インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
ピットを飛び立った俺の前に広がるのは、宇宙空間という本来の活躍の場ではなく、IS学園の第3アリーナの空だ。舞う様に軽やかに、旋回しながら高度を上げる。姿勢制御は茜に任せて俺は頬に当たる風をただ感じていた。
ISの登場により、女性だけが感じることのできるようになった感覚。飛行機やハングライダーとは違う、鳥のように自身の意思でどこまでも飛んで行ける。この感覚は何度経験しても俺の心に解放感を生んでいた。
俺の位置よりさらに上空に待機している、空と同化してしまいそうな程に鮮やかな青い翼を身に纏ったオルコットさんを見つける。ハイパーセンサーによって距離をすっ飛ばして、まるで目の前にいるかのように見える彼女の表情はいつもとは違った印象だ。
いつもの彼女、俺の前でのオルコットさんは自信とプライドに満ち溢れた表情をしている。もちろん俺が彼女をこれでもかってくらいに立てているからなのだが。
俺はオルコットさんに近づきつつも、周りを見渡す。観覧席に何人かの女生徒がいるのが確認できた。俺のクラスメイトは全部で31名。俺と一夏、箒、オルコットさんを抜くと残りは27名の女子。だが今見えるのは10名程。箒の話ではクラスメイト全員が来ているだろうと言っていたので、恐らく一夏の試合が終わったから帰ったのだろう。俺の状況的に、観覧者は少ない方が良いのだが、俺のハート的には正直悲しい限りだ。
ちなみにここから見える位置に箒たちはいない。『観覧室』とは言っていたが、恐らく『管制室』にいるのだろう。
俺は彼女の待機している高度まで上がり、その位置に止まる。
「オルコットさん、お待たせ」
「え、ええ。別に待ってはいませんわ」
やはりいつもと違う。緊張というか、警戒心がある。どうやら一夏に追い詰められたのが相当効いているようだな。
先程の試合、一夏がもし【雪片】の能力をちゃんと把握していたら、結果は変わっていたかもしれない。オルコットさんにはその事実を知る由もないかもしれないが、ほぼ初心者の男の一夏にギリギリまで詰め寄られたことに動揺を隠せないのだろう。
それ故に、男の操縦者に対する警戒レベルが上がっている。俺がほんのちょっとでも近づくと、後ろに下がり、間合いを広げてくる。レーザービットもまた、既に俺の周りに配置している。3機のビットが俺の方に向いており、臨戦態勢といった状況。一夏はレーサービットを2機、ミサイルビットを1機破壊したと聞いている。どうやらレーザービットは1機だけ予備があったようだな。ミサイルビットは予備がないせいか、スカート状のアーマーが左右非対称となっている。
「初心者同然だけど、胸を借りるつもりで頑張らせて頂きますよ」
「……まぁせいぜい頑張ってください」
俺のいつも通りの下手に出るような会話に対し、少し笑顔を見せて余裕を表現する。だが口元は少しだけ「笑み」を表現しているものの、目が笑ってはいない。
俺はその心に更なる揺さぶりをかける。その緊張や警戒で、心の平静を奪っていく。
俺は右手に握っていた近接ブレードを肩に抱えるように持ち上げる。それを見ていたオルコットさんは、怪訝な表情を浮かべる。
「貴方も近距離格闘装備ですか……。見てお分かりかと思いますが、私は遠距離射撃型ですのよ? それで勝負になると思って?」
IS学園には射撃型のISも存在するのになぜ……と続けるオルコットさん。俺に忠告をするかのような口ぶりではあるが、俺からしてみれば動揺を隠し切れていない。もちろんそれも作戦の内である。先程の試合直後である今の方が、より警戒を生む。だからこそ近接ブレードを装備した状態でピットから出てきたのだ。まぁそれだけではないが……
「俺、射撃が苦手なんですよ。オルコットさんと射撃勝負になったら、正直勝負にすらならない。近接格闘、特に剣道だったらちょっと自信があるんだ。だから俺の武器は近接ブレードだけさ」
「!! ……そうですか」
俺は少し強めの視線を送りつつ、彼女の前にブレードを突き出す。いつも通り前髪と眼鏡で俺の目は彼女から殆ど見えてはいないだろうが、それでも空気は伝わっているようだ。
俺の言動や視線に、またほんの少し間合いを広げると共に更なる緊張が顔に走る。ここまで警戒を高めてやれば、もう十分だろう。
俺は通信回線を開いて、管制室にいる山田先生に試合の合図をしてもらえるように伝える。あえてこうすることで彼女の緊張のピークもコントロールし、さらに彼女の奇襲に近い先制攻撃を封じる。
『では、試合開始!』
「いきますわ……!?」
山田先生の試合開始の合図と同時にビットによる攻撃を仕掛けるつもりだったであろうオルコットさんは驚愕していた。それはそうだろう。なぜならば今、彼女の元にものすごい勢いで回転しながら飛んで来る物体があるからだ。
それは俺が装備していた近接ブレード。俺は試合開始と同時に投げつけたのだ。
目の前に起きている現実に、緊張と警戒の高さ故に冷静さを失っている彼女の思考は停止し、動きも止める。
もちろん、それは一瞬。撃ち落とすか避けるかをしなければダメージは必至。彼女は再び思考する。
だが、されど一瞬。その刹那の硬直が撃ち落とすという選択肢を失わせる。彼女は回避するしかないだろう。
オルコットさんはギリギリではあったが、シールドエネルギーを消費することなく避ける。俺的には当たっても当らなくてもよかったってレベルの話だ。俺の狙いは……
ドォォン! ドォォン! ドォォン!!
「!?」
今度は爆発音。その音の先を見たオルコットさんはまたもや信じられないといった表情だ。
その理由は2つ。
1つは投げつけられた近接ブレードを避けている間に、レーザービットを3機全て落とされてしまったこと。そしてもう1つは、投げつけたはずの近接ブレードが俺の右手に握られていることだろう。『奇襲』成功だな。
俺がピットから出てきた時には既に装備していたあの近接ブレード、あれはピットに予備として置いてあったものだ。今装備しているのは茜に格納されていた本当の俺用の近接ブレードだ。
俺はオルコットさんが一夏に【雪片】で追い詰められたことを利用して、必要以上の警戒と緊張を促し、さらに自身の武器は手に持っている近接ブレード1本だけと印象付ける上で、その武器を投げつけて彼女の思考停止と、彼女自身に回避行動を取らせることが狙いだった。
それはなぜか。ちょっと詰めが甘かったが一夏も考察できていたことだ。「セシリア・オルコットの『BT兵器』は
俺はオルコットさんが投げつけられたブレードを見て、思考停止したのを察知し、近接ブレードを
「あ、あな……!?」
オルコットさんに最後まで言わせないまま、俺は特攻をはかる。
ここで一気に勝負をかける。平静さを取り戻してしまうかもしれないわずかな時間すら与えない。レーザービットを破壊されたことに動揺しているこのタイミングで、先程の一夏との試合をフラッシュバックさせるような特攻。もう心の中は乱れまくりだろう。
俺は初心者たる動きをしなければならない理由がある。それについてはまだ詳しく語る時ではないので言わないが、一夏より目立つのはよろしくないのだ。よってレーザービットを回避しつつ攻撃という選択肢はない。一夏はできなかったのだから。だからこそ、先にビットを破壊するという手段をとった。これで彼女の心を揺さぶるであろう『特攻』という選択肢も選ぶことができる。特攻は直線運動だ。複雑な回避運動でない。
オルコットさんはその手に携えているレーザーライフルを構えると、すぐさま撃ってきた。だが、接近されたくないという気持ちが更なる動揺を生み、ハイパーセンサーによる照準が少し甘くなっている。
1撃目。まだ彼女との間には距離がある。ここは紙一重で躱しても大丈夫だろうと考え、躱す。
2撃目。先程より間合いが近い。この距離で躱すと初心者っぽくない。俺は衝撃を受けて動きが止まってしまわないレベルに右肩をかすめる。シールドエネルギーが減少、実体ダメージも受けるが問題ない。
そして3撃目の前でのこの時! この作戦のキモとなる瞬間が訪れる。俺は右手に握っている近接ブレードを強く握り直す。そしてこの後、来るであろう『痛み』に耐える覚悟を決める。
「(茜! 今だ!!)」
「(はっ、はい!!!)」
「!?」
次の瞬間、俺は茜の制御により急加速し、間合いを一気に詰める。
『
俺は間合いを詰めた直後にオルコットさんの構えていたレーザーライフルの銃口を左手で握りつぶす。コンマ数秒前に彼女が引き金を引いたのは当然確認している。
ドカァァァァン!
「っ痛!」
ゴキィッ という鈍い音と共に左肩に痛みが走る。どうやら肩が外れたようだ。銃口を握りつぶしたレーザーライフルの引き金を引けば当然暴発。その衝撃を左腕はもろに受けた。『絶対防御』があるので、腕が吹っ飛んだりとか千切れるといったことはないが、衝撃は突き抜けて受けることはある。これも計算の内で、覚悟の上だった。
俺は動かない左腕を無視して、右手に握られている近接ブレードを彼女の顔の前に突き出す。オルコットさんは自身に起きた事実に茫然自失というか、頭でまだ処理ができていないようだった。
「checkmate」
俺の発言に、オルコットさんは正気を取り戻して現状を把握する。さすがに驚きを隠せないといった顔をしてはいるものの、自身が置かれている状況は理解できたようだった。もしここで彼女が降参しないのであれば、俺には勝つことはできても、ミッションをクリアすることはできない。
だが、俺には分かっている。彼女は間違いなく……
「……わかりました。わたくしの負けですわ」
彼女の発言に、俺は突きつけていた近接ブレードを下ろす。とりあえずこれで、ミッションの半分はクリアできた。後は彼女の出方次第だな。
俺は近接ブレードを
俺は少しずつ高度を下げる。オルコットさんもそれに合わせて降りてきた。
「随分と無茶なことしますのね」
「まぁ……ね。一夏と箒に勝ってくれって言われたし……それにこれだけハンデ貰ってるんだから」
俺の左肩を一応心配してくれているのだろうか。とてもそうは見えないが。
オルコットさんの発言に、俺は最後の仕上げに向かって会話を誘導する。『事前情報』を取り入れた『言い訳』だな。それは俺のではなく、一夏と、そしてオルコットさんの評価を下げない為の言い訳だ。「最終的に一夏より評価を低くする」というのは俺の評価を下げることができればそれが一番楽な手段ではあるが、勝ってしまった以上、それはなかなか難しい。なので一夏やオルコットさんの評価を上げる、もしくは下げないことで、相対的に俺の評価を低く見せる。やってみるさ。
「さっきの試合。俺は見てて、対策が練ることができたからね。まぁ時間がそんなになかったからあんな作戦になったけど……」
「……」
俺の発言に表情を崩さない。ある程度は覚悟していた結果だということか。それは「試合に負ける」という結果ではないだろうが。やはり彼女自身、気付いているということか。まぁこれもまた予想していたことだ。さらに彼女があの場面で降参した時にそれを確信したのだが。
さて、ここからはなるべく聞こえるように話さないとな。
「一夏に破壊されたビットの補充も全部はできてないしさ。それに『BT兵器』って脳に凄い負担がかかるんだよね? オルコットさんは連戦で相当疲れてるでしょ?」
「……ええ。まぁ」
「俺は一夏みたいに運動神経良くないから、ビットのレーザーを回避し続けるとか、そんな動きはできないよ。だからあんなズルいというか、奇襲みたいなことするしかなくて……結果的に左腕を負傷して、やっとこさってカンジさ。オルコットさんが降参してくれたのも俺の体を気遣ってくれたからでしょ? ありがとう」
「……別に、構わなくてよ」
そう言うと、彼女は俺が出てきたピットの向かい側にあるBピットへ戻っていった。あの顔はあまり納得はしていなそうだな。この場での発言は控えたということだろうか。後で俺の所に詰め寄ってこなければいいが……。面倒くさいからな。とはいえ……まぁ俺もこの場で考える必要はないか。
さてさて、周りの反応はどうだろうか。俺は先程の会話が聞こえるように高度を下げていたのだが。
俺は丁度真後ろあたりにいるであろう、残った10人程のクラスメイトたちの反応を伺う。
「そっか~。確かに黒神くんが勝ったけど、ちょっとズルい感じだったもんね~」
「そう考えると、織斑くんって凄くない? 超カッコよかったよね!」
「ホントホント! あの代表候補生相手にさ! さすが織斑先生の弟よね!」
どうやら上々のようだな。聞こえてくる背後の声で俺の作戦はとりあえずなんとかなったことを確認した。やれやれだ。
俺は安堵とため息がまじりあった深い息を一息ついた。もうこういう面倒くさい作戦は勘弁願いたいものだな。
俺はどちらかと言えば精神的にクタクタな状態でAピットへと戻った。
◇
既に開かれていたAピットへゆっくりと降下する。するとそこには心配顔の箒と山田先生、いつもと変わらない表情の織斑先生、そして笑顔の一夏が俺の帰りを待っていた。
俺は地面に足を下ろすと、すぐさまISの展開を解いた。武器と同様で粒子となり弾けて消えたかと思えば、俺の首回りにネックレスとして再構築された。
ISは専用機となれば、いつでも自分の意志で展開し装着することができるように、身に付けられる物の状態で待機させる。打鉄の茜も、量産型の訓練機ではあるが、3年間は俺が継続して使用することになる。このネックレスはその待機状態ということだ。
ちなみに一夏はガントレットだ。ガントレットって分からないか? よくRPGに出てくる鎧の一部みたいなヤツ。結構ごっつい仕様になってるな。あれは誰の趣味なんだろう。
すると、箒が俺に駆け寄ってきた。そして俺の両腕を両手で掴む。
「だ、大丈夫か! 京夜!」
「ああ、大丈夫……って腕を握ったらさすがに痛い!」
「あ、ああっ! す、すまない……」
すぐさま腕を離す箒。心配してくれるのはありがたいことですが、そんな顔をしないでおくれ。そんな顔をさせたくなくて、こんな作戦を練ったのだから。それにさ、いつもの君の暴力的なツッコミの方が痛いんだぜ? 周りから見ても箒のツッコミは痛々しいと思うのは俺だけなんだろうか。たしか見る人が見れはそれは「調教に見える」と昔言われたことがあった気が。
とりあえず、俺は箒に笑顔を返す。箒もどうやら安心したようだ。その箒の後ろから一夏たちが近づいて来る。
「京夜! やったな!」
「まぁな。けど、まぁ一夏のおこぼれをもらったようなもんだ」
「そんなことないだろ! 勝ちは勝ちだ!」
まるで自分の勝利のように喜んでくれている一夏。この時代に男の俺が女に勝って、ちょっとでも男の意地を示せたことが嬉しいのだろうな。でもそういうのって自分でやらないと意味ないと思うがな。
さて、これでオルコットさんと俺の1勝ずつなので、一夏と俺の試合になってしまったのだが、一夏の評価が高い状態の今、あえて俺との試合をやるメリットがないな。
一夏は実戦の方が成長するタイプであるということは、相手が強い方がより良い動きを見せるということだ。俺は初心者の動きしか見せられない。そんな状況では、一夏の動きも、オルコットさんとの試合とは比べ物にならない程酷くなる可能性もある。
加えて俺と一夏は近接格闘系の武器だけだ。よってあまり動き回るような試合にはならない。正直デメリットしか見当たらないな。
俺は俺の体を心配してくれている山田先生に笑顔で答えた後、織斑先生に話しかける。
「織斑先生、申し訳ないんですが、肩もこんな状態ですし、一夏との試合は棄権させてもらいたんですが……」
「まぁ、しかたないだろう。さっさと医務室へ行って診てもらえ」
俺の提案は意外にもあっさり承諾された。当然ではある話なのだがな。流石に負傷している生徒に試合をさせるような理不尽教師ではないということだ。正直「それでもやれ」とか言われるかもと思ったことは否定しないが。
「ありがとうございます。そういう訳だ。一夏、悪いな」
「しょうがないさ。今度やろうぜ!」
「ああ、そうだな……」
俺はそう言うと、治療の為に医務室へと歩き出す。その右側には並んで歩く箒。どうやらついてくるようだ。当たり前だと言わんばかりの顔をしている。よく考えればいつもそうか。
すると、織斑先生が刑事コロンボ並みにピットを出る俺を呼び止める。
「おい、黒神……」
「なんですか? イテテテテッ」
「……いや、なんでもない」
あと1つ、聞きたいことが……とは言わないまでも、何かを探ろうとしていることには違いない。だが、痛がる俺に何も言えなくなる織斑先生。まぁ演技だけどね。
それにしても、織斑先生には気付かれているようだな。まだ不審に思うレベルだから、引き下がったに過ぎないだろう。やはり
俺はこの後、箒を連れ立って医務室に行き、肩をはめ込んでもらい、そのまま部屋に戻った。こうして『クラス代表決定戦』は幕を閉じるのだった……。ってこの締め方はあまり好きではないな。それにこれだとまだクラス代表は決まってないしな。なので後日談というか、この日はこれで終りではなかったのでまだまだ続く! この後にこうご期待だ。
「(さ、サービス、サービス~)」
「(ISじゃんけん、じゃんけんポン! ウフフフフ)」
「(何それ? どうしたの?)」
「(出番がなさ過ぎなのよ!!!)」
だからって何してんだか。無理やりそんなのを茜にやらせるなよティーナさんや。それから、茜。どんなサービスを提供してくれるんだ? お疲れの俺はその豊満な胸枕を要求するぞ!
はぁ~。続ける気だったがなんか最後のでドッと疲れが出たので、次回にしよう、そうしよう。俺はそういうのはやらないからな! 俺は予告編クイズ! とかやらないからなって、ああああ結局毒されてる~ううううう。
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