ちゃんと完結させるまで死なないので、自分のペースで書いていきます。
#52 性癖にはソイツの全てが反映される
奥村邦和の改心から10日経った。
奥村の死の運命を回避するために明智と交渉をして勝ち取ったルート。原作から離れた結果は分かりやすく数字になって表れた。
それは怪盗お願いチャンネルの『怪盗に正義はあると思いますか?』という質問。質問に対して【YES】か【NO】で答えられ、【YES】と答えた人数の割合が可視化されるアンケートだが、今現在【YES】と答えた人の割合は9.8%だ。
ゲームではこの時点で25%だったため、今回は原作よりも急速に信用が落ちている。
原因の一つは奥村邦和の記者会見の発言だ。
協力者の黒い仮面のことを言おうとするも、結局廃人化させられてしまい、最後まで言えずに全国に廃人化の様子が流れる。その様子が怪盗団の仕業として世間に誤解され、評価が落ちたのがゲームでの展開だ。
それに対し今回は 奥村邦和に怪盗団の仕業だと言わせて生存させたことで、その影響が大きく出た。
記者会見で奥村が暴露した真実(丸喜先生に真実だと思いこませた嘘だけど)は、当初はそれこそオクムラフーズやその社長である奥村邦和が叩かれていたが、世間の矛先は次第に怪盗団へと向いた。
それだけならアンケートの数値は原作と変わらないけど、とあるネット記事のおかげで、怪盗団の世間様の風当たりがより強くなった。
『奥村邦和は罪を償おうとしている罪人である』
痛々しい見出しと世間の逆張りのような記事で注目を集めたネット記事だ。その中の一文に『奥村邦和は死のリスクを抱えてまで怪盗団を告発した』と書かれている。『記者会見の発言は怪盗団から見たら裏切りであり、いつ粛清がくるか分からない状態になってまで奥村邦和は告発した。その勇気は称えられるべきだ』とも書いてある。
つまるところ奥村邦和の擁護記事だ。その記事のコメント欄では『だからといって罪が無くなったことにはならない』とか『自演自作乙』と書かれているが、良くも悪くも、その記事はネットの熱を煽るには十分だった。手のひらを返すように、ネットでは奥村邦和を擁護する意見が溢れた。朝のテレビ番組では有名人がそれについて討論したり、有名インフルエンサーが『ビッグバンバーガーを救いたい!!』という企画でオクムラフーズに寄付金を贈与するという動画を上げていた。……春は後処理が大変とぼやいていたけれど。
ともあれ世間には奥村邦和という『正義』と、怪盗団という『悪』の構図が出来上がってしまい、だからこそあのアンケートの数字なんだろう。
これについては怪盗団の立場は悪くなるが、春にとってはまだマシな結末だろう。父は命を落とさず、会社の評価は少しずつ回復傾向になっていると春は言っていた。
そして件の怪盗団はというと。
10/21 金曜日 曇り 中間試験終了
『中間どうだった?』
「………………」
欠伸を噛み殺しながら、怪盗団のグループトークで『大敗』と送信すると、同じ意味の文言が二、三人ほど続いて投下される。『世間を騒がす怪盗に勉強する暇なぞ無いよなぁ!?』なんて送信したら、何人かから同意は飛ぶが真の正論に全員黙ってしまった。世間を騒がす怪盗団は試験に弱い。いやこれは本当に仕方ない中間試験よりも作戦の方が大事だから試験期間中はそればっかり頭いっぱいになって勉強とか手につかないからうん。
『これから事情聴取だけど、みんな普段通りにね』
真から送られたメッセージを見て、試験が終わって弛緩した緊張をもう一度呼び起こす。本日の予定ではこれから学校に警察が来て、個別に呼び出されて事情聴取される。ボロを出さないように質問に答えなければいけないが、大したことは聞かれないはずなので問題はない。
「……ふぁ」
……眠い。やっぱ試験期間中に夜更かしして双葉とゲームしてたせいだな。
***
「状況を整理しましょう」
その日の放課後、怪盗団はアジトに集まった。今日の事情聴取の件も含め、今後の作戦会議だ。
「試験で記憶飛んでたから助かるぜー……」
「アンタは勉強してないでしょ」
「ま、赤点確定の人たちのことは置いといて……。まずは敵の情報について整理しましょう」
真が音頭を取り、どこからともなく小さなホワイトボードを出した。相変わらず用意がいい。
「まずは黒い仮面についてよ。私達がその存在を知ったのは班目の改心の時で間違いないわよね?」
「そうだな。そしてその正体が明智吾郎だと知ったのが、この間の胡桃との取引。そしてその裏に大きい組織がいて明智を使って精神暴走と廃人化の事件を引き起こしていた」
「んで今はクソなことにその事件の罪を怪盗団になすりつけられているってことだな」
厳密にはそう俺たちが仕向けただけだ。と祐介が竜司の言葉に付け加えた。
「そして今日、敵に動きがあったわ。そうよね春?」
「うん。えっと、お父様の家宅捜索があったんだけど、警察の人達がね『校長室から予告状がみつかった!』みたいなことを言ってたの」
「私達はもちろんそんな事はしていないし心当たりはない。……つまり敵が仕掛けてきた。そしてこれで分かったのは明智くんの裏にいる組織は警察を動かせるぐらいには大きいということ」
真がホワイトボードに黒い仮面を描くと、祐介の画家魂に火がつき、黒い仮面にアレンジを加え、双葉がそれにいたずら書きを始めた。真は無視して話を続ける。
「これで胡桃の言っていたとおり、黒い仮面こと明智くんとその裏の組織が警察とグルということが分かった。そして私たちの予想では次に私達を現行犯で逮捕するために行動してくるはず」
「たしか次のパレスで逮捕に踏み切る……だったか」
「だけど、いつ、どこで、どのような方法で? それが分からないと意味ないし、作戦も立てようがない」
「つまり情報が足らない、と。なら私に任せろー!」
と、双葉が勢いよく手を上げた。
「明智のスマホを盗聴出来るように弄れば、たんまり情報は落ちるぞ」
「だとしてもどうやって明智で接触するの?」
「俺に任せろ」
蓮がメガネをクイッと上に持ち上げて返事した。蓮は確か社会科見学のときに連絡先を交換していたはずだ。
「俺が明智と連絡を取って怪盗団に引き合わせよう」
「……わざとらしいと逆に怪しいわ。ちゃんとした理由がないと不自然」
「丁度いいのがある。文化祭にゲストで呼ぼう」
秀尽高校は文化祭の前日までに呼んでほしい芸能人をアンケートで募り、一位になった人を二日目の文化祭のステージにお招きするという行事がある。
「どうせアンケート結果も明智が一位だろ。世間が怪盗団で賑わっている間はさ」
「たしかにその理由だったら不自然でもないか……」
「……いや、それよりももっと簡単な方法があるわよ。胡桃のスマホに盗聴器を仕掛けて、明智くんと二人きりにさせればいいじゃない」
え。
「あー、明智とグルの胡桃なら腹割って話すかもしれねぇって寸法か」
「それもそーか。私がエンカウントして逆に怪しまれるリスクは避けたいもんな。んじゃ胡桃スマホ貸して」
双葉は「ほら」と言って手を差し出してくる。
「あー……っと」
まずい。非常にまずい。
何がまずいって双葉にスマホを渡して興味本位でスマホのデータを漁られたらヤバい。なぜなら【イセカイナビ】に先生のパレスに入った履歴が残っている。認知の書き換えでマルキパレスとは表記されてないが、黒塗りされて【???パレス】みたいな表記になっているからますます怪しまれる。しかも蓮と芳澤かすみに入る前の履歴だってある。これがバレたら問い詰められる。……やばい。言い訳がパッと思いつかない……!
「どしたー? 早く出せー」
「……無理だ。渡せない」
「なんで?」
ここは……、汚名を被ってでもっ……誤魔化すしか無いっっ……!!
「……ってるからだよ」
「……? なんて?」
「エロい画像が死ぬほど入ってるからだよ!!!!!」
「「「「「…………………………」」」」」
言ってやった言ってやったぞ。女性陣からの目線は痛いが、これで押し切る。
「悪いけど、マジでヤバいから。そこら辺歩いてる変態でも俺の画像フォルダ見たら卒倒するレベル」
「「「「「…………………………」」」」」
このままゴリ押せ……! 今! この場の会話の主導権は俺にある!
「だから俺はスマホを渡したくない! フォルダの中身を勝手に見られたくない!」
「なんだぁ~? 私が勝手に見るとでも? 他人のプライバシーは尊重するタイプだぞ」
「ハッカーがプライバシー語るなよ」
「なんだとこんちくしょう!」
「はいはいストップ」
「……あと言うのが遅くなって悪いけど、この間から明智から俺へのコンタクトが一切ない。相手の動きが一切わからない。……接触しようにも連絡先を持ってないから俺個人で明智と会うのは無理だ」
これは俺だけの事情だけど、今の怪盗団と獅童派閥の膠着状態が文化祭の開始まで保ってほしいと思っている。
自分がやらかしたことだけど、ゲームのシナリオからだいぶはみ出たルートを歩いているから、どこにバッドエンドあるかわからない、一歩踏み外したら転落真っ逆さまの綱渡り状態で進んでるわけだ。
だからこその明智。あっちにはニイジマパレスにて怪盗団を現行犯逮捕するという策がある。怪盗団を排除しつつ、獅童の株を上げつつ、精神暴走事件を探っている新島冴を潰せる、一石三鳥の策。
でもそれは
だから今はあえてどちらとも泳がしたい。大分逸れてしまったルートを明智がなんとかして軌道修正してくれているから今は“待ち”が正解だ。事実、この事情聴取イベントも日程通りに進んだし。
「じゃあ胡桃単独で接触して盗聴するのは難しいわね……。それならさっきの双葉の案でいきましょう」
あっぶねー……! 最悪の事態は避けられたぜ……!
「…………変態」
「…………すけべ」
「…………やらし」
……避けられたか?