インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
わたくしは泣いてしまった。もう泣かないと決めたのに。両親の残してくれたものを1人で守っていかなければならなくなった時に。たった1人で生きていくと決めた時に。
わたくしは泣かされてしまった。クラスメイトの男子に。父と同じ瞳をした彼に。誰も気付かなかったわたくしの気持ちに気付き、理解してくれるその優しさに触れて。
泣き尽くして落ち着いたわたくしは、彼に手を引かれて部屋に戻り、枕に顔を埋めて横になっている。布団に包まりながら、撫でてくれた彼の手のぬくもりを思い出す。そういえば父もよく頭を撫でてくれた。
そんな父と同じ瞳をした彼の優しさに触れた時、気付いたことがあった。
それは父の優しさと、そして強さ。
父は母の顔色をうかがっていたんじゃない。いつも母のことを気にしていて、心配していたのだ。周りから何と言われようとも、母のことを誰よりも……
今まで分からなかった母の気持ちが初めて理解できた。なぜ母が父といつも一緒にいたのかも、なぜ母は父と結婚したのかも……
それが分かった時、同時に少し笑ってしまった。自分の中に芽生えた感情を理解してしまったから。
熱いのに甘く、切ないのに嬉しい。意識すると胸が満たされるこの感情。
わたくしは彼に好意を抱いてしまった。好きになってしまった。
それがちょっと嬉しかった。父に似た人を好きになったことが。母に似て同じような人を好きになったことが。
両親がいなくなってからずっと一人きりだったわたくしの心を今、彼が満たしてくれている。温かい気持ち。とてもドキドキするのにとても安らぐ。そんな幸せな気持ちを胸にわたくしは眠りについた。
◇
オルコットさんを部屋まで送り届けた俺は、閉じられた扉の前に少し立ち尽くしていた。
彼女は、涙のせいなのかは分からないがほんのり赤く頬を染めて、そして少しうつむき加減で戻っていった。俺の言葉はこの先の彼女にどれほどの影響を与えてしまったのだろう。後悔するつもりは毛頭ないが、責任の重さを感じずにはいられない、そんな心境だった。
時刻はもう12時前か。そろそろ消灯時間だ。うろついている所を織斑先生に見つかったら、修学旅行生のように廊下で正座させられた上、反省文とか書かされそうだな。
俺はコーラを片手に部屋に戻る。ぬるくなってしまったので冷蔵庫で冷さないとこりゃ飲めないな。そんなことを考えて廊下の角を曲がる。すると……
「!!! びっくりした~!」
「……」
俺はそこにいた人物に少し驚かされる。壁に寄りかかって腕組み状態で立っていたのはルームメイトの箒だった。既に寝間着姿だ。髪もまた、いつものポニーテールではなく解いている。箒は和を重んじるというか、ジャパンラブな女子なのでパジャマではなく寝間着浴衣というヤツだ。帯はちょっと前に俺がプレゼントした物だな。似合ってるぞ。
それはともかくなぜに箒がここにいるんだ? 消灯時間ギリギリになっても戻ってこない俺を心配して探しに来てくれたのだろうか。だが俺の場所は分からないはずなのにってまさか……
「(ティーナ、どうゆうことだ! 茜もなんで……)」
「(ごめんなさい! ティーナ先輩には言ったんですけど……)」
「(箒ちゃんなら問題ないでしょ? それに……フェアじゃないかなって)」
一体何に対してフェアを要求するのか分からんが……。相変わらずの不機嫌顔かと思いきや、さっきのオルコットさんに負けず劣らずな複雑な表情の箒。いつもなら木刀の一発もありそうな場面ではあるような気もするが。箒がそんな顔をしているということはつまり……
「……聞いてたのか、箒」
「……眼鏡を外していいと言った覚えはないぞ」
「そっか……」
その発言に俺は少しうつむき、胸にしまった眼鏡を掛ける。そこに見えるのは最近の視界。IS学園に入ってからの俺の視界。そこに映るのはIS学園に入る前から一緒にいる箒の姿。さすがに寝間着姿は見たことなかったがな。
どう話を続けようかと悩んでいる俺に箒は言う。
「わかっている! 私が誰よりも京夜と一緒にいるんだからな!」
プイっと顔をそらす。ちょっと拗ねたような表情。その箒の姿を見て俺は少し和む。自分を理解してくれる人がいる。その喜びを改めて実感すると共に、オルコットさんにとって俺はそんな存在になれただろうかと思う。少しでも彼女の拠り所になれただろうか。
すると箒は寄りかかっていた体を起こして部屋へと歩き始めた。
「戻るぞ、京夜」
「ああ」
俺は前を歩く箒に追いつき、後ろから箒の頭をポンポンする。ふて刳られたような顔をしていたが、少し笑顔に戻り頬に赤みが指す。俺たちは並んで自分たちの部屋へと戻った。
◇
翌朝。昨日はさすがにいろいろあって疲れた俺は部屋に戻るとすぐに寝てしまった。そのせい? なのか珍しく意識のある状態で食堂へと足を運んでいる。
そんな俺に並んで歩く箒は朝から説教気味だ。できるなら毎日やれだのが内容のメイン。せっかくちゃんと起きたのに、なぜそんなこと言われないといけないのだろう。しかし、よくよく聞いたら毎日言われているようだ。道理で聞いたことのある話をされてるなと思った。睡眠学習恐るべし。
食堂に着いた俺はいつも通りの強制和食メニューのトレーを持って席に着く。朝日が差し込む食堂は昨日の夜とは違い、女子たちで溢れて既に賑わいを見せている。
俺の右隣に座る箒と今日の焼き魚の焼き加減がどうとかの話をしていると、声を掛けられた。
「おはようございますわ!」
今まで見たことない程の明るい笑顔で挨拶をするオルコットさんがそこにいた。
ここに座るのは当然と言わんばかりの勢いで俺の左側に座る。そんな彼女に反対側の箒の右眉が吊り上る。別にどこに座ってもらってもいいと思うけど、6人掛けのテーブル席に片側3人並んで座るっていうのはどうなんだ? 常識人なら結構恥ずかしいと感じるのではないだろうか。
俺は彼女の顔を見直す。泣き腫らしてしまった下瞼が少しだけ気になるが、それ以外はとてもいい顔をしている。いつもはもっと隙がない顔をしていて、心に隙間がない印象だったが、今は安堵というか、安心というか、とてもゆとりがある雰囲気だ。その顔を見て俺も少し胸を撫で下ろす。
そして俺は今の彼女を信用してある提案をする。今なら問題ないだろう。
「そうだ、オルコットさんに一つお願いがあるんだけど……」
「まぁ、なんですの?」
「クラス代表の件なんだけど、一夏に譲ってくれないかな」
クラス代表になれば、クラス対抗戦だったりと目立つ機会も多いので、できることなら一夏をクラス代表にしたい所ではあったが、正直諦めていた。
それはクラス代表を決める話し合いをした時、俺は「自薦他薦で選ばれた人間の多数決」という流れを期待していたのだが、一夏がオルコットさんにキレた時にそれは無理となったからだ。
だからあの代表決定戦にこじつけた。前にも言ったが、彼女に勝てるようなことがあればそれがベストだが、善戦してくれればクラス代表にはなれずとも一夏の評価的には十分だからだ。評価を下げてまで無理やりクラス代表にするより無難な手段を取った。
だが今ならできるかもしれない。今の彼女なら受け入れてくれるかもしれない。一夏の決意に彼女は少なからず共感してくれただろうから。
「あの試合での一夏の決意を聞いて、俺はアイツを応援してやりたいって思ってるんだ」
「……わかりました。かまいませんわ。けれど2つ、条件があります」
意外と素直に受け入れてくれるオルコットさん。ただ交換条件を要求してくるとは……。一体どんな要求をされるのか正直見当もつかないな。あまりキワどいことは言わないでくれよ?
「1つは、今後わたくしのことは『セシリア』とお呼びになってください。わたくしも『京夜さん』と呼ばせて頂きます。そしてもう1つは……」
そのもう一つの条件に俺はかなり意表をつかれる。
「わたくしの為に、あんな真似はしないでください」
少し心配気味の顔で真っ直ぐに俺を見つめてくる。そうか、俺の『
「わかった。約束する。これから宜しくなセシリア」
「ええ。宜しくお願いしますわ、京夜さん!」
まだ朝で今日は始まったばかりだが、きっと今日一番になる笑顔だ。セシリアってこんなに可愛かったんだな。なんか高飛車で高笑いしかしないイメージだったんだが、今のこの幼さの残る可愛い笑顔がきっと彼女の本当の笑顔なんだと実感した。
食事を終えてお茶で一息。そういえば今日は一夏が俺たちの席に来なかったな。
俺はあたりを見回す。すると右奥の何やら桃色の空気が漂う一角が目に止まる。女子たちで溢れかえっているその席の中心に一夏が座っていた。一夏を囲むように集まっているので隙間からしか見えないが、相当困惑気味の一夏。昨日の試合の評判を聞きつけてさらに膨れ上がったようだ。
そんな状況を観察していると俺の隣で食事していた箒は立ち上がり、テーブルを回り込んでセシリアの前に立った。
「改めて……篠ノ之箒だ。宜しく頼む」
「セシリア・オルコットです。宜しくお願いしますわ」
手を出して握手を要求する箒にセシリアも立ち上がって手を出す。セシリアが俺の隣の席に着いて以降、全く喋らないが、いつもとは違ってさほど不機嫌オーラではない箒をちょっと気にしていたんだが……そういうことか! 育まれる女子同士の友情! 良い感じですね! 青春ですね!
お互い友達が殆どいないのだからそんな感じで増やしていってもらいたいものだ。そのままだと2人とも「空気フレンドができた」とか言い出しそうだしな。ネクストドアネイバー部とか設立されても俺は入らんぞ。
だがそんな爽やかな空気も一時。なにやら怪しい雰囲気を醸し出す2人。
「私は譲る気も、引く気もないからな。セシリア」
「ええ、もちろんわたくしもですわ、箒さん」
俺には見える。見えるぞ! 箒の後ろに龍が! セシリアの後ろに虎が! そしてその周りを包む炎の海が! 俺の目にだけ映るビジュアルエフェクトではないだろう!?
握り合う手はもう握手と呼べる代物ではない。あれはワンハンドシェイクデスマッチだろ。っていうかこれ、誰が止めるんだろう。やっぱり俺ですか?
「(京夜って朴念仁ではないけどさ、一級建築士なのよね~。茜の次はセッちゃんか~)」
「(そのセッちゃんって誰のことだ?)」
「(セシリア・オルコットだからセッちゃん。今後は色々波乱が起きそうね)」
「(京夜さんなんて、巻き込まれちゃえばいいんです!)」
ティーナさんや。結構安直なあだ名ではないっすかね。どこぞの京の深山に秘して伝わる剣術を使う半妖剣士のあだ名みたいだ。茜は茜でちょっと拗ね気味。可愛いぞと言うとボンッという音と共に顔を真っ赤にしてしまった。良いリアクションだ。
このままにはしておけないのでどうしようと思っていた矢先、女神が降臨した。いや、破壊神だった。誰かは想像できるだろう。俺はいつも通りの脅迫とも言える発言で我に返った2人と共に部屋へと戻った。
◇
「では、1年1組代表は織斑一夏くんに決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」
朝のSHRの時間。山田先生が嬉々として連絡事項というか、決定事項を告げる。クラスメイトも当事者である一夏を除いて大盛り上がりと言った状況だ。
俺は朝食後、SHRが始まる前に職員室に行って織斑先生と山田先生に事情を説明してきた。2人とも流石にセシリアが折れるとは思ってもいなかったようだが、俺の顔を見た後に何故か納得された。どうやら俺が口の上手さでまるめ込んだと思われたようだ。心外だな。そんなアイドルプロダクションと偽って、騙して夜の仕事に引き込むスカウトマンを見るような目で見なくても。
「先生、質問です」
「はい、織斑くん」
手を上げて質問をする一夏。まぁそうだろうな。あの代表決定戦で0勝1敗の一夏にその権利というか義務? はないはずだから。
「俺は昨日の試合、1勝もしていないんですが、なんでクラス代表になってるんでしょうか?」
「それは――」
「それはわたくしたちが辞退したからですわ!」
一夏の質問に、山田先生が答える前に答えるセシリア。今までならもっと高圧的な態度で腰に手を当てたポーズでもしそうなものだが、手を上げて穏やかな表情で立ち上がる。一夏も昨日までとは違う彼女に少し驚いているようだ。
「勝負はわたくしが勝ちましたが、貴方の試合中の決意表明にわたくし、とても感心致しまして、京夜さんとも話しあって『一夏さん』にクラス代表を譲ることにしましたわ」
「へっ?」
さらに驚きの表情を見せる一夏。セシリアが折れたことによる驚きなのか、それとも俺や一夏のことを下の名前で呼んだことによる驚きなのか。
どうやら「なんでそうなった?」ってことが知りたいようだ。一夏は俺に視線を向けていた。やれやれ、俺も説明しないといけないようだな。
「俺も一夏の決意に感心したんだよ。だからそれを少しでもサポートしたいなと思ってセシリアにお願いしたんだ。クラス代表ともなれば戦いには事欠かないから、実戦経験を多く積むことができるだろ?」
「……だけど」
「それに俺やセシリアだけじゃない。きっとクラスメイトの皆も一夏を応援したいと思ってくれてると思うぜ」
立ち上がりそれらしい理由を語った俺は周りに同意を促す。クラスメイトの殆どは俺やセシリアより一夏がクラス代表になって欲しいと思っているだろう。
見渡すとクラスメイトは軽く頷いてくれる。俺の意図に気付いてくれたようだ。
「そうだよ! 織斑くん!」
「頑張って! 応援してるよ!」
「私も私も!」
周りの援護射撃による包囲網に逃げ場なし。俺はさらに追い打ちをかける。絶対一夏を陥落されてみせる。一夏の為に。もちろんそんな面倒なことをしたくない俺の為に。
「一夏! みんなこれだけ応援してくれてるのに、断ったら男じゃないぜ!?」
一夏は結構な勢いで単純な生物なので、こんなんでも絶対乗ってくる。一夏になら怪しい壺でも美顔器でも買わせる自信があるな。
いや、言っておいてなんだか、それは無理かも。財布のヒモはやたら固いからなコイツ。家事とか家計的なものは相当しっかりしている。それ以外はゾウリムシ並みの単細胞生物だけど。
一夏は周りの勢いのある雰囲気にも煽られてどうやら決意したようだ。
「わかった! 俺、やるぜ!」
「それでこそ一夏! みんな、拍手~!!!」
拍手喝采の中、クラスは一つにまとまり一夏はクラス代表に決定した。楽勝だな。これで俺の安定は約束されたようなものだ。俺は安堵し席に着く。
そんな俺を箒とセシリアはジトーッとした目で見ていた。その目はまるで「やっぱりお前の方がクラス代表向きじゃないか」と言わんばかりだ。ちなみに後で確認したのでそれは間違いなかったのだが……。俺がそんな面倒なことやる訳ないだろう? ただでさえ、もう既にどうやって授業をサボろうか毎日そればかり考えているくらいなのに。
「(もうあきらめなさいよ。流石に箒ちゃんとあの織斑先生から逃れる方法なんてそうそうないわよ。それにセッちゃんまで参加したらほぼ無理ね)」
「(だ、ダメですよサボりなんて! 私も許しませんよぉ!)」
2人の反対発言を脳内で聞きつつ、俺は窓の外を見る。一筋の飛行機雲が真っ直ぐに伸びている青い空をボーッと眺めながら俺は思考を巡らせる。それは授業をどうサボるかの手段ではなく、今後について思いを馳せるのだった。
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