インフィニット・ストラトス a Inside Story 作:鴉夜
また、オリジナル解釈が多めです。矛盾や、つじつまが合わない等はあるかと思いますが、本当にご勘弁ください(泣)
「おはよう! 京夜、箒!」
「……おはよう」
「……zzz」
俺はとにかく朝が弱い。理由は一つ。夜更かし最高な生活習慣をいきなり寮生活になったからといってすぐさま修正できるものではないからだ。修正する気も正直ない。
2度寝デフォルトの俺を無理矢理起こして一緒に朝食を取っている箒もどうやら寝不足のようだ。返事にいつものキレがない。昨日の夜中に布団に包まって何やらぶつくさ言っていたのは記憶しているが、何かあったのだろうか。
そんな俺たちに朝から元気いっぱいの小学生みたいなイケメン一夏からの挨拶。まだ半分寝ている俺は最近身につけたスキルである『寝ながら食事』を発動中。別に無視している訳ではないからな?
本日の朝食は箒が持って来てくれたので和食セットだ。ご飯に納豆、鮭の切り身と味噌汁。ついでに浅漬と定番の日本の朝食。確かに旨い。それは否定しないが、俺はどちらかというとパン派なんだよね。朝はコーヒーが飲みたいからさ。ご飯にコーヒーって合わないじゃん。トーストにスクランブルエッグとベーコン、サラダにコーヒーが良いんだが、そんな話を箒にしたら「軟弱な!」とか言われて和食になった。まぁいいけどさ。
一夏も同じメニューのようだ。6人掛けテーブルに並んで座る俺と箒の前の席に座り、美味そうにご飯を頬張っている。
「お、織斑くん、一緒いいかなっ?」
「へ? ああ、いいけど」
未だ遠巻きに興味津々の男子包囲網状態の中、行動力を発揮した女子3名が朝食トレーを持って一夏に声をかけてきた。一夏のOK返事に安堵のため息の女子1名、小さくガッツポーズの女子2名、そしてざわめき出す周囲の女子複数名。
「ああ~っ、私も早く声かけておけばよかった…」
「まだ、まだ2日目。大丈夫、まだ焦る段階じゃないわ」
「昨日のうちに部屋に押しかけた子もいるって話だよー」
「なんですって!?」
これもIS登場による女性優遇の風潮の一部なのか。結構大胆で積極的な女子が多いようだ。登校初日に何の共通点もない、何の接点もない状態で男の部屋をお訪ねになるとは。
「(織斑先生が会議で帰りが遅かったみたいで、帰ってくるまでの間に1年生が8名、2年生が15名、3年生が21名の計44名が訪ねて来てたよ)」
「(予想以上に一夏は人気があるようだ……な……)」
「(そうみたいだね。でも京夜の部屋にも何人か訪ねて来てたよ? まぁ箒ちゃんが全て対応してたけど……って京夜聞いてる?)」
「(zzz……)」
「(寝るな~!!!)」
そんなこと言っても俺が寝始めたのって明け方5時過ぎだよ? ティーナだって知ってるでしょ? YOUは寝ないでも平気かもしれないけど、MEは人間辞めてないんで寝ないとDEADだよ? あぁダメだ、眠過ぎてよく分からなくなってきた。
一夏は俺の隣に移動し、この6人掛けテーブルは窓際の俺の右に箒、左に一夏。向かいの席に女子3人組となった。もちろん、女子3人組の視線は一夏に釘付けだ。
「うわ、織斑くんって朝すっごい食べるんだー」
「おっ男の子だねっ」
「俺は夜少なめに取るタイプだから、朝たくさん取らないと色々きついんだよ。ていうか女子って朝それだけしか食べないで平気なのか?」
女子3人組のトレーの上にはメニューこそ違うが、飲み物1杯にパン1枚、おかずが1皿(しかも少なめ)だった。
「わ、私たちは、ねえ?」
「う、うん。平気かなっ?」
「お菓子はよく食べるしー」
やっぱりそういうのは分からないんだな一夏は。朝からガツガツ食べる姿をお前に見られたくないっていう気持ちが。食べ過ぎると太っちゃうっていう乙女心が。でもお菓子は別腹? みたいな。そういう思春期の複雑な乙女心が分からないなんてまだまだだな、っていうか俺はどんだけ年食ってるキャラなんだよ。
「ふ~ん。しっかし、本当に美味いな! この鮭とか塩加減が絶妙だ! なぁ箒」
「ああ、美味いな。やはり朝食は和食に限る。京夜もそう思うだろ?」
「……アァ、ソーデスネ」
ここで反論しようものなら機嫌が悪くなると『箒さん取扱説明書』の3ページ目に書いてあるので同意しておく。もちろん著者は俺、監修はティーナである。結構役立つのでその内、一夏に高値で売りつけよう。
ちなみに現在、『一夏くん取扱説明書』を執筆中である。ニーズの高さから間違いなくベストセラーとなるだろう。芥川賞、直木賞も夢ではない。
「織斑くんっと篠ノ之さんって仲が良いの?」
「まぁ幼馴染だし」
「ああ、
周囲は一夏の発言に大いなるどよめきを見せるも、箒のハッキリとした発言に一気に安堵のため息を吐いた。「ただの」に相当な力が入っていたからな。箒の明確な意思表示に気付いたようだ。
当の本人である一夏は何も感じてはいないようだ。まぁ友人であることには変わりないから、一夏的には問題ないのであろうが。
「え、それじゃあ――」
一夏の目の前に座る女子、ついさっき自己紹介してた気がするが、半分寝ていたので名前が……とりあえずその子が質問しようとした所で、突然手を叩く音が食堂に響いた。
「いつまで食べている! 食事は迅速に効率よく取れ! 遅刻したらグラウンド10周させるぞ!」
織斑先生の脅迫じみた発言に食堂にいた全員が慌てて朝食の続きに戻った。IS学園のグラウンドは1周5キロ。誰もそんなのやりたがらないって。常時ランナーズハイなイっちゃってるヤツを除いて。当然俺はノーマルなので断固お断りだ。
だが、眠さには勝てない。こりゃ遅刻は覚悟するしかないかもな……
「まだ食べ終わっていないのか! さっさと食べ終えて部屋に戻るぞ!」
「ちょっ、ちょっと待て箒! そんな無理やモゴモゴモゴ!?」
既に食べ終えた箒は、半分寝ながら食べている俺の口の中に残りのご飯や味噌汁を無理矢理流し込む。俺はフォアグラになる宿命とか背負ってないぞ! そんなに遅刻が嫌なら俺を置いて先に行けばいいのにっとか思っても当然言えませんが。箒は箒なりに俺のことを思っての行動だということは承知の上だが、やり方ってのはあるのでは!?
箒はまだ鮭の切り身が口からはみ出ている俺の襟首を掴み、凄い力で引きずって食堂をフェードアウトした。この力の源が「朝食は和食に限る」か。
「篠ノ之さんって、黒神くんと仲が良い……んだよね?」
「た、多分」
一夏と女子3人組に若干可哀想気味に見送られる。確かに仲が良いのは否定しないが、もっと優しい『仲が良い』が良いと常日頃思っているとは周りも箒本人も分かっていないだろうな。
箒は俺に対して良い意味でも悪い意味でも面倒見が良いのだが、やり方が結構乱暴なんだよ。自分のできることは誰でもできると思っている節がある。人それぞれだよ箒さん? 箒はできるかもしれないが、俺にはできないことなんて沢山ありますから。だから部屋に戻って2度寝させてください。
そんな限りなくゼロに近い希望を持ちながら部屋に戻った。
◇
「という訳で、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで包んでいます。また、生体機能も補助する役割があり、ISは常に操縦者の肉体を安定した状態への保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量、脳内エンドルフィンなどがあげられ――」
昨日に引き続き、山田先生は生徒たちにISの基礎知識を教えている。これまた昨日に引き続き一夏は教壇の真ん前で教科書をにらめっこ。煙こそ出てないが、未だ理解の外にあるといった状態のようだ。やっぱり特別補習でもやった方が良いだろうか? 俺は面倒くさいので山田先生に頼んで。
クラスメイトに1人がやや不安げな面持ちで山田先生に質問する。
「先生、それって大丈夫なんですか? なんか、体の中をいじられているみたいでちょっと怖いんですけれども……」
「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出ると言うことはない訳です。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと型崩れしてしまいますが――」
……ふと、一夏と目が合った山田先生。一回キョトンとした顔をしたかと思えば、数秒置いてからボッと顔が赤くなった。どうやら気付いたようだ。女子高だったのは去年までの話ですよ~今年から男子が2名程通学してますのでお忘れなく~。しかし、自分にあったサイズは重要なんですか。山田先生のそのビックサイズに合うものを探すのも大変でしょう。型崩れなんてさせてはいけませんよ? 人類の、男の究極の至宝とも言うべきものなんですから。
「えっと、いや、その、お、織斑君や黒神君はしていませんよね。わ、分からないですね、この例え。あは、あははは……」
山田先生のごまかし笑いはなんとなく教室中に微妙な雰囲気を漂わせた。何ともムズ痒い気配。まるでリビングで家族団欒中にテレビにちょっとエッチなシーンが流れた時のような。そんなちょっと落ち着かない空気だ。俺は全然平気だけどね。友人知人から言わせればそーゆー所が変人たる所以だとか言われるが。
それから山田先生? もちろん俺は着けていませんが、最近では男子専用のブラジャーもあるらしいですよ。正直「誰得だよ!!」と声を大にして言いたい現実ですが。
「(今度、京夜に似合うブラジャーを選んであげる! きっとピンクが似合うと思うな~)」
「(そうそう、やっぱりピンクよね~でも黒もセクシーで捨てがたいわ)」
「(キモ! 何この変人! ミジンコからやり直して)」
「(乗ったのに何その扱い!? 俺の人生にミジンコだった時なんて……あったかな?)」
やっぱ女生徒の夏場のセーラー服に透けるブラジャーに男はトキめく生き物なんですよ。男子のブラジャーが世界の常識になったら俺は世界を滅ぼすかもしれないな。
ちなみに箒と共に通っていた中学はセーラー服だった。それは眼福な学園生活だったよ。時折、箒の目潰し攻撃に涙していたこと以外は。
「んんっ! 山田先生、授業の続きを」
「は、はいっ」
浮ついた空気を咳払いでシャットアウト。織斑先生に促されて、山田先生は教科書を落としそうになりながら話の続きに戻った。
「そ、それともう一つ大事なことは、ISには意識に似たようなものがあり、お互いの対話―――つ、つまり一緒に過ごした時間で分かり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします。それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになる訳です。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」
「(今の山田先生の発言を本当の意味で理解できる人はどれくらいになるのかな)」
山田先生の発言に珍しくティーナが苦言を呈した。山田先生のその発言は自身の経験によるものではないだろう。恐らくこの教室の中でその感覚を掴むことができる人間、できた人間は織斑先生だけだろう。そしてそんな織斑先生でも、あの『ブリュンヒルデ』と称されたIS最強の操縦者であっても勘違いしている。それは
「先生―、それって彼氏彼女のような感じですかー?」
「そっ、それは、その……どうでしょう。私には経験がないので分かりませんが……」
女生徒からの質問に赤面して俯く山田先生。経験というのはもちろん男女交際のことだろう。そんな発言にクラスの空気は女子高的な空気が全開に。まぁ花の女子高生、やっぱり恋愛事には興味深々だよね。男女についての雑談があちらこちらから聞こえる。
そんな空気に織斑先生は少し頭を抱えたポーズでため息一つ。山田先生は一夏に熱視線。一夏はそんな視線に全く気付かず、胸焼け顔。もうどうにも収拾はつきそうにない。
そんな事態に終止符を打ったのは人類が作った鐘という名の時間を知らせる合図だった。
キーンコーンカーンコーン。
「あっ。えっと、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね」
ここIS学園では実技と特別科目以外は基本担任が全部の授業を持つらしい。山田先生、是非とも保険体育の実技の授業をお願いします。その際は教師と生徒の立場が入れ替わるかもしれませんが……
さて、先程の授業中の箒さんからの熱視線ならぬ殺視線ですが、計3件でした。っていうかどうして声にも出してない俺の妄想が伝わるのだろうか。
山田先生と織斑先生が教室を出るなり女子の半数がスタートダッシュで一夏の席に詰めかける。どうやら様子見タイムは終わりを告げたようだ。その勢いといったらまるでバーゲンセールのようだ。希少価値の高いイケメン一夏をゲットすべく女子たちの熱い攻防が今始まる!!! って感じだ。
「ねぇねぇ、織斑くんさあ!」
「はいはーい、質問しつもーん!」
「今日のお昼ヒマ? 放課後ヒマ? 夜ヒマ?」
矢継ぎ早に質問を受ける一夏。その裏では整理券を配っている女子を見つける。しかも有料。やるな。出遅れた。商売人として負ける訳にはいかない。俺も「一夏ビジネス」のビッグウェーブに乗らねば!
そんなことを考えている俺の元に箒が話しかけに来た。
「一夏、凄い人気だな」
「ああ、羨まし……くないかな俺は……」
俺って臆病な生き物だなって思う今日この頃。人の顔色……っていうか箒の顔色ばかり伺ってる気がするよ。いつからこんな人間になったのだろう。今度自己啓発セミナーとかに行ってみようかしら。
「(俺ってもっと自分に正直に生きていった方が良いと思うんだ)」
「(京夜って嘘つきだからね)」
「(俺は正直を絵に書いたような人間でしょ)」
「(言ってる内容が胡散臭い。顔が嘘くさい)」
顔が嘘くさいって。相方としてそれは酷くないですか。
箒に話したら顔はともかく、基本は嘘くさいって言われた。そこから普段の行動がとか、説教が始まり若干グロッキーに。俺の心の助けを求めたつもりがまさかの追い打ち攻撃だった。
そんな中、1番前の席の一夏は女子の早く質問に答えて視線に戸惑い気味だ。
「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」
「え。案外だらしな――」
パアンッ!
「休み時間は終わりだ。散れ」
一夏の背後から得意の出席簿アタック。そのタイミングでの攻撃? ってことはそういう部分を見せたくないってことなのかね? あんまり他人にどう思われるかを気にするタイプではないと思ってたんだけど織斑先生も乙女なんだね~って何ですかその殺気は。余計なことを考えているなってことですか? 箒といい、どんだけ俺を苛めれば気が済むんすか?
「ところで織斑、お前のISだが少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」
「あの、それについて何ですが……」
「なんだ?」
「俺だけ何ですか? 京夜には用意できないんですか?」
一夏のヤツ、まだ気にしてたのか。ホントに良いヤツ過ぎだろ! ってかお前があまり良いヤツ過ぎると自分の俗悪さが浮き彫りになって自分が最低野郎だって思い知らされるんだけど!? 生きててスイマセンって、生まれ変わったらミジンコになりたいって思わされるんですけど!?
項垂れる俺を他所に織斑先生は一夏に教科書を持たせる。
「教科書6ページ。音読しろ」
「え、えーと…『現在、幅広く国家・企業に記述提供が行われているISですが、その中心たるコアを作る技術は一切開示されていません。現在世界中にあるIS467機、そのすべてのコアは篠ノ之博士が作成したもので、これらは完全なブラックボックスと化しており、未だ博士以外はコアと作れない状況にあります。しかし、博士はコアを一定数以上作ることを拒絶しており、各国家・企業・組織・機関では、それぞれ割り振られたコアを使用して研究・開発・訓練を行っています。また、コアを取引することはアラスカ条約第7項に抵触し、すべての状況下で禁止されています』…」
要約すると、
1、世界にISは467機しかない。
2、コアは篠ノ之博士以外作れない。
3、博士はコアをこれ以上作ることを拒んでいる。
ということだ。これが「世界の認識、世界の常識」だ。
「つまりそういうことだ。本来なら、IS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられない。だが、状況が状況なので、データ収集を目的としてコアが1つだけ割り当てられ、世界的に認知されていることから織斑、お前に専用機を用意することになった。黒神には悪いが……」
「あ、織斑先生、気にしないでください。分かってますから」
あまりそのことに責任を感じて欲しくもないし、余計なこともして欲しくない。俺はあくまでも一夏の『引き立て役』だ。『ただの2番目』に専用機は必要ない。
だが一つ、織斑先生にっていうか学園にお願いはしておかなければならないことがある。
「織斑先生、つきましては一つ、お願いがあるのですが……」
「なんだ?」
「IS学園で使用している訓練機を在学中に限り、無料貸与して戴けないでしょうか?」
専用機は必要ないが、ISを好きな時に扱えない状況ではどうしようもない。毎回使用許可を取るのも面倒くさいしな。それに毎回違う訓練機を使うっていうのも失礼かなと思うしさ。まぁそんな理由が通用するとは思えないのでそれらしい理由をでっち上げますかね。
「実は整備とか、研究とかの分野にも興味がありまして……色々いじってみたいと思ってるんですよ。そういう分野も習得しておかないと……その……卒業後の自分の身を守る為にも必要かと思いますので……」
「……なるほどな。いいだろう。申請しておこう」
俺のでっち上げた理由に納得した織斑先生。一夏及び箒を含めたクラスの女子たちには意味が分からなかったようだ。
つまり『ただの2番目』には将来、国家代表とかそんな輝かしい未来は用意される訳がない。卒業後、ヘタをすれば生体解剖の上、ホルマリン漬けもありうる人生のレールの上に立っている。その為にはある程度の利用価値を自分自身に付加しておく必要性を理由として織斑先生に提示した。実際は問題ないのだが……。
すると、女子の1人が織斑先生におずおずと質問した。
「あの、先生。篠ノ之さんってもしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」
「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」
―――篠ノ之束。ISをたったひとりで作成、完成させたとされる稀代の天才。織斑千冬の同級生で箒の実姉。現在、超国家法に基づいて指名手配中。これが『世界の認識、世界の常識』だ。
「ええええーっ! す、すごい! このクラス有名人の身内が2人もいる!」
「ねぇねぇっ、篠ノ之博士ってどんな人!? やっぱり天才なの!?」
「篠ノ之さんも天才だったりする!? 今度ISの操縦教えてよっ」
授業中だというのに、箒の元にわらわらと女子が集まる。箒はじっと俯き、手を握りしめている。
「(京夜……)」
「(……分かってる)」
箒はお姉さんである篠ノ之束博士のことで色々辛い思いや苦しい経験をしてきている。重要人物の関係者であることから『重要人物保護プログラム』により常に監視化に置かれていた。このIS学園に入ってからは学園がその身の安全を保証しているが、普通とは程遠い生活を送ってきたのだ。初めて箒に会った時も、全てを拒絶し、何も信用しないような、それでいてとても寂しそうな、そんな目をしていた。そんな初対面の時と比べれば今の箒はとても明るく、力強く、生き生きとした目をするようになった。まぁその目から発する怪光線で俺の命のゲージが減ることは多々あるが。
「あの人は――」
「箒」
大声を上げそうになった箒に近寄り、左手で頭を軽くポンポンする。ここであまり激しい拒絶を見せて箒とクラスメイトとの間に溝を作って欲しくない。箒には楽しい学校生活をエンジョイしてもらいたいと思っているからな。
箒はちょっと慌てて照れくさそうにしていたが、俺の顔を見て少し落ち着いたようだ。俺は箒に詰め寄って来たクラスメイトの方に向き合う。
「あまり、お姉さんのことを聞かないであげてくれないかな? ほら、有名人の家族ってことで色々大変なんだよ。彼女と篠ノ之博士は違う人間なんだし……ね?」
俺の発言に「悪いことをした」って顔のクラスメイトたち。皆良い子だね。そこで「別にいいじゃん」って相手の気持ちを考えず突っ込んで聞いてくるような無神経な人間はこのクラスにはいないようだな。
ああ、そういえばいたな。『KY』というスキルを持つ一夏くんに、個人情報をペラペラ喋った千冬先生。これが『織斑クオリティ』ってヤツですか? 品質レベルの改善を要求したい。
「……姉さんとはもう何年も会っていない。私と姉さんは全く違うので、教えられるようなことは……」
「あっ、うん。ゴメンネ、すごく無神経なこと言って……」
「わ、私も、ごめんなさい」
「い、いや大丈夫だ。ありがとう」
箒にもクラスメイトたちにも笑顔が戻り、少し和やかな空気となった。良いことだ。やっぱり人間関係は「ゴメンなさい」と「ありがとう」が大事だよね。この2つがあれば世界から戦争とかなくなると思うんだ。俺が言うとまた嘘くさいとか言うんだろうな。
「(でも京夜って基本的には謝ってばかりだよね)」
「(主に箒限定な。感謝する気持ちだってあるんだぜ? ティーナいつもありがとう)」
「(何で京夜って気持ちがイマイチ伝わってこないんだろう。存在が口先なんだねきっと)」
「お前は口から生まれたんだろ」とはよく言われますが、存在が口先と言うのは後にも先にもティーナだけだろうよ。ひしひしと愛情を感じる発言だよホント。涙が出ちゃうくらいに。
「さて、授業をはじめるぞ。山田先生、号令」
「は、はいっ!」
まるで解決したかのように山田先生に授業の開始を促す織斑先生。例え口先でも箒に謝るべきではないですか? この騒動(?)を起こしたキッカケは貴方が何の考えもなく個人情報を喋ったのが原因なんですから。これで箒とクラスメイトとの人間関係がこじれたらどう責任を取るつもりだったんですか?
でもそんなことは分かってないんだろうな。まだ2日目ではあるが、織斑先生は一夏とは違ってより良い人間関係を築くのがあまり得意な方ではないのだろう。あの高圧的な態度や即暴力の対応から見ても間違いない。篠ノ之博士にはまだ会ったことがないが、あまり失望させないでくれ。最善の『可能性』を摘む結果にならないことを祈りたい。
多くの現実に失望と絶望の生活の中、俺にとっての希望とは何か。
それは無機質な人形か。
それは可愛い幼馴染か。
それは前向きな友人か。
それはこの世界か、この認識か、この常識なのか。
『インフィニット・ストラトス a Inside Story』は自身のブログでも掲載中です。
設定画や挿絵、サブストーリーなんかも載せていくつもりですので、良かったらそちらもご覧戴けると嬉しいです。
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