幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#59 ケンカは“対話”よ

10/29 土曜日 晴れ 曇り

 

 明智吾郎の提案に乗っかった怪盗団は、新島冴のパレスを攻略すべく裁判所前に集まっていた。

 

「冴さんの段取りから見て、おそらく20日に秀尽学園と君の住んでいる佐倉家に強制捜査が入る」

「ということは11月20日が期限か」

「ただ向こうも相当な強行軍のはずだ。20日より前倒しにはならないと思う」

「信じるわ。今はパレス攻略に集中しましょう」

「そうだね、僕らがここでこうしていると中々に不自然だからね。さて、まずはパレスのキーワードだけど……」

「あ! それっ!」

 

 明智が取り出したスマホを双葉が適当な理由を付けてひったくる。

 

「あっ」

「これ欲しかった機種だ! いいなぁ~~!」

「えっと、ごめんなさい。実は双葉は最近まで……」

「いやいいよ。冴さんから事情は聞いてる」

 

 と言いつつ、明智は胡桃にアイコンタクトを送り、『特に問題ない』という風に目を伏せ首を振った。

まぁ、問題がないわけがないのだが。

 

「そうだ明智君。私以外にも連絡先を交換しておいた方がいい」

「まぁ、そうだね」

 

 胡桃の反応を見て明智は双葉の行動を気にも止めずに真と話しているが、当の双葉は明智のスマホに盗聴と位置情報を特定できるように細工をしていた。

 

 双葉が自分の個性(キャラ)を使って明智のスマホを奪い取り、他のメンバーが明智の気を逸らしている間に仕込みを完了させる。怪盗団がこれから逆転するために必要な布石を打つ。そのための作戦であった。

 

「ったく。性格の良いイケメンとかチートだな! ほい、さんきゅ!」

「……どうも?」

「……褒めているはずだ」

(てか仕込むの速……)

 

 明智からスマホを奪って一分どころか、三十秒すら経っていないが、世界的ハッカー集団メジエドの元ボスである双葉にとって、スマホに発信と盗聴を仕込むことなんて、ゲームのオプションを弄るのと大差無いのだろう。

 

「さて、気を取り直して冴さんのパレスに入るためのキーワードだけど……」

「真の姉貴が裁判所をどう思ってっかだな?」

 

 すでに【人物】と【場所】については当たりが出ていて、残っているキーワードは【そこをどう思っているか】だ。

 

「お姉ちゃんは裁判所を勝負の場と言ってたわ」

「ってことは……闘技場とか?」

『候補が見つかりません』

「……カジノよ。きっと」

 

 『キーワードがヒットしました』と、真の一言にイセカイナビが反応する。

 

「さすが冴さんの妹だね」

「……」

 

 明智に言われた言葉を複雑そうな表情で受け止める真。当たってほしくないものが当たってしまった。そんな顔だった。

 

「じゃ、いよいよ行くぜ」

 

 『ナビゲーションを開始します』というイセカイナビの音声と共に怪盗団は認知世界へと入っていった。

 

 

 ***

 

 

 ニイジマパレスは、パレスの元となった裁判所の厳粛で静謐とした雰囲気とは真逆の、下品なほどに眩しく、煌びやかで騒がしい賭博場へと変わっていた。その光の影を歩きながら怪盗団はパレスへと侵入し、上階へ上がるエレベーターがあるフロアに入ったところで声をかけられた。

 

「ようこそ。出てらっしゃい、コソドロさんたち」

 

 危険な色気を感じる声と冷たく心臓を刺すような声が混じる声。声の方向を見てみれば、このパレスの主である新島冴もといシャドウ冴がボディーガードを引き連れ怪盗団を見ていた。

 

「お目当てはオタカラでしょう? いらっしゃい。どこにあるか教えてあげる」

「お、オタカラの場所を教えるだと!? そんな口車に……」

「フフフ。嘘じゃないわ。私は正々堂々勝負したいだけ」

 

 これは罠かもしれないというモルガナの予想ももっともだが、見つかっているのに隠れるのに意味は無い。様子見をかねて怪盗団は冴の前へと出て行く。

 

「来たわね。……オタカラは最上階の支配人フロアにあるわ」

「……どうして教えるの?」

「言ったでしょう? 私は正々堂々と戦いたいだけ。まずは上がってらっしゃい……話はそれからね」

 

 冴は怪しい笑みを浮かべると、一瞬にして姿を消す。周囲を見渡し冴の姿を見つけたのは、このフロアの中央にあった透明な大きなエレベーターの中だった。まるでここまで上がってこいと見せつけるようにしてエレベーターと共に上階へと上がっていく。

 

 怪盗団も追いかけるかたちでエレベーターへと向かい、乗り込もうとボタンを押した。しかし。

 

『メンバーズカードヲ認証シテクダサイ』

 

 と、エレベーターの機械音声から聞こえてきて、門前払いをくらう。

 

「メンバーズカード?」

「……スロットクラブじゃないかな?」

「カタカナばっかでわかんねーって!!」

「一般的なカジノにはスロットクラブっていう会員制度があるんだ。メンバーはランクによってプレイするフロアが分けられているところもある。ここの様子じゃそういうシステムがあってもおかしくないと思ったけど」

「だったら話ははえーじゃん。そのクラブに入ろうぜ」

「まぁそれはそうなんだけど……」

 

 意味が分からない横文字を並べられ苛立つ竜司に、明智は丁寧に説明するが、数メートル後方にシャドウが現れ、臨戦態勢をとる。

 

「やはりか、正面からメンバー登録なんてさせてもらいそうにないね」

「まずは上がってこいとはそういうことか。『上がれるものなら来てみろ』と」

 

 目の前のシャドウが、異形の姿から主に徒なす外敵を排除するための姿へと変貌する。

 

「チッ、来るぞ!」

「大丈夫。僕に任せてくれ。いいところを見せておかないとね」

 

 明智が一歩前に出て仮面に手をかける。

 

 赤く尖った仮面が青い炎に包まれれば、明智の背後に清廉潔白とも言いたげな白のコスチュームに身を包み、金色の弓を携えた彼のペルソナが現れた。

 

「射殺せ、ロビンフッド!」

 

 ロビンフッドが弓を構えれば、黒白の球体がシャドウの周囲を浮かび上がり、その球体が一斉に光線を放ち眼前のシャドウを一撃で撃破する。

 

 明智が戦闘に自信満々だったのも頷けるぐらい、今まで複数のパレスを攻略してきた怪盗団にも、引けを取らない実力だった。

 

「なかなかやるじゃないか」

「まだまだこんなものじゃないよ。さぁ、早く次に進もう」

「ちょっと待って」

 

 杏が、このレベルの敵なら問題無いと先に進もうとする明智に待ったをかけた。

 

「さっきの言い方だと、この先も待ち伏せされていそうじゃない……?」

 

 正々堂々という発言に対し、メンバーズカードを登録しようとした瞬間にシャドウをけしかける所業。

 居場所がバレている限りこの先進んでもさらなる妨害を受けるかもしれない。ここは一度退いて日を改めた方がいいという提案だった。

 

「いや。ここは行けるとこまで行った方がいい」

 

 だが、胡桃は首を横に振り反対の意思を示した。

 

「こっちには戦力がある。多少の妨害が入った程度ではゴリ押しできる。それにこのパレスにも現実の認知を変えなきゃ入れないフロアがあるかもしれない。せっかく日を改めたのに、それを超えるためにまた一日潰すのは手間だろ」

 

 胡桃はこのパレスのギミックも敵も把握している。今の怪盗団の戦闘力ならこのパレスの敵なら蹴散らせるのと、今言ったように、冴の裁判に顔を出して認知を変えなければ入れない箇所がこの先存在する。

 

 ゲームでは都合良く冴が担当する裁判の日程があったが、それが無ければ、このパレスは攻略できないかもしれないという不安から、今日中にはその認知で入れないフロアまで到達したいという胡桃の考えだった。

 

 それに胡桃はシドウパレスの攻略も短期間にやらなければならない事情もあり、なるべく日数を掛けたくない気持ちもあった。

 

「まぁ、それも……そうか」

 

 胡桃の反対意見に杏が納得しかけて、胡桃がこの場の意見を『今日中に攻略する方向にまとめようと』した時。

 

「待ってください」

 

 さらにそれに反対したのがすみれだった。

 

「急いでいるのは事実ですけど、だからこそ慎重に行動したほうがいいと思います」

 

 すみれの反対に、明智以外のメンバーは面食らっていた。なぜならすみれは基本的に胡桃の意見には肯定的だったからだ。

 

 数々のパレスやメメントスに挑み、怪盗団内で意見が分かれることもあったが、すみれは胡桃の意見側に立ってることが多かったが、はっきりと対立したのは初めてだった。

 

「慎重にって、別に今日も全員準備は怠ってきてないだろ。道具も体力も万全なのにせいぜい数パーセント危険度が上がったくらいで退くのはビビり過ぎた」

「……確かに先輩たちなら待ち伏せされたり、普段よりも多少敵が湧いて出てきたって問題なく進めると思います。ですけど、このパレスから現実に戻ったら目の前には警察署があるんですよ? 先輩の言うとおり、今日中に進めるとこまで進んでルートを確保したとき、もし体力が無かったら逃げ切れるんですか?」

 

(誤魔化すんじゃなくて逃げるのかよ……)

(余計怪しまれるじゃんそれ……)

(脳筋職質回避術……)

 

 全員がすみれの意見に心の中でツッコミを入れる。

 

「別に逃げなくても誤魔化せばいいだろ。警察相手なら関係者でもある明智がいるからなおさら」

「……今、明智さんが改心されたターゲットの関係者である私達と一緒に行動していると警察の耳に入ってしまったら、ましてや現実の冴さんまで知ってしまったら、明智さんの行動はきっと監視されるはずです。むしろ明智さんは怪盗団として逮捕されてしまうかもしれません」

「……」

 

(珍し、胡桃が黙った)

(すみれの発言、うまいな。怪盗団が明智を完全に信用しているかのような前提で話している。つまり「怪盗団は君を疑ってない」というアピールになる)

(明智から見た胡桃は、怪盗団の裏切り者で協力者として動く二重スパイの立場。だから、すみれと争うような態度は避けたいんだろう)

(無理に進むメリットと明智の信用を損なうデメリットを天秤にかけてるってことか)

 

「……わかったよ」

 

(折れた)

(折れるのね)

(折れざるをえないからな)

 

「……こういう意見のぶつかり合いって、よくあるの?」

「いいえ、普段は意見が一致することが多いから。……ちなみに私もすみれの意見に賛成。侵入経路も分かっているし、警戒されてない状態で攻略した方が安全よ。あなたは?」

「そうだね、ここは先輩たちの意見に従っておこうかな」

 

 怪盗団の面々は真の提案に概ね賛成という風に相づちを打ち、今日のところは日を改めるということで、パレスから脱出した。

 

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