 子供を叱りつける声でその壁画は消滅し、道が開かれた。

 

「甘えていたの双葉さんでしたよね」

「随分寂しい子供時代だったんだな」

「でも、子供が親に甘えるのは普通だと思うけどな……」

「…………私は死ぬべき」

「……!」

 

 突如目の前にフタバが現れた。

 

「私が殺した。だから墓場にいる」

「死ぬなんて簡単に言わないで!」

 

 杏がフタバの言葉に強く反論する。俺も杏に便乗して反論しようとしたが言葉が出なかった。

 

 だって理解してしまったから。辛い事から逃げて死んでしまいたいと思うことを。

 

 

「……最後の扉を開けるには王の許可が必要だ」

 

 

 フタバが言うには、シャドウの自分では開けられない。現実の双葉に部屋に招き入れてもらわないと入れない。

 

「招き入れてもらえば最後の扉の認知が変わって入れるようになるって訳か」

「ああ…………ここまで来たお前達なら出来るかもしれないな」

 

 今度こそフタバは姿を消した。これでオタカラルートは確定した。後はオタカラを盗るだけだ。

 

「双葉は確か重度の引きこもりで『絶対部屋に入れてくれない』ってマスターが言ってたな」

「でも、強引にやるしかないと思う。ジョーカー、決行日は任せる」

「気合い入ってんな。取り敢えず一旦パレスを出ようぜ」

 

 俺達は予告状を出し、万全の準備を整えるためにパレスから現実世界へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その晩、乙守胡桃は夢を見た。今は遠い前世の記憶の夢を。

 

 

 

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