インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
あの騒動の翌週。6月の最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色にと変わる。
ちょっと前にも触れたことがあったが、『操縦者育成科』の総人数は3学年トータルで約720名。これだけの人数がトーナメント形式で試合を行う。一週間という短い期間の中で。特別な理由がない限り欠場は認められない。期間内で終わらせる為、一試合毎に時間制限を持たせ、同時進行で計画的に実施していかなければならない。まず各学年の各クラス内にて「予選」という扱いで3回戦まで行い、人数を絞る。勝ち残った生徒達は観客犇めく第1アリーナで「本戦」を行うという流れだ。
またこれは一般生徒の場合であり、『専用機持ち』はこれに含まれない。最初から本戦出場が決まっているシード選手となる。理由としては各国のメンツもあるが、一般生徒と専用機持ちでは実力差があり過ぎるからだ。ジャイアントキリングなんて実績もあるみたいだが、極めて稀、だそうだ。
今の説明はあくまでも今までの「学年別トーナメント」についてだ。知っての通り、今年はその仕様が一部変更となり「ペアでの出場」となっている。それにより試合数が例年に比べて半分となった為、3回戦までは時間制限があるものの予選は行わず、本戦のみとなった。参加ペア数によるシードこそ存在するものの、専用機持ちも一般生徒と同じく1回戦からの出場だ。
そんな例年とは違う仕様が、理由の一端を担っているかどうかはわからないが、その慌ただしさや賑わいは、予想を遥かに上回るものとなり、全生徒が初日から最終日まで雑務や会場の整理、来賓の誘導に追われていた。
そして最終日の今日、各学年の決勝戦が行われる。
「しかし、何度見ても凄い顔ぶれだなぁ」
そんな最終日まで残った「織斑・デュノア」ペアの片割れである一夏は、初日から2人だけで使い続けているただっ広い男子更衣室のモニターから観客席の様子を見ていた。
そこに映るのは各国政府関係者、研究所員、企業エージェント、その他諸々。そんな豪華なメンツが一堂に会している。
「3年にはスカウト、2年には1年間の成果の確認にそれぞれ人が来ているからね。1年には今のところ関係ないみたいだけど、それでもトーナメント上位入賞者にはさっそくチェックが入ると思うよ」
一夏の隣に並び立つデュノアの発言に、「それだけじゃないだろう。男のお前らがいるからだ」と否定に近い発言をしたくなる衝動を抑えつつ、俺は腕を組み、更衣室の壁を背にして寄りかかりながら、2人のことを見ていた。
ちなみに……大した出来事も面白味もないのでざっくり話して割愛させて頂くが、例の一件で停学・謹慎処分を受けた俺は3日間、大人しく寮で自主学習に励んでおりました。おわり。
まぁ敢えて特筆することがあるとすれば、その間に一夏とデュノアと3人で対ラウラ・ボーデヴィッヒ用作戦会議をしたということと、……箒に1つの「お願い」をした、ということだけだ。
作戦内容はとりあえず置いておいて……箒への「お願い」についてだが、その結果が観客席を映しているモニターと別のもう1つのモニターに表示されていた。
1年生トーナメント決勝戦
『織斑・デュノア』対『ボーデヴィッヒ・篠ノ之』
俺が箒に「お願い」した内容。それは「トーナメント出場に際し、自発的にペアは組まずに抽選を受けてほしい」ということだ。
案の定、ほとんどの生徒は事前にペアを組んで参加しており、思惑通り、箒とボーデヴィッヒさんをペアにすることが出来た。
俺の「お願い」に箒は、最初こそ不審をあらわにしていたが、その「お願い」を叶えてくれる条件に、いつもの内ポケットから映画のチケットを2枚取り出すと、二つ返事に切り替わった。現金だなと思っても、口にはしないのが俺の主義だ。
箒とボーデヴィッヒさんを組ませた理由についてはいくつかある。
まず1つは、ボーデヴィッヒさんは恐らく連携行動を取らないだろうということだ。下手をすれば、味方を「邪魔だ」と排除しかねない。一般生徒の危険回避の為にも、パートナーは彼女がそれなりに認める実力者でなければならない。
もう1つ。それは「一夏とボーデヴィッヒさんの一騎打ち」という状況を作る為だ。一夏とデュノアは個々の能力が高い(一夏はまだまだな部分も多いが)。少なくとも一般生徒では相手にならないだろう。そのペアと相対するなら、ボーデヴィッヒさんのパートナーも相当出来るヤツでないと、一夏・デュノア対ボーデヴィッヒさんという2対1の構図になってしまう。
デュノアもフランス代表候補生としてのメンツがあるだろうから、一夏とボーデヴィッヒさんの一騎打ちを
なのでデュノアがそう簡単には倒せない相手をボーデヴィッヒさんのパートナーにする必要があった。
そこで白羽の矢が立ったのが箒だった。むしろ箒しかいなかった。たとえセシリアや鈴が万全の状態であってもだ。
これらは一夏の為でもあるが、主としてボーデヴィッヒさんの為に画策したものと言える。
今の彼女は絶望の中、全ての感情が屈折し、歪曲してある一点に集約されてしまっていることだろう。
それは「憎悪」。織斑一夏に対する憎しみ。厭悪。それが全てで、それだけが彼女を突き動かしている。
俺はモニターに向けていた視線を落とし、目を閉じる。きっと陰気で塞ぎ込んだ表情を俺はしていることだろう。
俺には分かる。彼女の思いが。気持ちが。心が。それはきっと経験した者にしか分からない。だからこそ、俺はこの場を用意したのだから。
「どうした京夜? そんな辛気臭い顔して」
「京夜、大丈夫?」
目を開け、顔を上げるとそこには既にISスーツへと着替えを済ませた一夏とデュノアが、憂慮な面持ちで俺を覗き込んでいた。
俺は2人の顔を見て、気持ちを切り替える。まずは一夏達が勝つこと。優勝すること。全てはそこから。そこから始めていかなければならないことだから。
「いや何……どうやったら一夏が試合中に笑いをとれるかなって」
「笑いをとる必要ないだろ!」
「いきなり爆発して、頭がアフロになるっていうのはどうだろうか?」
「何考えてんだ! 下手したら死ぬだろそれ!」
「貴方は死なないわ、私が殺すもの」
「いきなりエヴァネタ!? その上、殺人予告かよ!!」
いいツッコミだ。相変わらず。流石は俺の相方。デュノアもこの茶番に笑顔がこぼれる。2人ともさほど緊張はしていないようだな。
俺は寄りかかっていた体を起こして2人へ向き合う。そろそろピットに行く時間だろう。俺も観客席に向かおうかね。
「2人共。作戦は前に伝えた通りだ。準決勝までとは違って連携はなし。決勝は完全なる一騎打ちだ」
「……ああ。わかってる」
これは暗に言っている。一夏はボーデヴィッヒさんと対峙し、
それは自身の存在を認めさせること。自分は織斑千冬の弟であることを。一夏にとっても、彼女との一騎打ちは必要なことだった。
もちろん一夏は、そんな自分のことばかりを考えるようなヤツじゃない。試合に勝つという決意とは違った決意が、その顔には僅かではあるが表れていた。
俺はその顔に愁眉を開き、「頑張れよ」と一声掛けて男子更衣室を後にし、セシリアと鈴の待つ観客席へと足を向かわせた。
◇
「抽選でペアになった篠ノ之箒だ。宜しく頼む」
「…………」
「さっそくだが、先に言っておく。試合中、私はお前から離れた位置に待機させてもらう。降りかかる火の粉は払うが、基本的に私は何もしない」
「……邪魔さえしなければ……それでいい」
これは、私が1回戦の前にボーデヴィッヒと交わした会話の内容だ。
今の私はというと、ボーデヴィッヒと共に、一夏達が使っているのとは反対側の更衣室に待機している。初日の人口密度は何処へやらとばかりに広い室内で2人、決勝戦が始まるのを待っていた。
私は壁に寄りかかりながら、更衣室に設置されているベンチに腰かけて俯いているボーデヴィッヒの様子を伺う。
禍々しいオーラを発し、その瞳は虚ろでありながら、悪意に満ちた印象。その眼の下には酷い隈。バサバサの銀の髪。組まれた両手は震えている。とてもマトモな精神状態には思えない。
視線をボーデヴィッヒから外し、はぁ~っとため息をつきながら、私は京夜のことを考える。
1回戦前にボーデヴィッヒへ話したこと。あれは京夜からの指示だ。そう伝え、そのように試合するようにと。一体何を考えているのだろうか。
だからといって、それについて心配をしているのかと言われてば、そういう訳ではない。京夜は大した考えもなしにそんなこと言う男ではない。それは私が一番良く知っている。
とにかく今は決勝戦について考える必要があるだろう。京夜は一夏のバックアップをしているし、あれ以来ボーデヴィッヒには顔を合わせ辛いと言っていたので、ここには……私の所には来てくれない。だけど……
私は手に持っていた携帯電話の画面に表示されているメールを再度見直す。
――「いよいよ決勝戦だな。緊張してるか? 今回は色々あって一夏側についてるけど、俺はいつだって箒の味方だからな。箒なら大丈夫って俺は信じてる。俺の分まで頑張ってくれ!
P.S. いつ映画を見に行くか決めといてくれよ? 俺も楽しみにしてるからさ 京夜」――
既に保護済みであるこのメールを、何度読み直しても顔がニヤケてしまう。
京夜とは中学時代、何度か一緒に出掛けたことがあるが、この嬉しさは今になっても変わらない。この学園に来てから2人きりになれる機会が極端に減ったことは、この喜びを増大させているかもしれない。
はぁ~待ち遠しいなぁ……
ハッ! いかんいかん! これから試合だというのに、こんな浮ついた気持ちでは!
気を引き締めるべく、自分の頬を両手で叩いて気合を入れ直し、決勝戦について考える。準決勝まではほとんど試合に参加していなかったが、今回はそういう訳にはいかないのだろう。でなければ京夜が、私とボーデヴィッヒを組ませた理由がない。
恐らく、私はデュノアの相手をすればよいのだろう。京夜はきっとそうしてもらいたいに違いない。ケジメを……決着をつける為に。
私は再びボーデヴィッヒへと視線を戻す。その姿に、私の心には「少なからず身に覚えがある」という気持ちが芽生えていた。
京夜はボーデヴィッヒの為に、この状況を作ったのだろう。本当に京夜はお人好し過ぎる。
けど……それが京夜で、そんな京夜が私は好きなんだ。
それが原因でイライラすることも多いが。特に女関係で。誰彼構わずあちこちで好意を持たれまくって……全く。
そんなことを思いながら、苦笑いを浮かべつつ、私は京夜に願っていた。私の時のように――
ボーデヴィッヒを救ってやってほしい――と。
◇
「京夜! コッチコッチ!!」
「京夜さん! こちらですわ!!」
まさに満員御礼といった第1アリーナの観客席の最前列に席を陣取っているセシリアと鈴が、俺の姿を見つけるや否や、手を振りながら大声で呼んでいる。
俺はそれに応えて合流し、セシリアと鈴の間に確保されていた席につく。その様は「両手に花」といった状態だ。
すると左側に座るセシリアが俺の腕を掴み、肩に顔を預けてきた。随分と大胆だな、セシリア。色々と当たってるぞ。俺的には嬉しい限りだが。
「ちょっと、セシリア! 何やってんのよ!!」
「あら鈴さん、貴方に許可を取る必要がありまして?」
俺の顔の目の前で、2人は眼光スパーキング展開中。この熱量を電気とかに転化する方法はないものだろうか。
「鈴」
俺は右手で鈴の頭をなだめる様にポンポンし、そのまま鈴の左手を握る。ボッ、という効果音こそ聞こえなかったが、それ程の勢いで顔を赤くした鈴の相変わらずな可愛いリアクションに、俺のサディストとしての血が騒いだのだが、それに気付いたのか鈴は顔をそむける。俺の腕に手を回しながら。
「き、京夜がして欲しそうだったからしてあげてるんだからね! べ、別に私がしたくてしてるんじゃないんだからね!」
「はいはい。わかったよ」
俺の腕をそんな大事そうに掴んで、そんなこと言われても説得力はないけどな。是非とも鈴にはツンデレクイーンの称号を授けよう。
「(全国のモテない男子を代表して発言するわ! リア充爆発しろ!)」
「(随分と酷い言われようだな。ところでティーナ。首尾はどうだ?)」
「(まぁとりあえず、前回と同じ監視網は敷いてるわ。これが限界ね。まだこちらから仕掛けるような段階じゃないし、リスクも高いしね)」
「(……そうだな。じゃあ引き続き、宜しく頼む)」
あいあい~、と返事を残し、ティーナは監視へと戻った。
これは当然、前回のような乱入事件に対しての予防線だ。現段階では未だ学校行事の時が、干渉してくる可能性が最も高いと言わざるを得ない。
もちろん、その可能性はパーセンテージ的に決して高くはない。それほど今は判断材料となりうる情報が不足しているからだ。
こちらから幾つか行動を促すような伏線を打ってはいるものの、それに乗ってくる絶対的な保証もない。だからこそ、基本的に全ての可能性を視野に入れて監視を行っているのが現状だ。それにより情報量も増えるしな。
すると観客が急に騒ぎだし、歓声を上げる。ステージに目を向けると、そこには決勝戦の出場選手がISを身に纏い、姿を現していた。
相変わらずの人気ぶりにいつも通り若干の緊張を見せる一夏。舞台慣れしている流石の代表候補生のデュノアは観客に手を振る余裕ぶり。俯き加減で表情が見えないが、強烈な負のオーラをISと共に纏っているボーデヴィッヒさん。
そして『打鉄』の「茜」を身に纏った箒。箒が、より実力を発揮できるよう、俺が茜にお願いしたのだ。いつも胸元にあるネックレスは、今ここにはない。
っていうか箒は随分と気合入ってるなぁ。闘気というか殺気が凄まじい。あんなの殺気を浴びたら、一夏はチビッちゃうんじゃなかろうか。
ん? っていうかよく見たら箒のヤツ、こっちを見てるというか、睨んでないか? 何かブツブツ言っているように見える。この距離だと声が聞こえないな。
そこで突然だが、俺の新たなスペック情報を開示しよう。実は結構変わった特技を持っている。「ピッキング」とか「声真似」とか。「唇の動きを読む」なんてのも得意だ。そんな特技を使って箒が何て言ってるか読んでみよう。
―「ア・ト・デ・カ・タ・ナ・ノ・サ・ビ・ニ・シ・テ・ク・レ・ル」―
ヒィィィィ!? 読むんじゃなかった!! 知りたくなかった!! オーラがドス黒い!! あれって俺の恐怖による補正なのか!? 目が! 瞳が! 怪しげに赤く光ってるんですけどぉぉぉぉ!?
そんな箒の視線から、セシリアと鈴は察したようだ。
「あ~あ。京夜、カワイソ」
「ご愁傷様です。京夜さん」
セシリアと鈴がそれを言う!? 半分以上は俺の両腕を大事に抱えている君達2人が原因だよね!? なんで俺だけがデッドエンドルートなんだよ!!
全く、恐ろしい青魔法だよホント。俺の頭の上に表示されたカウンターはあと何秒くらいなんだろうか。
それはさておき――
俺は真剣な面持ちで箒を見る。箒もそれに気付いたのだろう。凛々しい顔で頷き、正面の一夏達に向き合う。
この試合に置いて、俺の出来ることはもう何一つない。もし出来ることがあるとすれば、それは……祈ることだけだろう。
祈るは一夏の「完全勝利」。それはつまり「たまたま」とか「運よく」といった「言い訳」や「第三者の乱入により有耶無耶になる」など、そういった「
アリーナのボルテージが最高潮に達し、そして――試合開始のカウントダウンが始まろうとしていた。
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