インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
「何でこんなことになってしまった……」
「自業自得だ」
3時間目の休み時間。顔を机に伏せて項垂れている2人目の一般人たる俺に辛辣な言葉を投げつけ、俺の心を傷つける箒。その傷口はまるで刃物が突き刺さったかのようだ。箒に投げつけられたのは言葉ではなく、苦無じゃないのか? まぁ箒は『くのいち』というよりは『侍』って感じではあるが。凛々しくて女ウケが良さそう。宝塚だったら間違いなく男役のトップスターに上り詰めているだろう。勿体無い限りだ。まぁこのIS学園に誘った俺が言う話ではないが……
一夏は自分の席で教科書と格闘中だ。代表決定戦の前に少しでも知識を習得しようと真面目に取り組んでいるのだろう。男として負ける訳にはいかないとか考えているに違いない。
本来なら初心者の一夏にハンデはあってしかるべきだが、あの場ではあえてその話はしなかった。当日、お互い向き合った時にあの高飛車な性格のオルコットさんから上から目線で提案してくるだろうからハンデを受けるか否かは本人の判断に任せることにしたのだ。あの性格では恐らく突っぱねるだろうが。
知識の面は本人の独学に任せることにして、問題は実技の方だ。そう、ISの操縦訓練をどうするか。
一夏が使用するISについては、ほぼ間違いなく政府からの要請で学園側が専用機を用意するだろう。主にデータ採取と卒業後の進路の外堀を埋める為に。俺の読みでは九分九厘、
「なぁ箒、代表決定戦までの間、一夏の特訓をしてくれないか?」
「……一夏のか? 私がISの操縦を教えるのか? だったら……」
「いや、剣道の稽古をつけてやって欲しいんだ」
運動神経は問題ないかもしれないが、あの体格や筋肉のつき方から見ても、しばらく剣を握っているように見えない。剣道での見切りや間合い、戦いのカンみたいなものを取り戻してもらう。そういったものはISの操縦で必ず役立つ。それに彼女であれば、近接戦闘系であることは間違いない。もしかしたら遠距離攻撃用の装備はないかもしれない。そういった意味でも剣道の稽古は必須なのだ。
「京夜、お前はどうするんだ?」
「俺はその……ほら、色々と忙しいから……」
「そうか、京夜が参加すると言うなら手伝ってやろう」
「……宜しくお願いします」
そうなりますよねやっぱ。ちなみに俺はここで抵抗するような愚かな真似はしない。なぜなら無意味だからだ。箒は頑固一徹ってカンジなので無駄な抵抗なのである。その頑固さはちゃぶ台をひっくり返す教育熱心なオッサン並だ。箒の場合はちゃぶ台ではなく木刀が頭に振り下ろされるが。既に何度となくその頑固さが発揮され、三途の川の畔の常連観光客となった俺が言うんだから間違いない。死への旅のスタンプカードもそろそろ500円分の商品券と引き換えることができるレベルだ。
正直、俺は代表決定戦で勝つ必要も勝つつもりもない。だが、一夏には勝てないにしても善戦はしてもらわなければならない。ここは我慢して箒にお願いするしかないのだ。あとは一夏に
◇
放課後。見世物小屋に放り込まれた状態が現在も続いている中、完全にオーバーヒート状態の頭を机に突っ伏して、ぐったり瀕死状態の一夏の席に箒と共に近づく。休み時間に決めた代表決定戦までの特訓についての話をする為だ。
ちなみに昼休みは親睦を深めようという一夏の提案で箒と俺の3人で学食で食事をした。あくまで気持ち的に3人だ。実際は大注目の中、大名行列のようにクラスメイトを引き連れていたのでビッグダディもビックリの大家族になっていたが。食堂のおばちゃんたちもあんなにゾロゾロ来られたら大変だったろうな~。今日の献立はもちろんトマトソースのパスタだった。生きて教室を出れたからな。
「おい、一夏――」
「ああ、織斑くん。それから黒神くんに篠ノ之さんも。まだ教室にいたんですね。よかったです」
そこには副担任の山田先生が書類を片手に立っていた。その後ろにはいつもの腕組みポーズの織斑先生。何かの用事でもあるのだろうか? 逢引のお誘いですか? はいよろこんでっと言いたい所だが、もっと人目のつかない所で誘ってくださいよ。先生と生徒の禁断の密会なんですから。
「えっとですね、寮の部屋についてなんですが――」
「ああ、確か前に聞いた話だと、一週間は自宅から通学してもらうって話でしたけど……」
IS学園は全寮制だ。生徒は例外なく寮生活を義務付けられている。これは将来有望なIS操縦者たちを保護するというのが表立った理由である。しかし、実態はそうではないだろう。もちろん、優秀な操縦者の勧誘に各国は必死であることは間違ってないが……
それにしても一夏の所にはまだ話が行っていないようだな。俺と一緒でちゃんと初日から寮が割り当てられているはずだ。そういえば俺も部屋の場所とかまだ聞いてなかったからその話か……
「そうなんですけど、事情が事情なので、黒神くんのこともありますし、一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいです。……お2人とも、そのあたりのことって政府から聞いてます?」
周りに未だ控えている女子たちには聞こえないように小声で話す山田先生。
政府とは当然、日本政府のこと。前例のない『IS男性操縦者』の保護と監視を目的に、日本政府完全出資のIS学園という籠の中に閉じ込めておきたいのだ。まぁ俺は大々的には発表されていない2人目なので余計そうなのだが。
「そういう訳で、政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先したみたいです」
「そうなんですか、寮については分かりましたけど、荷物は一回家に帰らないと準備できないですし……」
「あ、いえ、荷物なら―――」
「私が手配をしておいてやった。ありがたく思え。まぁ生活必需品だけだがな。着替えと携帯電話の充電器があればいいだろう」
ダースベイダーのテーマ曲を流しながら傍若無人な発言。織斑先生って実は男なんじゃないか? 確かに美人でスタイルも抜群ではあるが、中身が男過ぎる。逞しいし、とても大雑把。一夏にだって娯楽的なものが欲しいだろうに。夜のお供もベッドの下から引越しするかもしれないしな。一夏はイマジネーション派かもしれないけど。
ちなみに俺は持って来ていない。なぜなら箒の厳重なる荷物検査に通らなかったからだ。色々と隠し場所を試みたが、どっかの小学生探偵並の推理力で全て摘発され、その場で焼却処分となった。俺の目からは赤いの液体が流れていたことは言うまでもない。
「ど、どうもありがとうございます……。それで俺たちの部屋ってどこですか?」
実姉の親切ポイントの足らない親切にお礼を言いながら、寮の部屋の場所を聞く一夏。しかし山田先生は何だか歯切れが悪いカンジだ。どうしたというのだ? 流石に一夏だけでなく俺も疲れている。とっとと部屋に戻ってくつろぎたいものだ。
「そ、それがですね……。寮に入れるのを最優先したので、完全な空き部屋がなくてですね、1ヶ月もすれば用意できますから、しばらくは別々の相部屋で我慢してください」
この子供先生は一体何を言ってんの? 相部屋って俺ら以外は全員女子ですよね? 女子と同じ部屋で1ヶ月も生活ですか? 何かあったらどうするんですか? ただでさえ女子寮なんですよ? どんだけ信用されてんですか俺らのオスの部分は。
それから横にとても嫌な負のオーラを醸し出してる女生徒がいるんですが……とてもそちらを向けません。命の危険すらありそうで。まだ何もしていないのに。
「まず、1つ目の部屋が寮長でもある織斑先生の部屋です。もう1つの部屋がそちらの篠ノ之さんの部屋ですね。これから荷物をそちらに運んでもらえるよう手配しますので、どちらの部屋にしますか?」
「京夜は当然、私と一緒だよな」
俺と一夏が答える前に横にいた我らが幼馴染である箒が答える。先程のオーラはもう出ていない。
しかし、今日1日で何度命の危険に晒されればいいのだろう。選択肢次第では既に5回は死んでいる。どんなギャルゲーだよ。選択ミスると即デッドエンドって。難易度高過ぎだろ。俺の命は1個なんだから俺の自由にさせて欲しい。或いはセーブポイントからやり直せる人生にしておくれ。
「ゴ、ゴホン。一夏と千冬さ……織斑先生は姉弟なのですから、同室がいいと思いますので」
「ああ、そうだな。じゃあ、俺が千冬姉と同じ部屋で」
「織斑先生だ。馬鹿者」
先程とは違い、それらしい理由をつけて発言する箒。同意する一夏。相変わらずの出席簿攻撃を一夏の頭に炸裂させる織斑先生。既に俺抜きで話がついている。
「京夜、問題ないだろ?」
「あ、ああ。問題ない」
俺は別に箒と同じ部屋で特に問題ない。寧ろ気心の知れている箒との方が嬉しいくらいだ。だからそんな恐ろしい目で、その他の発言を許可しないような目で俺を睨まないで欲しい。だだでさえ俺は臆病な小動物なんだから。
「ではこちらが部屋の鍵です。場所は篠ノ之さんに教えてもらってくださいね。それから夕食は6時から7時、寮の1年生用食堂で取ってください。ちなみに各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますけど……えっと、そのお2人は今の所使えません」
「え、なんでですか?」
この男は本気で言っているのだろうか。実は結構プレイボーイなのか? 箒に聞いた話だとピュアボーイというか朴念仁というかって印象だったのだが。風呂場でハーレムを築こうだなんて結構大胆なヤツだな。その度胸というか発想が素晴らしい。今日から師匠って呼ばせてもらおう。
「アホかお前は。まさか同年代の女子と一緒に風呂に入りたいのか?」
「い、いや、入りたくないです」
「俺は一緒に入りた……いえ、なんでもありません」
やべーよ、となりの可愛い女の子が無言で『幼馴染』から『阿修羅』にクラスチェンジしそうだった(汗)うっかり冗談も言えないな。まぁ一緒に入りたいのは本音ではあるが。っていうかせっかくの女子寮なんだから男として、人としてそれくらいの夢を見たって良くないですか!? 『人』に『夢』と書いて『儚い』とは読みますが、俺の命は儚く散らしたくないのでそんなことはとても言えません。
「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。3人とも、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」
山田先生、IS学園の教師より小学校教諭の方が向いているんじゃないですか? 俺らは低学年のガキンチョですか? 寮までの50メートルの間に駄菓子屋でもあるのなら間違いなく寄り道するけどさ。やはり、当たり付きアイスは外せない! 是非ともIS学園の寮に駄菓子屋を! って学園に懇願してみようかね。
山田先生と織斑先生が教室から出て行くのを見送る。深いため息をつく一夏。あの厳格な姉からの強烈なプレッシャーと女子からの視線攻撃で疲労困憊といった所だろう。これくらいのことでへこたれないでくれよ? 君はスーパースターへの階段を駆け上がってもらうんだからさ。
「さて師しょ……一夏、寮へ行こうぜ。ちょっと話もあるし、歩きながらな?」
「ああ、そうだな……」
◇
寮への向かって歩きながら代表決定戦までの訓練について話をする。当日まで座学は授業と部屋での予習復習、実技は放課後に俺と箒と一夏との3人で剣術訓練。当然、ISを使った実機訓練をしない理由について突っ込まれる。まぁ当然ではあるな。
「一夏は聞いてないかもしれないが、一夏には専用機が用意されるんだ。専用機は訓練機とは全く違うから、訓練機で変な癖がつくのは良くない」
「へぇ~そういうもんなのか?」
「あの分厚い参考書を読破した結果だ。お前が捨ててしまった電話帳サイズのな」
「……」
これでこれ以上は突っ込んでこないだろう。あの参考書を代表決定戦までに読破できるとはとても思えん。一夏の『意外と勉強嫌いつーか苦手』ってのはもう分かったからな。履歴書があれば趣味の欄に『読書』とか書けるタイプでもないだろう。『ゲーム』が関の山だ。まぁ『家事』とかは書きそうではあるが。
そんな話をしている中、俺の右側のラオ……もとい箒は何も言わず、黙々と隣を歩いている。入学前にあの参考書を読んでいるから分かっているはずだが、そのことを指摘しない。そう、
「しかし、専用機か~。京夜にも用意されてるんだよな?」
「いや、俺には用意されていない」
「えっ、なんでだ?」
はてなマークの多い子ですね君は。もう面倒くさい。小学生ならその好奇心はとても将来が楽しみなカンジですが、高校生の君はもっと自分で考えることも覚えて頂きたい。疑問があると何でも聞いて済ます子にはなってはいけませんよ一夏くん?
「さっきも言ったが、俺は話題性のない2番目だからさ。一夏の場合は日本政府的にもデータ採取したい思惑があるから専用機を用意するんだろう。データは1人から取れれば問題ないだろう?」
理解はしたが、納得はできないって顔だな一夏。大方、それでは不公平でだとでも考えているのだろう。いいヤツだな一夏は。きっとお腹が空いた時にパンが1個しかなければ半分に分け合うんだろうな。俺は間違いなく独り占めするけどな。そのパンを食べながら「パンがなければケーキを食べればいいのに」とか言うな俺は。そんな俺に気をつかう必要はないのに。それに、
「気にするな。俺は別に訓練機で問題ない。俺はそんな真面目なヤツじゃないからな。この学園に入ったのだって学費免除、寮生活なら生活費がかからないっていうからさ。俺んちはビンボーなんでね(笑)」
「そうなのか!? 俺は殆ど無理やり入れられたんだが……」
「一夏は世界初だったからな。まぁしょうがないさ。けど逆に考えればせっかくのチャンスだ。貰える特権は全部貰っておけよ。ラッキーってぐらい軽い感じでさ」
「……ああ、そうだな!」
一夏のこの楽観的で明るい前向きな性格は利点だな。俺的にも助かる。羨ましくすら感じるよ。俺は思慮深くて疑心悪鬼な腹黒い男だからさ。君はそのままでいてくれ。
そんな話をしながら、箒の案内で一夏を部屋へ送り届けた後、箒と2人で俺たちの部屋である1025室の扉の前に立つ。
「ここか~」
「あっ、あぁ、こ、ここだ」
どうした箒? ドモってますが? いつもの彼女らしくない若干震えた、緊張した手つきでドアに鍵を差し込み開錠し、ドアを開け先に部屋に入る箒の後に続く。
まず目に付いたのは入って左側に並ぶ大きめのベッド。それが2つ並んでいる。そこいらのビジネスホテルより遥かに良い代物だ。別に俺は床でも寝れるくらいではあるが、人生の3分の1はベッドの上だからな。良い寝具を使うことは良い金の使い方と言えるだろう。その向かい側の壁、入って右側の壁には備え付けの机と椅子。部屋の基調を崩さない良いチョイスだ。IS学園、結構やりおるわい。
「良い部屋だなぁ~ここが今日から俺と箒の愛の巣って訳だ」
「へぇ!? あっ、愛の!?」
顔を真っ赤にして正面の大きな窓の方へ顔を背ける箒。ポニーテールの後ろ姿からでも分かる程で、耳まで真っ赤だ。
可愛いな~箒は。相変わらずそういう発言に耐性がないというか、ウブで純真なとても良い反応だ。サディストの血がうずいてしょうがない。あまりやり過ぎると木刀の餌食になるので加減が難しい所だ。
俺は寝心地の良さそうなベッドに目をやる。一般的な生徒はもう1週間前からこの寮に入って生活をしている。つまり箒はこの部屋で、このベッドを既に使っているはずだ。どっちだろう? できたら俺は窓際がいいなぁ~。
「箒はどっちのベッドを使ってるんだ?」
「あっ、あぁ、こっちの窓際を使ってる」
次の瞬間、俺は自分のサディストとしてのリビドーを抑えきれず、箒の使用しているベッドにダイブした。その3秒後、顔から湯気を出しそうな程に真っ赤な顔をした箒は荷物と一緒に椅子の傍に立てかけてあった木刀を掴むと、そのままの勢いで俺に必殺技ともいうべきツッコミを繰り出してきた。まさに神速! の太刀を躱せる訳もなく頭蓋骨に直撃し、俺の意識が10秒程ダイブした。
「いてててっ、酷い目にあった」
「あっ、あっ、当たり前だ!!! 何を考えてるんだ!!!」
真っ赤な焦り顔の箒。そのリアクションが欲しいからさ! とはとても言えない。そう、男としては逃げられない、戦わなければならない時があるのさ。
「まぁそれはさておき……」
窓際の箒のベッドから体を起こし、反対側の自分のになるであろうベッドに腰を下ろして箒の方に体を向ける。
「箒、良かったのか? 一夏と同じ部屋じゃなくてさ。幼馴染の初恋の相手じゃなかったのか?」
「むっ、昔の話だ! 今はただの幼馴染だ!! それ以上の感情はない!!!」
箒は少しムキになって俺に詰め寄ってくる。真剣な目で俺を見つめてくる。
前髪で隠れた俺の瞳を。
まるで何かを訴えるかのように。
「きょ、京夜は私と一緒は嫌なのか?」
先程とは違った少し不安が入り混じったような目で俺を見つめてくる。
瓶底眼鏡で隠れた俺の瞳を。
まるで何かを求めるように。
「そんな訳ないだろ? 箒と同じ部屋になれて嬉しいよ」
「そ、そうか」
俺は右手で箒の頭をポンポンしながら、誤解のないように気持ちを伝える。ホッと安心したような顔をする箒。光の加減かもしれないが、少し瞳が潤んでいるようにも見える。そんな心配せんでも俺は箒を邪険に扱ったりしないよ? からかったりはするけど。箒をからかうことに生きがいを感じているといっても過言ではないですから。
それにしても箒さん? 顔がとても近いです。あと数センチも近づいたらマウスとマウスがくっついてしまいますよ? 据え膳的に食ってもいいのかしら。
すると箒はその距離に気付いたようでハッとし、またも茹でダコのように顔を赤くして体を起こし顔を背ける。
「それに……」
「?」
「ティーナだって私と一緒の方がいいだろう」
「そうだね! 箒ちゃん! ありがとう!!」
さて、諸君。お気付きだろうか。今の最後の発言に『丸カッコ』がないことに。
今の発言はティーナの発言だ。そう、俺の中の脳内彼女の。だが、箒は明らかにティーナに話をしているし、ティーナもそれに返している。ここで説明不十分な脳内彼女の説明をまたちょっとだけ増やしていくことにしよう。
俺は声の聞こえた右ポケットから、ある機械を取り出し箒の前に出した。流行りのホログラムディスプレイの最新型で、入学祝いで購入した所謂小型携帯端末だ。スペック的なものも語りたい所ではあるが、今は置いといて……。
そのディスプレイには金髪碧眼貧乳の超絶美少女が写っている。そう、ティーナは電子な存在だったのだ。『脳内彼女』から『スマホ彼女』へランクアップって感じだ。
「今日は大分大人しかったな。いつもは京夜とうるさいくらいなのに」
「酷い! あれは京夜がツッコませることばかり言うからでしょ!?」
「ああ、それはそうだな。そういえば……」
俺を置いてけぼりにして俺の右手と俺の前に立つ女子たちは楽しげな会話を展開している。
箒は同世代の女子と楽しげにしている所をあまり見かけないのだが、ティーナとはウマが合うのか仲が良い。ティーナからしたら俺以外と話ができる今の所、唯一の存在で正直嬉しいのだろう。2人は良い意味でいい関係が築けている。
まぁ敷いて言わせてもらえば、俺の情報がティーナを通して箒に筒抜けである点だけが問題ではあるな。俺の夜のお供も、ティーナというワトソン君が助手についてしまった為、全て焼却処分になってしまったのだから。
その後、俺は箒とこの部屋のルールについて話し合った。シャワーの使用時間や着替えのタイミングなどなど。大浴場を男の俺は使えないのでシャワーの時間くらい融通を聞いて欲しかったが、ティーナというサポーターをつけた箒相手に反論はいつも以上に無駄な努力と化した。つまりこの部屋の『生きる憲法』である箒さんに逆らえないということだ。
そう、この世界で俺が逆らえないものは存在する。
例えば『時間』。過ぎ去ってしまった時間を巻き戻してやり直すことはできない。
例えば『過去』。起きてしまった現実を変えることはできない。
例えば『運命』。決められている命のレールを伸ばすことはできない。
例えば……
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