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(覚悟を、決めるときだな)
『貪喰の悪神』ラドゴーンは、心の中でそう呟く。
ザッカートとベルウッドの対立。それは避けられないことだった。
自然を愛し、ラムダの人々を守るために戦うベルウッドと。世界を壊すグドゥラニスをなんとしてでも倒そうとするザッカート。
双方がラムダを守ろうと必死だ。しかし、思想の違いが二人を対立させ、協力させない。
だから戦闘系勇者、生産系勇者などと分けられている。考え方が違うのだ。
その対立こそが、後の悲劇になる。
それを、止める。いや、未来の知識を知る自分にしか出来ないことだとラドゴーンは分かっていた。
(……まさか、ここまで肩入れするなんて思ってもみなかった)
【導士】というものを軽く見ていた。導かれるつもりはなかった。
しかし、不思議と後悔はない。なるべくしてなったのだとなぜか納得できた。
ザッカートとの邂逅は、間違いなくラドゴーンの心に大きな影響を与えていた。
ラドゴーンの忘れていた……悪神として過ごすうちに薄れていた心を、取り戻させた。
グファドガーンがザッカートに心酔することに深い理解と納得を覚えるくらいには、ザッカートに対して強い思いを抱いていたのだ。
(自分のことながら戸惑うけど……)
多分、ザッカートが死ねば自分は狂ってしまうだろう。敵も味方も関係なく暴れまわるかもしれない。
もしかしたら呆然自失となって眠りにつくかもしれない。永い時を、永遠に。
それだけ、ラドゴーンはザッカートに入れ込んでしまっている。
───だから。
ザッカートを魔王に殺させはしない。
グドゥラニスに、ザッカートを奪わせはしない。
滅ぼさせは、しない。
絶対に。
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襲撃は、確かに起こった。
グドゥラニス率いる魔王軍は、消耗を気にせず特攻に近い形で正面から攻め入った。
その裏では少数でザッカートたちのいる工房を目標に、ザッカートたちの命を狙った。
ベルウッドたちは前者の対応に出て、しばらく戻ってくることはないだろう。
彼ら自身の思いはどうだったのかは知らないが、客観的に見ればベルウッドたちはザッカートを見捨てた、ということになる。
何もしなければ、このままザッカートたち生産系勇者はグドゥラニスに魂ごと滅ぼされるのだから。
(させないけど)
こちらに向かってくる魔物の群れ。大した数でもなければ強い魔物でもない。
これだけ見ればただ戦力をこちらに割くために向かわせたと思えるだろう。
しかし、そうではないことをラドゴーンは知っている。あの群れには、ザッカートたちを恐れたグドゥラニスがいる。
ザッカートの作り出すものが、いつか自身の命に届くかもしれないと危惧してのことだ。
それは、ザッカートを正当に評価していると言える。しかし敵である以上、そんな評価はどうだっていい。
グドゥラニスが来るという情報は、分体を通して工房にいるザッカートに伝えてある。
グファドガーンもいるのだ、すぐにザッカートを遠くへ逃がすだろう。
問題となるのは、それを追ってグドゥラニスが向かってしまうこと。それを防ぐには、自身が時間を稼がなくてはならない。
少なくとも、前線に出たベルウッドたち戦闘系勇者と大神たちが戻ってくるまで。
(恐らく無理だ。せいぜいがザッカートを逃がすくらいか)
そんなに時間を稼げるとは、思っていない。良くも悪くも、ラドゴーンは自身の力というものを把握していた。
それを踏まえ、ラドゴーンの力でグドゥラニスと相対することを考えれば……間違いなく、滅ぼされるだろう。
もしかしたら時間を惜しんでラドゴーンを封印するかもしれないが……そんな甘い予想は捨てておく。
だが、保険は用意しておいた。今ここにいる『貪喰の悪神』ラドゴーンが滅びても良いように。
『GUOOOOO!!』
雄叫びをあげる。心に巣食う死の恐怖を打ち払う。ここで踏ん張れ。負けるとしても足掻き続けろ。
さぁ、負け戦だ。
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(……だいぶ壊されたな)
グドゥラニスへの時間稼ぎは、順調に行えた。
巨体を動かし暴れまわり、舌を伸ばしてあちらこちらに叩きつけ、はては胃の中から胃酸を吐き出したり、迷宮を体内で作り出してそこから魔物を排出したりと……まぁ色々やってた。
おかげでザッカートは逃げ切れたことが分体を通してわかった。
しかしそのせいでグドゥラニスの怒りを買ったらしく、粉々に肉体は破壊され、最後には魂を滅ぼされた。
そう、滅ぼされた。魂を、粉々に。
しかし、生きている。それは何故か?
(保険があって良かった。本当なら、こんなことに使うつもりはなかったが……)
魂というものに関して、ラドゴーンにさほど知識はない。だが魂がどういうものであるのかは、大雑把ながらも理解していた。
だからそれをやることができた。
ラドゴーンは御使い*1を信者に降臨させるのと同じ要領で、分体の一体に人格と記憶を入れたのだ。一部の魂と共に。
当然ながら分体に人格と記憶を入れたところで神としての力は備わっておらず、ラドゴーンの大部分を占めていた本体……いや、分体に神の力が残った。
ラドゴーンがしたのは、力の大部分を保有した分体をグドゥラニスにぶつけるということ。言うだけなら簡単だが、普通ならやろうとはしないことだった。
そんなことをすれば、力だけを持った分体に意志が宿り、その肉体を乗っ取る可能性ができる。
それがなかったとしても、その力の分体をぶつけたのはグドゥラニス。分体が滅ぼされれば、ラドゴーンは神としての力を失う───つまり、神ではなくなるということなのだ。
そのリスクを承知で、ラドゴーンはそれに踏み切った。
(分体は弱いし、せいぜいランク4程度。他の魔物に遭遇したら、面倒なことになる)
肉体は消え去り、魂の大部分を滅ばされ、神からただの魔物に堕ちて────しかしそれでもラドゴーンは冷静だった。
元からそうなるとわかっていたからだが……しかしそれ以上に─────
(まずは、ザッカートと合流しなくては)
ラドゴーンは、ザッカート信者なのである。
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『□0』
どうにかザッカートを逃がし、グドゥラニスを撃退することができた。
まぁ無茶をしたせいで『貪喰の悪神』ラドゴーンは滅び、残ったのはラドゴーンという悪神の人格と記憶を持った俺だけ。
つまり、一から再スタートする羽目になってしまったということだ。
まぁ最初に転生したときとは違い、神ではなくなったことでシステムの恩恵を受けられるようになったり、今までの経験は残ってたりするので、最初に比べたらだいぶましだろう。
それに……こんなことを想定していたわけではないが、依り代も作ってある。それに魂を移せば、それなりに戦えるようになるだろう。
システムの恩恵を受けられるようになるし、悪神時代の自分を越えることを目標に頑張ろう。
……あとになって合流したザッカートからは怒られたり心配されたりした。
元は敵だったとはいえ、今では仲間なんだから、と。
……………その。
恥ずかしすぎて、何も言えません。
『□1』
ザッカートに『呑喰穴』の最奥に連れていってもらい、そこで創っていた依り代に乗り移った。
本当ならもっと細かく、ザッカートの
ただ、ザッカートからは『なんでこんな依り代にしたんだっ!?』と言われてしまったので『ザッカートの要望に答えようと調整したらこうなった。時間がなかったので完璧にはできなかった』と伝えた。
『違うそうじゃない』と言われたが、エルフの美少女を望んだのはザッカートである。例え愚痴であろうとも、仲良くなりたいと思っていたのは事実だ。
ならば神……ではなくなったが、ともかくその要望に出来る限り答えようとするのは、何ら不思議なことではないのだ。
もしも気に入らなければ後々に改造するので、今はこれで許してほしい、ザッカート。
因みに依り代に宿ったら、種族は『魂の依り代』というランク8の魔物になった。
姿形は十代前半のエルフの美少女だが、その中身はエルフに擬態した何かである。何であるのかは、創った本人である俺にもわからない。
とりあえず擬態は解かないようにしよう。
やるにしても、それはザッカートのいないところで、だ。
・名前:ラドゴーン
・ランク:8
・種族:魂の依り代
・レベル:0
・二つ名:【貪喰の悪神】
・パッシブスキル
特殊五感
擬態:エルフの少女
高速再生:5Lv
物理耐性:10Lv
魔術耐性:5Lv
状態異常耐性:5Lv
全属性耐性:5Lv
能力値強化:ザッカート:1Lv
自己強化:導き:1Lv
魔力増大:1Lv
捕食時能力値増大:極大
自己超強化:捕食:10Lv
生命力増大:10Lv
体内空間拡張:10Lv
身体強化(牙舌毛胃):10Lv
身体伸縮(舌毛):3Lv
食い溜め:10Lv
・アクティブスキル
並列思考:10Lv
遠隔操作:10Lv
空間属性魔術:1Lv
風属性魔術:1Lv
寄生:1Lv
・ユニークスキル
全身口
異形精神:5Lv
魂の欠片
神喰らい:5Lv