幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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『強欲』の宇宙基地
#41 おもしれー女……!


 

 モナと竜司が喧嘩した。原因は竜司のデリカシーの無い発言……いや、全責任を竜司に押し付けるのは違うか。モルガナのストレスとコンプレックスが爆発して怪盗団を離れていった。

 

 原因は些細……というには少し俺達が背負っているものが大きすぎるとは思う。今や怪盗団は世間から持ち上げられ、一挙手一投足に注目されている状態で普段と変わらずいつも通りにいろと言われても無理な話だ。俺だってこの先の展開を知っていない状況なら自己承認欲求と、それに伴う責任で平気ではいられないと思う。

 

 対して、モルガナは自身のアイデンティティとそのルーツについて考え始めた。自身は一体なんなのか? どこから来たのか? 本当にヒトと言えるのか? この世界に居場所があるのか? 

 そして怪盗団に必要とされていない自身に価値や居場所があるのかと。

 

 喧嘩になるまで発展したきっかけは、その怪盗団とモルガナとの心の摩擦によって生じたものだ。誰も悪くない。強いて言えば環境とタイミングが悪いだけだ。幸運なのは怪盗団には良い子しかいないってことだ。お互い素直に謝れば関係性に致命的なヒビは入らない。

 

 思春期の男子高校生が素直になれればの話だけど。

 

 

 ***

 

 9/15 木曜日 曇り

 

【奥村邦和】【本社ビル】【宇宙】。パレスへ入るキーワードを入力し、オクムラパレスへと潜入する。無駄を削ぎ落した機能的な建物と、青白く発光した蛍光が床や天井に組み込まれ、現代より先に進んだ未来の建物を彷彿とさせる。

 

「んじゃ取り敢えず先に進んでオタカラルートを確保すっか!」

「その前にモルガナ見つけるのが先!!」

 

 パレスを攻略するのももちろんだが、今回はこのパレスに来ているであろうモルガナを説得しに来たのが本命。あと、奥村邦和が経営しているビッグバンバーガーの競合他社の社長が次々に突然死している。これはあまりにも奥村邦和にとって都合のいい話なので、俺達は精神暴走の事件を起こしている黒い仮面と奥村邦和の関与があると考えた。このパレスから手掛かりを探すのもサブミッションだ。

 

 その黒い仮面の正体である明智も今日は偶然にもこのパレスに来ている。……姿は見当たらないが。

 

 近未来的な建物を進むと、工場らしき場所へと出る。そこにはロボット達が荷物を運搬しており、そのロボット達よりもより大きい体を持つロボ上司が仕事を監視していた。聞き耳を立てれば、パワハラワードが飛び交っている。

 

「『嫌ならやめろ、手当はなし……廃棄』だって」

「あのロボット達は奥村社長から見た、従業員の姿ってことですよね……」

「やっぱりネットで騒がれているブラックっていう噂本当だったみたいだね」

「ロクな扱いじゃないな」

「ほらよ! やっぱり言った通りだぜ!」

「本題はモナ」

「そうね。取り敢えず先に進んでモナを探しましょう」

 

 怪盗団はさらに奥に進むと、一枚の大きな扉が行方を阻んだ。

 

『生体認証を行います』

 

 蓮が扉に近づくと、機械的な音声が流れる。数秒後に『エラー 認証失敗』という文字が浮かび上がった。

 

『この先の区画は登録された方以外は立ち入り禁止です』

「こりゃあ……少々厄介かもな」

 

 ハッキングの天才、双葉ことナビがそう呟くのだからこの扉のセキュリティは相当なものなのだろう。

 

「そうそうに手詰まりだな……」

「どうしましょうか……」

「生体認証なのだから会社の関係者じゃないと入れないな」

「うーん……会社の人を認知世界に連れて来るとか?」

「そんなことしたら俺達の正体がバレるだろ」

「じゃあ私達の正体を知っている、会社の関係者が必要ってこと?」

「それでモナを連れていたら最高だな」

 

 まさかそんな存在が都合よくいるわけが……。

 

「お待ちなさい!! あなた達!!」

 

 いたーーーーーー!! (知ってた)

 

「誰!?」

 

 声がしたのは倉庫の物置ラックの上から。蛍光灯の明かりが届かない死角の暗がりから美少女怪盗が現れた。

 

 奥村邦和の娘、奥村春だ。今回のキーパーソンで、彼女がいないとこのパレスは始まらない。

 

「黒い仮面!? まさか、斑目や金城が言い残した、あの?」

 

 奥村春が黒い仮面をしていることで杏は勘違いしたらしい。そしてその言葉を皮切りに怪盗団の面々の鋭い視線と言葉を奥村春に向けているが、彼女は応答せずに困惑するだけ。少し間が開いた後、聞き慣れた声が部屋に響き渡る。

 

「オマエら、勘違いも程々にしとけよ!オタカラを求めて来たのなら、尻尾を巻いて帰った方がいい!」

 

 陰から颯爽と登場したのはモルガナだった。

 

「オタカラはワガハイとこの……」

「……?」

 

 モルガナは奥村春に台詞を言うように促すが、本人は分かっておらず、ハテナを飛ばしている。

 

「美少女怪盗が貰うからだ!!」

「……! 美少女怪盗と申します!」

「自分で言っちゃったよ」

 

 奥村春とモルガナがアクロバットに物置ラックから飛び降りて着地するとポーズを決めた。

 

「オタカラは私達がいただきます!!」

「それ二回目」

「しかもモナが言ってた」

「……あ、あなた達は怪盗失格です!!」

 

 ツッコミが入ってもめげずに凛々しい怪盗を演じれるように頑張っている。

 

「そこのあなた!! 怪盗をどう考えてるんですっ!?」

「強きを挫き、弱きを助ける」

「そうです、そのとおりっ!? ……………………無駄話はおやめなさいっ!!」

「そっちから振ってきたんじゃん」

「…………どうしたブル? 顔を抑えて」

「いやもう……おもしれー女って感じで俺ワクワクすっぞ」

「共鳴しあうな。反発しろ」

「フンッ……! ワガハイ達はオマエらに構ってるヒマ無いんだよ!!」

「じゃあなぜ名乗った」

 

 と、面白二人組は怪盗団を無視して、生体認証の扉の前に立つ。

 

『認証中…………』

「あーやめとけよ。それロックが掛かってて開かね……」

 

【ニンショウセイコウ】

 

「……!」

「ワガハイ達を舐めるなよ」

「ちょ!? 後ろ!!」

「後ろ?」

 

 開いた扉の向こう側に居たのは大量のシャドウ。普段なら逃げる量だし、ゲームでもここは撤退していた。

 

「ブル」

「ああ」

 

 だが蓮のその一言で、その考えは無くなった。だって俺も、この量なら『余裕』と思ったからだ。

 

「二人共逃げないの!?」

「「ここで捻じ伏せる(蹴散らす)」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 数分後、無事に大量のシャドウを倒し切った。無傷とまではいかなかったものの、かすり傷程度のダメージしか喰らわなかった。

 

「なーあの二人だけゲーム違くないか? RPGっていうより無双ゲーっぽいことしてたぞ」

「こんな事したらパレスの警戒度上がるんじゃないかしら……」

「「あ」」

「考えてなかったんですか!?」

 

 そういやそんな仕様もあったな。

 

「というかあの二人どこ行った?」

「二人が戦闘している間に逃げてったよ。……あの女の子は見るからに戦闘出来なさそうだし」

「扉はまたロックがかかってしまったし、一旦引き上げましょう」

 

 

 ***

 

 

 9/17

 

 秀尽高校の保健室で、丸喜先生と久々の作戦会議を行うことになった。会議と言っても近況報告だけど。

 

「平気かい?」

「え?」

「随分疲れているように見えたから。……コーヒーいる?」

「はい……砂糖とミルクつけてください」

「わ、わかった」

 

 テーブルに出されたコーヒーに砂糖とミルクを入れようとしたら先生が焦ったような声を出した。なんだ先生もブラック飲める派か?

 

「最近だと、パレス入って戦って特訓してを繰り返している毎日ですから疲労が溜まるのも無理ないかもしれないです。先生の方は? 論文は順調ですか?」

「うん、このままなら11月に入る頃には完成してるよ」

「よし!」

 

 予定通りに論文は完成してパレスも完璧に稼働し始める。先生がすべき事はメメントスと現実が融合し、怪盗団がヤルダバオトを打ち倒す12/24まで待つだけ。

 

「そういえばルブランに行って双葉ちゃんと話してきたよ。怪盗団のハッカーがあんなに若いなんてビックリしたよ」

「どんな話を?」

「認知訶学についてと、双葉ちゃんの願いについてとか、かな……叶えてあげたいな」

「……そうですね」

「……それで、次のターゲットは奥村社長かい?」

「やっぱりわかります?」

「ニュースを見ててなんとなくそうかなって」

 

 メジエドを倒してからの怪盗団の評価はうなぎのぼりだ。メディアが煽り世間が煽てる。もはやカルト的で少し怖い。

 

「怪盗団の皆はメンタル大丈夫かなって。こんな状況になったら僕なら正気を保っていられるか分からないよ。ははは」

「……」

「……すでに何かあったんだね?」

「はい……」

 

 先生にモルガナと竜司のことを話した。

 

「今日中に仲直りする予定なので、心配には及びません」

「そっかそれなら良かった。でも意外だね。乙守君ならその場を上手く収められそうに立ち回るかと思った」

「まぁ見守らないと進まないイベントがありましてね」

 

 モルガナが出ていかないと、奥村春と接触しなかったからな。

 

「じゃあ後三か月頑張りましょう!」

「あ、乙守君」

 

 俺はコーヒーを飲み干し、保健室を出ていこうと扉に手をかけると先生が声を掛けてきた。

 

「体に異常無い?」

「ありませんけど……?」

「いや、それならよかった」

「……? そうですか」

 

 

 

 ***

 

 

 

 丸喜は乙守が飲んだカップを片付け、シンクで洗っていた。コーヒーではなくコーラの入ったカップを。

 

(曲解は機能している。乙守君にもこれなら……でも砂糖とミルク入れるのは止めた方が良かったかなぁ)

 

 

 

 ***

 

 

 

 放課後、メメントスにて。俺達はモルガナと美少女怪盗がこっそりメメントスのターゲットを改心していることを知り、待ち伏せしていた。

 

「モナが来たら謝るんだからね?」

「わーってるって! 俺だけに言うなよ」

「美少女怪盗にも注意しなくては」

「来るまで待つ……か。持久戦を覚悟しないとね」

 

 

 数時間後……。

 

 

「だっしゃーおらー! 革命からの8切りで上がりだぁー!!」

「くっそ俺また都落ちかよ!?」

「……少し、だらけすぎかもね」

「デジャヴを感じます」

 

 怪盗団数名で大富豪していると、メメントスの改札を通る二つの影。モルガナと美少女怪盗だった。

 

「オマエラ……たるみきってる!!」

 

 いや全くもってその通り。反論できないな。

 

「いや、これは置いといて。『怪盗お願いチャンネル』の依頼、あなたが勝手に叶えてない? コメントまで書いて。無暗に書き込まないでほしいの」

「たちまち足がつくぞ。そうなれば俺達にもとばっちりだ」

「それは……ごめんなさい!! 私機械には強くなくて……」

「謝んのかよ!?」

「私達のために言ってくれたのよ? お礼を言わなくちゃ」

「そろそろ機嫌直してくれない?」

「……ワガハイ目当てだったわけか?」

 

 モルガナがこちらに視線を向ける。とある言葉が物欲しそうな顔で。

 

「ワガハイがいないとダメなのか? やっぱり困るのか?」

 

 問いかけてくるモルガナの声は何かを期待しているように語尾が上がっている。言って欲しいんだろう。お前が必要だと、ここが居場所だと。

 

「いないと困る」

「……そうかぁ?」

「竜司! ……ごめんね、モルガナの気持ち考えてなかったよね」

「アン殿……」

「み、皆さん。コードネームとかはよろしいの……?」

 

 竜司の失言をカバーする杏。そして空気が読めていないというか、ついていけてない奥村春がズレた発言をする。ちょっとややこしくなるから少し黙っていて。

 

「竜司もさ、本心じゃないんだよ? 本当は謝りたいんだって」

「……ま、俺も悪かった。……つーかさ。別に人間じゃねぇとか役に立たねぇとかそんなの気にしねぇって!」

「……っ!」

「あーあ」

「デリカシー皆無……」

 

 ド・ド・ド地雷を踏みにいく竜司。これ悪意とか悪気一切無いのが問題だろ。無邪気って怖え。

 

「ああそうかよ! どうせワガハイは役立たずだよ! じゃあそこまで言うんならオマエラは相当出来んだろうな!!」

 

 モルガナが車に変身する。

 

「だったらワガハイのこと捕まえてみろ!! 乗れ!! 美少女怪盗!!」

 

 奥村春は少し逡巡した後にモルガナに乗った。

 

「出来なかったらワガハイのこと諦めてもらうからな!!」

 

 欲しい答えを貰えなかったモルガナがヤケになってメメントスに入っていきました。俺達のせいです。あーあ。

 

「こちとら何時間待たされたと思ってんだ!! 上等だコラ!!」

「もう趣旨変わってるじゃないの!」

「俺が待ち伏せして、アステリオスで仕留めるか?」

「……乗ってる奥村さんに被害が出るからやめましょう」

 

 素直にメメントスでモルガナと鬼ごっこをした。

 

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