幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#37 ラッキーパンチってのは狙って出すもんだ

『佐倉双葉は、大罪を犯した。

 

 部屋から出ず、人と交わらず、惰眠をむさぼるだけの非生産的な生活。

 

 よって我々が、その『歪んだ欲望』を根こそぎ奪い取る。

 

 俺たちは『心を盗む怪盗団』。己は陽の光を浴びることになろう……

 

 その時を楽しみに待て』

 

 

***

 

 

 フタバパレスの閉ざされていた最後の扉が開く。中の景色は、双葉の頭の中が再現されているのか、プログラムコードが常に更新され続け、足場や建造物は前衛的ともいえるほど無茶苦茶に配置されている。

 ワイヤーを駆使して進み、オタカラがある部屋の前までたどり着く。

 

「この先にオタカラの匂いがするぜ!」

「さて、鬼が出るか蛇が出るか」

「出るとしてもシャドウだな」

「何も出ないで欲しいのが本音です……」

「よし、オタカラを盗んで双葉ちゃんを助けよう!」

 

 ジョーカー達は扉に手を掛けて中へと入る。

 

「……全然、何もねぇな」

 

 スカルの言葉通り、埃っぽい部屋の中には棺が一つ。オタカラの光どころか財宝一つすらない。

 

「あの棺の中かしら」

「ならとっとと頂こうぜ!」

「オタカラ……!」

 

 スカルとモナが棺に近づくと、突如パレス全体揺らす地響きが襲う。いや、正確に言えば地響きではない。

 

 外壁に何かぶつかったような直接的な衝撃。まるで暴君の子供がブロックで作りあげられた城を壊すような、破壊音。

 

 そして部屋に陽が差し込むと同時にその暴君は姿を現した。

 

「フゥゥゥゥタァァァァバァァァァ!!!!」

 

 頭は人間、胴体はライオン、背に巨大な翼を携えてパレスを支配する怪物が現れた。巨大な翼で部屋の壁を吹き飛ばし、外気に晒される。ピラミッドの頂点、太陽に一番近い場所が決戦のフィールドとなった。

 

「デカすぎんだろ!」

「鬼でも蛇でもなくスフィンクスが出るとはな」

「まぁピラミッドなら妥当だな」

「言ってる場合か! 来るぞ!」

 

 スフィンクスが巨大な前足を振り上げ、怪盗団へと叩きつける。直撃した者はいなかったが、地面が砕けた礫が飛散しダメージを喰らう。

 

「……っこんの野郎!」

 

 竜司が武器を振りかぶり前足で攻撃しようとするが、スフィンクスはそれを飛んで回避する。

 

「あっ! 逃げんな!! ……踊れ! カルメンッ!」

 

 空中へと逃げるスフィンクスに杏のペルソナが追撃する。

 

「飛んでいては物理攻撃は当たらないわ! 皆、射撃かペルソナで応戦して!」

 

「おう!」「ああ!」「はい!」

 

 祐介、蓮、すみれが空中に飛んでいるスフィンクスに向かってペルソナや銃を使って攻撃を繰り出す。

 

「ぐっ……!! うおおぉぉぉぉぉおお!!!」

 

 直撃したスフィンクスは雄叫びを上げ反撃する。体内の骨を揺らすような絶叫が怪盗団に襲いかかる。

 

「……っぅるさい!!」

 

 その後追撃のお返しと言わんばかりに巨大な翼をはためかせ暴風を巻き起こす。

 

「うおっ!?」

 

 疾風属性が弱点の竜司はダウンしてしまう。その隙にスフィンクスは姿が見えなくなるほど遥か上空まで急上昇した。

 

「皆! 今のうちに態勢を整えましょう! モナ! ジョーカー!」

「任せろ!」

 

 打撃を喰らった怪盗団はモルガナや蓮のスキルを使い状態異常と体力を回復し始める。

 

「王の墓をぉぉぉお……!! 荒らすなぁぁぁああ!!!!」

 

 スフィンクスはその隙を見逃さず、怪盗団を木っ端微塵にしようと、巨大な体躯をぶつけようと急降下してくる。

 

「ヤバイ! お前ら防御しろ!!」

「っ! スカル危ない!!」

「……ってぇ~~、あ?」

 

 ダウンと眩暈から回復した竜司が今の状況を把握するが、隕石のように突撃するスフィンクスが激突するまであと一秒もかからなかった。

 

 そしてスフィンクスが怪盗団へと激突した。とてつもない衝撃が怪盗団へと襲い掛かる。竜司以外はガードしていたので致命的なダメージは喰らわなかったものの、竜司は戦闘不能となるダメージを受ける……はずだった。

 

「っうあぁああああああああ……ってあれ?」

 

 木っ端微塵になるはずだった竜司の体は五体満足で存在した。ガードをしていた他の面々よりダメージが入っておらず無傷。そしてスフィンクスが痛がるように空中でもがいている。

 

(これあんま見せたくなかったんだけどなぁ……バレて無いよな?)

 

 竜司がダメージを受けなかったのは、胡桃のアステリオスが所持しているスキル『テトラカーン』を竜司に使ったからだ。

 『テトラカーン』は味方単体の物理攻撃を一度だけ反射するスキル。胡桃は怪盗団との決戦の日までにとっておきたかったが、竜司を守るためにやむを得ず使ってしまった。

 

「な、なんで俺ダメージ受けて無いんだ?」

「良かったな竜司! なんかわからないけど助かったな!」

「いやブル先輩がペルソナ出してたの見えてましたよ」

 

 誤魔化そうとしたものの、しっかり見られていた。

 

「ただアイツの攻撃が激しすぎる。このままじゃジリ貧だぜ」

「ダメージは入ってるけど倒れる気配が一向に無いな」

 

 カネシロ+ブタトロンのHPが3500に対し、フタバパレスのボスである『イッシキ ワカバ』のHPは18000もある。とある抜け道はあるものの、普通に戦っても厳しいバトルになるのは想像に難くない。だから今までのターンはイベントを起こすための時間稼ぎだ。

 

(双葉が来るフラグは回収したからそろそろ来ると思うんだが……)

 

 その時、一人の少女がこの場に現れる。肩まで伸びたオレンジ色の髪、ノースリーブから見える肌は日焼けを知らないほどに白く、同じ年の子を比べても華奢な体をしている。

 

「双葉!?」

「うん……」

「本人がパレスに入るだと? そんな事したら……!」

 

 双葉が空中を自在に飛ぶスフィンクスを見て呟く。

 

「お、母さん……? うぅ……!」

 

 そして苦しそうに頭を押さえてしゃがみ込む。見てはいけない現実を直視したように。

 

「そうだ! お前が私を殺した!」

「もしやあの化け物、母親か!?」

「欲望と罪悪感が認知を歪めたんだろう。死んだ母に生き返って欲しいという願いと気持ち悪い罵声が入り混じっている……」

 

 スフィンクス。否、認知存在である『イッシキ ワカバ』は大声で双葉に罵声を浴びせる。

 

「私の邪魔をする鬼子め! お前さえいなければ! 時間を邪魔すること無く、成果を発表できたというのに! 私が心血注いだ世紀の発見を!」

「世紀の発見……もしかして『認知訶学』のことか?」

「死ぬのよ! お前は嫌われ者!」

「誰も……私の事なんて……」

 

 双葉が幻覚と幻聴で苦しみ、呻き始める。

 

「双葉は自分が母親を殺したと、そして自分が死ねばいい思い込んで、己の死を望む母親がいるパレスを生み出してしまったってこと?」

「双葉ちゃんしっかり見て! あんなのが母親なわけがないでしょ! あれはあんたの幻! 虐待なんてしてないはず!」

「マスターが言っていました! 『母親の手一つで頑張って育てていた』と!」

「誤った記憶が刷り込まれてるんじゃないのか?」

「誤った……記憶……?」

 

 怪盗団の言葉で、双葉は幻覚と幻聴の中、必死に記憶を手繰り寄せる。

 

 しかし彼女に聞こえてくるのは罵声と母の怨嗟のみ。

 

『お前のせいで』『鬱陶しい』『産まなきゃよかった』

「私……は」

 

 

 双葉の心が折れかけ、歪んだ現実を受け入れようとした瞬間、フタバのシャドウが目の前に現れた。

 

 

「――佐倉 双葉! 思い出せ!」

 

 

 

 

 ***

 

 

 

 

 双葉の脳内で双葉とそのシャドウが問答を始める。

 

「自殺したのはお前のせい。研究を邪魔したから……なぜ自殺だと思った?」

「……遺書」

 

 シャドウの確かめるような問いかけに双葉は端的に答える。

 

「黒い服に見せられた遺書だ。何が書いてあった?」

「……私への恨み」

 

 絡まってしまった紐を解くように、雁字搦めの記憶を彼女らは確認してほどいていく。

 

「お前は辛くて、ショックで、目を逸らした。だが黒い服の大人は延々と読み上げた。大勢の人の前で。

 ……よく考えろ。あの遺書は本物か? あんな酷いこと一度でも言われたか?」

「………………」

 

 そして双葉は気付いた。否、見つけ出した。己が目を逸らし続けた真実を。

 

「――……ない!」

 

 顔を上げると、その真実を力強く言葉にした。

 

「私が我儘言ったときは怒られたけど、優しかった!」

「ならばあの遺書は?」

「真っ赤な偽物だ!」

「お前は利用されたんだ! 遺書を捏造し、死をなすりつけ、幼い心を傷つけ、踏みにじった! ――怒れ! クズみたいな大人を許すな!」

 

 主の分身であるシャドウも主の感情に共鳴して、平坦だった声に、感情が乗り始める。

 

「私が、自分自身と、お母さん自身の死と向き合わなかったせい! なんで私あんなこと言われなきゃならなかったの!」

 

 

 

***

 

 

 

 

 力強く立ち上がった彼女の脳内に声が響く。

 

『――お前を否定するものは幻影。心無き者共が施した呪い』

『――元よりお前は知っていた。知っていながら怯えてきた』

 

「そう知ってた。でも私「お前のせいで私はっ! 今度はお前が死ねっ!!」

 

『――言われた通りにお前は死ぬのか?』

『――お前はどちらに従う? 幻が吐く呪いの言葉か、お前の魂か』

 

「お前のせいだ! 全部っ!! お前のっ!!」

「――違う」

 

 双葉が一歩、足を前に進める。

 

「私はもう歪んだ上っ面なんかに騙されない。他人の声にも惑わされない。自分の目と心を信じて真実を見抜く」

 

 彼女の憤怒が、一歩また一歩と突き動かす。

 

「お前なんかお母さんの訳ない! 腐った大人が作った偽物だっ! 絶対に……絶対に……」

 

 奴らが傷つけ奪っていった自身の心と母親の尊厳を奪い返すために、

 

 ――彼女は、反逆の仮面を被る。

 

「許す、もんかっ!!」

 

 彼女のシャドウが空中に浮かび、黒い円盤へと姿を変えた。それは未確認飛行物体、或いはUFOと呼ばれるようなものだった。

 

『――【契約】我は汝、汝は我』

 

 UFOから触手が伸びて、双葉をその中へと招待する。その中は幾何学的な紋様や、いくつも並べられた数式が双葉の周りを漂っている。双葉の蓄えてきた知嚢と、鬼才たる脳みそが瞬時に理解する。

 

『――禁断の叡智は開かれた。いかなる謎も幻ももはやお前を惑わせない』

 

 これは、奴を打ち負かす数式であると。

 

「お願い手伝って。あいつやっつける!」

 

 全員がその言葉に頷き『イッシキ ワカバ』へと向き直る。

 

「双葉ァ! お前をそんな風に育てた覚えは無いィ! 悪い虫をウジャウジャつけてェ!! お前は私の言う事に従っていればいいんだよォ!!」

「違う。お前はお母さんなんかじゃない!!」

「母親に口答えする奴はァ……潰すッ!!

 

 『イッシキ ワカバ』は上空へと飛んでいき、再び急降下攻撃を仕掛けようとしている。

 

「またか! 襲ってくるタイミングが分からないどうすれば……!」

「ここは私に任せろ!!」

「死ねっーーーー!!」

 

 彼女のペルソナ、【ネクロノミコン】の力を使い、双葉は認知世界をハッキングし、フィールドを書き換える。叫び声をあげて急降下してくる『イッシキ ワカバ』から、怪盗団全員の身を守るドーム状のシールドが形成された。シールドに正面衝突した『イッシキ ワカバ』は自身にダメージをもらう。

 

「ぐうっ!! フタバァ!! お前をあれだけ育ててやったのに! 私はお前のたった一人の母親だろうがぁ!!」

「違う。双葉はもう大丈夫だ」

 

 『イッシキ ワカバ』の発言を蓮が切り返す。

 

「なんだとっ!? 何故認めない!? 何故何故何故何故何故何故何故!?」

「……そいつの言う通りだ。お母さんはもういない。どれだけいて欲しいと願っても絶対に叶わない。だから私はお母さんのいない世界で生きていく!! そんで、めいいっぱい幸せになるんだ!!」

「子供が生きていくには私みたいな絶対的な母親が必要なのだ!! わかるかァ!?」

「お前は偽物だ」

「わ、わわわわわたしが、偽物!?」

 

 双葉本人に拒絶され、蓮に真実を突き付けられて『イッシキ ワカバ』は動揺したように声を震わす。

 

「お母さんは大切だ。今でも、ずーっと大好きだ! でもそれはお前じゃない! それに全部他人に決めてもらうような人生私はごめんだ!!」

「ッ! 親に逆らう悪い子は全員潰れてしまえ!!」

 

 ままならぬ子供のワガママを躾けるかのように、怒りのまま前足を振りかぶり、怪盗団を薙ぎ払おうとする。

 

「それも……させないっ!!」

 

 だがその攻撃も双葉が作り出したシールドで防がれる。攻撃の衝撃が跳ね返り、反動で『イッシキ ワカバ』がピラミッドの壁面にもたれかかるようにしてダウンする。

 

「お前なんか母親じゃない!! 皆やっちまえ!!」

 

 双葉の言葉で、怪盗団全員で襲い掛かり、総攻撃を仕掛ける。

 

「ぐうぉぉっぉぉおぉおっ!! このクソガキ共がぁあああああ!!

「ちっ! しぶとい!」

 

 総攻撃でかなりの痛手は負わせたものの、まだ倒れるには早い。だがあちらもかなり消耗しているのか、空を悠々と飛ぶことはなく、攻撃が当たらないように旋回するだけだ。

 

「双葉ァ……! お前なんか産んだせいでぇ……! お前なんか、お前なんかぁ……! 私の研究の邪魔ばっかりして! 子供なんて産まなければよかったのよォォォ!!」

「そんなことない」

「いいや思ってたァ!! 双葉さえいなければ私はァ!!」

「……違う。お母さん言ってた。私がいるから辛くても頑張れるって。重荷になるからって勝手に怯えて遠ざけていたのは私の方だ!」

 

 もう、双葉は惑わされない。真実を見つける力を得た。

 

「ハァ……! どう足搔こうとお前は私から逃れることは出来ない!! 一生罪の意識に苛まれて苦しみ続けるんだァ!!」

「俺達がいる。双葉はもう一人じゃない」

 

 そしてそれを支える仲間が出来た。

 

「そ、そんなことが出来るはずが……!」

「いいや出来る。こいつらとなら不可能だって可能に出来る!」

「クソッ!! クソクソクソがァ!! お前ら全員死んでしまえェ!!」

 

 再び、『イッシキ ワカバ』は攻撃のために助走をつけ、上空からこちらに突進しかけてくる。

 

「それはもう見た!! これも私が」

「いいや双葉! タイミングを教えてくれ!!」

 

 胡桃がアステリオスを出して攻撃の矢面に立つ。

 

「何するつもりだ胡桃!」

「フェザーマンビクトリー第11話!!」

「いや本当に何するつもりだ!」

「……! なるほど理解した! カウントに合わせろ!」

「なんで通じ合ってるの!?」

 

 何故か双葉と胡桃が通じ合い、胡桃のアステリオスは拳を構え力を溜めている。

 

「久々叫ぶか必殺技……! 取り敢えずお前ら総攻撃の準備しとけ!!」

「お前なんかァ!! 産まなければァ!!」

「その問答はもう聞き飽きた。…………『テトラカーン』」

 

 拳を構えつつ、アステリオスに『テトラカーン(物理攻撃反射)』をかけた。

 

「来るぞ、ええと」

「ブルだ」

「……構えろブル、3、2、1、――今だ!!」

 

 双葉の合図で下から拳を振り上げる。高速で急降下してくる『イッシキ ワカバ』の顔面をアステリオスの拳が的確に捉えた。

 

「赤・灼・爆・拳!!」

 

 『イッシキ ワカバ』の急降下突進の落下に合わせて放った最大威力のカウンターアッパー。当然ひとたまりもない威力が『イッシキ ワカバ』に入る。ちなみに『テトラカーン』を付与しており、急降下した際の落下エネルギーごと反射しているので、想像以上のダメージだろう。

 

「ぐ、うおおぉぉぉぉぉおおぁああああ!!」

「「『ラッキーパンチだ。効いただろ?』」」

 

 双葉と胡桃が息ぴったりに台詞を吐くと、『イッシキ ワカバ』はダウンする。

 

「チャンスだ! ボコボコにしちゃえー!!」

 

 怪盗団に怒涛の追撃を喰らい、すでに体力も尽きている『イッシキ ワカバ』。ピラミッドにもたれかかってそこから動き回れる体力も残っていない。

 

「双葉双葉双葉双葉ぁあああ!!」

「もう終わりだ。双葉は頂戴した」

 

 とどめを刺そうと蓮が銃を突き付けても、未だ『イッシキ ワカバ』の目の奥に煮えたぎっている憎悪と敵意を双葉に浴びせている。

 

「うるさいうるさいうるさぁぁぁぁい!! お前さえ、お前さえ産まなければ……!」

 

 最後まで呪詛を吐き続ける『イッシキ ワカバ』。しかしもう双葉の心には届かない。

 

「何を言われようと……私は生きる!!」

 

 なぜなら、幻に惑わされている彼女はもういないのだから。

 

「――っ、撃ってぇぇええ!!

 

 弱い自分との決別。その想いを乗せて彼女は力の限り叫んだ。

 

 ――発砲音の響く音は、『イッシキ ワカバ』がピラミッドから転がり落ちる音に掻き消された。

 

 怒号飛び交う金字塔の戦いは幕を閉じた。

 

「……ふぁ」

「双葉!」

 

 戦闘終了と共にペルソナを解除した双葉がその場でへたり込む。怪盗団が心配して駆け寄るが、すぐに立ち上がって自身の姿を確かめる。

 

「うおっ、なんだこれ、すげぇピッチピチだな」

 

 双葉の服装は近未来SF作品に出てきそうなサイバースーツだった。ウエットスーツのように肌にぴっちりと密着しており、彼女の仮面はゴーグルで他の怪盗団と少し変わっていた。

 

 双葉が興味深々で自身の怪盗服を確認していると、突然強い光と共に一人の女性が現れる。

 

「……双葉」

 

 そこに立っていたのは先程までの歪んだ認知存在の『イッシキ ワカバ』ではなく、双葉が正しく認識し、そして失った本物の『一色 若葉』だった。

 

「……! お母さん!」

「双葉。本当の私のことを思い出してくれてありがとう」

「ワガママ言って、ごめんなさい。お母さん」

 

 双葉はもう会えない母親に近づこうと歩み寄る。

 

「……こっちへ来てはだめ」

「え?」

 

 しかし歩み寄ってくる双葉を、若葉は制した。

 

「あなたの居場所はここじゃないでしょ?」

「せっかく……会えたのに」

「またワガママ?」

 

 子供を宥めるように優しい声で双葉を叱る。もう向くべき方向は違うのだと。

 

 だから双葉は、その親の想いを汲んで、最大限の愛情で言葉を返した。

 

「……あの、わたし、お母さん……大好き」

「私もよ、双葉。……ほら、もう行きなさい」

「……うん」

 

 双葉の返答を聞くと、満たされた笑みを浮かべ、光に包まれ消えていった。

 

 数秒の後、その光景をジッと見ていた怪盗団の方へ振り返った。

 

「……メジエドだったな?」

 

 双葉の中では今の言葉は問いかけではなく確認だったのか、怪盗団の返答を待たずその場を去ろうとする。

 

「どこ行くの?」

「帰る。ナビの使いかたわかったし」

 

 と言って本当にその場を後にしてパレスから出ていってしまった。

 

「マイペースな奴だな」

「っと、そういやオタカラ! 忘れるところだったぜ」

 

 竜司が先程の激闘で横転してしまった棺を急いで確認しにいく。だが、棺の中を確認しても中は空っぽでオタカラは入っていなかった。

 

「どうなってんだ!? あるんじゃねぇのかよ!!」

「ここのオタカラは双葉自身だ。あいつが出て行ったのにオタカラなんてあるわけねぇ」

 

 そして、とモルガナが言葉を区切って言い放った。

 

「このパレスは今から崩壊する」

 

 言い終わるや否や、ズン、という腹の底に響く振動と足場がガラガラと崩れ落ちる音が耳に入ってくる。

 

「脱出だ! 走れ!!」

 

 倒壊していくピラミッドを下りながら、怪盗団は命からがら現実世界へと帰っていった。

 

 

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