『□50』
私はいつまで生きることが出来るだろうか────そんなことをたまに考える。
ザッカートが死に、バーンガイアは分裂し、別れた種が新たな文明を国ごとに築き上げて……それなりの年数が経過した。
だいたい、二百年ほど。
その間の私は……なんというか、惰性で生きているような状態だった。ザッカートが死に、けれど二度と会えなくなったわけでもないというのに……私は、前ほどの熱を持たなくなっていた。
予想以上に、私はザッカートの導きに頼りすぎていたようだ。ザッカートが死んで、今更それを理解するなど遅すぎる。
カミラとグラ、見守らなくてはいけない子達がいても、それは同じだ。愛情はあっても、そこにザッカートほどの熱がない。だからといって思いがない、というわけではないのだけど。
いつまで生き続ければいいのだろうか、と考えてしまう。この身体は、どのような状況にも耐えられるように創っていたが故に、寿命も長い。
その長い寿命が尽きるのは、いつになるのかと……そんなことを考えてしまう。
死にたい、というわけではない。そんなことを望めるほど絶望などしていない。
しかし……今の私には、気力がない。目標も持ち合わせていない。
カミラとグラの治めるこの国も、ここ数十年は問題なく運行できている。それまでは大あれ小あれ問題が山積みだったが、今ではだいたいが解決している。
……いっそのこと、しばらくの間眠ってしまおうか。
一部の吸血鬼は守護神のいるダンジョンに行き、自らを石化させて眠りについたほどだ。
吸血鬼は血さえ吸えれば何年経とうと若さを保ったまま生き続けられる。それは魔人族も同じことだが、まだそこまで生きた魔人族自体が少ない。
しかし、眠りについてしまえばそれだけザッカートとの再開が長引くことになる。自決する気はなく、いつ寿命が来るかもわからないのでは、私の心の方が持たない。
……ザッカート依存症なのだろうか、私は。
多分そうなんだろうな、きっと。
ベルウッドとの戦いは、もっと先のことになる。それこそ数万年と掛かることだろう。
間違いなく、私はそこまで生き続けることはできない。もしかしたら、私の寿命はあと十数年もないかもしれない。
その時は……まぁその時だ。あの子達を悲しませてしまうかもしれないけど……寿命があるのは、良いことだ。それは、いつか死ぬことが出来るということだから。
流石に、私はあの子達より長く生きるつもりもないからね。
『□55』
────終わりか。
なんとなく、そう直感できた。
自分が終わるということを、感じられる。どうしてだとか、なぜだとか、そういった理由はわからないのだけれど。
私はもうすぐ終わる。というか、死ぬ。肉体の寿命が来たのだ。
ここまで、よく生きた方だと思う。ザッカートが死んで、私の殆んどを占めていたものが失われ……滅びたわけでもないのに、すぐに会えないことが無性に寂しかった。
自分のことながら……なんて女々しいのだろう。私は人間ではないというのに……心が、あまりに弱い。
それが、私としては悪いことではないと思っているのだが。
かつての『俺』ならば、このようなことは思わなかったことだろう。それは弱さであり、あってはならないことだから。
だが、今は違う。これは『私』になったことで得た……得てしまった弱さ。人間らしい心だ。
だから、ザッカート。
私はあなたに感謝している。私に、心を思い出させてくれたことを。失われていた人間性を取り戻させてくれたことを。
そしてカミラ、グラ。
貴女たちを産んだことは、私にとって二度目の転機でした。ザッカート以外のことを心に占めたのは、貴女たちが初めてです。
そして、貴女たちを産んだから、私はここまで生きようと思えた。
ありがとう。
……そろそろ、終わりのようです。ここまでなんとか力を振り絞っていたのですが……流石に限界です。
途中、塗り潰された部分もあるでしょうが……そこは気にしないでください。それは、誰にも言うつもりのない私の秘密ですから。
もし誰かがこの日記を見たときは……見たあと、出来れば処分してもらいたい。この日記には、私の恥もありますので……出来る限り、知る人は少なくしたい。
流石に死後に文句をつけるつもりは、ありませんが。
……眠くなってきましたね。ひどく落ち着いた気分です。これから死ぬというのに。
……そうですね。では、最後に一言だけ。
カミラ、グラ。
長生きするのですよ。
▼▼▼▼▼▼
「……これで終わりみたい」
「そう」
パタン、と本を閉じる。
暗闇の夜の中、なんら支障なく本を読み進めていた二人の女は、遺されたライラックの日記を見て感想を溢した。
「あまり表情を変えてなかったけど……結構悩んでたんだね。正直、意外だった」
「うん」
「お母さん、喋るの苦手だったし」
「そうだね」
感想、にしては随分と辛辣な言葉を口にしていたようだが。
病的なまでに白い肌に鋭い牙、真っ赤な瞳を持つ吸血鬼の真祖でありライラックの娘、カミラは辛辣な言葉を口にしながらも自身の母に悪感情を持ってはいない。
それは双子の妹、グールの始祖であるグラも同じだ。
双子であるためか、彼女たちは言葉にするまでもなく互いの考えを理解していた。
尊敬する父、愛する母。その二人の間に生まれたカミラとグラは、非常に家族愛が強かった。それこそ、二度と会えないわけでもないのに、ザッカートの死を……ライラックの死を深く悲しむくらいには。
「会えないわけじゃないのは、わかってる。けれど……」
「それでも、悲しい。寂しい」
「うん。寂しいよ」
親との、暫しの別れ。会えないわけではないけれど……それでも、寂しいのだ。悲しいのだ。
会えないことを悲しいと、寂しいと感じられるのは、私たちが人間だからだ。
少なくとも、彼女たちはそう思っていた。
「……私たちは、化け物なんかじゃない」
「うん」
「どうして話し合おうとしなかったんだろう」
「うん」
「どうして……人を殺せるんだろう」
「……」
それは、ズルワーン、リクレントの残した巨大な山脈の向こう側……ベルウッドを含めたアルダ側へと向けられていた。
日記を見て……予め教えられていたことではあったけれど……どうしてなのか、疑問に思った。
なぜ話し合おうとしなかったんだろうと。なぜ、躊躇なく人を殺せるのだろうと。
そりゃあ、人は生きるために他の生き物を殺すけど……それとこれとは話が違うではないか。
貴女たちは……何のために、多くの人を殺したというのか。
「私たちは、実際に見た訳じゃない。体験したわけじゃない」
「けれど、いっぱい聞いた。どれだけ多くの人が死んで、どれだけ抗って……どれだけ、怒りを覚えたのか」
「うん」
もう和解など無理なのだろう。取り返しのつかないことを、あちらは仕出かした。してしまった。
今の世代だと、そのことに怒りを覚えているものは少ない。なにせ数百年も前のことで、カミラとグラの生まれる前に起こったことだ。
しかし、その数百年を生きてきた当事者はいる。彼らは実際に体験し、見聞きした。その怒りを、忘れていない。
「遠い未来……戦うことになる」
「母さんは、数万年は掛かると思ってたみたいだけど……」
「もっと早くなるかもしれないし、遅くなるかもしれない」
「もしかしたら、戦う前に勝手に自滅するかも」
「逆にこっちが自滅してしまうかも?」
カミラとグラは、交互に言い合う。自身の考えを。これから起こるかもしれない仮定を。
「どちらにしろ」
「うん、どっちにしろ」
しかし、その結論は同じだった。
「「私たちのすることは、変わらない」」
どのようなことがあろうとも決して諦めず、前に進み続ける。
どのような障害があろうとも、どのような敵がいようとも。そしてこの先、どのようなことがあろうとも……前に進む。それだけは変わらない。
「ここを守ろう」
守ろう、人を、魔物を……ここに生きる人々を。
「敵を倒そう」
襲い来る脅威は区別せず、敵ならば倒そう。
「何も奪わせないし、壊させない」
命も、居場所も、積み上げてきたものも、何もかも。奪わせはしない。壊させはしない。
全て、守ってみせる。
「とりあえず、まとめあげようか」
「バーンガイアは分裂したけど、結束が崩れたわけじゃない」
「敵を一つに絞る……ううん、創ろう」
「そうすれば共通の敵が現れて、争いは起きなくなる……はず」
「自信はないなぁ」
「でもやれるだけやってみよう」
「うん、そうしよっか」
彼女たちの策謀は続く。いずれ来る戦争に備えて……その準備期間中に、出来うる限りの戦力向上を。
カミラとグラの、大掛かりな策が始まった瞬間であった。
後に彼女たちの行った策によって、元バーンガイア共和国はグールを中心とする新生バーンガイア帝国へと生まれ変わり、山脈内の結束を強めることとなる。
それは双子の女王の片割れ───グラ・ザッカート・バーンガイアが寿命で亡くなったあとも変わりなく。
カミラとグラの行った策は、後世まで山脈内の国々の結束を強めたのだった。
・名前:カミラ・ライラック・バーンガイア
・年齢:数百歳
・ランク:17
・種族:オーヴァートゥルーヴァンパイア(超越真祖吸血鬼)
・レベル:45
・ジョブ:超越者
・ジョブレベル:21
・ジョブ履歴:見習い戦士 見習い魔術師 魔術師 戦士 拳士 爪使い 精霊使い 魔闘戦士 大魔術師 大精霊使い 吸血女帝 血闘士 魔血操士 血器使い 武術士
・二つ名:【始まりの吸血鬼】【双子の女帝】【バーンガイア帝国初代女帝】【マザコン&ファザコン】【血帝】
・パッシブスキル
闇視
自己超強化:吸血:10Lv
能力値増大:バーンガイア:10Lv
超速再生:Lv10
超血:5Lv
剛力:10Lv
状態異常無効
魔術耐性:10Lv
詠唱破棄:10Lv
魔力自動回復:10Lv
無手時攻撃力増大:極大
精霊超強化:10Lv
魔力回復速度上昇:10Lv
魔力使用量超減少:5Lv
全属性耐性:10Lv
血器使用時能力値増大:大
・アクティブスキル
無属性魔術:10
血命魔術:5Lv
血空魔術:5Lv
血時魔術:5Lv
魔術精密制御:10Lv
魔血精密制御:10Lv
精霊王魔術:10Lv
武術:10
超連携:10Lv
限界超越:5Lv
魔血闘術:10Lv
同時発動:10Lv
多重超速思考:10Lv
分霊降臨:10Lv
・ユニークスキル
吸血鬼の真祖
血操
血器限界超越:1Lv
共有存在:グラ
亜神
ヴィダの加護
ボティンの加護
ぺリアの加護
ザンタークの加護
邪神悪神の加護
生産系勇者の加護