闇のように暗い部屋に誰かが1人パソコンを起動させて何かを記入していた。
部屋はキーボードを押す音だけが響き、窓からは月の光が照らされていた。
そして何かを記入しているその人間の目は死んでいながらも無心でキーボードを叩き続けていた。
カタカタカタ……。
無機質な音が部屋に響く。
「予告状…………お前の……歪んだ…………盗む……」
突然、独り言を言い始めながら画面に映された画像に記入していたものを読み始めた。誰もいないが、万が一の場合に備えて小声で呟いた。
そしてそれが確認出来た時、
ウルトラマンアバドン
Season2 第5話
『決戦』
そんな事もつゆ知らず。
我らが諸星慎太郎は、いつも通り組手に勤しんでいた。
「チェストォオオオオオ!!」
「おっ、いい蹴りだな!」
「押忍……! チェストー!」
「けど突きはイマイチだ。蹴り技を伸ばすといいぞ」
そう言って、一人の後輩の顎を蹴る。脳髄を揺らし、脳震盪を起こすのだ。
なんやかんや優しいところある(?)慎太郎にこれからとんでもないことが起きることは彼も分かっていない。
CETの屋上は無人で見張りとかも誰もいない。だがその屋上に1人風に服と髪を揺らされながら立ちすくんでいた。片手には、1枚の紙を手にしていた。
「…………侵入……しました。次のご命令を……」
声と目がまるで死んでいるかのように微かな声でそう言った。
『……送り付けろ』
「……御意」
そう告げた直後、手にしていた紙を便箋にしまい慎太郎がいる部屋に向かって投げた。
あまりにも一瞬だったからか、慎太郎の背後に何か鋭いモノが通り、髪が1〜2本切られた。そしてそれは壁に刺さった。ただの紙のはずが、丈夫すぎる。
「……なんだこりゃ」
便箋を開くと、それは慎太郎宛の———宣戦布告だった。
予告状 諸星慎太郎殿
お前のその捻くれ、光もないもない闇のように歪んだ心の宝石を我が盗み、頂戴する。覚悟しろ、悪魔よ。
怪盗 シンシャ
「……チッ。ゴミムシめ」
慎太郎のストレスは既に臨界である。
いやはやウルトラマンとは
それはそうと、まさかまさかの大物である。
「絶対に殺す」
慎太郎の目が爛々と輝く。
慎太郎は各種伝達をし、上の判断を仰いだ。
「……上からの許可が降りた。さぁ出撃準備だ。さらに許可が降りた。核爆弾並びに
『了解!!』
シンシャは無言でただまだ明るい青空を見上げながら風に吹かれていた。以前の面影が、どことなく消されているように見える。
その背後に、慎太郎が居た。紗和を地面に突き落とし、地面で様々な重火器を使い果ては爆弾を使い、紗和を─────そして、怨敵ウルトラマンゼロとウルトラセブンを喰い殺そう。そう考えているのだ。
そして、慎太郎は紗和の背中を強く押した。
「……お前は……ここまでしてまで……ボクを憎んでいるんだな……」
慎太郎でさえ違和感を感じる。慎太郎が知ってる紗和の口調が違う。だがそんな状況ではないと我に帰る。
「死ね」
辛辣かつ、
ウルトラウーマンラピスを殺すため、慎太郎はどんな手でも使う。例え近隣住民に被害が行こうとも。
住民の記憶は改竄すればいい。地面に残った放射線はハッキングでなかったことにすればいい。住民の死も世界線丸ごと書き換えてしまえ。
そんな、どす黒い感情。漆黒の意思。
だが紗和は慎太郎にナイフを見えない左目に向けて投げ、なんとか身を解放した。
「……あまり、君のことは攻撃したくないのだがな。これも命令である……許してくれ」
「畜生、殺したと思ったのに! 死ね!」
慎太郎の右目は全盲であり、お世辞にも左眼も良くはない。
確かに見えない左目だ。しかし。
「あまり乗り気ではないんだ慎太郎。ボクは命令だから殺すだけだ。それだけは理解してほしい。それに……お前はボクのことを勘違いしている。アルセーヌとフラカンが言っていただろ?」
「知るか。日本国に仇なすならばどっちにしろ敵だ。天皇陛下の御為に───────死ね!」
慎太郎は九四式拳銃────
紗和は溜息を吐いて自分の能力である猛毒を操り壁を作って弾を回避し、こう言った。
「ボクは、誰も何も、殺してはない。そう……
冷酷な口調で冷たい視線で見つめながらそう呟いた。
毒の壁から顔を半分出しながら……
慎太郎の耳には聞こえない。
狙っているのだ。ただ真っ直ぐに。
「ッ……!」
銀色の毒で銃弾を弾きながら少しずつ前へと進んだ。顔から冷や汗が一つだけ滴り落ちてきたのが自分でも分かった。
銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。再装填。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。銃撃音。再装填。
かつて
「(撃つ速度が速い……流石だ。だが動きに関してはだいぶ慣れてきた。彼の方の為に……さっさと、殺し……)……ウッ!!」
突然、動きを止めて頭と胸を抑えながら呻き始めた。罠でもなんでもない、突然、何かに抗うように呻き始めたのだ。
「(殺すなら今ッ)」
慎太郎は再装填し、紗和の頭を撃った。
「ッ……グッ!」
紗和はしゃがんで回避した。すっかり伸びてしまった髪に当たり何本か抜けてしまった髪の毛が目の前でゆっくりと落ちていく。
「はぁー……はぁー……忌々しい……はぁー……少しは人の話を聞くことを……学べないの、か? はぁー……」
呼吸を整えながら紗和は慎太郎を睨んだ。
慎太郎は何も言わずに分身した。
アバドニック・マジック。
六人ほどに分身した上で、首を、絞める。
「ッ……!」
動きの判断を誤り、首を絞められたまま紗和は地面に叩き落とされた。
紗和と慎太郎の力には差があるのは確実。どんなに抗おうとしても首を掴まれた腕から逃れることができなかった。ただ単に苦しく息が出来ないことに対して呻き、苦しがるだけだった。
追撃に向かう分身たち。
「さぁ行くぜ『俺』たち。
長く吼え、そして一斉に頭部を撃ち抜く。
血の代わりにガラスが舞い、ブルー・フィーリングが紗和を襲った。
1秒間に20発。その痛みは想像を絶するだろう。
紗和はあまりの痛感に言葉が何も出てこなかった。自分は死ぬ、そう思ったからだ。だが一瞬の出来事だった。紗和の口角が何故か上がり……笑っていた。
「うぉっ!?」「なぜここで笑ってんだ!?」「まさか古橋に調教を……!?」「変態趣味……!!」「ちくわ大明神」「誰だ今の」
口々に言う『慎太郎』たち。一人ちくわ大明神と呟いた者がいたが気にしてはいけない。
「誰が変態だ悪魔が」
真顔になって数秒でツッコミを入れる。ツッコミ速度が速い。ここら辺に関しては変わってないようだ。
ふと、足元に滴り落ちていた水銀の毒が不可思議に動いていた。
「でも…………ボクを憎んでいる、の、は……分かる……殺せよ……」
笑みと瞳の輝きが戻る。そこには、殴られてもなお、いつもの紗和がいた。汗をかき、声が震えていた。紗和の中にいる何かと格闘しているのだろうか……
「それじゃあ」「お望み通り」「今すぐお前の」「頭をぶち抜いて」「とっとと殺して」「差し上げます──わッ!!」
カチャリ。
そして。
無慈悲な、銃撃音。
しゅうう……。
硝煙の匂いが立ち込めている。
紗和の頭から血が大量に溢れ出ていた。だが紗和は死ぬ直前に毒が全ての慎太郎の動きを固定。下手に動けば毒死寸前である。
そして本物の慎太郎の顔面を精一杯握りしめていた。
「……古橋、く、ん……が……き、寄生……され、て……る……ボクは死ぬ。それ、は……良い。だけ、ど……最後に、これ、だ、けは……見て、聞い、て……ほしい。慎太郎……君、は……
大量出血で視界がグラつき、力が上手く出せないがそれでもなお、慎太郎の顔面を掴んだ腕は決して力を抜かずに掴み続けていた。その腕から、自分の中にある光エネルギーを流して慎太郎に送っていた。
「……ッ!」
モヤが晴れる。そして、慎太郎は思い出した。
あれは今から8ヶ月13日前か。
いつも通り、
丁度エジプトで、慎太郎はある男に出会った。
「悪ぃ、えーちゃん、しぃくん。なんか向こうから嫌な匂いがしてな……」
そう言って、二人の静止を振り切って路地裏へと向かったのだ。
そこで出会ったのが───元凶だ。
彼の動きはグネグネしていた。まるで爬虫類のようだった。
そして、目が死んでいた。左眼だけが爛々と輝いていた。
「……何者だ、キサ───────」
そう言って、慎太郎は何かで撃たれた。
その時、慎太郎は直感した。
あの銃こそが、
「お前の恋人を殺した者は『ウルトラウーマンラピス』……」
その瞬間、慎太郎の中で何かが書き換わっていた。
「……ッ……っうぅ……」
紗和の脳に何か反響が通る。紗和の中で何かに争っているのだろう……慎太郎と同じように洗脳され、絡繰人形のように動かされ、命令されながら動いていた身体に抗っていた。
慎太郎に首を絞められながらも、
そう。嘘偽りない《本当の記憶》が慎太郎の脳内に入ってくる。
そして、慎太郎の脳裏に蘇ったは、凄惨な記憶。
目の前で消え失せる牧原。紗和の猛毒。けど「その前」に「何か」が猛毒を「弾いた」ような。
しかし【規制済み】はそれを空中向けて打ち上げた。
その先に居るのは……。
牧原だ。
空挺降下中の牧原に毒が襲いかかる。
慎太郎はそれを確認して飛ぼうとし、その瞬間凪の蹴りで大きく吹き飛んだ。
そうか。
そうだったか。
「……しぃくん……えーちゃん……すまなかった……」
慎太郎の左眼から、液体が流れ出た。
「ガハッ……! ガァ……!」
紗和は口から大量に吐血をしながら慎太郎に記憶を見せ続けた。それでもなお、紗和は今から死ぬことに関しては
「しん、た、ろ……う……」
「……きさ、ま」
「…………抗、え……君、の記憶、を……偽った、ヤツ、を……殺、せ。ヤツ、は……
呼吸が出来ず、苦しい……しかし、紗和は喋り続けた。
慎太郎は何も言わなかった。そして、紗和を蹴り飛ばした。
「連行しろ」
ザッ。
一糸乱れぬ隊列が紗和を連行する。
ただ紗和は何も言わず、笑いながら目を閉じていた。口からは血が滴り落ちていた。口からではなく、身体全体からだ。
連行されても死ぬ、紗和はそう思ったからだ。それでもなお、紗和は幸せそうな笑みを浮かべながら連行されて行った。
ただ1つ、心残りがあった。
もう一度———尊敬する人に会いたい、と……
そうして、紗和は意識を手放した。
自室に戻った慎太郎は、その怒りを壁にぶつけた。
「Damn!!!!」
大声だ。
テレビからは『怪盗シンシャが逮捕され、少年院に送られる』『何故か重症を負っていたので少年院に送られる前に都立病院で検査や治療をし、回復後送られる』と、言われた。
紗和自身も意識が戻らず、未だに病院の病室で眠っていた。万が一、起きた時に備え、警察が見張りをしていた。
ブツン。
テレビの電源を切った。
そして、慎太郎は真なる敵を確定させた。
「古橋……いや、寄生生物……」
その頃。
『やはりアイツではダメか……ウルトラウーマンラピス。使えんヤツめ』
くぐもった声が古橋から聞こえてきた。
からから、ころん。
メダル製造機をまわし、出て来たはゴモラ、レッドキング……そして。
『……キエテ・カレカレータ』
ウルトラマンベリアルのメダルだった。