インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
やっぱりあたしは、彼が好き。今は『黒神京夜』を名乗るあの幼馴染の、あの男の子のことが……
多くの人は勘違いだって言うかもしれない。それは遠い日の美化された恋心だって。それは危機的状況から助けてもらった吊り橋効果によるものだって。
だけど、彼の手の温もりは……あの温かさはあの時と同じだったから。あたしのことを大切に思ってくれている気持ちが伝わってきたことは確かだから。
あたしの居場所は、彼の撫でる手が届く場所がいい。あたしは彼の……『京夜』のそばで一緒に笑っていたい。
だからあたしは……
◇
「というわけだから、部屋替わって」
「ふ、ふざけるな! 何が『というわけ』なんだ!?」
クラス対抗戦翌日の寮の部屋。時刻は夜8時過ぎ。いつも通りシャワーで汗を流した後に夕食、そしてそれを終えてのくつろぎモードの俺と箒の部屋に鈴がやってきて、今この状態。
っていうか箒の言うこともごもっともですよ、鈴さんや。場面転換で全部説明されてるなんて、そんなの漫画か小説の中だけの話ですって、一体何の話やら。
あまり相性のよろしくない2人の会話は、こんな感じで噛み合わず、一向に前に進まない。今の所あまり接点ないしな~この2人は。今日の放課後に反省文を書かされた時も、一夏と箒とセシリアは前日に終わらせてたから俺と鈴の2人きりだったし。
俺は鈴の足元に目をやる。そこにはボストンバックが1つだけ。既に荷物持参ということみたいだが、少なくないか? それは今の鈴のフットワークの軽さを物語っているだろうか、それとも今の鈴には大事にしたい、大切にしたいものなんて大してないってことなんだろうか。
「いやぁ、篠ノ之さんも男と同室なんてイヤでしょ? のんびりできないし」
「気遣い無用だ! 私は今のままがいいんだ! そっちこそ、見ず知らずの男となんて気疲れするだけだろう!?」
「大丈夫。あたしはその辺、平気だから。それに京夜なら、むしろあたしは、その方が良いっていうか……」
少し顔を赤くして俯きながら上目使いでこちらに視線を送る鈴。俺の呼び名が定着してきたことに安堵の息を吐いた俺の顔は次の瞬間、安心とは程遠い引き攣った表情へと変貌する。
なぜならば、眉間のしわ全開の箒さんが、すごい剣幕で俺の所に来て胸倉を掴んでいるからだ。
「またか!? またなのか!? セシリアだけでなく!!!」
「ちょ、ちょっと、ほ、箒さん、お、落ち着いてぇぇぇ」
襟元が伸びきってしまいそう程、前後に俺の頭をリフレイン。夕食がリバースしてしまいそうなのでヤメテください。
「(まぁ箒ちゃんの気持ちは分かるけどね。リンリンまで虜にしちゃってさ~)」
「(ホントですよ。京夜さんって病的にジゴロですよね~)」
京都の深山の次は上野の動物園ですか? その内ランランというあだ名をつけられそうな人とめぐり合う様な予感でいっぱいだよ。それから茜? どこで覚えたんだよ、ジゴロなんて言葉。え? 本? 知識欲が芽生えていることは良いことだが、あまり変な本を貸さないでおくれティーナさんや。
「とにかく、今日からあたしもここで暮らすから」
「ふ、ふざけるなっ! 出て行け! ここは私の部屋だ!」
俺をベッドに投げ捨てるかのように手を離した箒は再び鈴と向かい合って口論を始める。もっと大事に扱ってもらいたいものだ。
それにしても鈴のヤツ、やっぱり変わったな。もちろん彼此10年近く会っていなかったので、変わっていない方がおかしいのだが、それでも今の性格は、彼女自身の努力によって培われたものなのだろう。もちろん取り巻く環境によって若干歪んではいるものの、勝気で明るく、理不尽にすら感じる程に我を通そうとする強い意志を持った今の鈴の性格を、好ましくさえ感じる。振り回されそうな気配もビンビン感じるが。
そんなことを考えている俺を他所に、箒と鈴はさらにヒートアップ。声のボリュームつまみが徐々に時計回りに回されていく。おいおい、あんまり大声出すと……
「待ってください! そんなの納得いきませんわ!!」
あれ? 鬼教官登場という俺の予想に反して勢いよく扉を開けて乱入してきたのはセシリアだった。どうやら2人の声は相当あちらこちらに筒抜けのようだな。
「わたくしだって京夜さんと同じ部屋がいいですわ!」
「だ・か・ら! あたしがこの部屋に――」
「2人とも何を言っている!! とにかく部屋は変わらない! 出て行け!!」
大人気物件ですね、この部屋。間取りも内装も他の部屋と一緒ですけどね。競売とか始めたら儲かりそうだなぁ。まぁそんなことしたら三対六個の目が怪光線を放ちそうな程に怪しい光を放って後世まで語り継がれる恐怖体験を味わうことになりかねないが。
セシリアを加えた3人の口論は、ヒートアップを通り越してバーストアップって感じだ。彼女たちを中心に波紋のように広がる熱気で火傷してしまいそうな程に熱を持ったこの部屋をできることなら今すぐにでも退散したい。いつその矛先が俺に向くか分からないからな。まぁそん時は全力で逃げるだろうけど。箒も怖いが、冷静さを失った代表候補生2人が専用機を纏って追いかけてきたら、俺は正直逃げ切れるだろうか。
「何をやっているか!! 貴様ら!!!」
そんな状況に真打の登場。壊れんばかりの勢いで開かれたドアの向こうに立っていたのは世界を手中に収めそうな程、どす黒いオーラを全身から放っている魔王の如き織斑先生だ。有名な「世界の半分を……」という勇者との交渉なんて絶対にやらないであろうこの理不尽魔王は、先程の3人の声を凌駕する程の声で一喝。その声を聞いた鈴とセシリアは青ざめた表情で「スイマセンでした~!!!」と一目散に部屋を後にして行った。
「まったく……では山田先生、後は頼みます」
「あ、はい、お任せ下さい!」
そう言って去って行った織斑先生の後ろから現れたのは魅力的谷間ランキング不動の1位を守り続けている副担任の山田先生ことヤマヤンだ。
「先生、どうしたんですか?」
「はい! 部屋の調整が付きましたので、篠ノ之さん、お引っ越しです!」
そういえば、最初調整するって言ってたな。箒が別の女子の部屋に引っ越して、一夏が俺の部屋に引っ越してくるってことか。野郎同士のむさ苦しい部屋へとなるくらいなら、箒やセシリアや鈴と同じ部屋の方が華やかでいいのだが……まぁしゃーないな。
「えっと、それじゃあ私も手伝いますから、すぐにやっちゃいましょう」
「ま、ま、待ってください。それは、今すぐでないといけませんか?」
そんな意外な言葉だったのか? 箒の言葉にぱちくりと目を瞬かせる山田先生。
「そうですね~、いつまでも年頃の男女が同室で生活をするというのは問題がありますし、篠ノ之さんもくつろげないでしょう?」
「い、いや、私は――」
まごついた言葉を返しながら、箒はちらっと俺の方を見る。この視線が伝えたい気持ちは俺を心配して……ではないな。もちろん心配はいつもしてくれているのだろうが。
とはいえ規則、校則ではあるからな。ボーナスタイムは今夜までってあたりが落とし所か。
「山田先生、明日の朝にしませんか? 今から汗をかくかもしれないようなことをしなくても……もうシャワーを浴びてしまいましたし……俺が手伝いますんで」
俺のフォローに、箒は鋭い視線で、半ば強制するかのような頷きを見せつけるべく山田先生に詰め寄る。山田先生はその勢いに体をビクッと震わせ、押され気味だ。
「わ、わかりました。で、では遅くても明日中には引っ越しを完了させてくださいね」
「有難う御座います。一夏には俺から言っておきますので……」
一夏に「明日になった」って連絡しておかないと、一夏が二度手間になるからな。俺って優し~。……ゴメン、言ってみただけ。
すると俺の発言に、キョトンとした表情を浮かべるヤマヤン。何その顔、超可愛いんですけど! 持ちかえってハグしてきていいか……嘘です、軽い冗談です。そんな横から殺気を送らないで箒サン。
「織斑くん? ……ああ! 黒神くんのルームメイトは織斑くんではないですよ?」
は? どういうことだ? 一夏でないのなら、なんで箒が引っ越しをしないとならない?
俺は箒と顔を合わせるが、箒もまた山田先生の言っている意味が分かっていないようだ。女子と同室であるなら箒のままでいいではないか。
可能性があるとすれば……それは……
「それって、まさか……『例外的な転校生』ってことですか?」
「はい、そうです! 黒神くんのルームメイトは――」
山田先生のその言葉は、可能性としてありえるとは思いつつも、にわかには信じられない発言だった。
◇
山田先生が退室した後、箒は明日の引っ越しに向けて荷物まとめを始めた。俺も手伝っている。もちろん可能な範囲ではあるが。いつもの俺なら、そんな時でもからかってツッコまれて楽しむ所ではあるが、生憎と今の箒の顔はそんな冗談が通用しそうな感じではない。ため息混じりの深い息を何度となく吐き、少し悲しげな表情を浮かべる箒に対し俺は真面目に手伝うことしかできずにいた。俺は空気読めるからな。
ある程度まとめ終わった箒と俺は、少し早いがそれぞれのベッドに入る。明日は早起きしないといけないしな。
俺はベッドに横になりながら見上げていた天井からふと箒の方に視線を移す。すると箒は俺のことを見つめていた。悲愴とは言わないまでも切なげな表情をした箒は俺と目が合うと、布団に顔を隠して寝返りを打つように窓際の方へと体を向けてしまった。
相変わらず可愛いなぁ。そんなに同じ部屋が良かったんだろうか。別に会えなくなる訳でも、そばに居られなくなる訳でもないんだけどな。
ともあれどうしたものか。ちょっとイヤらしい言い方ではあるが、今日は俺らの最後の夜。明日から箒が頑張れるように、思い出作りでもしましょうかね。
「箒?」
「……なんだ?」
「俺と同じ部屋じゃなくなるけど……寂しいか?」
「……べ、別に、寂しくなんか……」
鈴のヤツもあの性格から推測するに多分そうだろうが、俺と一夏の幼馴染たちはどうしてこんなにもツンデレ要素が強いんだろうか。
全く。少しでも素直に自分を表現してくれれば、もう少し楽ができるのに。主に俺が。
しょうがない。言い訳を用意しますかね。
「俺は寂しいぞ。箒と別々の部屋になるのは」
「……」
「だから、明日から
「!!!」
ガバッと掛け布団を退かして体を起こし、俺の方に顔を向ける箒。その顔は動揺して慌てふためいている俺の大好きな顔だ。まさかそんな提案をされるなんて夢にも思ってなかったのだろうな。
「箒はイヤかもしれないけど、俺を助けると思って……な?」
俺は左目でウインクしながら笑顔で話す。コラそこ! 男のウインクがキモイとか言わない! 今ツッコミ役のティーナたちがいないからってスルーはしないよ!? って俺は何を言ってるんだろう。
俺は掛け布団を開いて箒を呼び込む。
「ふ、ふん! し、仕方がないな! そういうことなら……」
鏡を持ってこようか? 今の貴方の顔はとてもじゃないが「仕方ない」って顔ではないぞ? 固く結んでいるように脳は認識してるかもしれないが、口元がユルユルだ。
箒は自分の枕を抱きかかえるように持って俺のベッドに入り、俺の左側に横になる。
「ありがとな箒、もし良かったらお礼に腕枕するけど、どうする?」
「へ!? あ、ああ、じゃあ……」
さらに照れくさそうに、耳まで真っ赤にして、箒は俺の左腕に頭を乗せて、窓際の方に体を向ける。流石にこちらを向くのは恥ずかしいみたいだな。
俺は箒の背中にくっ付いて後ろから優しく抱きしめる。ビクッと身を一瞬震わせるも、俺を拒絶することなく、抱きしめられたままだ。
俺は耳元で囁くように穏やかに話をする。
「明日からは同じ部屋ではなくなるけど、朝は毎日俺を起こしに来てくれるんだろ? 夜は寝る時間までココにいて構わない。だから今までと何にも変わらないさ」
「……本当……か?」
「ああ。箒を拒絶する扉なんて存在しない。いつでも居たいだけココにいればいいさ」
「……うん……」
いつもの男勝りにすら感じる凛々しい箒らしくない返事。まぁ箒も女の子ってことだな。後ろから抱きしめているから、表情を目で見て確認することはできないが、その顔は恐らく安心安堵がにじみ出る穏やかで安らかな笑顔だろう。
それからしばらくというか結構な間、俺と箒は語り合った。何てことのない話題ばかりを飽きずに長々と。添い寝による緊張からか、体が強張っていた箒だったが、徐々に、段々と緩和していくにつれ、その温もりを確かめるように俺の右腕を抱きかかえ、そして明け方の頃に夢見心地のまま、夢の世界へと旅立っていった。やれやれだ。
「(寝たの? 箒ちゃん)」
「(……ああ、さっきな。お帰り2人共)」
「(ただいま戻りましたぁ~)」
睡眠を必要としない脳内彼女は徹夜作業でも元気いっぱいだな。俺は正直眠いが……
それから俺は2人の報告を受ける。先程の山田先生の、疑う以外の選択肢を持ち合わせない発言の調査だ。俺は立ち止まるわけにはいかない。その為に外側と、そして内側から可能な限り情報を採取し、検証し、どう対処するべきかを考える必要がある。
俺は溜息を付きながら、その山田先生の言葉を思い出す。
――「はい、そうです! 黒神くんのルームメイトは――3人目の男性操縦者ですよ!!」――
ああ。また面倒くさいことになりそうだ。
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