幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#60 ふふ……ままならないね……

11/1 火曜日 晴れ 

 

 

 ニイジマパレス攻略日──三日目。

 

 

 怪盗団のリーダーである雨宮蓮は悩んでいた。

 

 パレスの攻略は順調で、ハイレートフロアまでなんら問題もなく進んではいる。戦力も備蓄も問題なく、今日中にはオタカラのルートは確保できるはずだ。

 

 しかし、一つだけ引っかかっていることがあった。

 

「ヴァイオレット。今の戦闘、前に出すぎだ。援護射撃が当たるところだった」

「躱せるので撃っていいですよ」

「……そ」

「……ふん」

 

 答えは明白。すみれと胡桃の喧嘩が長引いていることだ。一日目の言い合いは、すみれが胡桃に意見するなんて珍しいこともあるもんだとスルーしていたが、連日のパレス攻略でも二人の衝突は多々見られた。

 

 口を挟もうとすれば二人に「「大丈夫」です」と言われ、大富豪の8切りのように場を流され、パレスの攻略を急がせてくる。私情よりパレス攻略が重要という優先順位は分かっているが、どうも二人の頑固さや負けず嫌いがダメな方向に向かっていると感じていた。

 

 いずれまた衝突するかもしれないと蓮が思った矢先、その予想はすぐに当たった。

 

「自分の強さに調子乗るのはいいけど、この戦いは適任じゃねぇだろ」

「調子になんて乗ってないです!」

 

 事の顛末は、一人で三連戦に参加し、勝利すれば10万枚を獲得できるというハイレートフロアの闘技場で起きた。この闘技場での勝利により、パレスの主がいる支配人フロアに進み、オタカラへのルートを確保できるという重要な場面で、すみれが立候補したが、彼女の立候補を胡桃が否定し、言い争いになっていた。

 

「このパレスの敵の動きはもう分かってますし、私なら攻撃を全部躱して勝ちきれます!」

「パレスの主のやり方分かってるだろ。正々堂々なんて言って、卑怯な手を使って戦ってくるだろ。応用力のあるジョーカーに任せるべきだ」

 

 熱くなるすみれに対して、なんでこんなに熱くなってるのか分からなくて呆れたという胡桃の態度がすみれの熱に油を注いでいる。

 

「……これ止めないの?」

「う~~ん……あえてやらせてるカンジ?」

 

 明智が隣に立ってた杏に問いかける。

 

「ヴァイオレットってこの中で一番年下……あ、ナビもか。でもナビほどズカズカ言わないっていうか、年上にちょっと遠慮してる感があるからこういうの新鮮で。これを機に私達にもっと図々しくなってもいいかなって」

「……ふーん」

「『これが終わったら、怪盗団の繋がりは無くなるのに』……かしら?」

 

 春が明智の心の声を代弁するように後ろでボソッと呟く。明智が振り返ると春はニコリと社交性満点の綺麗な笑顔を浮かべる。

 

「当たらずといえども遠からずかな。今更仲良くしても、ね?」

「……怪盗団が無くなっても、繋がりは無くならない。私達はもっと別のモノで繋がってる仲間だから」

「別のモノって何? 絆とか?」

 

 吐き気がするほど下らない。明智は寒気すら覚えるような単語を口にして自分に鳥肌が立つのを感じる。こんなぬるま湯で仲良しごっこしてる連中にはお似合いだと心の中で悪態を吐いていたが、春の返答は違っていた。

 

「孤独を知っているから。……周囲は助けてくれなくてむしろ敵だらけで、どう足掻いても底に落ちてしまう暗い世界に絶望してる。そんな独りの弱さを知っていてお互いに共有しているから繋がってる。『怪盗団』っていう存在は理不尽を跳ねのける手段でしかないの」

「……弱い人間が徒党を組んでも傷の舐め合いでしかないよ」

「あら。ここまで社会に影響を及ぼしてる集団が?」

 

 思わず心から漏れてしまった棘のある言葉を春が拾って反論する。

 

「それにクロウなら知ってると思うけど。理不尽な環境で何も出来なくても、意思は流されずに独りで踏み留まれる強さを。誰しも弱いから独りになるわけじゃないのよ?」

「……ご高説どうも」

「ええ、幸甚に存じるわ」

 

 春はそう告げて、すみれと胡桃のやり取りをハラハラしながら見ているナビの方に歩いて行った。

 

「……僕、何か彼女に悪い事したかな?」

「悪い事したっていうか、多分みんなクロウのことうっすら嫌いだと思うけど」

「随分正直だね……。このままだと捕まってしまうところに、僕が救いの手を差し伸べた気がするんだけどな。感謝はされど、恨まれる謂われは無い気がするけど」

「そういうとこじゃない?」

「…………」

 

 鋭い言葉を放ってそのまま立ち去ってしまう杏の背中を眺めて立ちつくす明智。その肩に祐介が手を置いた。

 

「気にするな。怪盗団の女性陣はみな気が強い」

「思い知ったよ。次から下手な事は言わないようにする」

 

 明智は失言が過ぎたと、少しムキになってしまったことを自省したが、仲良しこよしの距離感でいられるよりはマシな気がした。

 

(怪盗団の立場からして、僕に警戒するのは普通。むしろ心の底から仲間だと思われて笑顔で関わってこようとする方が怪しいしな)

 

「あのな……! 別に俺は信じなくてもいいからジョーカーは信じろ」

「私は別にそういう話をしてるんじゃありません! それに信じる信じないの話は今は関係ないじゃ無いですか!!」

 

「……アレはそろそろ止めた方がいいんじゃない?」

「そうだな、ヒートアップしすぎてるかもな」

 

 他のメンバーの目も気にせず言い争いをしている二人を、周りが仲裁に入る。

 

「はい、二人ともちょっと落ち着いて。今は喧嘩している場合じゃないでしょう?」

 

 仲裁役を買って出た真は間に入って二人と目を合わせて冷静になるように促す。二人は怪盗団の頭脳派が介入して止めに入らなくてはならないほど熱くなってることを自覚して我に返って気まずそうにする。

 

「すみれ……このバトルアリーナに参加するのはジョーカーで良いと思うわ。概ね皆そう思ってる」

「でもっ」

 

 明智を一瞬見たすみれの目線はすぐに蓮の方へと向く。真はその視線の動きですみれの思惑を察し、そっとすみれに耳打ちした。

 

「明智君にジョーカーの持ってる複数のペルソナを隠したいのね。だから、すでに戦ってペルソナの性能が明らかになっている自分が戦って、ジョーカーの手札をカモフラージュさせたいと……」

「は、はい」

「(……そもそも今の段階で彼と戦うわけじゃないし、そこまでする意味があるのかは少し疑問だけど……)」

 

「大丈夫よ。私たちのジョーカーならきっと、余力を残して一瞬で終わらせてくるから。()()()()()()()()()()()()()?」

 

 すみれの思いを汲み取り、真は言葉に含みを持たせて蓮に無茶ぶりを強いる。言外の意味を理解した蓮は短く「……わかった」と、肩を竦めて返事した。

 

「……それなら、じゃあ、私も了解です」

「なら、ジョーカーの準備が出来たら私達は観客席で見守ってましょ」

 

 言葉とは裏腹に不満げに納得の意思を見せるすみれ。ムスッとしつつも言うことに従い観客席に向かう。エントリーするジョーカー以外のメンバーもそれについていき、その場に残ったのは胡桃、蓮、真の三人だった。

 

「ブルも大人げないわよ。ちゃんとヴァイオレットも考えて──」

「知ってる。ただ俺が気に食わないだけでそんな事言いだすような奴じゃないし。だけど俺だって別に喧嘩したくて突っかかったわけじゃないし、むしろ空回ってるのを落ち着かせようとしてるだけだ」

「意地張りすぎよ」

「子供だな」

 

 宥める言葉すらも、反発するように返答する胡桃に呆れる二人。

 

「うっせ。先行くわ」

 

 胡桃はそっけなく吐き捨てて、振り向かずに歩き出す。

 

「はぁ……、じゃあジョーカーよろしくね」

「ああ」

 

 闘技場の薄暗い照明の中、静かに胡桃の背中を追う真の足音が響く。

 

 蓮は二人の背が遠ざかっていくのを見送り、静かに息を吐いた。彼らが観客席へと向かう一方、怪盗団のリーダーを背負った戦いの場はすぐそこまで迫っていた。

 

 

 ***

 

 

 

「で、なんでヴァイオレットはブルに対して切れてんだ? アイツなんかしたのか?」

「……何もしてないですよ。私が勝手に不貞腐れてるだけです」

 

 一方その頃、先に観客席に行ったメンバーは普段とは違う様子のすみれから事情を聴いていた。すみれはムスッとしたまま椅子の上で、膝を抱えて座っていた。

 

「というか言い合ってる最中、全然止めに入らなかったですよね。もしかして面白がって見てました?」

「……半分ぐらいは」

「ひどい」

「いや別に見世物として面白がって見てたわけじゃないぞ、物珍しくて見物していただけだ」

「大体同じじゃないですか……」

 

 大きなため息を吐いて自分の膝に顔を埋める。

 

「……なんというか人生ってままなりませんよね。悩みが一つ消えたと思ったら新しい悩みが出てきて、自分の未熟さを思い知らされる。自分の気持ちにに振り回されてる自分が……すごく嫌いです」

「うわ、ヘラってる」

「ヴァイオレットってこんなキャラだったか?」

「……元々卑屈で陰湿なやつですよー。もっと明るい人間だったら元から姉に対してコンプレックスなんて抱かなかったし……」

「ちょっとナビとスカルが余計なこと言ったせいでもっと面倒くさくなったじゃん!」

 

 その言葉はフォローしてるようで逆にすみれのことを刺しに来ているが、それに構う余裕は今のすみれにはなく、遠くを見つめながら胡桃に言われた言葉を頭の中で反芻していた。

 

 

 ──それはお前自身の気持ちでお前の都合だろ。信頼とか言って、『私にとってこうあってほしい』っていう自分の理想を俺に押しつけてるだけだ。

 

 

(コーチのしごきよりもキッツイこと言われたなぁ……あんなこと面と向かって言われたの初めてかも)

 

「おーいヴァイオレット、大丈夫かー?」

「……大丈夫です。私の心の整理が出来てないだけなんです。先輩にムキになっちゃってちょっと……暴走しちゃいました。すいません、迷惑をかけてしまって」

「いいよ。怪盗団の喧嘩なんてこれで二回目だし慣れた。それに前と違って、怪盗団が違う方向を向いてるってわけじゃなくて、改心のために同じ方向を向いてるから全然問題ないし」

「なんなら二人がペルソナ出し合って殴り合い始めても、それを収めながら戦える自信があるぞ。俺のペルソナも進化したことだしな」

「それでも回避チートのヴァイオレットとバ火力のブルを相手にするのキツイ気がするけどな」

 

 原因は二人の個人的な問題であると周囲は理解し、無理に仲を取り持とうとするのは逆効果だと感じて、深く干渉することはやめた。

 

(……なんで、こんなにショック受けてるんだろう、私。先輩が頼ってくれなかったから? 自分は先輩のこと分かってると思ってたから? 信じてくれるって思ったから?)

 

 頭の中で自己嫌悪と自己内省のループに囚われているすみれ。しかし、観客席に備えつけられたスピーカーから実況の声が聞こえてくれば、自然と目の前の闘技場に視線が向く。

 

『さ~あ始まりました、注目の一戦! 大人に盾突くバカ怪盗のリーダーが参戦だぁ!!』

 

 明らかに贔屓目の実況と共にジョーカーが入場してくる。観客席からはブーイングの嵐が起こっているが、当のジョーカーは気にも留めず手に持ったナイフを余裕そうにくるくると回している。

 

「ん、ちょうど始まりそうだな」

「さて、どんな妨害が出るのかしら……」

 

 後から来た真と胡桃が観客席に座る。

 

「ま、どんなのが来てもジョーカーは勝つだろ」

 

 胡桃が何気なく呟いた言葉にすみれの心は少しさざめいた。

 

(……ああ、嫉妬なのかな)

 

 戦いのゴングが鳴った。いきなり二体一で戦わされることになったが、ジョーカーは臆せずむしろどこか楽し気に口元を吊り上げ戦う。ああなった以上、この勝負の行方は火を見るよりも明らかだとすみれにも分かっていた。

 

(いいなぁ……信頼されてて。……蓮先輩になら秘密を打ち明けたのかな)

 

 すみれはアリーナで踊るように華麗に戦うジョーカーに、かつて目の前で栄光を手にしていた姉を見ていたのと同じような羨望と嫉妬が混ざり合った眼差しを向けていた。

 

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