インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
「海っ! 見えたぁっ!」
トンネルを抜けたバスの中でクラスの女子が声を上げる。
週末のダブルデートの翌日。1年生は今日から臨海学校。その初日。快晴。ギラギラ照りつける太陽。誰かの開けた窓からは潮の香り。目に映るは鮮やかなオーシャンブルー。盛り上がる車内。上がるテンション。
俺1人を除いて。
なぜか。そりゃそうだ。
現在の俺は両手両足縛られて、
話は出発前に遡る。場所はIS学園前。用意された大型バスの前に到着した俺はクラスメイトの女子達に声を掛けられた。「黒神君、一緒に座ろう!」と。「もちろん! 全然OKさ!」と答えたのは旅行効果で浮かれていた俺。
次の瞬間。鈍器で殴られたかのような衝撃を頭に受けて意識を失い、目覚めたらこの状態だった。この状態で1番後ろの5人掛けの座席の真ん中に座ってた。
犯人はこの中に居る。俺のグランドファーザーは別に名探偵ではないけれど、謎は全て解けている。
「こうして京夜さんの隣に居られるなんて……幸せですわぁ」
「くっ! あの時! あの時チョキを出してさえいれば!!」
「はぁ~。可愛いなぁラウラ。はい、ポッキー。あ~ん」
「モグモグ。美味いぞ、シャルロット。やはり嫁の膝の上で食べるお菓子は格別だな」
俺の右肩に頭を置き、うっとり顔のセシリア。その向こうでは握り拳をワナワナと震わせている悔しそうな箒。俺の膝の上にはラウラがちょこんと座り、シャルロットは俺の左腕をガッシリと抱えながら餌付けするかのようにそのラウラにお菓子を与えてる。鈴? クラスが違うから別のバスだな。
俺の推理っていうか、説明……いる? 聡明な方ならこの状況証拠だけで分かるよね? 簡素に簡単に簡潔に言うならば、まぁいつも通りってことだな。
「織斑く~ん!! 次はこっちこっち!!」
「ちょ、ちょっと待ってくれ。今行くから」
「え~、行っちゃうの? もうちょっとお話しようよ!」
「そうだよ! もう少しだけ――」
「ま、またあとでな」
何アレ。ここは新宿歌舞伎町のホストクラブなのか? 一夏はまるで各テーブルを行き来する売れっ子ホストのようにはバスの座席を1つ1つ、いや1人1人の女子を巡っている。
くそぅ。一夏のヤツ。俺は手足一つ動かせない囚人のような扱いなのに。この差は何なのだろうか。
「(人徳じゃない? ある意味)」
「(そうですね。箒さん達のあの遠慮の無さは京夜さんの人徳の成せる業じゃないでしょうか)」
人徳ってそんなマイナス能力なのか!? じゃあ世の中の人徳のある人って皆拉致監禁されて拷問を受けてるってことに……なるわけねぇじゃねぇか!!
「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」
指導力抜群の織斑先生の言葉に、皆は短い返事と共に従う。恐怖政治を指導力と呼ぶかどうかについては疑問だが、それより何よりこんな状態の俺を放置しないで頂きたい。目、合いましたよね、今。
ほどなくしてバスは停止した。と同時に俺の拘束が解ける。ここで拘束に対する文句? 言いたいよ? 言いたいだけ。言えるかどうかは別問題だから。
だからこの件は水に流することにする。ジャーッとトイレのように。俺、大人だからさ。こういうことが出来ないと、お花を摘む感覚で俺の命が摘まれちゃうから。
俺はバスを降り、目的地である目の前の建造物へと目を向ける。
それはとても豪華絢爛とは言い難いが、日本独特の趣がある、『旅館』と表現するが適切な良き雰囲気ある建物だった。
木造建築のその建物に、特筆することがあるとすればそれは1棟ではないということだな。見え得る限り似通った建物が複数見える。IS学園1年生は360人くらい。これぐらいのキャパは当然と言えば当然か。
そこから俺達を含む1組から4組の生徒達は、その中の1棟の旅館の前に立つ織斑先生の前に整列する。
「それでは、ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」
「「「よろしくおねがいしまーす」」」
織斑先生の言葉に、全員で挨拶をする。すると織斑先生の隣に立つ女将さんらしき人が答えるかのように丁寧にお辞儀をした。
「はい、こちらこそ。今年の1年生も元気があってよろしいですね」
その口振りから察するに、この旅館には毎年お世話になっているのだろう。俺は頭を上げたその女将さんを観察する。
年の頃は30代の中頃。着物姿のその佇まいは、しっかりとした大人の雰囲気を漂わせており、穏やかな笑顔を絶え間なく旅館へと上がっていくクラスメイト達へと向けている。
「あら、こちらが連絡のあった……」
上品に手を口に当て、一夏と俺を交互に見た女将さんは織斑先生へと尋ねる。
「ええ。今年は男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」
「いえいえ、そんな。それにお2人共、いい男の子じゃありませんか」
織斑先生が俺達に目配せする。分かってますよ、挨拶でしょ、挨拶。そんな礼儀知らずじゃないですよ俺は。お宅の弟さんは知りませんがね。
「黒神京夜です。よろしくお願いします」
「お、織斑一夏です。よ、よろしくお願いします」
「うふふ、ご丁寧にどうも。
俺達に再び丁寧なお辞儀を女将さんは返してくれる。その気品のある応対に一夏は若干の緊張しているようだ。横に姉がいるからかもしれないが。
俺? 緊張って何? 食べられんの? 寧ろここはイケイケでしょ。30代の美人女将と知り合いになる機会になんて滅多にないんだから。
俺は女将さんともっと深く知り合うべく、一歩前へ出て距離を詰める。
「では、景子さ―――ぐえぇぇぇぇぇっ!?」
「京夜! さっさと行くぞ!」
「ま、待っで、箒、ぐ、首が、じ、絞まっでるぅぅぅぅ~!」
俺の思考や行動をいち早く察知したのかは知らないが、女将さんのその手を取ろうとした俺の首には何処から取り出したかは分からない縄が掛けられズルズルと引きずられる。
「あ、あの~。大丈夫なんですか?」
「ええ、いつものことですので」
「は、ははは」
心配そうな面持ちの女将さん。一瞥すらくれない織斑先生。苦笑いするだけの一夏。そして俺を引きずることに抵抗も罪悪感もない箒達。そして何より可哀想な俺。
何コレ。臨海学校って実は『臨海拷問』だったのか? ってなんだよ『臨海拷問』って。言ってて何だけど、想像したくない程に恐ろしい響きだわホント。
◇
花月荘―――先程織斑先生も言っていたが、俺達が3日間お世話になる旅館だ。広々として清潔感があり、その内装は外観とは裏腹に歴史ある装飾と最新設備が違和感なく見事に融合したものになっている。当然エアコン完備。全部屋だけでなく廊下にも設置されており、旅館内全てが快適に過ごせるよう配慮されていた。
某作戦部長さんじゃないけど、やっぱエアコンは文化の至宝。まさしく科学の勝利だよな。ちなみに夏はエアコン全開にして冷え冷えとした部屋で布団を被りながら寝るのが好きだ。逆に冬はこたつでアイス。こればっかりは譲れない。たとえ電力会社を敵に回しても、男には譲れないものがあるからな。
そんな俺は今、旅館内の割り当てられた部屋で大の字になって横になっている。張り替えたばかりだろう畳の良い香りを堪能しながらボーっと天井を眺めていた。
少し広めの和室。外側の壁は一面窓になっていて、オーシャンビュー。東向きで朝日もバッチリ。さらにはトイレ、バスはセパレート。しかも洗面所まで個室になっている。普通に宿泊したら結構値が張りそうな部屋だなというのが俺の印象。
もちろんこの広々とした部屋を俺1人でという訳ではない。相部屋だ。しかもその相手は当然の同性の一夏と―――まさかの織斑先生と山田先生だった。
「お前らを個室にすると、旅行気分で浮かれた女子達が押し寄せかねないからな。これならおいそれとは近付かないだろう」とか織斑先生は言っていたが、それだけが理由ではないな。目の届く所に置いておきたいのだろう。一夏を。そして俺を。
「寝っころがってないで、行こうぜ京夜!」
寝転がる俺の頭の上に立つ一夏。肩にリュックサックを抱え、全身からそわそわオーラを醸し出している。
どんだけテンション上がってんだ。子供か。間違いなく小学校の時、水泳の授業の日は家から水着を着てくるタイプだろ、お前。
もっとゆっくりしようぜぇ。ダラダラとさ。こんなこと言うと逆にティーナあたりからはジジィ臭いとかツッコまれるけど。
俺はグーッと伸びをする。
「ふぁぁぁ~。で、織斑先生達はどうしたんだ?」
「まだ仕事残ってるってさ。だけど後で来るって!」
「ふ~ん。しっかし嬉しそうだな、お前。どんだけシスコンなんだよ。冗談抜きで姉の水着にしか興味ないとか言わないだろうな?」
「なわけあるか!! 俺は弟として――」
「弟としてじゃないと近親相姦の背徳感が得られないって!? かなりのハイレベルだな」
「違ぁぁう! 断じて違うわぁぁぁ!」
「大丈夫だ。心配すんな。ちゃんと実家の机の2段目の引き出しの二重底の下に入っている姉萌え系のエロ本のことは織斑先生に内緒にしといてやるから」
「そんなのは持ってねぇぇぇぇ!!! っていうか何で隠し場所知ってんだぁぁぁ!!!」
あ、やっぱりそこにエロ本を隠してたんだな。随分と素直で分かり易い隠し場所を選んだものだ。ちょっと知恵を絞った感がバカな一夏っぽいといえば一夏っぽいが。
「まぁそういう訳だから、もう少ししたら行くわ。ちょっと疲れたし。先に行って準備しといてくれよ」
「どういう訳だよ……寧ろツッコミ疲れたのは俺なんだが……。はぁ~。じゃあ先に行ってるか早く来いよ!!」
そう言い残し、そう言いながらも疲れなど微塵にも見せない素振りで一夏は部屋を後にした。
俺は1人、広い室内に取り残される。
さて、と。
俺は上半身を起こす。
「(ティーナ。こちらの監視網に引っ掛かったか?)」
「(今の所はまだ……ね。一応監視衛星の方は前回の倍にしてるけど)」
「(茜。『コア・ネットワーク』の方はどうだ?)」
「(はい。コアナンバー『
「(白式と同じ……か。つまり対になる機体……ということなのかもしれないな)」
「(そうね。恐らくは……)」
『コア・ネットワーク』
以前潜伏モードについて説明した際に少しだけ触れたが、ISのコアには専用の特別なデータ通信ネットワークが内蔵されており、これを『コア・ネットワーク』と呼ぶ。広大な宇宙空間での相互位置確認及び情報共有と目的に開発されたとされ、現在では主に操縦者同士の会話としてオープン・チャネルとプライベート・チャネルが利用されている。また最近の研究では、コア自身が自己進化を目的に『
これが今の『コア・ネットワーク』の説明、定義と言えるだろう。
だが足りない。それだけでは圧倒的に不足している。
世間の認知する定義の否定ではない。このネットワークはそれだけではない。
茜の発言からも分かる通り、コア同士の中に上位下位が存在している。その存在は、
だからこそ、茜には1つのプログラムを組み込んだ。あまりに昔のことになって申し訳ないが、あのクラス対抗戦の当日の話だ。
おっと、語りが過ぎてしまったかな。これ以上は機会があれば……だな。何、それはそう遠くはない未来さ。
「(まぁ昨日の連絡では明日来るみたいだし、進展があればすぐに連絡するから私と茜に任せて行ってきなさいよ。聞こえてんでしょ? あの音)」
「(そうですよ。せっかくなんですから、楽しんできてください!)」
俺の耳に聞こえるは、精一杯この夏を生きようとしている無数の蝉の声と、遠くに聞こえる何羽かのウミネコの声。そして―――
そして徐々に大きくなるドタドタと廊下を歩く複数の足音。
恐らくは5人。嘘。間違いなく5人。
そうだな。2人の言う通り、今を楽しむことにしよう。俺達の夏はこれから。そう、これからなのだから!!(笑)
俺は立ち上がり、ビーチへ出る準備を始めた。
『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。
※ブログは少しだけ先まで掲載されています。
【ブログ名】妄想メモリー
【URL】http://mousoumemory.blog.fc2.com/