GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第1話 - 目覚め

 ボクが目を覚ますと、そこは辺り一面の荒野だった。

 

「う、うん……?」

 

 ぼんやりした頭を押さえながら、周囲の状況を確認する。

 乾いた空気に満たされた荒れ地だ。岩壁のところどころはアラガミに捕喰(ほしょく)され、大きくえぐられている。

 空は灰色の塵によって覆い隠され、太陽はうっすらとしか見えない。昼だということは、かろうじて分かるけれど。

 

「……え、なにこれ、ここ、どこ?」

 

 その状況に、ボクの頭は大いに混乱した。

 場所を特定できるような情報は周囲には何もない。この場所に見覚えもない。ただ、アラガミの巣窟(そうくつ)のまん真ん中だ、ということしか、ボクには分からなかった。

 いや、それよりも。何故ボクがこの場所で目覚めたか、そのことの方が問題だ。

 

灰域(かいいき)の中かなぁ、ここ……参ったなぁ、人間の船が迫ってくる前に逃げないと……あれ?」

 

 そう独り言ちながら地面を見つめて、はたと動きを止める。

 今、ボクはごく自然に、人間の船……灰域踏破船(かいいきとうはせん)から離れることを考えて、口に出した。

 何故だろう。

 灰域で遭難するゴッドイーターなら、灰域踏破船の航路上にいた方が発見してもらいやすいし、アラガミなら一般的にその進路がどうあろうと気にすることはない。

 そして、ボクはどちらかと言えば後者(・・)である、はずだった。

 毛むくじゃらの全身、両手両足の黒く鋭い爪、両手には大きなガントレット。腰からは長くふさふさの尻尾。視界には当然、緑色の毛に覆われて黒い鼻のあるマズルも見える。

 

「ボクは……アラガミ(・・・・)、だよね、そうだよね、うん……でも、なんでだろう」

 

 そう、人間のように二足歩行をしているけれど、体躯も一般的な人間と同じくらいだけれど。ボクはどこからどう見ても、アラガミのはずなのだ。

 アラガミだったら、この場所で目覚めた理由も説明できる。霧散したオラクル細胞がまた集合して、新たなアラガミとしてここで目覚めたのだ。

 しかし、そうだとしたらボクのこの自我に説明がつかない。ボクの思考は、どう考えても人間(・・)のそれだ。

 どうしよう、こんなチグハグな身体で、こんな荒野に独りぼっちだなんて。

 

「どうしよう、いっそ船の進行ルートに……ん?」

 

 いっそ灰域踏破船の航路に近づいて、保護してもらった方が安全ではないだろうか。そんなことを考えながら足を踏み出そうとした、その時。

 ボクの後方から、土を踏む音が三つ、聞こえてくる。

 

「アラガミ……」

「生まれたてのアラガミだ、今なら好きに喰えるぞ」

「お……」

 

 二本足で立って歩く姿、口に生えそろった鋭い牙、鬼の面のような風貌。

 間違いない、どう見てもあれは。

 

「オウガテイル! くそっ、こんな時に!」

 

 小型アラガミの代名詞、オウガテイルだ。それが三匹、こちらに向かって真っすぐに駆けてくる。話している言葉を普通に理解できたが、ボクがアラガミだからなのだろう。

 それにしても困った、ボク自身にどんな力があって、どうやって戦えばいいかも分からないのに。体内のオラクル細胞に呼び掛けても、当然何も答えてはくれない。

 どうしよう、と悩みながらも右手をぐっと握ると。

 

「え……!?」

 

 ジャキン、という音と共に、ボクの右手に剣が現れた。

 刀身の短い、神機(じんき)で言うところのショートブレードというやつだ。その下にはスナイパーらしき銃身も、バックラーらしき装甲も見える。

 驚いた。これではまるで第二世代の神機ではないか。

 ボクの手の中に現れたものを見て、オウガテイル達も口々に声を発する。

 

「神機だ」

「こいつゴッドイーターか? ゴッドイーターは敵だ」

「殺すぞ」

 

 殺す、そう言いながら彼らは次々にボクに飛び掛かってきた。

 そりゃそうだ、見てくれがどれだけ人外だろうと、神機を持っていたらゴッドイーター扱いされても不思議ではない。そもそもゴッドイーターが、ひいては対抗適応型ゴッドイーター(AGE)が、人間の姿をしたアラガミ、と言っても過言ではないのだ。

 そうすると、もしかしたらボクの前世はゴッドイーターだったのだろうか、それとも肉体が再構成される際に、ゴッドイーターの偏食因子が混ざったのだろうか。

 いろいろ考えることはあるが、考えている暇はない。

 

「……っ、え、えぇい、使ったことなんて無いけど、きっとなんとかなる!」

 

 ボクはオウガテイルの下を転がって潜り抜け、最後に飛び掛かってきた一匹に剣で斬りつけた。ザシュッ、という音と共に、オウガテイルの身体が切り裂かれる。

 

「ガ――!?」

「なにっ、こいつ強いぞ」

「囲め」

 

 口々にそう言いながら、オウガテイルがボクを取り囲もうと動き出す。そして間の悪いことに、別の方向からこっちに向かってくる影がまた三つ見えた。

 

「なんだ、ゴッドイーターか」

「一人だ」

「オウガテイルに取られてたまるか、いくぞ」

 

 そう言いながらやってくるのは、斧のような角を持ったこれまた小型のアラガミだ。種族名はアックスレイダー。弱いアラガミではあるが、戦闘経験の浅いボクには十分強敵だ。

 

「う……どうしよう」

 

 対応に悩んでいる間にも、オウガテイルとアックスレイダーはボクを挟んでにらみ合いをしながら、じりじりと距離を詰めてくる。このままでは確実に、どちらかに首を噛みちぎられて終わりだ。

 

「く……この、退()けぇっ!!」

「がっ……!!」

 

 ボクは意を決して真正面に飛び出した。先程斬りつけたオウガテイルに向かって突進し、右手の剣を振り回す。

 二つ、三つ、オウガテイルの身体に深い切り傷が刻まれ、オラクル細胞が飛び散っていく。

 

「が、ぐ、あ――!」

「やられた!」

「逃げるぞ、追え!」

 

 目の前のオウガテイルが倒れるのを確認して、ボクは捕喰もせずに一目散に逃げだした。

 走って、走って。スタミナが尽きる前に、崖下に空いた穴に飛び込む。ボクの姿を見失ったアラガミ達は、穴の周囲で僕の姿を探しているようだ。

 

「はぁっ、はぁっ……!」

 

 穴の中で、岩壁にもたれながら息を整える。手にしていた神機は座り込むと同時に、手の中に吸い込まれて消えた。理屈は分からないが、荷物にならずに済むのは便利だ。

 呼吸を整えながら外の様子を窺うが、アラガミ達が離れていく様子はない。

 

「ここで……なんとかやり過ごせないかな……」

 

 出来れば、あいつらが興味を無くしてここから離れていってくれるといいのだけれど。そう思いながら、もっと穴の奥へ、と足を踏み入れたところで。

 

「ん?」

 

 僕は穴の中に、何かが転がっているのを見つけた。

 

「死体……ゴッドイーターだ。神機も、道具もある」

 

 それは人間の死体だった。両の手首には赤い腕輪がはまっている。その横には大剣型の神機と、その人間が持ち込んだであろう携行品を収めたボディバッグが転がっている。

 おそらく、この辺りで任務に就いていた対抗適応型ゴッドイーター(AGE)が、アラガミにやられて帰還も出来ずにこの穴に身を隠し、そのまま事切れたのだろう。死体の周辺にはレーションの個包装(こほうそう)も散らばっている。

 そして、その死体を前にして、ボクは首をひねった。

 

「……やっぱりだ。なんでだろう」

 

 それは、ボクの食欲のことだ。このゴッドイーターの死体を前にしても、食べたい、美味しそう、という感情が湧いてこない。

 ボクの偏食傾向(へんしょくけいこう)に、人間は入っていないのだろうか。

 不思議に思いながらも、いつまでもここでこうしているわけにはいかない。ボクはそのゴッドイーターの死体に両手を合わせ、その身体に手を伸ばした。

 

「え、えーと……ごめんなさい、これ、貰っていきます」

 

 そう言って、ボクはその死体からマントを外した。それと地面に転がっている携行品(けいこうひん)のボディバッグも手に取る。

 アラガミが服を身につけるなんて、という思いもあるけれど、素っ裸でいるよりは人間からの心象はいいはずだ。

 自分自身の感情に疑問を抱きながら、ボクは自分の身に間に合わせの服をまとい始めた。

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