二度目の悪神は渇望す   作:オルフェイス

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遅れましたー!だいぶ長くなって一万字越えになってしまって……

因みに最後にラブコメ的展開?があります。


ザッカートの日記《番外編》

『◯月◯日』

 

 

 

俺の名前は坂戸(さかと)啓介(けいすけ)。しがない町工場元経営者で、『アース』育ちの三十代独身男性日本人だ。

 

そんな俺はただの一般人であり、何か不思議な力を持っているとか、まるでラノベのような特殊な事情はない。

むしろ、組織の裏切りから工場の経営が破綻して、人生に絶望して自殺しようとした……そんな、ありふれた終わりを迎えた男でしかない。

 

そんな俺だが、今日この日、一つ普通ではない事情が出来てしまった。

 

それは、異世界の女神様に出会ったこと。

 

……俺の気がおかしくなったとか、そういうわけじゃないぞ。いやまぁ、俺も最初は女神が現れたところを見て、女神の幻を錯覚したのだと思いそのまま自殺しようとしたのだが。

自殺しようとした直前に現れたものだから、俺を迎えに来た女神か何かと思い込んでいたのだ。今は正気に戻って女神様からの話を聞いている。

 

で、その時に女神様から聞いた話をざっくりとまとめると─────

 

 

『侵略者との戦争から異世界を守る勇者となってほしい』

 

 

というものだった。

 

正直、最初は何の力もない俺が、異世界を救えるのだろうか……と思ったものだが、世界を守るための(チート)はくれるらしい。それと勇者は俺一人ではなく、女神様────ヴィダの兄弟姉妹が、俺と同じように勇者を選んでくるらしい。

 

それならば……と、俺はヴィダの選んだ勇者となった。

 

その時に異世界で使えるチート能力をヴィダから貰ったのだが……生産チートな能力を望んだことに、ヴィダは戸惑っていた。

 

運動神経が良いならともかく、俺のように運動音痴が苦手な男が戦うための力を貰ったところで、役に立つとは思えない。なら、何かを作り出すことができる生産チートの方がいいだろう、と考えたのだ。

 

ヴィダは戦う力を持つ勇者の方が良かったようだが……戦いというのは、何も斬って叩いてが全てではない。

 

他の勇者は戦う力を望むはずだし、俺くらいはこんな力であってもいいだろう。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

まるでゲームが現実になったみたいだ────ラムダに来たとき、まずそう感じた。

 

就くことでスキルに補正を掛け、レベルを上げることで積み重ねるように強くなれるジョブ。経験と技能に応じて獲得とレベルアップができるスキル。

 

そんなもの、『アース』ならまずあり得ないことだった。しかし、今ここにはその『あり得ない』がある。

 

ヴィダの話を嘘だと思っていたわけではない。だが、ちゃんと理解できていなかったのだろう。

これから俺たちがやらなくちゃいけないのは、世界を救うための戦争なんだってことを。

 

世界を救うための力は、もう貰っている。

 

なら、やろう。それをやることを選んだのは、俺自身なんだから。

 

 

 

ただ、予想外だったことがある。

 

俺と同じ『アース』から来た勇者……俺を含めた七人の内、四人が俺と同じ生産系チートを望んだことだ。

戦闘チートを望んだ三人と、生産チートを望んだ俺たち四人。

 

バランスは悪いが……俺は、俺に出来ることをやろう。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

レベルアップ……そのアナウンスが頭に何度も響くのが、こんなにも辛いとは……

 

しかし、この世界の魔術やスキルはすごい。魔王軍の侵略に対抗するために作られたらしいが、これなら、才能さえあれば誰もが一定以上まで強くなることができる。

 

まぁ俺たち四人───阿久津(あくつ)春香(はるか)反田(はんだ)良子(りょうこ)丘柳(おかやなぎ)信二(しんじ)と名乗っていた───は戦闘系ではなく生産系のスキルと魔術の獲得とレベルアップが主になるだろう。

戦闘は鈴木、九道、遠山の三人に任せる。俺たちは、三人のサポートだ。

 

そのために……そうだな、武器はもうあるみたいだし……ポーションとか、回復できる道具を作ろうか。

 

あと、銃を作ることができれば役に立つだろう。理想としては鈴木たちが前衛、俺たちが銃と魔術で後衛を、という感じで。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

阿久津たちと一緒に様々な道具を作り実験し、効果の検証が終わったらラムダの人々に提供する。

 

その過程でポーションを作れたのは良いのだが……不味いんだ、味が。

現在作り出せる最高品質のポーションを飲むと気絶する。味が悪すぎて、あまりの不味さに、気絶する。

 

とんでもないポーションだが、効果は抜群なのだ。腕の欠損さえも治すことができる。けれど、不味い。味の不味さが全てを台無しにしていると言っても過言ではない。

 

味が悪すぎるので、ポーションは量産しても飲むのではなく掛けて使用することになった。皆、それがいいと賛同してたな……うん。

 

 

……ポーションの話はここまでにしておくとして。

 

 

あの日、ラムダに来た時からそろそろ何年が経つ。あれから俺たち生産系勇者は、俺たちの出せる知識とアイディアで様々なものを作り出した。

 

魔術を使わずに傷を治すポーションや、道具自体に特殊な力が宿っているマジックアイテムを作ったりした。

物だけでなく、『アース』の知識や文化も教えたりもしたな。

 

ラムダの技術力は『アース』と比べて劣っている。ラムダには『アース』とは違って魔術があるだろうが、それは破壊力はともかく、細かい部分は及ばない。

確かにラムダの魔術師は、高い威力を誇る魔術を使えるだろう。しかし、電子機器のように細かい操作を長時間維持することはできない。

 

それに、ラムダの人々には技術を共有するという考えがない。技術を秘伝のまま隠して、誰にも教えないのだ。

 

この戦争は誰もが手を取り合い、協力しなければ勝てない。

 

それは、魔王という規格外の存在がいることも理由の一つだ。だがそれ以上に、邪神悪神やそれから生み出された魔物の軍勢に人間が対抗するために、知識と技術の共有は必要だ。

 

ラムダの物理法則は『アース』とは違う。『アース』と同じように『アース』の道具を作ってしまえば、暴発するかそもそも不発するだろう。

俺たちにはラムダの知識が足りない。だから『アース』の良いところは全てラムダに吸収させる。そして、そこから『アース』の技術を再現する。

 

『アース』の技術の再現は、魔王を倒す助けとなるはずだ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

この世界では、物資の移動には時間が掛かる。素早く、大量に運ぶことができないのだ。

大量に運ぶなら空間魔術の達人が。素早く運ぶなら足が速いものが運ぶ。それではどちらかの条件しか満たせない。

 

そこで『アース』にあった列車……蒸気機関を再現して、物資の移動の手助けをしようといつもの四人で蒸気機関の作成に取り掛かろうとした。

 

したのだが……これは鈴木と彼を選んだ光の大神アルダに止められた。

 

曰く『蒸気機関』の汚染がどれだけラムダに悪影響を及ぼすかわからない、と。

 

阿久津、反田、丘柳は鈴木の意見に不満そうだった。魔王による犠牲を最小限にするためにも、手段を選んでいる状況ではないのに、と。

 

正直、どちらも正しいのだ。『アース』での環境汚染がラムダでどう影響するのかわからない。

しかし、かといってそれを恐れて何もしなければ魔王に全てを滅ぼされる。

 

協力し合わなければ勝てないこの状況で、互いに不和となるのは避けたかった。

 

今回は俺たちが妥協して、蒸気機関を作るのは中止となったが……仕方ないし、今度は他の案を考えよう。

 

人間だけで出来ることには、限界があるからな。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

あれも駄目これも駄目……正直、気が滅入るな。

 

鈴木……というより戦闘系勇者の三人は、よっぽど『アース』の道具が嫌いなのだろうか。嫌っているのは鈴木だけだろうが……他の二人も、鈴木に同調している。

 

そのせいで俺たち四人と鈴木たち三人との溝が出来始めている。今はまだ溝は深くないが……このままでは、勇者同士で対立してしまう可能性がある。

少なくとも魔王が倒されるまで表面化はしないだろうが……最悪、本当に分断してしまうかもしれない。

 

俺たちには、魔王を倒したあとのこともあるというのに……

 

ここで鈴木が多少なりとも妥協してくれれば、まだマシなんだが……まぁ無理か。あの熱血漢は、本当に間違うまで止まらないだろうから。

 

あぁ、ストレスで禿げそうだ。こんな時、大好物のカツカレーでも食いたいな……いや、本当にカツカレー食べたい。

 

ラムダの食文化は、明らかに『アース』に劣ってるからなぁ……今は食文化を育てる時間もないし……まさかこんな風に『アース』を恋しく思うとは………

 

早く魔王との戦争を終わらせて、カツカレーを食べれるようにしたい。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

蘇生装置が完成した!

 

ラムダの魔術というズルは使ったし、そもそも世界の法則が違うが、それでも『アース』でも実現できていなかった死者の蘇生に成功した。

 

生命魔術を主に組み込んだ装置で、魂さえ無事ならそこから肉体を再生させることができる。時間も掛かるが、これなら魔王に魂を砕かれない限り、決して滅びない戦士の完成だっ!

 

……ちょっと、自分でも倫理的にどうなのかと言いたくなるような装置だが……魔王軍との戦いには、どうあっても必要になる。

 

魔術であっても、完全な死者の蘇生は出来ないのだから。

 

 

【追記】

 

 

蘇生装置を使い始めてから幾年か。装置装置に、成仏できずにさまよっていた魂が入り込んで誤作動を起こしてしまった。

 

手順をまるごと無視したせいで装置は壊れてしまい、しかも誕生したのは肉塊だった。

このような事故が起こってしまったために、蘇生装置は封印されることになった。

 

流石にこれは言い訳のしようがない。さまよう魂のことを考えていなかった、俺の責任だ。

 

これで、やむを得ない場合を除いて、蘇生装置が使われることはないだろう。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

魔王軍に寝返る神々が、絶えず出ている。寝返っているのは龍や獣王や巨人ばかりで、従属神から裏切る神は今のところ出ていない。それは、他の神々とは違って彼らを生み出した大神が滅ぼされているからなのだろうか。

 

だが、その神々の裏切りのせいで、ラムダには結束力に綻びが出来てしまっている。

こういうところは、神も人も変わらず似てるのだと思う。

 

そして、だからこそ考え付いたことがある。

 

もしかしたら……魔王軍にも、こちらに寝返ってくれる神がいるかもしれない。いや、いるはずだ。

 

軍勢にというものには、必ず穴がある。求心力とか、カリスマとか……そういうもので纏められたのならともかく。それ以外のもので纏められた軍勢は、ちょっとしたヒビであっという間にバラバラになる。

 

例えば、武力や恐怖で支配している軍勢ならば。

 

いける。いけるはずだ。『アース』の戦争でも寝返りというものはあった。

ならば、ラムダでも同じことができるはずだ。

 

こちらの神が魔王軍に寝返ったように。こちらも、魔王軍から引き抜いてやればいい。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

鈴木にはもちろんのこと、数々の大神たちにも止められたが、無事魔王軍から神々を引き抜くことに成功した。

 

ヴィダたちはとても驚愕していたが、戦争なんてそんなものだ。寝返られるのなら、逆に寝返りがあって然るべきなのだから。

 

しかし、これで魔王軍の内情が分かった。魔王は配下の神々を恐怖と暴力で従えていること。そうとわかれば、あとは簡単だ。

 

烏合の衆、とは言えないが、鋼の結束力を誇った魔王軍もこれで崩れるはずだ。カリスマ性を持たずに支配してしまえば、最後に待つのは結束力の崩壊。

 

あとは、どうにかして魔王を倒すことができれば……けれど、一番の難関は魔王だ。

 

魔王の結界……その性質さえ解析できれば、まだやりようはある、はずだ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

魔王のいた世界の神々は、ラムダの神々と違うのは分かる。ラムダや『アース』には存在しない形をした透明な蠍の神────グファドガーンのような神が存在したのだとしても、理解はできる。

 

だが……だが……!

 

なんで俺は神に祈られなくちゃいけないんだ……!?

 

俺は神じゃない。女神に選ばれただけの、ただの人間でしかない。

だというのに、なんで俺は勧誘した神々の一柱であるグファドガーンに信仰されなくてはならないんだ……?

 

グファドガーンだけじゃない。ただこちらをじっと(目はなかったが)見つめてくるラドゴーンもそうだ。

 

あの日、魔王軍から引き抜いてから何ヵ月か経過しているが……ずっと24時間フルタイム朝から晩までおはようからおやすみまで……ずっと居られるのは、流石に怖い。

 

頼むから出来る限り圧が抑えられる姿でいてくれ。戦闘が得意なベルウッド───鈴木だが、名前をラムダ用に変えることにしたらしい。渋々俺も名前を考え、名字を弄くってザッカートにした───ならともかく、生産系勇者の俺じゃ神の圧力はキツイ。

 

ラドゴーン、お前もだぞ。遠目からだとはいえ、見られ続けるのはキツイんだからな?

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

ラドゴーンとグファドガーンは、それぞれの対策をして俺の側に居座るようになった。

 

グファドガーンは人型の依り代を。ラドゴーンは小さな分体を。

 

これでもまだ圧はあるが、前よりはましだ。でも当然のようにフルタイムで近くにいるのはやめてほしい。切実に。

 

……話を変えよう。

 

ラドゴーンの連れてきた魔物たちには、他の魔物とは違うある特徴があったらしい。

なんでも武器に融合する、生き物の肉体に寄生するとか、そんなことを聞いた。

 

調べてみたところ、寄生されたところで人体に影響はなく、むしろ融合対象の能力値を上げる効果があることが判明した。

 

他者を強化することが出来るスキルを持つ魔物……名前はヴィーヴルというらしい。

 

しばらくの間、ヴィーヴルたちは造り出した迷宮で育てるとラドゴーンは言っていた。

正確には融合、寄生をしなかったヴィーヴルを、のようだが。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

唐突に思ったのだが、ヴィーヴルと銃を融合させれば威力が上がるのではないだろうか?

 

銃の作成は、前々から考えてはいたし何度も試行錯誤を繰り返していた。今日だってラドゴーンとグファドガーン……は勝手に着いてきたが、阿久津、反田、丘柳を連れての威力実験を魔物相手に行った。

 

しかし、火薬を使ったラムダ製の火縄銃では魔物の強靭な肉体を突破することができない。どのような工夫を施しても、だ。

魔物でこれなのだから、敵の神々や魔王相手に効くはずもない。

 

だが、ヴィーヴルを融合させれば……と最初は思ったのだが、今回ラドゴーンが連れてきたランク9のヴィーヴルでは、火縄銃の構造を理解することができないため、融合も出来ないことが分かってしまった。

 

つまり、融合させて威力を上げたいのならもっと単純なものにする必要があるらしい。

もしくは、構造を理解できるほど賢いヴィーヴルを連れてくるか……そのどっちかになる。

 

しかし、今回の実験で火薬を使うのは現実的ではないことがわかった。

もし銃を作るとしても、火薬ではなく魔術をメインとしたものになるだろう。

 

後日、魔術による強化やらなんやらを色々と試してみるつもりだが……期待はできないだろうな。

 

 

 

『■Б#◯』

 

 

 

俺たちの造り出した兵器で魔王の結界を破り、ベルウッドが魔王を倒す。

 

今のところ、考えられる作戦はこれぐらいしかない。

 

しかし、いくら言ったところで鈴木は『アース』の兵器を認めはしない。

 

なら、使っても問題ないことを証明する。兵器使用時に飛び散る毒素を少量かつ薄めて作り、ヴィダたち大神に浄化してもらい、浄化できることを証明してもらう。

 

そうすれば、鈴木たちも俺たちの造り出した兵器を使うことを認めてくれるはずだ。

鈴木、俺たちは協力するべきなんだ。協力して戦わなければ、取り返しなつかないことになるんだぞ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

まさかグドゥラニスが攻め入ってくるなんて……!

 

鈴木たちが対応にしいった軍勢は囮。本命は、戦闘が得意じゃない俺たち生産系勇者を滅ぼすこと……それが、グドゥラニスの襲撃の目的なのだろう。

 

しかし、今回は各地に分体を派遣させていたラドゴーンの機転と決死の足止めのおかげで、俺たちはグファドガーンの転移門を通って逃げ出せた。

 

おかげで残してきた蘇生装置や銃は全て破壊されてしまったが……命に代えられるものはない。

それは、ラドゴーンも同じだ。あいつは、俺たちを逃がすために魔王と戦い、滅ぼされた。

 

……と思っていたのだが、分体に魂の一部───人格と記憶を移して生き延びていたらしく、当然のように現れてビックリした。

 

正直ほっとしたけど、頼むから今後はこんな危険なことはやめてくれ。例えかつては敵だったのだとしても、今は仲間なんだから。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

『アース』の近代兵器の作成自体が、間違っているとは思わない。しかし、危険性が高いのは事実だ。下手をすれば人の住めない大地が残ってしまうだろう。

 

でも、こんな手段でも取らなくてはグドゥラニスの結界は破れない。魔王本体は鈴木に任せるとしても、やはり一番の問題は結界か。

 

あの結界は『硬い壁』なのではなく『エネルギーを吸収する膜』のようなものであるのは解析済みだ。

そして、魔術を無効化する結界と物理を無効化する結界は、それぞれ独立して存在していることもわかっている。

つまり、どちらかを破壊できれば片方は無力になる。俺たちの攻撃も、通るようになるのだ。

 

そのための兵器だったが……鈴木が認めないのでは作戦に組み込めようがない。もっと別のアプローチをするしかないのか?

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

ラドゴーンがとんでもないものを持ってきた。

 

エルフの美少女である。いや、正確にはエルフに擬態した魔物なんだが……見た目は完全にエルフなのだ。

 

ラドゴーンは魂を移す依り代を、予め創っておいたのだとか。なぜそんなものを創ったのかと思ったが……俺のせいだった。

 

俺が呟いた愚痴を曲解して、エルフになってしまえばいいと考えてしまったようなのだ。違うんだ、俺はそんなことを望んで愚痴を言ったわけではなくて……というかエルフはともかく外見年齢に悪意を感じるのだがっ。

 

俺はっ、ロリコンじゃないぞっ!?

 

……まさかとは思うが、グファドガーンも同じことしようとしてないだろうな……?

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

ラドゴーンがものすごい速さでスキルレベルとランクをアップさせている。今ではランク13……神のレベルにまで到達している。

 

導士───仲間に強い影響を与えるジョブ───の効果があるとはいえ、これは早すぎる。依り代に宿ってからまだ三ヶ月も経ってないぞ?

 

自分の造り出したダンジョンを単独で攻略しているからか……それとも、単純にラドゴーン自身の才能か。どちらにせよ、良いことであるのは違いない。

 

そして、今日はラドゴーンの名付け大会が起こってしまった。

 

なぜそんなことになってしまったのかと言えば、ラドゴーンが『自分はラドゴーンの人格と知識がある欠片でしかなく、正確にはラドゴーンとは言えない』という言葉から始まった。

 

阿久津、反田、丘柳……それとヴィダ信者の人々も交えて『第一回!名付け親決定戦!』なるものが開催されて……あぁ、できれば思い出したくない。

 

その間に阿鼻叫喚の諸々が起こりつつも名前を皆で考えて……『アース』にあった花の名前から、ライラックという名前に決定した。

 

その時にラドゴーン……いや、ライラックが一瞬だけ浮かべた表情……どうやら俺にしか見えてなかったようだが、あれは……

 

まったく……見た目は美少女なだけに、心臓に悪いな……あれは。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

一旦は中止していた銃の改良を少しずつ進め、どうにか試作版と改良版が完成した。

 

試作版は威力はオリハルコンを貫くほど高いが、とにかく発射するときの反動がでかすぎて、筋力に自慢がある人が撃っても骨が外れて筋肉が断裂するほどの衝撃が出てしまった。少なくともこのままでは使えない。

 

改良版は反動はどうにかなったが、その分威力が落ちてしまい、試作版と比べたら約5割ほど低かった。

そして共通するのは、一度射てば銃本体がバラバラに壊れてしまうということ。

 

一度射てば壊れてしまうのは、もう仕方ないし諦めるしかない。だからその分、改良版の威力低下を最小限にしてどうにか反動を抑えないと。

 

そう思って、作っておいたもう1つの試作版をあとで倉庫に入れようと思っていたのだが……いつの間にかライラックが持ち出して性能実験をやっていた。

 

おかげでランク14相当の相手でも試作版は通じると分かったが……性能実験のために自分を使わないでくれ。この武器は、お前を傷つけるために造ったわけじゃないんだからな。

 

あぁそれと、新型銃は高い威力と火薬を一切使わないものであることから、暫定的に『魔砲銃』と名付けられた。音が完全に銃の音じゃなかったからなぁ、あれ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

数日後、ラマダが出せる全戦力で魔王を倒す。これは、魔王軍が未だに結束力を崩している今がチャンスだからだ。

 

魔王のもたらす被害、戦争によって生じる犠牲、魔王が現れてから今日に至るまでに起こった数々の悲劇を、ここで終わらせる。

 

幸いにもライラックのおかげで威力だけを重視した魔砲銃を作ることができるから、威力だけなら試作版よりも高いだろう。

 

……まさか、レールガンを再現できるとは思ってなかったが……

 

とにかく、数日後の戦いで、魔王を倒して全てを終わらせる。

 

あともう少しだ。

 

 

 

『◯月◯日』

 

 

 

戦闘系勇者の作戦と生産系勇者の作戦を、同時進行で行う。

 

互いが互いの隙を埋め、確実に魔王を倒す。それは利にかなった作戦にも思えるが……これは単純に、俺たちと鈴木たちが連携を取れないからこうしているだけのことなんだ。

 

俺たちの間にある溝は、もう生半可なことでは埋められないレベルにまで至っている。思想が正反対ともなれば、こうなってしまうのは当然だろう。

 

 

……けれど。

 

 

俺たちの目的は、目的だけは同じなんだ。

 

魔王を倒す。そして、この世界を────ラムダを救う。

 

そこだけは、俺たちは同じなんだ。

 

……性格的に、どうしても相容れない部分はあるんだけどな。

 

 

 

 

▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 

「さて、と」

 

(ついに明日か)

 

 

坂戸啓介─────ザッカートの一日は、日記で締め括る。今日何が起きて、何をして、どう思ったのか。それをまとめる。

敢えて書かない部分はあれど、日記に書かれているのはザッカートが実際に思ったことだ。

 

これまでの人生で、ザッカートは数えきれないほどの後悔を重ねている。

何も間違わないことなんてあり得ない。その上で、後悔を胸に刻んで前に進む。次は後悔しないように。

 

失敗だらけの人生であったからこそ、ザッカートはこの結論に至っている。そして、一人だけでは出来ないことがあるのだと知っている。

 

だからザッカートは、【共導士】───共に生き、共存へと導くジョブに就くことができた。

 

その導きは、共存できるのであれば、互いに理解し合えるのであれば、どのような存在であろうとも対象内だ。故に、その導きは神にすら作用する。

 

例えばグファドガーンや……ライラックのように。

 

ガチャリ、と扉が開く。そこから黒髪のエルフ───ライラックが手に魔砲銃を携えてザッカートを訪ねてきた。

 

 

「ザッカート、魔砲銃の点検をお願いします」

 

「あぁ、ライラックか。わかった、貸してくれ」

 

 

ザッカートはライラックから量産型魔砲銃を受け取り、軽く問題がないか確認する。

今のところ魔砲銃に問題は発生してないが、もしもの場合がある。そのため、ライラックには使用後点検のために魔砲銃を預けてほしいと言ってある。

 

ザッカートは魔砲銃の点検を終わらせると、ライラックに返却する。

 

 

「今のところ、問題はないな」

 

「はい。使用中も、不備があるようには見えませんでした」

 

「そっか。ならいいんだけど……阿久津……じゃなかった、アーク、ソルダ、ヒルウィロウはどうしてる?」

 

 

ベルウッドの提案から名付けた勇者としての名前は、ザッカートからすれば慣れないものだった。ついつい『アース』での名前を口に出してしまう。

 

もう『アース』に戻る気がない以上、慣れなくてはいけないことなのは理解しているが……やはり、少し気恥ずかしかった。

 

 

「アーク、ソルダは就寝中です。どうやら御疲れの模様でしたから。ヒルウィロウは……恐らくご自身の趣味を語り明かしているのではないでしょうか」

 

「そうか。多分、リクレントかズルワーンあたりかな……じゃあ俺も、明日に備えて寝るとするよ」

 

 

明日の結末次第で、ラムダの行く末は決まるだろう。魔王を倒せれば世界は救われ、倒せなければラムダは魔王に蹂躙される。

 

後がないと思い込む勢いでやらなくては、勝てはしないだろう。後先考えるのは、魔王を倒してからでいい。

 

 

「……ザッカート」

 

「…どうした?」

 

 

ライラックは、部屋から出ようとはしない。それ自体は珍しいことでもない。グファドガーンだって常にザッカートに付いて回っているし、それはライラックも同じだ。ザッカートが寝ようとしたところで、何を言うでもなく、ザッカートの近くで佇むだろう。

 

グファドガーンのような威圧感はないが、正直ちょっとホラーである。

 

しかし、そんな普段とは違う雰囲気を纏わせるライラックに、思わず緊張するザッカート。

 

手元にある魔砲銃を強く掴み、ライラックは言葉を発した。

 

 

「……明日の戦い。勝てるでしょうか?」

 

「……そう、だな……」

 

 

ライラックの言葉にあるのは、不安だった。誰だって、それこそ神であっても死ぬのは怖い。しかし、それをライラックが言ったことにザッカートは戸惑った。ライラックがラドゴーンであった時なら、そんなことは言わなかったであろうから。

 

ライラックの変化に戸惑いを浮かべる心を落ち着かせ、ザッカートはライラックの言葉の内容について考えた。

 

そして結論付ける。

 

 

「わからない」

 

「……」

 

 

わからない、というとても不安定な言葉で、そう言った。

 

魔王について、知らないことは多い。何が効いて、何が使えて、何が弱点なのか……知らないことの方が多すぎて、わからないとしか言いようがなかった。

 

それでも、言葉を続ける。

 

 

「───でも勝つよ」

 

「……勝つ、ですか?」

 

「うん。俺たちの造り出したものだけじゃ、魔王の結界を破壊するだけに止まるかもしれない。ベルウッドの全力なら、結界ごと魔王を斬れるのかもしれない……けれど、それじゃあその間の時間稼ぎのためにどれだけ犠牲が出るかわからない」

 

 

より多くを救い、魔王を倒すのであれば。

 

ベルウッドだけでは駄目だ。そして、自分達だけでも駄目だ。引き入れた邪神悪神たちでも、ましてや大神たちでも駄目なのだ。

 

そう、結局のところ。

 

 

「『アース』でも、ラムダでも……人間は協力し合ってあらゆる困難を乗り越えてきたんだから。きっと勝てるはずだ……って言っても、明日実行するのはライラックだから、自信満々に言えることじゃないんだけどな……ははは」

 

 

皆が協力して頑張れば、どのような困難でも乗り越えられる。

 

ザッカートは、そう思っていた。

 

 

「そう、ですか」

 

 

それを聞いたライラックは……小さく笑みを浮かべる。まるで望んだ答えを得られたかのように。

 

 

「ありがとう、ザッカート」

 

「え、あ……ど、どういたしまして?」

 

「なんで疑問系なんです?もう……」

 

 

ザッカートはライラックの笑みに思わず声が膠着してしまい、若干片言になってしまう。

ライラックはそれを見つめてクスクスと、まるで本当に少女であるかのように笑うと、真剣な表情に変える。

 

 

「───あなたに出会えて、本当に良かった。ありがとう、愛しきザッカート」

 

 

そして、最大限の好意と感謝を、笑顔と共にザッカートにぶつけた。

 

 

「────」

 

「……そ、それでは……おやすみなさい、ザッカート」

 

 

思わぬ告白に思考が真っ白になっているザッカートを余所に、恥ずかしくなったのか肌を少し紅潮させて部屋から出ていくライラック。

 

本当なら、このまま部屋に残るつもりだったライラックだが……あんなに恥ずかしいことを言ってしまった手前、ザッカートの近くにいることは出来なかった。

 

 

(アーク、ソルダの助言を試してみましたが……今後、使うのは控えましょう、うん)

 

 

そんなことを考えるライラック。一方残されたザッカートは、ライラックに何を言われたのかをようやく認識し始めたところで……顔をふさいでしゃがみこんだ。

 

 

「っ……あれは反則だろう……!」

 

 

ザッカート、肉体年齢十代後半、精神年齢三十代の独身男。

 

当然ながら女性の免疫はなく……そのため、美少女の笑顔には、とても耐性がなかったのであった。

 

 

 




しばらく投降までの期間を開けて、ストックを貯める準備期間にしたいと思います。

今週が終わる頃には次の章を始める予定ですので、楽しみにしてください。



現在の√

ラムダ√→ザッカート√→■■√(NEW!)
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