幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#71 乱入ペナルティ2000ポイント

 

「よし、これで四枚目!」

「あと一枚か」

 

 順調にシドウパレスの攻略は進み、怪盗団はすでに四枚の紹介状を手にしていた。それぞれの戦闘で負傷はしたものの、士気は高かった。残るは最後の一枚、トラブル処理役と呼ばれる男の紹介状だけだ。しかし、その居場所はつかめていない。

 

「残った場所で手がかりになりそうなのは……機関室ね。まだ踏み込んでいない重要なエリアだわ」

「目ぼしいところはもうないな……そこへ行こう」

 

 蓮が先頭を歩き始め、その後に続く形で怪盗団のメンバーは付いていく。

 

 機関室へ向かう途中、彼らは豪奢な客室が並ぶ廊下に足を踏み入れた。左右には金と深紅を基調とした扉が続き、その装飾はどこか威圧的で、まるで自分たちがここにいるのが場違いだと告げているかのようだった。

 

「気味が悪いくらいに静かですね……」

 

 すみれが呟くと、周囲のメンバーは言葉こそ発しないものの、全員が頷きその感覚に同意しているようだった。普段なら敵の気配や遠くから聞こえる騒音があってもおかしくない。しかし、この廊下にはそれが一切なく、ただ張り詰めた沈黙だけが支配していた。

 

 全員が言葉少なに歩を進める中、──突然、廊下の奥から微かな足音が響き始めた。小さく、不規則で、どこか不気味な音だ。その音に全員が瞬時に反応する。

 

「……!」

 

 蓮が手を上げ、言葉を発するよりも早く全員が動いた。真と竜司が近くの柱の陰に身を潜め、春もその後に続いて足音を抑えて移動する。祐介と杏は静かに金と深紅の扉の影へと滑り込み、双葉は柱の影に隠れながら端末を抱え込む。すみれも壁際に身を寄せ、息を潜めた。蓮自身も廊下の暗がりに体を隠し、全員が無言のうちに配置につく。

 

 音は徐々に近づいてくる。まるで鼻歌を歌ってリズムに乗っているかのような、適当な足音がやけに耳に残る。

 

 蓮は柱の影に身を潜めたまま、そっと目線だけを動かし、足音の主がいる奥の様子を伺おうとした。しかし、廊下の窓から差し込む逆光が邪魔をし、奥の人影はただぼやけた輪郭しか見えない。動いているのは確かだが、顔も姿も判別できない。

 

 そして、影がついに足を止めた。顔の輪郭が辛うじて判別できるほどの距離だ。

 

 ──まるで彼らの存在を察知し、わざとその場に立ち止まったかのようだ。

 

 逆光の中、ぼんやりと浮かぶ影が微動だにせず立ち尽くしている。廊下に響いていた足音が消えたことで、静寂が一層際立った。全員がその場に凍りついたように、次の動きを待っていた。

 

 その時──。

 

「かくれんぼ? 仲間外れは寂しいんだけどな」

 

 低い声が、廊下に響き渡った。その声には聞き覚えがあった。全員の中でその記憶が同時に蘇る。しかし、聞こえてはいけない声だった。蓮の目がわずかに見開かれる。他のメンバーも反応を抑えられず、一瞬だけ物陰から顔を覗かせた。

 

 声の主が暗闇の中で一歩を踏み出し、光に浮かび上がったその姿に全員が思わず身を乗り出した。逆光の中、影が少しずつ形をはっきりとさせていく。その姿、声──間違いなく彼らが知る仲間だったはずだ。

 

「あ、全員みいつけた」

 

 その声を聞いた瞬間、全員の心臓が一瞬止まるような感覚に陥った。()()は出てきた怪盗団の姿を見て、楽しそうに指を指す。だが、その指先が向けられる先には、今までの彼とは違う、異様な不気味さを感じさせる笑顔があった。

 

 ねっとりとした、どこか歪んだ笑み。その目は、どこまでも冷たく、無機質で、確実にあの『乙守胡桃』とは違っていた。だが、それでもその姿には馴染みがあり、異様な違和感を覚えさせる。

 

「っ……!」

 

 すみれの指先が震えた。それは怒りか、それとも恐怖か、自分でもわからない。偽物であることを信じたいのに、その声は本物であるかのように響いていた。

 

「じゃあ次は鬼ごっこでもしようぜ。……全員ここから出られると思うなよ」

 

 その言葉が耳に響くたびに、全員の体が一瞬凍りつく。驚愕と怒り、疑問が交錯する中、彼らはそれでも動けず、ただその言葉に引き寄せられた。

 

 ──ここにいるはずのない、偽物の乙守胡桃の言葉を。

 

 

 

 ***

 

 

 

 怪盗団が認知の胡桃と対峙している一方で、シドウパレスの広々とした甲板に、新たな人影が静かに現れる。

 

「……」

 

 現れたのは明智吾郎だった。その装いは以前、怪盗団と相対した時と同じく、王子を思わせる純白の衣装。しかし床で足を鳴らしているその佇まいにはどこか刺々しさが漂っている。

 

(……やっぱり騒がしい。誰かが侵入して警戒度が上がってるな)

 

 警備のシャドウたちが慌ただしく動き回る気配が、否応なく侵入者の存在を知らせていた。瞳が一瞬だけ細められる。その奥には、怒りとも焦りともつかない感情が揺れている。

 

(あいつらが隠れて動き回ってるなら、無暗に探して行違いになるのは痛い。まずは監視室に行って怪盗団の現在地と、動向を探ってから向かった方がいいな)

 

 明智は静かに歩みを進める。その動きは無駄なく、目の前の障害を冷徹に取り除く狩人のようだった。

 

(ここまで深く入り込まれるとは……だが、計画には影響ない。必要なら、すべて排除するまでだ)

 

 その決意を胸に、明智の影がパレスの奥へと吸い込まれていく。

 

 

 

 ──その数分後、またも甲板に新しい人影が現れる。

 

 

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

 息を切らし、荒い呼吸を整える余裕すらないまま認知世界に飛び込んできたのは、本物の乙守胡桃だった。焦りが滲んだ顔には汗が浮かび、胸元を掴んだまま立ち止まると、視線が周囲を彷徨う。

 

「……マジでやべぇ……! あいつらどこ!?」

 

 記憶を掘り起こそうとするが、焦燥感で、冷静に考えることができない。手を額に当て、胡桃は自分を叱責するように小声で呟く。

 

「レストランの後、プールだっけ? スロットだっけ? ……いや、違う、あれ順番逆か? 場所分かんのに順番まで覚えてないって」

 

 舌打ちが漏れる。頭の中で知識を手繰ろうとするものの、情報は砂のように指の隙間から零れ落ちていく。

 

「……っ、考えてる暇ねぇ。戦闘音だ、デカい音が鳴ってる方にアイツらいるだろ!」

 

 自分に言い聞かせるように叫び、胡桃は風を切って走り出す。靴音が甲板に響き渡り、風が彼の背中を押すように吹き抜けていった。

 

 

 

 ──そしてまた数分後、さらに甲板に新たな人影が現れる。

 

 

 

「……? ……??」

 

 その人物はスマホを持ちながら何が起こってるのか分からずに立ちすくしていた。ただその姿はペルソナに目覚めた証である、自身の反逆の魂を映し出した装いをしている。

 

「げ、現状整理。えっと? 死んだと思った先輩が街中を歩いてるのを見つけて、声を掛けようとしたら色んな人と一緒にいて? なんか変だったから、こっそり着いていってみたら、国会議事堂前で全員姿が消えて? なんかわたわたしてたら、鬼気迫る明智さんがやってきて、思わず隠れちゃったけど明智さんも姿が消えて? それに驚いてたら、乙守先輩が来て以下同文……。

 ……いやでも乙守先輩なら声掛けれたかもなぁ~~……すごい急いでたみたいだけど、一体全体どういうことぐらいは聞けたかもなぁ……」

 

 う~~ん……と額に手を当てて考える──芳澤かすみは、一人でぶつぶつと呟きながら、甲板の上を見渡した。

 

「うわっ、海だ! なにこれ太平洋? ……いやこれ、前に先輩の猫先輩が言ってた気がするな……認知世界でパレスでペルソナのナビ……的な?」

 

 呑気に呟きつつも、記憶に前もこんな不可思議なことがあったと思い出すが、完璧には思い出せなかった。

 

「……まさか、またあれに巻き込まれたってこと?」

 

 不安と混乱を抱えたまま、かすみは思わず足元に目を落とす。しばらく静寂が広がった後、ようやく歩みを進める決心を固めた。

 

「とりあえず、先輩と合流したいな……。力になれる気がするし、それに……」

 

 そういうかすみの脳裏には自分の妹の姿が思い浮かぶ。

 

「心配だし……」

 

 ヴァイオレットの黒い衣装の色使いを反転したような真紅のレオタードとコートをはためかせ、黒い手袋をキュッと締めてパレスの中へと入っていく。

 

「……と、とりあえず、高いところに行ったら皆見つけられるでしょ!」

 

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