9/27 火曜日 放課後 晴れ
「明智吾郎が黒い仮面んんぅう!??」
「ちょ、竜司声がデカい!」
「あ、わりぃ」
俺は怪盗団をルブランの屋根裏に呼び出し、作戦会議を開いた。
「それは本当なのか胡桃」
「ああ。俺、修学旅行の時休んでたろ? んで、元気になって散歩してたら校長を見たんだよ。なんか様子おかしくて尾けていったら近くの建物から明智が出てきて。その直後校長が道路の真ん中で立ち尽くして轢かれるの待ってたんだ」
半分は嘘だ。だが『明智が校長になにかした』という点については合っている。事実を先出しして、過程を作りあげる。真実を知っている俺だけにしか出来ない交渉。
「でもさ。もし、明智が黒い仮面だとして目的はなんなの? 黒い仮面って確か斑目と金城とも面識あったよね? 共通点ある?」
獅童と繋がっている……という知っている結論を出すにはまだ早い。
「あるとしたら全員金持ちってことだよなぁ。そいつらから金貰ってたとか?」
「でも明智さんって有名人ですし、あまりお金に困って無さそうな感じします」
「それに校長を狙う理由ってなに? 校長もお金持ちだったの?」
「はいはい。じゃあ一つずつ消化しきましょう」
真は手を叩き、俺の声に耳を貸すようにこちらを向かせた。この作戦会議を話す前に事前に双葉と真に話していた。
俺一人のこの思いつきを話しても、ただの妄想として流されてしまうだろう。だけど事前に真と話して情報を擦り合わせることで、真をこちら側につける。あとは頭脳派の真が信じるんなら信憑性は高い妄言で怪盗団に信じ込ませる。
真を信じさせるのは苦ではあったが、確実に信じるだろうという確信はあった。なぜなら俺は事実を知っているから。その事実から逆算して筋道を立て、仮定の骨組みをしてやれば、あたかも一つの真実が浮き彫りになっているように見える。
ただ、この話の肝は『“もし”俺の妄想が真実だとしたら、春の父親の命が危ない』ということ。
真はその“もし”のリスクを無視できるほど粗雑な頭をしていない。俺の言っていることが真実かもしれない。真に思わせることでこの作戦会議は開かれた。
「まず黒い仮面と明智が同一人物ということは置いといて、黒い仮面がなぜ精神暴走や廃人化しているのかということについて」
「動機か」
「現在私達が知り得る中で被害に遭っているのが、双葉のお母さん、秀尽高校の校長、そしてオクムラフーズの競合他社の社長よ」
「私のお母さんは、悪い大人が研究を独占するために殺された」
「競合他社の廃人化も、他の企業がいなくなれば自社が市場を独占して利益を出すことが出来る」
「だとしたら校長も……なにか目的があった人間に殺されたと考えるべきか」
「ここで見えてくるのは加害側の動機がバラバラだということ。研究の独占に自社の利益……あまり結びつかないわ」
「……ってことは……つまり黒い仮面は複数人いるってことか!?」
竜司がなにか閃いたように発言したが、それはあまり考えたくない発想だった。ようは加害者本人達が黒い仮面って言いたいってことなんだろう。
「竜司が言ったことも否定は出来ないわ。でも、どちらかというと黒い仮面はお金を貰って依頼されて動いているんじゃないかしら。それにもし黒い仮面が複数人いたとしたら。現実で廃人化の被害はもっとひどい事になってるわ」
「黒い仮面は単独犯かつ、誰かの依頼で動いているってことね」
「ん? ……待ってください。それならどうやって加害者側は黒い仮面の存在を知ったんですか? 認知世界って第三者に説明しても簡単に信じられないっていうか……。
私もあんまり理解出来てないからいきなり『気にいらない人間、廃人化してあげます』とか言われても現実味が無いというか……」
「いい質問だすみれ」
「えへへ……」
すみれの言う通り、そもそも認知世界を信じてもらわないと黒い仮面にとって仕事にならない。
「俺ら以外にも認知世界を信じている連中がいる可能性はある。認知訶学を研究している連中とかな」
「……待ってそれじゃ双葉のお母さんが殺されたのって」
「研究してた連中が黒い仮面に依頼したのか、それとも自分を売り込むために双葉の母親を殺したのかは分からない。でも接点が無いとは考えられない」
「それに黒い仮面が組織に所属している人間だとしたら、背景が見えてくるわ」
「背景?」
「ビジネスよ。個人で売りこむのは難しくても組織単位で、しかも実績もあるのならば、廃人化のことも信じてもらうのは容易でしょう」
「でもそれって組織とか黒い仮面にメリット無くない?」
「まさか。それでがっぽり稼いでるんじゃねぇの。コレを」
コレといって、指でお金の形を作る。
「班目も金城も、もしかしたら奥村もその黒い仮面がいる組織と繋がっていたってことか」
「そしたら次に、校長が死んだ理由も見えてくるだろ」
「……誰かに依頼されたから廃人化されたんじゃなくて、お金が払えなくなったから? 廃人化のことをバラさないように殺された?」
「多分。もしくは校長の死に利用価値があるから殺したか……とりあえず今分かるのは敵は黒い仮面だけじゃなくて、その奥にいる組織も存在するかもしれないって話だ」
正確にはお金云々より、秀尽にいる怪盗団を探せなくて見限られたのと、学校に捜査を入れるための大義名分のために殺されたのが真実だ。
「はい。じゃあ一旦、たらればと仮定だらけの話は頭の隅っこの端に置いといて」
「今までの時間は……?」
「頭の隅に置いといてくれればいいや。今度は黒い仮面の次の動きの話。双葉、頼んだ」
「やっと私の出番か。ほら皆これ見ろ」
双葉が持っていたノートパソコンの画面を皆に見せる。
「これ、この前の喧嘩売ってきたメジエドのコードな」
「実は創始者は双葉だった組織ね」
「そう。でもこのコード綺麗じゃない。まるでド素人が組んだみたいだ。仮にもハッカー集団を名乗るやつらの痕跡じゃない」
「どういうこと?」
「私達に喧嘩売ってきたのはメジエドじゃない。メジエドじゃない誰かだ」
この作戦会議を開く前に双葉に前もって、調べてもらっていた。直接「なんかメジエドっぽくなかった」とか言えるわけないから、何か誘導されているかもしれないということを仄めかして「双葉もなにか違和感あることなかったか?」と聞いたら、メジエドの紛い物に気付いてくれたようだ。それに見つけてくれたのはそれだけじゃない。
「あと『怪盗お願いチャンネル』の改心してもらいたいランキングあるだろ? あれなんか変な奴が工作して、『奥村邦和』を一位にしてる」
「なんでそんなことを? あの社長さんを改心させたいってこと?」
「さっきの頭の隅に置いた話を持ってくると、奥村社長はお金が払えなくなったってことになりますが、社長にお金がないとも思えませんけど……」
「いーやワガハイ分かったぞ。これ誘導させられてるだろ」
「さすがモルガナ勘が良いな。野生の勘か?」
「だから猫じゃねぇって」
「言ってねぇよ」
まぁモルガナの言った通りこれは獅童一派に、世間が怪盗団を持ち上げるように仕組まれている。
「でもそれならわざわざ怪盗団に改心させなくても、黒い仮面に廃人化させた方が早いだろ。こんなハッキングして回りくどくねぇか? ランキングを操作してまで改心させる必要性が無ぇ」
「……目的は、怪盗団の信用の失墜か?」
「鋭いな祐介」
「野生の勘だ」
「お前は認めんのかい。今、祐介も言った通り、もし奥村を改心したとしてその後廃人化したらどうなる。世間からは『今までに起こった精神暴走と廃人化事件の犯人は怪盗団』というレッテルが貼られるわけだ」
「そして手のひら返したように怪盗団は世間から叩かれ、今まで怪盗団を叩いていた人達が持ち上げられ始める」
実際ゲームでもそうだ。緊急会見中に廃人化されて奥村邦和が死ぬことで世間では怪盗団の仕業ということにされ、精神暴走と廃人化の罪を擦り付けられた。
「あー悪ぃ。俺はバカだから分かんねぇけどよぉ……つまりメジエドの時から仕組まれてたってことか?」
「その通り。そして次の一手は、改心後を狙った奥村邦和の廃人化だ」
「……お父様が……!」
「死なせねぇよ。そのための作戦会議だ」
死なせてたまるか。怪盗団にまで相談を持ち掛けて、やっぱり救えませんでしたは絶対にさせない。
「まぁこれからどうするって話になるけど、一番手っ取り早いのは奥村邦和の改心を止めることだ。でもそうしたら春の婚約者問題は片付かずに春は犠牲になる。その選択は」
「「「「「「「ありえない」」」」」」」
「だよな。なら俺からの提案いいか?」
***
10/1 土曜日 晴れ
パレス潜入前、俺達はオクムラフーズビル近辺の路地裏に集まっていた。
「それじゃあここから別行動ね」
「胡桃ちょっと緊張してる?」
「いやまぁ、作戦の成功が俺にかかってるわけだから少しは」
明智と取引するの蓮か真のつもりなのに、まさか俺だとは思ってなかった。
「やったるぞーって円陣組んで気合い入れる?」
「円陣組むには路地裏はちょっと狭いな」
「胡桃先輩にハイタッチして行きます? 私大会前はそうやって送り出されてるので」
「それいいな。やるか」
「じゃあ最初はモルガナ先輩から」
すみれは足元にいるモルガナを俺の腕の高さまで持ち上げた。
「おうモルガナ失敗すんなよ」
「誰にモノ言ってんだ、ワガハイだぞ? クルミこそなんもないとこで転んで失敗すんなよ?」
「誰に言ってんだ。任せたぞ」
「ああ」
モルガナの小さな猫の手と手のひらを合せた。
「じゃあ次は私ですね」
すみれはモルガナを地面に下ろすと、すみれは控えめに両手を上げた。
「ええっと……ファイトです!」
「ああ、そっちこそ」
両手でハイタッチなんて初めてだったから、手押し相撲みたいに音が鳴らないハイタッチになってしまった。それが可笑しくて二人で笑ってしまった。
「頑張れ行ってこい」
「はい!」
「……よし、じゃあ次は竜司――」
バッチーーーーン!!!! と、構え損ねた右の掌を思いっきり叩き抜かれた。
「……~~っ痛っったぁ!!? お前、少し手加減しろよ!」
「いやぁ、こういう流れだとやっぱりやりたくなるんだよなー。陸上部でよくやってたし。気合い入ったろ?」
「十分すぎるほどにな! そのままぶちかましてこいよ」
「おうよ!」
「はぁ……じゃあ杏――」
バッチーーーーン!!!! と、再び構え損ねた右の掌を思いっきり叩き抜かれた。
「……っってぇ!? おまっ……」
「Can you wish me luck?(応援してくれる?)」
「……Sure. Good Luck(もちろん、幸運を祈る)」
「Ⅰ don’t need luck!(幸運なんて必要ないよ!)」
とびっきりのスマイルとウインクで返された。
「はは……それちょっとかっこよすぎるだろ。今度真似しようかな」
「ふむ……やはり素敵な女性像だな杏は」
「うわびっくりした」
祐介が背後に立っていた。いきなり背後に立たれると怖い。俺より身長あるから威圧感も感じるし。
「胡桃、焦ってポカをするなよ。お前はちょっと抜けてたりするからな」
「一番抜けてる奴に言われたくねぇ~……んじゃ爆発させてこい」
「何をだ。芸術か? それともパレスをか?」
「全部」
「任された」
俺が右手を上げると、鏡合わせのように祐介も右手を上げ、そのままハイタッチをした。
「……パレスを爆発させると困るんだけど……」
真がこめかみを抑えてぼやいていた。
「そのくらいの気概でいこうぜってこと。それにそういうの嫌いじゃないだろ」
「まぁね」
「……この作戦の相談乗ってくれてありがとう」
「いえこちらこそ。頼ってくれてありがとう」
「そっちも頼んだ」
「ええ」
路地裏でパチンと小気味のいい音が路地裏に響いた。
「ほら次、双葉ー」
「おう任せろ!」
双葉は勢いよく両手を上げた。いや上げすぎ、もうそれ挙手だ。
「お前ら戦闘中バトンタッチでハイタッチしてるだろ? ……ちょっと羨ましかった」
「あーうん。今度やろうな」
「絶対だぞ!」
俺も両手を上げて、双葉とハイタッチをしようとするも、お互いの手を合わせるタイミングがズレて、音の鳴らないハイタッチをした。「あーあー」と言ってお互いに笑った。
「んじゃ春。……重要な役回りだ。頑張れよ」
「うん、わかってるよ。絶対に改心させてみせる」
「ちゃんと自分のことは信じ抜けよ? 自分は説得できるって。説得する側が不安だと出来るもんも出来なくなる」
「何のアニメの台詞?」
「全部終わったら教える」
「約束ね」
「わかってるって」
ハイタッチしなれていない、控えめに上げた手を俺から叩きにいった。……ちょっと強く叩いたかもしれん。
「じゃあラスト。リーダー」
「ん」
特に言葉を交わすことなく、お互いの手を叩いた。
「お前は特に何も無し?」
「信じてるとか言うの野暮だろ?」
「かもな」
全員とハイタッチし終えると、俺以外の怪盗団はオクムラフーズのビルへと向かった。
さて、と。ここからは俺一人の戦いだ。奥村邦和の改心後、パレスから出てくる明智を捕らえる。そして奥村邦和の廃人化を止めるように説得、もとい取引をする。
「……よし」
……案外ハイタッチってのも悪くない。気合いも入った。
やってやる。俺しか出来ない方法でここを乗り越えてやる。