幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#42 言えたじゃねぇか……

 

 結局モルガナの説得は不可能だった。

 

 お互い話が平行線というか水掛け論で、モルガナが意地になって素直になってくれない。最終的に話し合いをする前にメメントスから出て行ってしまった。今日のところは引き上げ、俺たちはメメントスから出て、夜の渋谷の街を歩く。

 

「なんだよモルガナの奴……! こちとら何時間も待ったってのに!」

 

 竜司が悪態をつく。

 

「いや竜司が地雷踏んだからだろ」

「なんで竜司はデリカシーが無いんだ?」

「竜司先輩はもっと言葉に気を付けた方がいいと思います」

「だからモテないんだぞ」

「俺がそんなに悪いかよ!? てか最後は関係ねぇだろ!!」

 

 まぁ、竜司が地雷を踏む前はモルガナも態度が軟化してたからな。あそこで余計な一言を言ってしまったのが悪いといえば悪い。それはそれとして竜司は泣いていい。

 

「時間が解決してくれるかしら……」

「いや、あんまり仲直りに時間かけない方がいいぞ」

「なぜだ? お互いにヒートアップしてるなら熱が冷めるまで待った方がいいと思うが」

「パレスとか怪盗活動とか関係無くて俺の意見だけど……人間関係においてお互いのために時間を置く行為っていうのはそんなに万能じゃない。いずれ何事もなかったかのように元通りになると思ったら大間違いだ」

「……そうだよね」

「だからここで殴り合う覚悟を持って本音をぶつけあうのが一番の方法だ。雨降って地固まるって言葉あるだろ?」

 

 いやまぁ、予定通りイベントを進めたいってのが本音だけど。ほんとこっからスケジュールシビアになってくるから。

 

「でも胡桃の言う通りだ。モルガナが出ていったら『今日はもう寝ようぜ』って言ってくれる奴がいなくなる。だから昨日俺は寝ていない」

「自分で寝ろよ」

「モルガナに生活リズムを管理されてるじゃない……」

「はぁ……リーダーのためにもモルガナを連れ戻さないとね」

 

 P5のゲームしてるときは、『モルガナいないなら夜行動し放題じゃんラッキー! ……いやなんで行動出来ないんだよ!!』ってなったけど、その理由が垣間見えた気がする。蓮の中でモルガナの存在って大きいんだな。寝ろ。

 

「だ、れか……」

 

 か細く今にも力尽きてしまいそうな声が耳に届いた。その声は全員に聞こえて、小さな声なのに聞きとれたのは普段から聞いたことがある声だからこそだろう。

 

「今の声!?」

「モルガナだ!」

 

 声が聞こえた方向に全員が急ぎ足で向かい、目を向ける。渋谷の路地裏、清潔感のある白スーツを着た利発そうな顔立ちの男が、苛立ちながら奥村春の腕を掴んでいた。そしてその傍らにはぐったりとして横になっているモルガナの姿があった。

 

「あれヤバそうじゃない?」

「クソっ!」

 

 竜司が、いの一番に駆けだし、奥村春の腕を掴んでいた男を突き飛ばした。突き飛ばされ、よろめいた男は竜司を睨みつける。

 

「おい、お前……!!」

「テメェ、俺の仲間に何してんだ!!」

 

 竜司が前に立ち、男にガンをつける。これ以上手を出すのなら暴力など辞さないと拳を握って。

 

「フン……これは僕とフィアンセの問題だ。部外者は黙っててもらおうか」

 

 駆け付けた俺たちを一瞥し、鼻で笑う。

 

「でも、奥村さん嫌がってましたよね?」

「暴行や脅迫で無理やり連れていこうとしても未成年略取となります。……たとえ同意の上でも」

「こんなに目撃者がいるんだ。不利になるのがどちらかは分かるだろう」

 

 すみれ、真、祐介が、相手をこの場から退かせるために言葉を尽くし、お互いの立場を分からせる。

 

「……チッ。お前らの顔、覚えたぞ」

 

 相手の男は流石に分が悪いと感じたのか、苦虫を嚙み潰した顔でセリフを吐き捨てて、その場から足早に立ち去って行った。

 

「大丈夫?」

「私は大丈夫。でもモナちゃんが……」

「……ワ、ワガハイも大丈夫だ……こんなのどうってことねぇ……」

 

 モルガナが自力で立ち上がれるところを見ると、どうやら傷はそんなに深くは無いようだ。

 

「奥村さん。あれは本当にあなたの婚約者なの?」

「うん……」

「高校生で婚約……ってすげー」

「でも本当に大丈夫だったの? なんかただの喧嘩じゃないって感じしたけど。親に相談した方がよくない?」

「……親に相談しても『土下座してでも許して貰え』って言われるだけ…………」

 

 いわゆる政略結婚ってやつだ。そこに愛は無いとまでは言わない。互いを知らないだけで話していくうちに打ち解けてラブに発展することもあるかもしれない。

 

 けど、あの様子からして、ろくでもないヤツなのは分かる。

 

「何か訳がありそうだな」

「な、なぁとりあえずハルをどこか休める場所に連れてってくれないか? 頼む……」

 

 モルガナは自分の怪我よりも春の心労を気遣う。

 

「当然だろ。ルブランでいいよな?」

 

 

 ***

 

 

 ルブランの屋根裏部屋のソファに春は横になると、精神的な疲労からかすぐに眠りについてしまった。春の事情を知っているモルガナはその様子を見て安堵したような鳴き声を漏らす。そして怪盗団の方を向き、テーブルに乗って話し始めた。

 

「……迷惑かけたな」

「迷惑なんて思ってないよ」

「いいんだアン殿。慰めはいらねぇ。ワガハイの自己中な考えで厄介事に巻き込んじまったのは事実だ。……それにさっきのトラブルもワガハイじゃなんにも出来なかった。オマエラが来てくれないとハルはあの男に乱暴されていた。……礼を言う」

 

 ペコリと小さな頭を下げるモルガナ。俺達に対して礼儀正しいのはらしくない。

 

「ど、どうしちゃったんだよモナ。そんな他人行儀で……」

「……こんな見た目をしてるのに認知世界の肝心なことは何も知らない。それどころか怪盗団の力になってやれないし、いずれ足を引っ張る存在になる」

 

 大分ナイーブになってるな。一度自分の無力を痛感すると精神参るよな、わかる。

 

「こんなの、もう取引とは言えねぇよ」

「だからなんだ? 俺は……俺達はモルガナが必要だ」

「蓮……ありがとよ。でもここままじゃいけないんだ」

「なにがいけないんだよ。戦闘でも回復してくれるのすげぇ助かってるし、前のめりになりそうなときも手綱を握ってくれてる。モルガナがいなきゃどうしようもない場面だってあっただろ」

「……お前には分かんねぇよ、胡桃」

 

 なんだそれ。

 

「だが、俺たちは、一言も『モルガナがどうしたい』って本音を聞いてない」

「ワガハイは、怪盗団を…………抜け、たい」

 

 懸命に説得する蓮に対して、溜めて、絞り出すようなか細い声でモルガナが答えた。きっと本音ではない言葉を。

 

「──嘘、やめよ?」

 

 いつの間にか起きていた奥村春がモルガナを優しく抱き寄せ、膝に乗せる。

 

「だって異世界で倒れてた時、モナちゃん言ってたでしょう。『ワガハイだって怪盗団の一員だ! 強くなって認めてもらうんだ!』って。本当はここが大好きなんだよね?」

「そんな訳……ないだろ」

「……私も嘘吐いてたけど、ペルソナと契約するときわかったの。お父様が酷い事をしてるから……なんて建前で、立場も責任もある大人の言葉だからきっと正しい、仕方ないって自分を騙して……。馬鹿みたい。形の無いものに縛られてずっと言いなりで……でも、もう我慢しない」

 

 奥村春は、深呼吸をして意を決した顔つきになる。そして、

 

「私あの人無理っ!! キモイ!!」

 

 盛大に思いの丈をぶちまけた。奥村春は憑き物が取れた顔になると、モルガナに語りかる。

 

「これが、私の本音だよ」

「な、なんだよハル急に大声なんか出して……」

「モナちゃんはなんで人間に戻りたいと思ったの?」

「…………最初は、記憶を取り戻すまでの仮の住処ぐらいに思ってた。でも、自分が何なのか、なんのために生まれたかも一向に分からなくて……目的が欲しかった。怪盗団にいる目的が……でも復讐したい相手もいない、助けたいやつもいない。そんなワガハイがここにいていい理由が……だから、ワガハイにとってここが……この怪盗団が……」

 

 声が震えている。本心を話して拒絶されることが怖いのか、それとも単に恥ずかしいだけなのか。少なくとも、ここにいる連中の中で、モルガナのことを拒絶する奴を俺は知らない。

 

「唯一の居場所だ! ずっとここにいたいんだーっ!」

 

 モルガナが本心を打ち明けると、怪盗団の面々に笑みが浮かぶ。

 

「いいのか!? ワガハイと居るとどんな不幸が降ってくるか分かんないぞ!!」

「望むところだ」

「そうそう。てか私達も一緒に居たいに決まってるじゃん」

 

 モルガナは吹っ切れたように自身の憎まれ口を叩くも、そんなことを気にする怪盗団じゃない。その事実を受け入れたモルガナは小さな頭を下げた。

 

「ああ、そのなんだ……心配かけてごめんなさい」

 

 モルガナが謝罪して、怪盗団に戻ってきた。これにて円満解決だ。

 

「この雰囲気で言いにくいけど……皆、終電大丈夫?」

 

 かなり時間が経ってることに気付いていなかったのは、今日は色んなことがあったからだろう。もうすっかり夜は更けていた。

 

「私は……」

「春は泊まってけ。ナシつけとく」

 

 そう言って奥村春は双葉に連れられ佐倉家に泊まることになった。皆は終電に乗り遅れないように急いでルブランを出ていく。それに付いて行こうと俺も屋根裏部屋から出て行こうとすると、モルガナに声を掛けられた。

 

「クルミ」

「無いぞ」

「ちげーよ! オトモリの方を呼んだんだ!」

「いるぞ」

「おう、ちょっとだけ話したいことあるんだ。蓮も聞いて欲しい」

 

 俺は屋根裏部屋に残って蓮と一緒にモルガナの話を聞こうと椅子に座った。

 

「……ちょっと嫉妬してたんだオマエに」

「え、なんで?」

「クルミは怪盗団歴で言えばほぼワガハイと一緒だ。ジョーカーよりも前にワガハイと一緒にカモシダパレスを攻略してたんだからな」

 

 あー懐かしいな。もう何ヶ月も前の話だ。あの時は鈴井さんを助けるので精一杯だったな。

 

「いわば同期だ。そんなオマエが。ワガハイを置いて強くなって、今や蓮と同じくらいの強さになってて、肩を並べて戦ってる。それに他の仲間から頼りにされてるのが少し……」

「それで妬いていたのか?」

「……ああ」

「はぁ……それを本人に告白する必要なかっただろ。羞恥プレイか?」

「違げーよ! ワガハイの心のしこりを取っときたかっただけだ! いいか? アン殿は渡さないからな!」

「狙ってないし、モルガナのでもないだろ」

「ハハーンどうだか。元の姿に戻ったらメロメロになるかもしれないぞ?」

「じゃあ元の姿になれるように頑張れよ」

「わかってるって。だからこそクルミ、改めて取引だ。ワガハイと一緒に手伝ってくれないか?」

「いいよ」

「もちろん役に立……って即答かよ!」

「俺もモルガナの願いを叶えたいからな」

 

 皆と一緒の人間の姿になりたいっていう理想を叶えてやりたいから。

 

「改めて。頼むぜクルミ」

「よろしくな。モルガナ」

「その……胡桃。いい雰囲気のとこ悪いんだが……」

 

 なに? と言って、蓮がスマホに映し出された時計を俺に見せる。……終電間に合わん。

 

「……泊めてくんね?」

「ナシつけとく」

「梨あるのか? ワガハイ食いたい!」

「「ちげーよ」」

 

 

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