幸せなバッドエンドを目指して   作:ぽんしゅー

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#79 調べてみたのですが、よくわかりませんでした!いかがでしたでしょうか?

 

 

 さて、現状を整理するとして。

 

 まず第一目標であった明智の救出は成功。←さすがに有能。

 

 シドウパレスの進捗は芳澤かすみの乱入&活躍もあって、紹介状を五枚確保してもう後は予告状を出すだけ。←上振れ。運良すぎ。

 

 そしてこちらの動きも獅童にバレていない。←最高。既プレイ勢か? 既プレイ勢だったわ。

 

 ……でもその代わりにスマホを見られて裏でやってること怪盗団にあらかた知られた。←バカアホマヌケ。ド無能。本当に既プレイ勢か? 

 

 終わっています。本当に終わっています。この後怪盗団にどういう言い訳をするのかも考えてないし、そもそも無理過ぎない?

 いや、スマホを見られただけだから、結局バレているのは一人でシドウパレスを潜っていたこと、しょっちゅう先生のパレスに入っていたことを誤魔化せばいけるのか。

 

 ……いや無理無理無理無理。どう考えても怪しすぎる。

 

「──……と、言うことでだな。色々と聞きたいことがある」

「一応、病み上がりの起き上がりなんだけどなー」

 

 ……というか考える時間がほしい。

 

 現在、俺は武見医院のベッドで半身起こしながら、蓮の報告を聞いていた。とりあえずパレスの進捗状況とか、今の怪盗団の立場やら諸々。

 

「お前だけ?」

「もう夜遅いから、一旦解散した。明日からまた学校だしな。それに大勢いると、お前も話しづらいだろ?」

「ふーん……じゃあ俺も帰してほしいんですけど」

「気絶するほど疲れて傷ついてる奴が何言ってるんだ。俺より怪我が多いくせに、その日のうちに目を覚ますのは流石だとは思うが」

「つかここ外科じゃないだろ」

「闇医者だから関係ない」

 

 奥から「聞こえてるよモルモット君」と女性の声が聞こえた。蓮はわざとらしく一つ咳払いをする。そして手を組んで前かがみになった。

 

「本題、そして単刀直入に聞く。──何をしていた?」

 

 ……なるほど。あの拷問のせいで、俺は人に対する観察眼が鍛えられたらしい。

 

 蓮の目を見ればわかる。疑惑と不安。裏切っていて欲しくないという負の期待。それに怪盗団のメンバーに別れ際に何か言われたな、随分重そうだ。

 

「話したくないっていったら?」

「怪盗団をやめてもらう」

 

 全然アリだな。もうこの後はシドウとヤルダバオトとの対決しかないから、俺いなくても大丈夫。むしろ怪盗団に情報を渡さずに雲隠れできるのはアドじゃないか。

 

 ……いや。そんなことにはならない気がしてきたな。蓮は俺を追い出して終わりにするタイプじゃない。むしろ明日になれば、真あたりを連れて本格的に詰めてくる可能性が高いし、双葉にスマホをもっと深く洗わせるかもしれない。逃げ場どころか言い訳の余地すらなくなる。

 

 最悪なのは、俺を切り捨てられることじゃなく、疑われたまま人数を増やされることだ。

 

 だとしたら、この場で蓮をある程度納得させるのが一番いい。全部を話す必要はない。けれど、何も話さずに突っぱねるのは悪手かもしれない。

 

「怪盗団を追放された俺が実はチートスキル持ちで、戻ってきてくれって言われてももう遅いぞ」

「別に俺はそういう小説の追放する側みたいに、胡桃を侮っちゃいない。むしろ買っている方だ」

「冗談だよ。話したくないっていったのは信じてもらえそうにないと思ったからだよ。俺のスマホ見たんだろ?」

「ああ。イセカイナビの履歴をな」

 

 やっぱりそこか。

 

 正直、この尋問の勝利条件は俺がどれほど怪しまれても、丸喜先生の存在を秘匿することが第一条件。次点で蓮の信頼を勝ち取ること。が、逆に信頼を勝ち取れれば、第一条件を達しやすい。

 それにこんな時のために双葉対策としてスマホで丸喜先生とのやり取りは極力しないように徹底していた。トークで重要な連絡は取っていない。残っているのはちょっと仲の良い先生生徒のやり取りと、カウンセリングを受ける予定だけ。それだけなら、俺も丸喜先生の論文の手伝いをしていると蓮は知っているはずだから疑いの目からは逸らせる。

 

 スマホからの情報で丸喜先生のことを繋げられるのは難しいだろ。最低限パレスのことを誤魔化せればいいだけだ。

 

「じゃあ聞きたいのはパレスからか、まぁそれよりも先に、話しても信じてもらえそうにない話をするしかないな」

 

 案外、冷静に考えてみればやり様が見えてくるな。俺って結構アドリブに強いタイプ、案ずるより産むが易し君なのかもしれない。。それとも行き当たりばったりが行き過ぎてそれに慣れすぎてしまっただけなのかもしれない。

 それに惣治郎さんや志帆さんが言ってくれたようにするしかないってことなのかもな。

 

「……いつ頃からかな。今年の三月くらいからかもな。俺は予知夢というか、何か俺だけど俺ではない別人の記憶を見ることがあって」

 

 それにしても、ここに怪盗団全員いなくてよかった。最近妙に勘が鋭いウソ発見器(すみれ)もいないし。

 

「……夢を見ると、とある場所に連れていかれて、そこはまるで劇場なんだ。そこにある案内人が現れて、これから起こりうるかもしれないことを劇場で再現されるんだ」

 

 少なくとも、完全な嘘ではない。俺が知っている未来。俺だけが知っているはずの展開。そこに至るまでの過程を、夢だとか記憶だとか劇場だとか、そういう言葉に置き換えているだけだ。

 

 でもそこの嘘はバレてもいい。大事なのは真偽じゃない。蓮が、この話を完全には切り捨てられないようにすることだ。

 

 嘘を吐かれているのが分かったとしても、それを何故知っているのかということ。

 

「でさ、案内人が言うにはな──」

 

 なぁ、蓮。この卓につくのは、お前一人じゃないほうがよかったぞ。俺は、お前を揺さぶる切り札を持っている。

 

「その場所を、──ベルベットルームって言うんだ」

 

 はは……ポーカーフェイスのイメージは返上したほうがいいな。

 

「……」

 

 隠せてはいるんだろうが、こちらは動揺は見抜いている。だけどそっちが黙秘を貫くのなら、知らないふりをして、こちらの手札を叩き込もう。

 

「そこで、これから起こる悲劇を見せられる。色々とな。そして案内人が言うんだ。誰かの転生した記憶なのか、この世界をやり直した記憶なのかは知らないけれどこれは確実に起こる、と」

「……曖昧だな」

「なんかそいつ記憶喪失なのか、過去が無いのか知らないけど、どうも自分のことが曖昧らしい」

「……その案内人の、見た目とかは、わかるか」

 

 釣られてきたな。さてどっちにしよう。

 

「夢だからか輪郭ぼやけてて詳しくは……でも全身、青かったかもな。青い服を着ていた」

「……そうか」

 

 鼻が長いとかイゴールの特徴を言ってもよかったんだけどな。どうせそっちのイゴールは偽物だし。蓮自身に猜疑心のタネを蒔いてもいい気がしたけど、本人が戻ってきたとき面倒くさそう。まぁもうその時になったら丸喜先生の力は完全に覚醒してるから誤差な気もするけど。

 だからベルベットルームの住人の方に寄せた。そっちのジュスティーヌ&カロリーヌも過去の記憶が曖昧なのを蓮は引っかかってるだろうし。

 

「破滅を回避する力をくれると言って、俺のペルソナを鍛えてくれるんだけどな」

「そうか。他のメンバーよりも胡桃のペルソナが特殊なのが分かったよ」

 

 白々しいな。ベルベットルームって名前が出た時点で察しは付いていただろうに。……でも、なんでだろうな俺のペルソナだけ出力調整できるの。先生のおかげか? 

 

「だから、そこで明智が死ぬ運命を見てしまったから俺は、シドウパレスに単独で潜ってた」

「……死ぬ……か。だが、なぜ単独で行動した?」

「フラグという言葉を知っている前提で話をするぞ。知らなかったら双葉から聞け。明智の死のフラグは、怪盗団がパレスに入った時点で建ってしまう。だから、俺がとった方法は時間をずらそうとした。ずらすと言っても強引に明智がこちらの動きに気付かないほどのスピードでパレスを攻略して戦う機会すら失くしてそのフラグをすっ飛ばしてしまおう、と」

「ゴリ押しにも程があるだろ」

「でも手っ取り早いと思ったんだ。パレスに潜って分かったことだけど、幸い紹介状さえ手に入れれば、入り組んだ地形を進む必要はないし情報の共有も必要ない。パレスに潜った時点で紹介状五枚揃ってたらもうオタカラまでのルート確保状態だ」

「だから単独で潜ってたってことか……。他の皆になんで持ってんだって怪しまれると思わなかったのか」

「その時の俺は明智&獅童派閥にスパイとして潜り込んでたから、なに言われてもそこを引き合いに出したら煙に巻けると思ってた」

 

 実際、そこまでは間違っていなかったと思う。

 

 スパイという立場は、便利な隠れ蓑だった。多少怪しい動きをしても、情報収集のためと言えば押し通せる。嘘を真実の中に混ぜるなら、これほど都合のいい言い訳もない。

 

「だけど仇だったな。パレスでコソコソしたせいで獅童の警戒心をあげちゃって俺も捕まる羽目になるとは」

 

 本当に災難すぎる。捕まった時のことを思い出すと今でも胃が重くなる。あの時は本気で詰んだと思った。

 

「これでシドウパレスに出入りしてた件はいいか?」

「……いいや。明智が死ぬ未来が見えたんだったら、なぜ()()()言わなかった?」

「それも?」

「人の死ぬ運命が見えるなら、奥村の時もそうだったんだろ。あの作戦の時、たらればだらけの話でも、胡桃はどこか確信めいた口調で話していた」

 

 覚えていたのか。あの場面、俺は言葉を選びながら話していたつもりだったけど、声の質まで制御しきれていなかったらしい。怪盗団のリーダーはやっぱり、細かいところまで覚えている。まぁ明智のパンケーキ発言も覚えているぐらいだから、記憶がいいのは当たり前か。

 

「今、俺にそうしているみたいに、最初から明かせばよかっただろ。『今までのも全部予知だった』ってな。当ててきた実績がある。それを並べて『明智も助けたい』と言えば、俺たちは信じて協力した。一人で潜る必要なんてどこにもなかった」

「……」

「『信じてもらえないと思った』は通らないぞ」

「いや通るね。俺が言えなかった理由は二つ。『予知の限界』と『明智の立場』だ」

 

 指を二本立てる。

 

「まず一つ目。俺は確かに予知が見える。だがあくまで『起こること』を知るだけで、それを防いだ結果の未来までは見えない」

 

 そう言って、俺は包帯の巻かれた右手を見せつけるように持ち上げる。

 

「最初から全員が俺の予知前提で動いて、その結果誰かが犠牲になったとしたら。俺はどんな顔をすればいい。『見えなかった』で済むかよ。皆が俺の言葉を頼りにすればするほど、外した時の代償がでかくなる。予知ってのは、当たってる間だけ都合のいい道具なんだ」

 

 嘘だ。本当は防いだ後のこともある程度、敵がどう動くのかは予測できる。俺は展開を知っているんだから。けれど、ここで予知を万能だと思われるのは一番まずい。次は何が見える、あの件はどうなる。そう頼られた時、丸喜先生のことまで掘られかねない。だから今のうちに、予知の天井を低く見せておく。

 

「二つ目」

 

 指を一本折る。

 

「当時の明智は、お前らの敵だった。そして俺は、そいつの陣営にスパイで潜ってた。そのスパイが急に『標的を助けたい』なんて言い出したら、お前らはどう思う。俺を疑うだろ。下手したら、明智に情が湧いたか、寝返ったかって話になる」

「……」

「それに、だ。敵が死ぬ未来を見て『助けたい』って言い出す奴の予知を、お前らは素直に信じたか? 春の意思を確認して助けようとした奥村の時とは違う。明智は、その時点じゃ討つべき相手だったんだよ」

 

 蓮は何も言わない。否定できないんだろう。実際、当時の空気であの提案を出していたら、間違いなく誰かが噛みついていた。

 

「だから一人でやるしかなかった。説得して、会議して。そんな悠長なことをしてる間に明智が動いたら終わりだ。気付かれない速さでパレスを進めて、明智が動く前にケリをつける。それが、誰も死なせずに済む唯一の方法だと思ったんだよ」

 

 言い切って、息を吐く。

 

「そうだな。納得はした」

 

 蓮はそう言った。だが、それで終わるはずがない。

 

「じゃあ、この謎のパレスは?」

 

 来た。

 

「これは十月頃、かすみと俺とモルガナが迷い込んだパレスだよな。そこで戦闘になって、ピンチに現れたのが胡桃だった。胡桃は、ここに来たのは偶然だと言っていたが、履歴をみたら前々から訪れてたみたいだが」

「それはさっき言ったのが理由だ」

「あのベルベットルームでみた未来がここにあったからか?」

「逆。何も見えなかったからだ。今まで見てきた未来の中で一切映ってないパレス。未来に関係ないと言ってしまえばそれまでだけど気にはなるだろ。……ちなみに最初に足を踏み入れた時は本当に偶然だった。気付いたらあそこにいた」

「ナビは行き先を呼び出さなきゃ入れないだろ。何て検索した」

 

 おいおいその質問は『ナビの履歴を調べてもわかりませんでした』って言ってるようなもんだぞ。

 

「それが分かれば苦労してない。自分でも何を呟いたのか覚えてないんだよ。だから二回目以降は、履歴から飛んだ」

「……気付いたら、か。もしかして、散歩してたら、か?」

「え? まぁ、そうかも?」

 

 疑っている? そりゃそうだ。俺だって、今の俺の話を横で聞いていたら疑う。偶然にしては都合がよすぎるし、未来を知っている人間が「偶然そこにいた」なんて言い出したら、胡散臭いどころの話じゃない。

 ……でも何となく納得している顔をしている気もするな。俺が散歩していることに何か心あたりでもあるのか?

 

「本当だよ。少なくとも、最初はな」

「最初は?」

「二回目からは自分で行った。調べるために」

「一人で?」

「一人で」

「危険だとは思わなかったのか」

「思ったよ。思った上で行った」

 

 蓮の目が、少しだけ細くなる。

 

 責めている、というより確認している目だった。怪盗団のリーダーとして、仲間を危険に晒す行動を見逃せない。そういう顔やめろ。そういう顔をされると、こっちが悪いみたいだ。いや、まあ、悪いんだけど。

 

「じゃあなぜあの時それを黙っていた?」

「言っていたら、信じてたみたいな口ぶりだな」

「……信じたかもしれない。少なくとも、一人で行かせることはしなかった」

「根拠は? 無いだろ。互いにな。俺の発言だって全部嘘かもしれないだろ。未来が見えるなんて理由も、偶然にも俺の予想が当たっただけで、ペルソナが特殊なのはメメントスで鍛えた結果。あの謎のパレスだって、もしパレスの主と俺が知り合いだとしたら、検索かけて出入りすることは可能だ」

「だが……」

「だが、なんだよ。根拠のない信頼に価値はあるのか? 俺の言葉を一切疑ってないって証明できるのかよ」

「俺もベルベットルームを知っている」

「……どういうこと?」

 

 出来るだけ呆けた演技をしたけれど、バレなかったみたいだ。俺も蓮に白々しいなんて言えないな。

 

「牢獄で、青い服を着た双子の看守がいて、管理人がいる」

「……」

 

 言葉が出てこない、というより、出すタイミングを測っている。蓮がこちらを見て試して、どこまで知っているか確認しようとしている。お互い様だな。

 

「胡桃が言った案内人と同じ場所かはわからない。でも俺は確かにそこにいたことがある」

「……へえ」

「それだけか?」

「他に何か言えばよかったか?」

 

 蓮が少し黙る。思っていたよりも淡泊な反応だと感じているのかもしれない。でも、俺には今それ以上の言える言葉がない。いや正確にはある。ありすぎる。ジュスティーヌとカロリーヌの名前も、イゴールが偽物に挿げ替えられていることも、蓮が最終的に何と戦うことになるかすらも知っているけど言えることはない。

 

「ベルベットルームは招かれた客人によってその姿を変えるって案内人が言っていたからな……俺の場合は劇場で、そっちは牢獄か」

「『運命の囚われ』と言われた。更生を促されている」

「はは、俺は『運命に踊らされるピエロ』だ」

 

 実際、あの黒い影が言いそうな事だ。『お前の姿は運命という筋書きを必死に変えようとする脚本家ではなく、滑稽な舞台役者の方が役に合っている』と。……言ってた気もするな。

 

「でもそれが俺を信じる根拠か」

「ああ。口から出まかせ言っていたとしても、俺の知っているものと関係しているものが多すぎる……それじゃ、話を戻そう」

 

 蓮はそこで一度、言葉を区切った。

 

「あの時、パレスに行っていたことを黙っていた理由は、信じてもらえそうになかったから。それはわかった。度々潜っていたのも、未来にそのパレスが出てこなかったから気になっていたから、なんだろ?」

「ああ」

「なら、あのパレスが一体何なのかは、わかったのか?」

「あー、まぁ、そうだな……」

 

 流石に何もわかりませんでしたは通じないらしい。細くなった蓮の目がそう訴えている。

 ……パレスの正体は、答えられない。なら、答えられる別の話で蓋をするしかない。

 

「一つ聞くけど、蓮って、いつまで怪盗団続けるつもり?」

「それは関係ある質問なのか?」

「別に勝手に語るから答えなくてもいいんだけどさ。……でもいつまでもこの形で続けられるわけでもないって分かってるだろ。分かりやすいタイムリミットは保護観察期間の終了で、蓮がここから離れたら怪盗団のリーダーがいなくなって機能しなくなるかもしれない。それでも頑張って蓮がここまで来て怪盗団の活動をするとしても、皆の事情がある。徐々にメンバーが集まれなくなるかもしれない」

「……そうかもしれないな」

 

 ほぼ息のような返答が返ってきた。

 

 ……これは前々から何となく思っていたことだけれど。もしかしたら、蓮は怪盗団を終わらせたくないんじゃないか? 

 

 ゲームの丸喜先生の世界を受け入れるエンドだと、蓮は地元に戻るんじゃなくてルブランにいることを選んだ。正直地元にいるよりも、ここで皆と学生生活を過ごしたいと思っていた"プレイヤー"もいるはずだ。さらに言えば、まだ怪盗活動を続けたいと思った人も。

 その気持ちが、今、目の前にいる『雨宮 蓮』にもあるんじゃないか? 

 

「そうなんだよ。俺たちはいつか怪盗活動をやめなきゃいけない。でもやめた後にも、きっと悪は出てくる。その時に俺は、俺たちはその悪にどう立ち向かう。もしかしたらまだペルソナとイセカイナビが使えるかもしれないから改心させるか? じゃあ次はそれをいつまで続ける? 際限なく出てくる悪人を片っ端から改心させるのか? 自分ら以外の人間のために?」

 

 蓮は答えなかった。いや、正確には答えようとして止まった。口を開きかけた気配があって、それから閉じた。何かを探しているような間だった。

 

「……必要だったらそうするしかない」

「じゃあ俺たちのことは誰が救ってくれるんだ」

 

 言葉を区切らず、続けた。

 

「救う力を持っていながらそれを振るわないのは、見捨てるのと同じか? 誰かが助けを求めたら、必ず助けなくちゃいけないのか? 力を持った悪が弱者を虐げていたら、そのたびに成敗しなきゃいけないのか? 今の俺たちには逃げ道がないんだよ。なのに、逃げてもいいって言ってくれる人もいない」

「逃げたいのか」

「わからない。ただ逃げてもいいって言える環境が欲しいんだ。今までは悪人がいて、誰かの未来が犠牲になっていくのが見えて、その都度パレスを攻略していた。

 でもあれは誰のパレスかも知らず、何のためのパレスかもわからない。だからこそあのパレスに答えがあると思ったんだ。もしかしたら怪盗団なんて必要ないくらい、悪意で誰かを傷つける人間がいなくて。誰かを救えなかったとしても、逃げたとしても、誰も責めない。自分自身ですら責めなくて済む。そんな答えが」

「だから、あのパレスの探索をしていたのか」

「……こんなネガティブなことは言えないだろ」

「ネガティブ、か」

 

 蓮は小さく繰り返した。

 

「そうだろ。怪盗団なんて必要ない方がいいとか、逃げても誰にも責められない世界がいいとか。そんな話、リーダーにできるかよ」

「……俺は、してほしかった」

「……」

「少なくとも、黙って一人でパレスに入るくらいなら」

「言ったところでどうするんだよ」

「一緒に考える」

「答えなんて出ないだろ」

「出なくても、一人で抱えるよりはいい」

「……そう」

 

 蓮の方へ向けていた体を、ベッドに沈める。視界が、白い天井だけになった。

 

「まぁ結局。誰の何のパレスなのかわからないけどな」

「獅童のパレスが一段落したら、そのパレスに一緒に行って調査しよう」

「……………………おう」

 

 ……まぁいいか。多分、シドウパレスの攻略が終わったら、休む間もなくメメントスの最下層まで行かなきゃならんだろうし、そのままなし崩し的にゲーム通りのスケジュールになるでしょ。

 

「とりあえず胡桃は、獅童の改心決行日は不参加で」

「……この怪我だしなぁ」

 

 ミイラ男みたいに包帯で固められた右手を持ち上げる。包帯を巻き直してくれたのか、血の匂いはもうない。代わりに、新しい薬品の匂いがした。

 蓮が一息吐いて、「それじゃあ」と言って立ち上がった。

 

「……」

「……どうした? まだ居て欲しいのか?」

「んなわけあるか。さっさと出てけ」

 

 呆気に取られた顔が、しょぼくれた顔に見えたみたいだ。

 

 呆気に取られた理由は、怪盗団が初めてメメントスに入った日よりも前に、俺がメメントスに潜ってたことを聞かなかったことだ。一応その話も誤魔化すために、ベルベットルームと案内人の話に嘘を混ぜたわけだけど、思わず「もう聞きたいことはないのか」と藪蛇になるところだった。

 メメントスの履歴を見ればわかるはずのことではある……いや、メメントスは全員が嫌というほど出入りしてる場所だ。俺一人の古い記録なんて大量のログに埋もれてる。シドウや先生のパレスみたいに固有の行き先と違って、初参加前の一件なんて蓮の履歴と突き合わせなきゃ浮かんでこない。それを洗うのは当時いなかった双葉だしな。まぁ棚ぼたと思っておこう。

 

 あ、そうだ。

 

「そういえば。明智はどうなった」

「胡桃が脱出直前に気絶した瞬間に、逃走してその後行方も分からない」

「あーまじか。すまん」

「いや、アイツはもう悪い事はしないし、怪盗団の邪魔しないさ」

「根拠は?」

「無い。ただそう思ったから」

「勘かよ」

「大事だぞ。勘だけで根拠なく一人でパレス探索してる奴もいるし」

「おやすみーいい夢をー」

 

 寝返りをうって、そっぽを向く。

 

「最後に聞かせてくれ。明智が死ぬ未来が見えたから、助けるように動いたんだろ? どうして助けようとしたんだ?」

「……犠牲ありきの改心はダメだろ」

 

 本音は俺の目的のために誰かが死ぬのは避けたいという理由だけど、まぁ似たようなもんだ。

 

「そうか」

 

 顔は見えなくとも慈愛に満ちた顔をしているんだろうなという声音だった。

 

「……さっきの話の続きだが。力があるからって、使わなきゃいけない理由にはならない」

 

 でも、と一拍置く。

 

「お前が逃げなかったのは、逃げ道がなかったからじゃないだろ」

 

 そっぽを向いたまま、動けなかった。返す言葉が、なかった。反論も、誤魔化しも、笑い飛ばすための一言も何も出てこなかった。

 

「二人とも生きていてよかったよ」

 

 ………………あ、そっか。

 

 扉が閉まる音がした。

 

 足音が遠ざかって、廊下の奥に消えていく。部屋に一人残された。寝転がって上を向く天井は、さっきと同じ白いままだった。でも変わっていたのは俺の表情だけだった。

 

「……『アイツ』の言ってた通りだ……」

 

 ゲームだと三学期の丸喜先生との戦いで、明智はパーティメンバーに入っている。

 でもあれは、少なくとも俺の知っている限り、シドウパレスで明智を助けられなかった蓮の後悔に、丸喜先生の現実が応えた結果だ。あれは雨宮蓮の思う、偽物の明智吾郎だ。

 

 

 ──だから明智が生きていれば、蓮は死んだ明智との再会を願わず、最後の戦いには存在しない。

 

 

 問題は現実の明智だけど、このまま雲隠れなんてできないだろう。獅童が改心して全て話したら尚更だ。

 

「……ん、ふふ、はは」

 

 そしてそれをラッキーだと思ってしまった。

 

 命が助かったことよりも、それによって利が出たことが嬉しかった。今まで、無くなってしまう命を懸命に救ってきたのはマイナスをゼロにする行為だったんだ。でもこうして救えた命よりも、その行為によって手に入れるプラスに目を向けて心の底から喜んだ。

 

 そう考えてしまった。命が助かったことより先に。救えてよかった、と思うより先に。

 

 ──使える、と。

 

「ふっ、……くく……最低だな、ほんと」

 

 白い天井を見上げたまま、もう一度だけ笑った。

 






乙守胡桃「(そういえばどうやって尋問室を脱出したのか聞き忘れてないか?)」
雨宮蓮 「(そういえばどうやって尋問室を脱出したのか聞き忘れたな)」
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