ウルトラマンアバドン season2   作:りゅーど

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暗黒怪盗 アルセーヌ
登場


暗黒怪盗

 まるで黒いアクリル絵の具で乱雑に塗りつぶしたかのような黒い夜の中、青年と少女がなにやら話をしているようだった。

 静かな夜に、二人の声が響く。

「……SHOWTIMEにはピッタリの夜……お目当てはあそこで……警官はこのように警備してるみたい」

 指を指しながら地図を開き、何か状況を確認していた。

「わかった。ならばここから侵入した方が良さそうだぞ」

「うん……ターゲットはここに展示されているから。ボクが手に入れた瞬間……援護を頼むために無線で合図するから……お願い」

 少女はその場で闇のように黒い外套を羽織り外套に付いたフードを被る。

「了解した」

 そう言って、青年は烏天狗に変化した。

「……ッ……」

 何か言いたそうに声を殺した。

「……どうした」

「……ごめんね。ボクのせいで……」

「大丈夫だぞ」

「……ボクが……あの時……君を巻き込まなければ……ボクの、こ、この……ボクと同じ悪党にならなければ良かったのに……」

「大丈夫だって。オレはそれを覚悟でいるんだからさ」

「ッ……ありがとう……」

 不安がな眼差しで見つめながら指先から水銀の液体が少しずつ溢れ出し、形を作り始める。

「……でも……CETに戻りたかったら……いつでも良いよ」

「ハハッ、その時は一緒に始末書だ」

「——!! ……後、長時間説教と……独房行き、かな……?」

 何故かニヤリと笑いながらそう言った。まるでこれから始まる状況を楽しみたいと想いがあるからか……

「……さて、SHOWTIMEだ。サツのエテ公どもに目に物見せてやろうぜ」

 烏天狗はそう言って笑った。全てを呪うかのような笑い声だった。

「今日も、お願いね……()()君」

 そう言いながらビルの屋上から勢いよく飛び降りた。

「あいよ───()()

 予告時間となった。その瞬間、宝石が展示されてる中央から煙幕が巻かれた。

 警官は咽せり始め、その中央に——怪盗は現れた。

「……ふふっ♪」

 微笑みを浮かべながら、宝石の瞬時に手にしていた。

 周りからは市民の歓声が聞こえ、警備隊が増援などを呼ぶ声が聞こえた。

「(警官はボクの目の前に約10人……警備隊は約……よし)」

 一瞬にして状況を確認している。その場から動かず、警官に銃を向けられながらも何も微動だにしなかった。

「警察だ! (インパルス板倉)」

「もう抵抗しても無駄だぞ」

「10人に勝てるわけないだろ!」

 口々に喚く警察官、そこに一つ凛とした声がした。

「馬鹿野郎、俺達は勝つぞお前ら」

 その瞬間、拳銃が急に砕け散る。

「ハハッ」

 黒い影が、警察官に忍び寄る。

「ふふっ……♪ この宝石はボクの手だよ。ボク、《シンシャ》の手の中に——確かに頂戴したよ♪」

 勝利の笑みを浮かべた瞬間、再び煙幕が撒かれ、シンシャは姿を消した。

 シンシャは瞬時にビルの屋上を飛び越えながら逃げ回っていた。無論、警官は追いかけ始める。

 しかし、警察官の意識はそこでとだえた。

祥鳳(しょうほう)流軍学小出しにして進ぜよう────クハハハハ!!」

 其の声を聞いた途端、首筋に走るは鋭い衝撃。

 痛いと考える暇もなく、バタバタと警察官が倒れた。

「程々にね……下手したら殺人罪も追加されるから……」

 無線でそう告げながら逃げ回り続けた。

「(合流するところまでもう少しだ……!)」

 そう思いながらビルの屋上を飛び越え続けた。

 その瞬間、光線銃の発砲音がした。

「——ッ!!?」

 シンシャはその場で足を止め、下を見下ろした。

「見つけたぜクソガキャァアアア!! 牧原の仇ィ!!」

 そう、我らが諸星慎太郎である。

「はぁっ!!? なんでっ!?」

 流石のシンシャもこれには予想外。慌ててビルを飛び越えながら逃げ足を速めた。

「逃げんなオイ!!」

 慎太郎はビルを飛び越えつつ、拳銃を放つ。

「っおぉ……!? (まさか……正体バレた……!?)ふ、古橋君……緊急事態……!」

 無線を繋げて飛び越え、逃げながら応答を待った。

「……やはり来るか」

 烏天狗は、いや古橋は慎太郎を索敵。そして背後からけりぬいた! 

「そのままなんとか動きを止めておいて……ここから姿を消すことを優先するから……ッ」

 焦りという表情が表しながらシンシャは逃げ回り続けた。

「逃げんな!!」

 そう言って慎太郎は紗和の頭を狙い、撃つ! 

「クッ……!」

 なんとか回避成功したが……右肩を擦り、動きが鈍くなってしまった。

「(し……しまった。でも、このまま……どうかこのまま逃げ切れッ)」

 慎太郎は古橋に妨害され、一進一退の攻防を繰り広げている。

「見えた……ッ」

 シンシャ(紗和)は呟いた。右肩から血を多少流しても足を止めずに逃げ切り続けた。

 このまま逃げ切りたい、という気持ちで走り続け、飛び越え続けた。

「シャァッ!!」

 古橋の放った前蹴りが慎太郎の肋骨を折った。

「カッ……ハ」

 本来ならばドサッと膝を着く、しかし今は空中。力が抜けて高層ビルの屋上から急に落ちていくのである。

「あ」

 そう思って、衝撃を和らげようと慎太郎は必死になった。

 グシャリ。

 そんな音がした。

「……え?」

 足を止めてもう一度下を見下ろした。

 何かが潰れた痕跡がある。

 そして、熱を帯びぬ灰色のコンクリートには、赤い水溜まりがねっとりとこびり付いていた。

 劈く悲鳴とサイレンの音がビルの隙間をぬけ空回りし、わざとらしくどこかから「夢ではないぞ」と罵る声がしたのだった。

 上空からは潰れたもののシルエットが見えない。だがしかしふたりは悟る。

 

 諸星慎太郎を、殺したのだと。

 

「やっちまったぜ」

 烏天狗はそう言ってため息を着く。

 だがシンシャはその場で膝をついて震え出していた。目が泳ぎ、ブツブツと何かを言いながら震えていた。

 真下から見える光景が目から抜けなかった。

 無線から連絡が入っても応答をしなかった。

 その時である。

「その首貰ったァ!!」

 聞き慣れた宿敵(かつての仲間)の声とともに、シンシャの背中に衝撃が走ったのだ! 

「しまっ———」

 咄嗟に振り返り、水銀を出そうとしたが間に合わない。

 次の瞬間、シンシャが持っていたスマホが自動的に起動された。そして、画面から現れたのだ。

「フゥゥンッ!」

 スマホから出てきた怪獣が慎太郎の腹を蹴り、吹き飛ばした。

「ッ……アルセーヌ……ッ」

「主よ……怪我はないか?」

「チィ、殺したかったのに」

 慎太郎の光の無い目がいよいよ真っ黒になる。

「……汝よ。何か勘違いをしていないか?」

 アルセーヌは首を傾げながら慎太郎の顔を見ていた。特に感情を抱かず、普通の顔で。

「ヘッ、知るかよ。人殺しのくせに」

「誠に申し訳ないが……それはただの勘違いだ。主は殺してなんかないぞ? 汝、あの日の戦いちゃんと見てたのかい? お前が今主に付けているのは冤罪だ。やめろ」

「……アルセーヌ……」

 しゃがんだままその場から動かないシンシャは呟いた。アルセーヌはただ慎太郎を見つめ続けていた。

「ハッ、やかましいぜ悪党め。地獄におちやが───レッ!!」

 慎太郎は紗和の頭部目掛け銃弾を放った。

「ッ……!」

「主ッ」

 アルセーヌが紗和を守るように前に立ち、銃弾をマントの羽で防いだ。

「主……我がここを止める。我に命令を」

「ッ……はぁー……死なせない程度に……倒しなさい」

「御意ッ」

「一時撤退だよ……」

 無線で烏天狗(古橋)にそう告げた後、紗和はビルの屋上から飛び降りてワイヤーを使いながら夜の街の中へ消えて行った。

「さて……主の代わりに我がお前と戦おう。お初にかかるな……レイオニクスバトルとは……」

「ハッ、知るかよ。罪人の手下はこそ泥ってか? 気持ち悪い、死ね」

 そう言って、慎太郎は残像を残し背後に回る。

「……汝よ。お前は誤解しているぞ。主はお前のかつての恋人を()()()()()()()

「嘘をつくんじゃねぇよ」

 そういった次の瞬間、慎太郎は鎖で首を絞めた。

「グッ……主は……殺してなどない! お前はあの日の戦いをちゃんと見てないのか!? あの時のあの攻撃は……ッ」

 アルセーヌはもがきながらも説得をしようとした。

「うるせぇ、黙れ!!」

「汝が分からないからだ我は叫ぶんだ!! 汝は誤解しているのだぞ!!」

 アルセーヌは鎖を自力で弾き解き、《夢見針》を放った。

 慎太郎はそれを避け、アバドスティックを起動させた。

「……ウルトラマンアバドン……(主よ……すまない。今回は厳しくなりそうだ……)」

 アルセーヌは宙に羽ばたき、空中を飛び回りだした。

 身長65mの巨体が軽やかに飛び上がり、アルセーヌとアバドンは戦闘に入る。

「汝よ……やめてくれ。我は主に言われたのだ。お前を傷つけないように、と……いい加減に気づいてくれ……あの日の戦いは……()()()()()()()()()()()()()()()()

 アルセーヌは戦いながらも何度も説得をした。聞いてくれないことは分かっているが、それでも大切なパートナーが冤罪にかけられているのは見たくなかった。

「ああそうさ、見えるね!!」

 そう言ってアバドンは赤い光剣を生じさせる。紅八潮朱剣(クレナイヤシオノアカツルギ)である。

 狙うはアルセーヌの首。

「ッ……何故だ! お前はあの時の毒の動きをよく見てないのか!? アレは……アレは()()()()()()()()()()()()()()()()

 本人はこう伝えたかったのだ。

「主はやっていない」と。

 避けて、至近距離で《スラッシュ》を放ち、腹部に傷をつけた。

「へっ、やってない行為ではないときたか。その言葉は二重否定。って事はよォ────、つまり()()()()()()()()()ッ!!」

 しかし、二重否定を使用した事により、アバドンの中で何かがねじれ、そして殺人スイッチが入ったのだ。

 アドレナリンかはたまた痛覚障害のおかげか。どちらにせよその程度の傷では止まるようなアバドンではないのだ。

 アルセーヌに紅八潮朱剣を放つ。

「ッ……だが事実だ! 主はお前の恋人を殺してなんかいない! 確かにあの時、主が毒を出さなければ無事で済んだ! だがあの時の毒の動きを見てなかったのか!? ()()()()が!!」

 避けながら攻撃をするアルセーヌもついにキレて罵倒をした。罵倒の嵐が始まりそうだ。

「やかましいわ、こちとら右眼が見えねぇんだよ!!」

 チッ、チッ! 

 無数の舌打ち────それはエコーロケーション。クジラやイルカのように反響定位で様々なものを見る。

 それにより、アルセーヌの動きを捉えたのである。

 アバドンはアルセーヌの頭を掴んだ。

「グッ……! なら、その右目を恨め……その右目に見えなかったあの時の光景をな!! 何度も言うぞ!!」

 アルセーヌは大きく息を吸い、叫んだ。

()()()!!!!! ()()()()()()()()()()()()()()()()()ぁぁぁ!!!!!!」

 まるで鼓膜が破れてしまいそうな叫び声だった。この声は街中に反響しただろう。ビルの窓が振動し、ビル自体も大きく震えたり中には崩れたものもあった。

「うるっせぇなこのゴミが!!」

 しかしアバドンはアルセーヌを掴んだまま上空114514kmまで上昇し、時速810kmで急降下する。

 アバドンが体内質量を調整し、双方合わせて約10万t。

 つまり少なくとも40G以上の衝撃がかかり、そしてその巨体が硬い硬いコンクリート目掛けて堕ちるわけだ。

「マズい……!」

 アルセーヌはそう呟いた瞬間、死を覚悟した。

 それでも何か策はないかと地面が近づくにつれ、脳内の思考を回し続けた。

 アバドンはさらに速度を上げ、地面へと落ちていく。

 もはや時間はない! 

「……ッ」

 アルセーヌは突然、アバドンの胴体を勢いよく掴んだ。

「チッ!」

 アバドンはさらに掴む力を強めた。まさしく万力である。

「フフッ……受け入れてくれるよな? 我の……《逆境の覚悟》をな……♪」

 アルセーヌはニヤリと笑いながらそう言った。

「ハッ、やってみろよ」

 不意にアバドンの身体が軽くなる。まるで綿毛のように。

「なら……我の苦労を受け入れろ。我は主のためなら……なんだってやってやるからな———悪魔が」

「なんだってやると申したか、じゃあ死ね!」

 不意に超高速振動を起こすアバドン。気が狂ったのだろうか。

「……っはは」

 何故かアルセーヌの笑みは勝利の笑みのように見えた。確定ではないが、アルセーヌは笑っていた。

「そらよっ!」

 刹那、アバドンが消えた。

「フフ……我の負けは認めよう。だが……我は言ったぞ? 《逆境の覚悟》をな……」

 そう告げた瞬間、アバドンの目蓋が重くなる。アバドンは抗えない眠気に襲われ始めたのだ。

「……はぁ、これだからチートは」

 中指を突き立てながら、意識を失う──────

 ───────訳ねぇんだよなぁ!! 

 

 どろりとアバドンの体が溶けだした。

「……やはり……厳しいか……」

 アルセーヌから笑みが消えた。アルセーヌ自身、アバドンを殺そうとは思ってない。ただ単に眠って休ませてあげたかっただけだったのだ。自分が《ピンチ》の時に放つことができる《逆境の覚悟》を言った直後、《クリティカルの確率》を上げ、指先から《夢見針》を背に当てていたのだ。

 無論、失敗したからもう説明する意味もないが……

「悪いなぁ!! こちとらさっき魔剤ガンギメした上でさらに根っから不眠なんだわぁ!!」

 背後を取り、両足で踏んづけ急降下! 

「グゥ……! 主と同じだな」

 アルセーヌはまたニヤリと笑いながら地面へ到達した。残り数センチで地面に落ちればアルセーヌは負ける。いや、負けていたのは分かっていながらも紗和のために戦ったアルセーヌは目を閉じた。

「……ご苦労様」

 その声が聞こえた瞬間、アルセーヌは光の粒子となり、どこかへ吸い込まれたかのように消えていった。

 アバドンはそのまま地に堕ちる……事は無い。

 間一髪空に舞い上がり、シンシャを追いかける。

「アルセーヌ……ありがとう」

 スマホを見つめながらそう告げた後、スマホを自分の外套の中にしまい、即座に逃走を開始した。人気のない、暗闇の中へと走り続けた。

 それを音速で追いかけるアバドン……とは行かないわけで。

 古橋と小競り合いをしている内にアバドンはシンシャを見失った。

「はぁ……はぁ……はぁ…………よし……」

 シンシャは暗闇の中、怪盗からいつもの自分に戻った。だが最初の頃とは面影が変わっていた。髪が伸び、長くなったので一つに結びながら自分の私服を着たのだ。

「古橋君……今日のshowは終わったよ。帰ろう……」

 無線でそう告げ、暗闇から都会の光に包まれた街の中心で孤独に待ち続けた。

 周りからすれば髪色が特徴的なだけの、ただの一般人にしか見えない。

 よっと、そんな声をさせながら宵闇に包まれつつ降りてくる。

 あの長いボサボサの髪はバッサリ切られ、見るからに好青年となった古橋がそこにいた。

「ご苦労様……ありがとう」

 紗和は笑みを見せながらそう言った。だが瞳は少し哀しみに満ちていた。

「……まぁ、こりゃダメかもな」

「……そう、だね。でも……ボクは、あの日……奏さんを()()()()()

 都会の中心で紗和は死んだ目をしながら呟いた。

 瞳は闇のように黒く、希望のような光がない。

「……だろーな、お前のやった事じゃねえさ」

 古橋はそう言うと、悲しげに笑う。

「何とかして誤解をとかないと」

「ッ……あの時、やった、の、は……ボクじゃない。アイツ、が……アイツのせいで、アイツが、ボクじゃない。ボクは悪くない……」

 自分で胸を押さえながらブツブツと独り言を言い始めた。それはまるで愚痴にも聞こえ、自分の何かを抑えているように見えた。

「……落ち着きな」

 2人はまた、宵闇へと溶けていくのだった。


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