銃声が轟く。その音と共に目の前のシャドウが跡形もなく消え去る。
「アスッ、テリオス!!」
青い炎と共に出てきた雄牛の咆哮が残りのシャドウを焼き払う。
「……っはぁ……はぁ……」
「……大分バテてんな……すぐ近くにセーフルームがあるから一旦そこで休憩するか」
「悪りぃ……」
戦闘が終わり肩で息をしながら近くのセーフルームに入って休憩する。
現在パレス攻略中。期限は今日中。進捗ダメです。
「オマエのペルソナ、火力が出る代わりに大分体力持ってかれるのが難点だな」
「……んあ。温存していきてぇな」
自動販売機で買ってきたアルギニドリンクと、プラセンウォーターをがぶ飲みして、SPを回復させる。ゲームやっててSPってなんだって思ったけど、HPが体力とか怪我ならSPはそれを精神力に置き換えた感じだな。一発スキルを撃つごとに頭がちょっとクラつく。
つーか俺のペルソナ、アギ系がマハラギダインとティタノマキアしか覚えてないから雑魚敵に対しての燃費が悪い。成長したら連発出来るんだろうが今はその成長を待ってる時間は無い。まぁこんな時に備えて自動販売機で手に入るSP回復系を買い占めてきた。ひたすら同じ飲み物を購入してる姿は、通行人から見たらさぞ不気味に映ったろうな。
「……ジリ貧だな」
出来るだけ戦闘しないで進んでも、オタカラルートの三分の二の時点で回復切れになって詰む可能性がある。正直このペースだとしんどい。っていうか二人(?)じゃキツイ。全員ダウン取れなくて総攻撃もできない場面あったし。
「どうする? 一旦退くか?」
「それはダメだ。今日中にやらなきゃ俺の友達が不幸になっちまう」
鈴井さんは明日、自殺未遂のきっかけとなる体罰を受ける。その前に予告状を出して鴨志田を止めなければいけない。
「なら気張って行こうぜ、道は長いぞ」
「わかってるって。そっちこそ先に倒れるなよマジで」
「おいおいワガハイを誰だと思って……何か聞こえないか?」
「……? いや別に何も」
「いや聞こえる。女の声だ。ワガハイがちょっと見てくるからオマエはここで待ってろ」
「了解」
セーフルームからモルガナが居なくなって一人残される。何かこういうイベントあった気がしたんだけど……
「やべぇぞ!! オマエと同じ制服を着た子がシャドウに追われてる!!」
ああそうだ。高巻杏が初めてパレスに入った時のイベントだコレ。でも鈴井さんの自殺未遂の翌日だから今日じゃなかったはず。日程がズレた? そもそも何でここに?
……いや考えてる暇は無ぇな。
「どこだ」
「すぐそこだ!! 行くぞ!!」
取り敢えずここで助けなきゃダメだ。ペルソナの覚醒とか日程の事は後で考えろ。どうとでもなる。ここで犠牲を出すことが一番ダメだ。
……何でモルガナは高巻杏の事知ってるのにアン殿って言わなかったんだ?
***
理由はすぐに分かりましたよ。ええ本当に。
「ああ? またお前かよ乙守」
「あ、あなたは……⁉」
侵入してたのは高巻さんではなく、芳澤すみれ。鴨志田とシャドウの兵士達に囲まれ、壁際に追い詰められていたところにモルガナと共に上から割って入った。
「いけるなモルガナ」
「ああ」
「ぶっ壊せ!! アステリオス!!」
一発で全員片付けようと仮面を外しペルソナを呼び出す。が、
「あれ?」
巨大な雄牛が背後に一瞬だけ出現したがそのまま消えた。そして仮面が元の位置に戻る。マジか……こんな肝心な時にSP不足かよ……
「隙ありっ!!」
「ッ痛っ……!!」
鴨志田の傍にいたシャドウの攻撃をまともに受けて膝をつく。クソッ……あいつ
「おわぁぁあああ!!」
「モルガナ!!」
モルガナがシャドウの攻撃を受けて吹っ飛んでくる。ダウンした俺たちを囲うようにシャドウが近寄ってくる。態勢を整えなくては……。
「と、止まってください!!」
「あぁ?」
後ろにいた芳澤すみれが前に出る。そして落としていた槍を手に取ってシャドウ達へと向ける。
「な、何が起きているか分かりませんが、これは立派な暴行です!! 出るとこ出てもらいます!!」
「ちょっ、何して……⁉」
「……私が時間稼ぎます。その間に逃げてください」
「は? いや無茶だ!!」
「やあああああああ!!」
芳澤すみれはシャドウ達に聞こえないようにこちらに耳打ちをすると、そのままシャドウに突っ込んでいく。だが案の定ペルソナに覚醒していない彼女では戦いにならない。シャドウが腕を一振りすると、オモチャのように簡単に飛んでいく。床を数メートル転がり動きが止まる。
「……ッ!!」
そちらに体を向けると視界を塞ぐように兵士のシャドウが割って入ってくる。剣を振り下ろすのを間一髪で避けて、モルガナの持っていたサーベルを拾い、次の一太刀を受け止める。何とか抵抗は出来ているもののペルソナ出せなきゃ数で圧倒されてジリ貧だ。どうにか隙があれば回復できんのに……。
「だ、い丈夫で、す……大丈夫です……!!」
芳澤すみれが体を起こす。気合は十分だが、吹っ飛ばされた痛みで顔を顰めている。割れているメガネが彼女のダメージを表しているようだった。
「絶対に、逃がしてみせます……ここであの時の恩を……返します!!」
そう言ってもう一度立ち向かうが結果は同じ。リプレイのように横に床を転がっていく。あちらに意識を割くも、シャドウ達に邪魔されて向こうへと行けない。さっさと起きろモルガナ!!
「はぁ~あ。お前は姉と違って、出来損ないだな」
今まで静観していた鴨志田の口が開く。
「知ってるぞ? 姉の芳澤かすみと比べて表彰台に立ってる回数が少ない事。立てたとしてもいつも姉の下だって事は。自分でも分かってるんだろ? お前は姉の『付属品』だってよ。お前個人には何の価値もないんだよ!!」
「私に……価値は無い……?」
芳澤すみれが自身に暗示を掛けるように鴨志田の発言を繰り返す。
「ああそうだ。この学校にお前を入れたのは単なるオマケ。秀尽のイメージアップの為に姉妹で入学させただけなんだよ。だが結果が出せないお粗末な人形なんざ要らない。あぁ、あと何だっけ? 姉妹二人で世界を獲るだったっけか。姉がそんな事言ってたがこんな役立たずの妹がいるんじゃその夢は叶いっこ無いなぁ。でもまぁ顔は良いから多少の役には立つかもな!! あははははははははは!!」
「私は……かすみの……」
「……っ!! 違うだろ!!」
他のシャドウ達と戦いながらも、話の内容を聞いて思わず叫んでしまっていた。周囲の目がこちらを向く。
「怒れよもっと!! 何でこんなこと言われなきゃならないんだって!! 何にも知らない奴に勝手に言われて悔しくないのかよ!!」
「……でも」
「それにあのクソ野郎が言ってたことは間違ってる!! モルガナ!!」
「ああ!! ペルソナァ!!」
やっとダウンから復活したモルガナがペルソナを呼び出す。起こした風がシャドウ達をダウンさせ、ダウンしている一体を銃で撃ち貫き、敵を排除する。
「時間稼いでくれたおかげで、こっちは立て直せた!! 姉じゃなくてお前がやった!! お前じゃないと出来なかったことだ!! 価値ならここにある!!」
「……っ」
「だから今は立って逃げろ!! ここは俺たちが――」
「――いいえ、逃げません」
ゆらり、と立ち上がる。足はふらついているものの、倒れる様子は微塵も感じさせず、芯の通った立ち方だった。
「ここでまた、恩に着る訳にはいきませんそれに……」
芳澤すみれの視線が鴨志田に向く。
「私の、いえ、私達の夢を笑った人から逃げたくない!!」
「ハッ!! 馬鹿馬鹿しい。姉の劣等品であるお前に何ができる?」
「違います!! 私はかすみの付属品でも、オマケでも、劣等品でもない……!!」
そして彼女は自身の価値を主張する。
「私は、世界に羽ばたく『芳澤すみれ』です!!」
***
――そう来なくちゃ。
――姉だけが煌びやかな舞台に上がれるなんて不平等。
――素敵な魔法を使って舞踏会に乗り込みましょう。
――我は汝。汝は我。
――さぁ灰被りのお姫様。醜い王子様を舞台から引きずり下ろしましょう。
***
仮面を剥ぎ取るのに躊躇は無い。
青い火柱が出ると共に、芳澤の姿が魔法を使ったように変わっていく。秀尽のジャージ姿から反逆の姿へ。漆黒の燕尾服を黒いレオタードの上から羽織り、腰にレイピアを携える。
「これであの時の恩を返せますね」
レイピアを抜き、乙守の方にいるシャドウに向けて投げると、見事胸にヒットする。乙守はすかさず借りていたサーベルをモルガナに返し、シャドウに刺さっているレイピアを引き抜くとシャドウは形を保てずにドロドロになって消滅する。
ここからが反逆の時。シャドウ達もこの事態を危険だと感じたのか、真の姿へと変容していく。
敵は
「行きます……!! サンドリヨン!!」
目の前の敵は五体。そのどれもが光の刃で裁かれていく。が、
――ガコン!! と、乙守の銃からコッキング音が鳴った。
そのまま膝を立て、その上に左腕と銃を乗せて左上腕で銃の重心付近を支える。
彼が使う銃は連発出来ないスナイパーライフル。一発撃ったらリロードを挟まなければいけない。だが威力と精度は折り紙つき。だからこそ一発に命を懸ける。
スコープを覗き、そして引き金を引く。銃身から必殺の弾丸が吐き出され、敵の額へと吸い込まれていく。
撃たれた。という事実に気づかぬまま
「フッ……ビューティフォー……」
乙守はスナイパーライフルの銃口から出てる煙を消すように息を吹く。
「お見事です」
芳澤が称賛の言葉と共に乙守の方へ合流する。お互いが持っている武器を投げて持ち主に返す。
「あとは任した」
「任されました。来て!! サンドリヨン!!」
乙守が右手を上げると、芳澤はその手を叩きバトンタッチする。そして威力が増した光の刃が敵のシャドウに降り注ぐ。眩い光の点滅が止むと敵は一掃されていた。
「戦闘終了……。鴨志田は逃げたか」
「う……」
「おい大丈夫か?」
「これ以上無様な姿は……おりゃ……!!」
「おお……ペルソナに目覚めたばっかだってのにやるじゃねーか」
芳澤の体がふらつくも、気合いで踏ん張ってしっかりと立つ。
「さて……追手が来る前にセーフルームへ逃げ込むか。えっと……」
「芳澤すみれです」
「よしヨシザワ、ワガハイに付いてこい。オトモリは殿を頼む」
「……了解」
モルガナの提案を了承した彼の顔は少し複雑な顔をしていた。
***
あ゛あ゛あぁぁぁ~~~どうしよ。
「なるほど。パレスにペルソナ……」
「まぁ一度に言われてもすぐには飲み込めないのも分かる」
今純粋にこの認知世界の説明を受けてるけどこのタイミングじゃないんよ~~。そのイベントは半年ぐらい後なんだよ~~……
しかも芳澤かすみとしての覚醒ではなく、芳澤すみれとしてペルソナの覚醒をしたから、丸喜先生が作った現実に飲まれることは無い。姉を助けてペルソナの覚醒は無いと思ってたのにこれかよ……
「どうしたオトモリ? 溜息なんて吐いて」
「ちょっと疲れただけ」
……でも今は大して影響は無い……か? 芳澤がここで加入して怪盗団に生まれるメリットは戦力の増強だけだよな? それだけなら別に良いか。最終的には
……いや違う。芳澤は新体操の練習に集中したいから、モルガナから『お前も怪盗団にならないか?』って誘いも一旦断るんだった。ここで仲間になることは絶対に無いから全く問題ないか。はぁ~~良かった考えすぎか。
「鴨志田先生の『改心』。私にも手伝わせてください!!」
あれぇ~~~~~~~~????
「い、いや芳澤さんは新体操の練習とかで忙しんじゃ……ほら特待生だし……」
「勿論そちらも手は抜きませんよ。でもこのままじゃバレー部の人達はずっと体罰を受け続けるんですよね?」
「バレー部の体罰を知ってるって事は、逃げ回ってる時に地下の施設も見たのか」
「はい。あれは鴨志田先生がそう認知してるってことなんですよね? 手が届くのに苦しんでる人を見逃すことは出来ません」
あ、そっか。半年後は怪盗団として慈善活動してるから、このままじゃ被害を被る可能性がある今とは状況が違うのか。
「よしヨシザワ。今日からお前はワガハイ達の仲間だ!! ワガハイはモルガナだ。よろしくな!!」
「はい。よろしくお願いします。モルガナ先輩と、えっと……」
「乙守胡桃。よろしく芳澤さん」
「はい。よろしくお願いします。乙守先輩」
差し出された手を握って握手を交わす。ゆーて新体操の練習が忙しくなったら離脱するでしょ。
「これからどうする? ヨシザワは一旦現実世界に帰して、ワガハイ達はパレスの攻略を続けるか?」
「……いや、俺たちも今日は一旦退こう。準備を怠ってた訳じゃないけど流石にこのまま俺たちだけだとジリ貧で危険だ。日を改めてまた攻略しよう」
「いいのか? 今日中に攻略しないとお前の友達が不幸な目に遭うって言ってたじゃねぇか」
「……それはこっちで何とかするわ。流石に今日はイレギュラーが起きたし、道具の消耗も激しいからもう引き上げよう」
アルギニドリンクと、プラセンウォーターがもうあと二本ずつしかない。全部飲んでSP20回復だ。ちなみにマハラギダインは22使う。もう無理ぽ。
ここはペルソナの世界だが、戦闘不能になったらGAMEOVERでロードじゃない。死だ。慎重に行きたい。
「んじゃ次来るとしたら月曜ぐらいかな?」
「あ、私はその日新体操があって……」
「じゃあ休みの日とかがあればそれに合わせ――」
「だから待っててくれてるとありがたいです」
「体力の問題じゃなくて時間の問題ね……わかった終わるまで適当に時間潰しとく」
パレスの入り口に戻るまでに次の攻略予定日を立てる。15日は高巻杏がペルソナに目覚める日だから、そこに居合わせてイレギュラーを起こしたくない。そこに俺+芳澤すみれが居合わせたら、なんか助けられちゃいそうだから俺たちはそのイベントはスルーして、攻略が本格的に始まる4/18から主人公達と合流してパレスの攻略を始めよう。……さっさとパレス攻略出来るようにまた準備を整えたいし。4/15の介護は頼んだぜモルガナ。
「んじゃまた月曜になモルガナ」
「おう待ってるぜ」
モルガナと一旦別れを告げ、イセカイから現実世界へと戻ってくる。なんかどっと疲れた気がするのは絶対気のせいじゃない。
「あっ、本当に服が戻ってる」
「ていうか怪我平気? 殴られて吹っ飛んでたけど」
「大丈夫です。私タフですのでそのぐらいじゃ怪我しません」
つっよ。体育会系って皆そうなの?
「それなら良かった。それじゃあさっさと戻るか」
「あ!!」
「えっ何どうしたの?」
「私が出る試合サボっちゃいました……」
「……ドンマイ」
その後、巻き込んでしまったお詫びとして購買でパンを奢った。大体20個ぐらい。財布殺す気か?
***
4月14日 曇り
「鈴井、帰るの?」
「何?」
三島が、帰ろうとしている鈴井に声を掛ける。
「鴨志田先生が呼んでる……体育教官室だって」
「先生、なんて?」
「知らない……伝えたから……」
三島はその事だけ鈴井に伝えて、逃げるようにその場を去る。後ろめたいのかその表情には陰りがあった。嘘は言ってはいないだろう。ただどういう扱いかは予想はできた。逃げ場のない部屋に連れ込まれ気が済むまで嬲られる。
しかしその事を知りながらも彼女は逃げるという選択はしなかった。いや出来なかった。あの王の機嫌を損なってしまえば何をされるか分からない。最悪退学もありえる。だから我慢するしかなかった。
「……」
鈴井のスマホに電話が掛かる。画面に写っているのは親友の『高巻 杏』の文字。この状況を話せばその親友はすぐに駆け付けてくれるだろう。
「杏……」
だがそれでも助けを求めない。来てもどうせ無駄な事は知っているからだ。被害者が一人から二人に増えるだけ。どこにも逃げられず、助けも期待できない。
「……」
彼女はもう諦めている。この運命を受け入れるしかないと。この地獄もあと二年弱で終わる。それまで我慢すればいい。それが彼女の擦り切れた心の中にあった最後の希望だった。だがそれもこの後も体罰で耐えきれなくなり、自らの命を断とうとする。
「……」
「助けて」なんて言えない。助けがあってもその手を振り払ってしまうだろう。それ程までに鴨志田の恐怖は彼女を支配している。
ならばどう救うか。
「あ、いたいた」
振り払うその手を強引に掴み。
「鈴井さん。今日部活サボってデートしない?」
地獄から無理矢理連れ出すしかない。
補足説明
乙守がドリンク飲んでSP回復とか言っていますが、アイテムの効果量や、スキルの消費SPを覚えているだけで、乙守自身はステータスの数値とか見れません。SP管理は基本的に体感で行っているため、芳澤すみれのピンチに颯爽と駆け付けた際、セーフルームでSP回復のドリンクを飲んでいたのにも関わらずスキルが発動出来なかったのは、SPの管理をガバったからです。