幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#44 脚本の人そこまで考えてないと思うよ

 フィアンセとの戦闘開始。

 

「人のモノを盗むドロボウにはキツイお仕置きが必要だなぁ! ハルゥ! 大人しく俺のオモチャになりなぁ!!」

 

 敵は三体。春の婚約者だった巨大ロボと、増援の『社畜ロボ・TYPEヒラ』が二体。

 

「ジョーカーどうする? 俺が吹き飛ばしてもいいか?」

 

 平社員ロボの弱点は火炎と疾風。俺のアステリオスで余裕で倒せるし、巨大ロボは念動属性が弱点だが、まぁそこまで体力も多くないし、必殺技出せばゴリ押せる。

 

「待った。春のお手並み拝見といこう。それに……」

 

「貴方と話し合うつもりはない……! お父様を改心させるためにも、私はこんなところで負けるわけにはいかない!!」

 

「燃えてるやつに任せたほうがいいだろ?」

「了解」

 

 仮面から手を離して、春が先陣を切っていくのを見守った。

 

「惑わせ! ミラディ!」

 

 春が敵全体に念動属性の攻撃をぶちかます。最初から【マハサイオ】を覚えてるのは優秀だ。

 

「よし、じゃあハル、バトンタッチ――」

「ふん!」

「ぉうわっ!?」

 

 ダウンを取った春は交代を無視して、追撃のロケランをぶっ放した。

 

「あっぶねぇ……。よし、じゃあハル今度こそ……」

「えい! はぁ!! せいっ!」

「ハル……?」

 

 春はダウンしている巨大ロボに向かってひたすら手に持った斧を振り上げ、そのまま叩き下ろしている。何度も何度も。個人的な恨みが募った執拗な攻撃に、こっちの何名かは少し引いている。

 

「……パンサー」

「えっ、うん!」

 

 杏に平社員ロボに攻撃を指示すると、お得意の火炎属性の攻撃を放ち、平社員ロボはダウンした。

 

「総攻撃だ。春……春っ!」

「あ、うん。合わせるよ!」

 

 蓮の呼びかけで、巨大ロボに攻撃していた手を止め、総攻撃に参加した。 

 

「これでフィニッシュ!」

 

 Adieu.

 

 どこからか持ってきたティーセットを……いや生み出されたのか? 春が鮮やかに紅茶に飲むその背後で敵達が黒い液体を噴射して倒れる。

 

 やけにあっさりと戦闘終了だ。

 

「ふぅ……あ! あの人消えちゃったけど大丈夫なの!?」

 

 あそこまでボコボコにしていたのに今更になって焦るのか。

 

「あれは認知上の存在だから大丈夫よ。現実の彼は何ともない」

「あ、モナちゃんが言ってた気がする」

「ちゃんと教えたはずなんだがな……」

「てかさ、これ仲間が増えたんじゃね? よろしくなええと……」

「コードネームはもう考えてあるの。【ノワール】と呼んでくださる?」

 

 襟を正し、少し得意げな顔でコードネームを口にした。

 

「フランス語で黒という意味。私は正義のヒロインでありたいけど、怪盗団は純然たる正義じゃないでしょう? そんな自戒をこめてノワール」

「……とのことだ」

「設定作り込んできたな」

「……? 皆もなにか意味があるんじゃないの?」

「いや割と見たまんまだったり、役割だったり……」

「……そう」

 

 あ、なんか露骨にがっかりしてる。

 

「でもいいと思うわ。迎合しない気高さや、社会への反抗心を感じるわ」

「俺もそう思う。オシャレだしネーミングセンスあるじゃん。俺も名前つけなおして欲しいぐらい」

「そ、そう? じゃあブルは……ファラリスとかどう?」

「却下で」

「なんで拷問器具? 火炎属性使うから?」

「才能の枯れるスピードが尋常じゃないな」

「そっか……でも確かに、ブルって牛の他に、ブルズアイっていう百発百中の意味を持たせているんだと思うし、怪盗団の柱のような存在ということで、中央って意味でダーツのブルから取ってるんだと思うと、それを超えられる気がしないかな……」

「そう考えて名前つけたんですか先輩?」

「も、もちろん」

「絶対考えてなかったなコレ」

 

 正直、カウとかビーフよりはブルの方が語感が良かったからって理由だけでそんな二重三重の意味は込めてない。

 

「取り敢えず新しい仲間が入ったところでパレスを攻略しやすくなったな。……ノワール。まだ行けそうか?」

「もちろん。行けるとこまで行こうよ」

「気を抜くなよ。オタカラを盗むまでがパレスだぜ」

「うん!」

 

 すっかり調子の戻ったモルガナは春に先輩風を吹かせていた。

 

 

***

 

 

 このパレスは奥村邦和の強欲によって形成されたパレス。認知が変化して会社を宇宙基地だと思っている。そして社員はロボット……壊れるまでこき使って、壊れてしまったら廃棄すればいい。

 

 社員は使い捨て。休憩なんて30分も無い。バイトをいびる社員。コストカットのため設備費の削減したが利益はそのままにしろ。

 

 パレスの奧に進んでいくたびに出るわ出るわ黒い噂が。働き方改革って言葉知らんのか。この時代ってあんま浸透してなかったんだっけ? まぁいいか。奥村邦和はクズ人間というより、冷酷で非道な人間、情が無く利益のためなら他人を容赦なく切り捨てられる。人の心が無い。まるで本人もロボットだ。

 

「……ノワール。大丈夫か」

 

 祐介が春に心配の言葉をかけた。祐介は斑目の件で、身内の心の内側を見る辛さを知っている。それに本人も班目に洗脳されて今の境遇が正しいと思わされていた。このパレスでいうと、社員ロボットと同じ立場だった。だからこそ祐介は春の心が痛いほど分かるんだろう。

 

「……大丈夫。これは私が背負わないといけない責任。そしてお父様のやってきたことを見て見ぬふりしてた罪だから。……辛くても目は逸らさないよ」

「……そうか」

 

 ゲームでも思っていたけど、社長令嬢であるからか、それとも昔に憧れのヒロインを見て成長したのか、春は自分に確固たる信念と正義があって、高校生らしからぬ価値観があると思った。多分怪盗団の中でも精神力が強い方で、心が折れても一番立ち上がるのが早いと思う。

 

 そうして宇宙基地からその工場へ、最後にはオタカラの眠る基地の最奥部へと進む。

 

 そしてパレスの中でもより強く存在する歪み。【イシの部屋】の前に居座っているシャドウに戦闘を仕掛ける。

 

『おいおい、俺が淹れた酒が飲めないってのかよぉ!? こりゃあエリアマネージャーにチクって評価を再検討して頂くしかないなぁ?』

 

 パワハラ社員シャドウが異端の救世者(メルキセデク) となって襲い掛かってくる。

 

「典型的なパワハラじゃないですか!」

『パワハラだぁ? これは教育だ!』

「そう言って弱い物いじめしたいだけじゃない! 恥を知りなさい!」

『ああん!? っるっせえよ! 反抗的な奴は会社に利益を出せねぇから叩き上げるしかねぇんだよ!! おらっ! 喰らえ!』

 

 異端の救世者(メルキセデク)が【ゴッドハンド】で怪盗団に狙いを定めて、そのスキルを放った。物理攻撃最強という言葉を具現化した巨大な拳がジェット噴射して飛んでいく。

 

 

 ……だが狙った奴が悪かった。

 

「あ」

『……っぐあああああっ!! な、なぜ効かねぇ!?』

 

 ジョーカーに向かっていた攻撃は、そのまま跳ね返って異端の救世者(メルキセデク)へと当たる。ジョーカーの背後に薄っすらと浮かび上がったギリメカラが見えた。

 

「……モナ」

「あいよっ! 出でよ我が半身!!」

 

 モルガナが出したゾロの【ガルダイン】で異端の救世者(メルキセデク)の弱点を突いてダウンを取る。そのまま総攻撃でフルボッコにしてフィニッシュ。

 

 哀れ異端の救世者(メルキセデク)。同じパレスにギリメカラとかいう物理攻撃反射持ちがいたことを呪ってくれ。ジョーカーがそんな便利耐性の奴をほったらかしにしてるわけがない。

 

「これアルハラってやつだよね。最近酒を無理矢理飲ませるっていう……」

「本人は良かれと思って飲ませようとしているから、アルハラしている全員が全員、悪いと思って無いのも問題よね」

「コイツの言動から考えるに普通にパワハラしてたけどな」

「……でも酒ってリスクしかなくないか? 大人になっても飲みたいとか思わないんだけど」

「現実逃避できるって意味合いではいい道具だぞ。何も考えれなくなるからな」

「……でもマズいんだろ? 子供舌の私でも飲めるのとか無さそ」

「カシオレとかカルーアミルクとかジュースみたいに甘いからいいんじゃないか? 飲みやす過ぎて知らぬ間にアルコール回ってるってのに気をつけなきゃいけないけど」

「ほう……」

 

 いきなり強い度数いくと悪酔いしやすいからまず軽いアルコールで慣らしてからじゃないとダメって、転生してから知った。

 

「へぇ、随分物知りなのね」

「ん? ああ……え?」

「まるで飲んだことがあるみたいに」

 

 あ。ヤバイ喋り過ぎた。背後にいるであろう真の視線が怖くて振り返れない。穏やかな声だから余計に怖い。

 

「フっ……」

「……おい。まさかナビお前」

「知ってるかブル。相手から情報を引き出すのに有効なのは、無知のフリすることだ。馬鹿なやつは嬉々として教えてくれるけどな」

 

 したり顔で双葉は語る。

 

「い、いや俺そんなアレじゃないし。多分他の奴らも飲んでるし……」

「いや飲むわけねーだろ! ホーレイイハン? ってやつだろ!」

「そうです普通に犯罪行為なんですよ!」

「……さて、イシ取るか」

「……そうだね」

「……うん」

 

 おいちょっと待て。なんか数人目を逸らした奴らいたな?

 

「あとで、“お話”しましょうね」

 

 肩に手をポンと優しく置かれた。女性の腕力のはずなのに力を入れても上半身を動かせない。首だけ動かして真の方を見ると、ニッコリと微笑んでいた。怖い。

 

 

 ***

 

 

 パレスの最奥へと辿り着くと、ガラスのショーケースの中に丁重に保管されているオタカラを見つけた。

 

 

「これでオタカラのルートは確保した。あとは予告状を出して改心させるだけだ」

「黒い仮面と精神暴走の手掛かりを得られなかったのが気がかりだが……」

「それはあの社長をぶっ飛ばして吐かせりゃいいだろ! よっしゃ! 予告状を出す日は任したぜジョーカー」

「そうだな……じゃあ明日に」

「あー……悪い。予告状を出すのは少し遅らせて欲しいんだけど」

 

 蓮の提案に待ったをかけた。

 

「理由を聞いてもいいか?」

「……まぁちょっと色々準備したいんだよ」

 

 実は奥村邦和を救う術が思いついていない。原作通り改心させたとしても明智によって廃人化して殺される。だからといって改心させずに放置はありえない。

 

 ……校長の命を救ったあの力も、多分意味無い。一時は防いだとしても、あとからまた明智が廃人化させればいい話だからだ。

 

 じゃんけんで常に後出しされてるみたいだ。こっちが何をしても全部ひっくり返される。

 

「わかった。正直俺も少し予定が忙しいから、明日が無理だったら少し期間を開けようと思っていた」

 

 ああ、うん。お前はこの時期コープ回収忙しいもんな、わかる。

 

「準備が出来たら連絡してくれ。もちろん期限内な」

「サンキュー」

「じゃあ今回はここまでだ。引き上げるぞ」

 

 

 ***

 

 

 認知世界から帰ると、あの世界では無かった陽射しが眩しく感じる。パレスの景色は全体を通して暗い宇宙だったから余計そう思うのかもしれない。

 

「ふぅ……さすがに疲れた……」

「双葉は初めてのパレス攻略だからな。元引きこもりには体力厳しいかもな」

「そうだ。もうちょっと丁重に扱えー。ってか、すみれはなんでそんなピンピンしてんだ」

「鍛え方が違いますから」

 

 すみれは腕をまくって、細腕にあまり盛り上がっていない力こぶをつくる。

 双葉がふにふにとすみれの上腕二頭筋を触って、おお~、と感嘆の声を上げている。というか、すみれは双葉にタメ口なんだな。いや同じ年だから当たり前なんだけど、なんか意外だ。いつの間にか仲良くなったのか。

 

「すっげ固ってぇ! 石膏だこれ!」

「女の子の腕にその例えはどうなの?」

「なぁ、胡桃も触ってみろよ!」

「は」

「え゛?!」

 

 なんだそのキラーパス。しかもなんで俺指名なんだよ。

 

「そうやってべたべた触るのは……」

「別に大丈夫ですよ。……どうぞ」

 

 いや、どうぞってなんだよ。……別に拒否する理由も無いし、本人が嫌じゃないなら触るけど。

 

「……」

「…………っ……ん……」

 

 あまり力を入れないように触れると、すみれは一瞬だけ体を震えさせて声を漏らす。あえて無視して、上腕二頭筋の筋肉を確かめた。触れて指で少し押しただけでも分かる。固い。いやめっちゃ固い。

 

「石膏だこれ……」

「だろ?」

「ほう……俺も触りたいがいいか?」

「ええ、いいですよ――」

「女性の二の腕は胸と同じ柔らかさと感触があると聞いたことがあってな。確かめてみたかったんだ」

 

 祐介のその発言で空気が固まった気がした。

 

「どれ確かめ……なんで一歩引く?」

「いや……なんかこう……すごく……気分が乗らなくなりました」

「じゃあ胡桃、どんな感触だ?」

「え、ああ……そうだな」

「……っひゃあ!?」

 

 すみれの二の腕掴んで触ってみたけど……うん。やっぱり。

 

「皮。普通に筋肉あるからそんなに柔ら――あぐっ!?」

「おい胡桃どうし――うぐぅっ!?」

 

 俺は杏に脇腹に肘を入れられ、祐介は真に肘鉄をくらい、苦悶の表情を浮かべていた。すみれの方を見ると、顔を赤くして涙目で少し震えていた。

 

「あんたらいい加減にしろ」

「セクハラだからね?」

「「……すみません」」

 

 すまん。ほんのちょっとだけ魔が差してしまった。

 

 あ、そうだ。春に聞いておきたいことがあったんだ。

 

「そういや春に聞きたいことがあるんだけど」

「触らせないけど?」

「違う! かなり真面目な話!」

 

 あと、目が座って感情の無い平坦な声で返されるのは怖いからやめろ!

 

「あ~……っと、父親のことなんだけど、改心したらもう悪事はしないはずだ。でも罪は裁かれるし、その罪は春も背負うことになると思う」

 

 奥村邦和は世間の認知度が高い人間だ。今までのターゲットよりも被害が大きく、改心した後にありもしない噂が尾を引くかもしれない。

 

 それにゲームでは“奥村邦和は怪盗団が容赦なく殺した”から世間でもそこまでする必要はあったのか? と同情の声があった。

 

 しかし、もし生きていたらその擁護の声は無かったと考えられる。

 

 つまり俺が助けてしまったら、より一層世間からのバッシングを受けるわけだ。奥村邦和はもちろん、その関係者も。そしてその娘である春も。

 

 死んでしまったらそこで終わりだが、多分春が見るのはゲームよりも酷い地獄だ。

 

「だから、もう二度と関係は戻らないと思うし、失うものも多いはずだ。でももしかしたら――」

「――やり直すことは出来る。って私は信じてる」

 

 春は強い覚悟を持ってそう答えた。

 

「時間はかかるかもしれないけど、また一から始めようと思う。きっと辛いけど……それが一番誠実な道だから」

「……そうか」

「ごめんね。話に口を挟んじゃって。聞きたいことってなに?」

「いやこの後起こるであろう世間の声を受け止める覚悟が聞きたかっただけ。何が出来るか分からないけど俺らも手伝うから」

「そっか……ごめんね。ちょっとだけ迷惑かけちゃうかも」

「少なくとも迷惑だと思ってる奴はここにはいねぇって! なぁ?」

 

 春の言葉を笑い飛ばした。仲間を助けるのは別に迷惑でもないと。

 

「ああ。そうだぜハル。ワガハイ達は仲間は見捨てないぜ」

「うん……ありがとう……あ、あれ? どうしてだろうちょっとだけ……」

 

 春の目から涙が零れ始める。それを見て蓮がポケットからハンカチを出して春に差し出した。

 

「ごめん……ありがとう」

「大丈夫だ。泣いても誰も責めない」

「うん……」

 

 春にとって初めてとも言える、仲間や友達がいるという安心感から来た涙かもしれない。人前で涙を流してもそれを拭ってくれる人間と、それを許される居場所。

 

「……もう、大丈夫。これからよろしくお願いします」

「うん。絶対改心させようね」

 

 そして怪盗団は流した涙を力に変える事のできる人間達だ。

 

 ならば俺も頑張るしかない。よりよい結果のために、あらゆる手を尽くすしかない。

 

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