二度目の悪神は渇望す   作:オルフェイス

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だーいぶ、遅くなりました。日をまたいでしまいましたが、投稿です。


光命大戦編
決戦の時《1》


戦いは唐突に始まった。

 

 

『さぁベルベット!僕たちの手で、彼らの行く道を切り開くんだ!』

 

「ウォォォォ!【神剣覇天斬】!」

 

 

ベルウッドの声を聞き、今持てる全力の一撃を邪悪な種族の居座っているという山脈へとぶつける、ベルウッドの育て上げた英雄。

 

邪悪な神々を、そしていつかは山脈内に潜むヴィダが生み出してしまった邪悪な存在のルーツを持つ種族を滅ぼしてくれることを願い、マジックアイテムや加護、試練を与えて育ててきた。

 

今回の英雄も、完全に育ちきる前に死んでしまうのではないかとハラハラしたが─────その英雄はベルウッドを降ろしても耐えうる肉体を得て、ここにいる。

 

彼を育て上げたのは間違いではなかった─────英雄の放った一撃が山脈を崩壊させたのを見て、そう確信した。

 

しかし山脈内へと入るためとはいえ、英雄の今持てる最大の一撃を放ってしまったが故に【英雄神降臨】を維持できないほどに消耗してしまった。しばらくの間、体を休ませる必要がある。

 

 

『あとは彼らに任せて、今は休むんだ、僕の英雄ベルベット』

 

「っは……っは……は、はいっ」

 

 

しかし、何の問題もない

 

何故ならベルベットには、彼を助けてくれる心強い仲間がいるのだから。

 

 

 

▲▼▲▼

 

 

 

山脈の崩壊による被害を最初に受けたのは、山脈にもっとも近い位置にあった巨人国だった。

 

 

「な、なんだこの地震は!?」

 

「いや、地震じゃないっ!こいつは……!」

 

 

突如引き起こされた大きな地震に戸惑い混乱する巨人種の人々。だが、そんなことに驚いていられない事態が立て続けに起こる。

 

 

「さ、山脈が、崩れていく……!?」

 

 

かつて先祖を殺し尽くさんとしたベルベットとアルダ、その軍勢の進行を止めるために二柱の大神……リクレントとズルワーンが作り出したとされる、巨大な山脈。

 

それが今、崩壊していく。

 

山脈の崩壊。それが意味することは────アルダ側とヴィダ側、両者による戦争である。

 

 

『やられたっ!まさか山脈を崩壊させるとは……!奴等に良心というものはないのかっ!?』

 

『兄者!怒るのは後にしろ!』

 

 

巨人国を守護していた二柱の亜神───巨人種の片親『太陽の巨人』タロスとその妹である『月の巨人』ディアナの亜神は、流れ込んでくる山脈のなだれを防ごうと動き出す。

 

山脈が崩壊したことによる被害は桁違いだ。近くに位置していた巨人国は、このままいくと崩壊した岩、砂、土のなだれに直撃し押し潰されてしまう。

 

亜神の中でも上位の力を持っているタロスとディアナだが、流石に自身よりも大きく重い質量を持つなだれを相手に巨人種全てを守りきることは不可能だ。

このままでは、多くの巨人種が死んでしまうことになるだろう。

 

────このまま、巨人種たちが何もしなければ、の話だが。

 

 

「全力を振り絞れぇ!【超高氷城】!」

 

「【大土壁】!」

 

「攻撃は最大の防御ってな!【魔焔鉄槌】!」

 

「【巨大魔兵】!自分を守れる自信のない人は早くこちらに!」

 

 

自らの国を、仲間を、友を、恋人を───守りたいものはそれぞれだが、巨人国にいる実力者は自身の持てる最大限を尽くしてなだれから人々を守ろうとする。

 

巨大な壁を魔術で作り出してなだれの進行を妨げ、巨大な氷の城を擬似的なシェルターとして生成し、炎で出来た巨大な拳を作りなだれへと叩き込み、巨大なゴーレムを生成してなだれから人々を守ろうとする。

 

他にも多くの魔術師が、突如押し寄せてきた災害から人々を守ろうと力を振るった。

 

そしてついに山脈が完全に崩壊し、なだれが巨人国へと押し寄せ全てを飲み込んだ。

なだれの中で残ったものは何もなく、巨人国に存在していたものは全てが埋もれ流され、土だらけの場へと変わってしまった。

 

しばし静寂が訪れ、しばらくすると大量の土の山から前触れもなく二ヶ所から巨大な拳が上がる。

 

 

『流石にこの量は無理があったかっ。無事か妹よ!』

 

『こちらは平気だ!しかし、子等は……』

 

 

そこから出てきたのはタロスとディアナであった。なだれから巨人種を守ろうとしたのだが、流石の質量に手も足も出せずに飲み込まれてしまったのだ。

 

土の中から這い出てきたディアナは辺り一面が土で覆われたことを確認すると、巨人種の安否を気にした。

 

 

『まぁ、大丈夫だろう。なにせ、儂とヴィダ様から生まれた子等なのだからな』

 

 

そう呟くタロスの近くで、土の中から氷で出来た突起物が飛び出してきた。

 

 

「我らが父タロスよ!無事なら氷城を引っ張ってくれないかっ!?これ以上は維持するので精一杯だ!」

 

『おお任せろ!』

 

「ディアナ様!こちらの下にシェルターを作ってあります!掘り出すのを手伝ってください!」

 

『わかった!この下だな!』

 

 

次々と土の中から飛び出してくる魔術で作られた擬似シェルターの数々。中には地面に穴を開け、そこを一時的な避難場所としたものもあった。

 

そうやって土の中にいる非戦闘民の巨人種たちを救出するべく動く巨人種、タロス、ディアナ。

 

なだれから多くの人々を救った彼らだが、しかしそれでも助けられなかったものも出てくる。

高いレベルと多くのジョブ経験を重ねていた巨人種はともかく、必要最低限しか備えていなかった巨人種はなだれに巻き込まれ死んでしまった。

 

そんな死んでしまった巨人種の死体も見つける必要があり、巨人国の完全な復興は相当な年数が掛かるだろうと予想できる。

 

────しかし、悲劇は終わらない。

 

 

「いたぞ!あれがヴィダの新種族だ!」

 

「見ろ、巨人もいるぞ!」

 

「邪悪に染まった神々……これ以上の蛮行は阻止せねば!」

 

「アルダに光あれ!皆のもの進めぇい!」

 

 

アルダ信者の人種たちが、山脈崩壊によって出来上がった土の上を進みこちらへと向かってくる。

 

明確な敵意を持って。

 

山脈の向こう側────山脈内の人間とは違う歴史を辿った人種がいる場所としか知らない巨人種からすれば、それは意味のわからない話だったろう。

 

いずれ戦いが起こるとは伝えられていた。しかし、まさか話し合いもできないとは思ってもいなかったはずだ。しかも山脈を崩壊させ、隙を作った上で、だ。

 

山脈の崩壊が意図的に起こされたものであると知った巨人種は───怒りで我を忘れかけた。

 

 

「てめぇらがこんなことを仕出かしやがったのかっ!?許せねぇ!ぶっ殺してやる!」

 

「死んだみんなの仇!」

 

「氷付けにしてやるよ!永久にな!」

 

 

『───落ち着け!怒りで我を忘れるなっ!』

 

『そうだ!ここは儂が先発を───』

 

『兄者もだ!今は落ち着けと言っている!』

 

 

だが、それをディアナは押し止めた。もちろん、ディアナだってこの怒りを攻め込んできた奴等にぶつけてしまいたい。巨人種は彼女自身が生んだわけではないが、彼女にとって巨人種は兄タロスとヴィダの間に生まれた、いわば甥と姪のようなものなのだ。死ぬ原因を作った奴等を許すことは出来そうもない。

 

しかし、ディアナには怒りのままに行動できない理由があった。それはタロスにも、戦意を昂らせている巨人種にも言える理由だ。

 

 

「なぜ止めるのですか!奴等は山脈を崩壊させて同胞を殺したのですよ!?」

 

『だが、このまま戦えば生き残った者も巻き込まれ、死んでしまう。戦える者はともかく、戦えない者は汝らよりも脆いのだぞ』

 

「っ、それは……」

 

 

そう、このまま戦えば非戦闘民の巨人種は戦闘に巻き込まれることになる。そして、戦いの余波で死んでしまう者も出てくるだろう。

 

見たところ、こちらへ攻め込んできているアルダ信者の軍勢にはランク13以上の猛者が多くいる。それらを相手に非戦闘民を守りながら戦うことは難しい。

 

それに、巨人国には巨人種だけでなく他の国から来訪した鬼人族やダークエルフ、それに人間といった別種の同胞もいるのだ。彼らは非戦闘民であり、守るべきものだ。

 

 

『その怒りは分かる。しかし堪えてほしい。我らには、守るべきものがいるのだから』

 

「っ……すみません、ディアナよ」

 

 

ディアナの言葉に、怒りを抑え込んだ巨人種たち。それを見計らってタロスは言い出した。

 

 

『よし、話は終わったな?では妹よ!儂はこっちに来る奴等を押さえとくから、お前は生き残った者たちを頼む!』

 

『……それはいいが、兄者。まさか一人で押さえるつもりか?』

 

『無論、そのつもりだ。なぁに、儂が暴れでもすれば奴等もお前たちを追ってはいかれんだろう』

 

 

無茶だ、とは誰も言わなかった。なぜなら、ここにいる誰もが知っていたからだ。

 

『太陽の巨人』タロス。彼が『巨人神』ゼーノの配下の中でも上位の力を持つ巨人であることを。

 

その実力を誰よりも知っているディアナは、タロスを止めるようなことは言わなかった。先程までは怒りで我を忘れていた状態だったが、今はまだ冷静であったからだ。

 

……だからといって、怒りが消えたわけではないのだろうが。

 

 

『ならば兄者、我も、』

 

『ダメだ。お前までここに残ったらどうやって皆を導いてやれるのだ。あぁお前が残るとかそういうのはなしだぞ。儂の方が強いし、足止めには向いてるからな』

 

 

ならばと自分も残ろうとするディアナを止めるタロス。その言葉は正論であるが故に、彼女はそれ以上の言葉を紡ぐのをやめた。

 

 

『……手早く戻る。それまで持ちこたえてくれ、兄者』

 

『任せろ』

 

 

言葉は短く、しかし信頼を込めて互いにそう言った。

 

 

『皆よ!急いでここを離れるぞ!』

 

「はい!」

 

「重傷者は……回復させる時間が惜しいっ!移動しながらやるぞ!」

 

「馬車があったが、使うか!?」

 

「引くやつがいないだろうが!」

 

「いや、ここにヴィーヴルがいる!」

 

「なんでいるんだよ!?いや、いるならいい!ヴィーヴルに馬車を引かせよう!重傷者を優先的に馬車に乗せろ!」

 

 

巨人種や人間、ダークエルフや鬼人族の協力もあって、素早く元巨人国から離れていく者たち。それに気付いたアルダ信者の軍勢はそれを追いかけようと方向を変えた。

 

 

「逃げたぞ!追い───」

 

『やらせん!』

 

「ぬぉぉ!?」

 

 

しかし、そこにタロスが割って入り軍勢の行く手を阻んだ。

 

 

『ここを通りたければ、儂を倒してからにするんだなっ!』

 

「くっ、あれが『太陽の巨人』タロスかっ!生半可な相手ではないな。皆のもの、まずは奴を倒すぞ!」

 

「「「ウォォォォ!」」」

 

 

タロスとアルダの軍勢がぶつかり合う。

 

アルダ陣営とヴィダ陣営、その最初の戦いが始まった瞬間であった。

 

 

 

▼▲▼▲▼▲▼▲

 

 

 

タロスは長時間アルダの軍勢を押し止め、ディアナと巨人種たちの逃げ延びる時間を稼いだ。暴れまわり、敵を叩きのめし、熱で敵を近づけさせなかった。

 

そうした勇猛な戦いを見せたタロスは、しかし巨人に匹敵する力を持った人間に追い詰められ、弱ったところを封印されることとなる。

 

 

戦いは、まだ始まったばかりであった。




今回、主人公は出てません。そして、戦争している間は日記形式はしばらくなしになります。
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