GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第10話 - 戦闘

 バギーを降りて、地面に降り立つと、ひんやりとした空気がボクの身体を包み込んだ。

 凍結プラント。オラクル細胞の影響によって凍りついた、かつては工業地帯だった場所だ。

 ヘビームーンと呼ばれる半月状の巨大な神機を背に担ぎながら、ビクトルが言う。

 

「ここが、凍結プラントの中央制御塔だ」

「この辺は広いが、前方のスロープを上った先にもフロアがある。あとは、左右の細い通路だな」

 

 ユウゴも、ロングブレードと呼ばれる長剣型の神機を、肩に担ぐようにしながら話した。

 さすがは歴戦のAGE、戦場の構造はすっかり頭に叩き込まれている様子だ。ボクも、置いていかれる訳にはいかない。

 右手にショートブレード型の神機を握りながら、ボクは二人に視線を向ける。

 

「いるのは……シユウとネヴァン、でしたっけ」

「ああ。サルーキの神機は、ショートブレードだったな?」

 

 ボクが問いかけると、ビクトルがボクの手元の神機を見ながら聞いてきた。

 彼の言葉に、ボクは頷いて自分の神機を見せる。短い刀身を備えた、手数に優れた神機。攻撃属性は斬撃に寄り、あとは貫通もある。破砕は、ない。

 ボクの神機に目を向けたユウゴも、真剣な表情で頷いた。

 

「そうなると、シユウの腕翼や下半身には攻撃が通りにくい。うまく立ち回れよ」

「う……は、はい」

 

 そう、相手がシユウであることを考えると、ボクの神機は相性があまり良くない。

 シユウの下半身と腕翼は硬く、刃が通りにくい。斬撃に特化したロングブレードや斬撃寄りのショートブレードでは、あまり有効打を与えられないのだ。

 頭や上半身、手の先などなら斬撃属性も通りはいいのだが、それらの場所は腕翼や下半身に比べて小さく、狙いがつけにくい。なるべく銃形態での立ち回りが必要になりそうだ。

 ともあれ、あまりここで話を続けている訳にはいかない。任務に使える時間は有限だ。

 

「さあ、時間だ。出るぞ」

 

 ビクトルがそう言いながら、高台から飛び降りる。続いてユウゴとボクも、後に続いて降りた。着地すると同時に、ボディスーツに内蔵されたインカムからエイミーの声が聞こえてくる。

 

「部隊の降下を確認、皆さん、よろしくお願いします」

「ああ、任せておけ」

 

 エイミーの言葉にユウゴが口角を持ち上げながら返事をした。口を動かしながら、飛び降りた場所から左へ。小さく上った先にある広場のような場所に、それはいた。

 

「ふう……」

「やはり、この場所はいい……」

 

 シユウだ。二体、一箇所に集まっている。まだボク達には気がついていない。

 思わず、ボクの身体が強張った。ボク自身もアラガミではあるけれど、こうして相対するのは、やはり怖い。

 

「う……」

「焦るな。まだこちらには気付いていない……頭を狙って撃つぞ。ビクトル」

「ああ」

 

 動き出そうとするボクをユウゴが留め、かたわらのビクトルに視線を投げた。そこでは既に神機を銃形態に変え、スナイパーを構えたビクトルがいる。

 構えられた神機の銃口から、バシュッと音を立ててオラクルが発射された。レーザー状のオラクルが、一直線に一体のシユウの頭部に向かい、それを貫いた。

 

「なっ!?」

「ゴッドイーターだ!! 殺せ!!」

 

 攻撃を加えられたことで、彼らもボクたちに気がついたのだろう。敵意を剥き出しにしながら吠え猛り、腕翼でこちらに手招きをするように動かす。

 余裕があるように見える動きだが、先程の言葉。怒っているのは目に見えている。

 

「ひるむなサルーキ、お前も撃て!」

「は、はい!」

 

 ユウゴもショットガンを構えながら突進している。彼の背中を見ながら、ボクはビクトルが頭部を撃ったシユウに狙いを定め、引き金を引いた。

 スナイパーの銃口から放たれた赤いレーザー。それがシユウの頭部に命中した。二発頭にくらったシユウが、小さくよろめきながら頭を振る。

 

「ぬぉ……っ!」

「今の一発でひるんだか、やるな」

 

 至近距離でショットガンから散弾を放ちながら、ユウゴがこちらに微笑んでくる。そのまま剣形態に切り替えて、ロングブレードでシユウの上半身を斬りつける。

 

「はぁぁっ!」

「おらっ!」

 

 ビクトルも既に剣形態に切り替えて、ヘビームーンでシユウを攻撃していた。どうやら二人共、二体いるうちの一体に攻撃を集中させて数を減らす作戦のようだ。

 となればボクも、狙いをつけるのは先程撃ったシユウの方だ。

 

「く!」

 

 もう一度レーザーを発射する。動き回るシユウを正確に捉えたレーザーは、シユウの上半身に着弾した。

 と、それと同時にボクの神機のオラクル残量を示すゲージが赤くなる。これでは、レーザーを撃てない。どうやらボクの神機の現状は、レーザーを二発撃ったらそれで限界らしい。

 

「あっ、く、オラクルが!」

 

 どうしよう、このままでは攻撃が出来ない。かと言ってボクの神機ではシユウに有効打を与えるのは難しい。

 わたわたしていると、前方からユウゴが声を飛ばしてきた。

 

「アラガミの身体を斬ればそこからオラクルを吸収できる、剣形態に切り替えろ!」

「はい!」

 

 すぐさま返事を返して気持ちを落ち着かせる。剣形態に変化させ、すぐに僕は前へと飛び出した。ショートブレードを構えながら、シユウの全身を観察する。

 

「(腕翼や下半身じゃ弾かれる……なら!)」

 

 シユウは何も、全身を鎧に覆われているわけではない。剣での斬撃が入りやすい箇所、というのは存在するのだ。

 そこめがけて、ボクは跳んだ(・・・)。上空に舞い上がるようにしながら、頭目掛けて斬撃を繰り出す。

 

「はぁっ!」

 

 身体を反転させて跳び上がり、同時にショートブレードを下から一閃。切っ先は確実にシユウの頭を捉えた。そのまま高度を維持しながら二度、三度と斬りつける。最後に後方に飛び退きながらもう一撃。

 それだけで、結構なダメージがシユウに入った。オラクル細胞の吹き出す頭を抑えて、苦しそうにうめいている。

 

「ぐう……小癪な……!」

「よし!」

 

 出来た。まだ倒せたわけではないが、ホッと息を吐きながら僕は再びシユウから距離を取る。こちらに笑顔を向けながら、ビクトルが神機をまた振るった。

 

「いいぞ、このまま――」

 

 だが、その時。ヘビームーンの刃がシユウに叩き込まれる音と一緒に、インカムの呼び出し音が鳴った。その向こうからエイミーが切羽詰まった声で報告する。

 

「ハウンド1、ネヴァンがそちらに接近しています!」

「む」

 

 その声に、ビクトルが小さく声を漏らす。視線を向けるのは僕の方だ。

 まさか、と思って振り返ると、こちらに向かって駆けてくる巨大な鳥の姿がある。ネヴァンだ。

 ネヴァンの翼が、まっすぐ僕へと向けられる。

 

「ゴッドイーター! 死ね!」

「わ!?」

 

 敵意を剥き出しにしながら猛スピードで突っ込んでくるネヴァンを、バックラーを展開しながらなんとか躱したボクだ。

 しかし、よくない。シユウがまだ一体も倒せていないのに、同じ場所にネヴァンもやってきてしまった。これでは、乱戦は不可避だ。

 

「チ、ネヴァンも来たか」

「まずいな」

 

 ユウゴが舌を鳴らすと同時に、ビクトルも険しい表情になる。歴戦のAGEである二人がこう言うのだから、よくない状況なのは火を見るよりも明らかだ。

 

「ど、どうしましょう!?」

 

 戸惑いながら二人に声をかけると、ビクトルが腰の鞄に手を突っ込みながらすぐさま言った。

 

「乱戦はよくない、分断しよう」

「そうだな。俺がネヴァンを受け持つ。お前ら二人でシユウどもを叩け」

 

 ユウゴがそう言うや、ビクトルが手にしていた物体を地面に叩きつける。それと同時に強烈な破裂音と閃光が、この空間を満たした。

 ゴッドイーターの標準的な携行品、スタングレネードだ。強烈な閃光でアラガミの目をくらませ、一時的に動きを封じることが出来る。

 専攻が収まった頃には、ユウゴはボクの視界にはいなかった。銃声がして振り返ると、散弾を放ちながらネヴァンを引き付けるユウゴの姿がある。

 ボクは慌てた。確かに3対3よりは2対2と1対1にした方が戦いやすいだろうが、それにしたって一人でだなんて。

 

「ユ、ユウゴさん、一人で大丈夫ですか!?」

「心配すんな! それに俺のロングブレードじゃ、シユウには分が悪い!」

「おのれ、そっちか!」

 

 ボクが声を飛ばすと、後退しながらユウゴは笑ってみせた。ネヴァンが声を上げながらユウゴを追いかけていくのを視界に入れながら、ボクはスナイパーを構えた。

 心配している場合じゃない。目の前にはシユウが二体。一体は手負いとは言え、まだ倒してはいないのだ。

 

「大丈夫なんでしょうか!?」

「心配はいらない」

 

 この場に残ってヘビームーンを振るうビクトルに声を飛ばす。心配を露わにするボクと違って、彼はひどく落ち着いていた。

 

「ユウゴは強いし、単独行動にも慣れている。ネヴァン一匹くらい、どうってことない!」

「なら……いいんですけど……!」

 

 二体のシユウを引き付けて一気に斬りつけるビクトルに、ボクはボディスーツの中で目を細めた。眉間にシワが寄るのが分かる。

 確かに、強いと思う。ビクトルもユウゴも、とても強いのが分かる。話を聞くに、二人は小さい頃から同じミナトで一緒に育ったらしい。互いの信頼感はきっと強いだろう。

 しかし、本当に大丈夫だろうか。どうしてもユウゴが走っていったほうが気になってしまう。そんなボクに、ビクトルが厳しい声を飛ばす。

 

「それより、こっちのシユウだ! まずはこいつを倒すぞ!」

「は、はい!」

 

 ビクトルの声に、ボクは改めて眼前のシユウに狙いを定めた。スナイパーの銃口を、先程まで攻撃を加えていた方のシユウの頭に向ける。

 だが、勿論向こうも立ち止まっていてはくれない。貴重なオラクルを無駄にする訳にはいかないのだ。と、ビクトルが振るったヘビームーンの切っ先がシユウの腕翼を捉えた。

 

「せやっ!」

「おのれ……我が腕が!」

 

 その瞬間、腕翼のオラクル細胞が砕け散る。結合崩壊だ。

 アラガミの身体を構成するオラクル細胞の結合が弱まり、攻撃が通りやすくなるのが結合崩壊だ。これを起こせれば、一気に戦いが楽になる。

 インカムから聞こえてくるエイミーの声も、気持ち明るく聞こえた。

 

「結合崩壊発生! チャンスです!」

「よし、一気に行くぞ!」

 

 ビクトルが気合に満ちた声でもう一度ヘビームーンを振るった。そしてこれは、ボクにとってもチャンスだ。

 結合崩壊を起こしたアラガミは、その場にうずくまって動きを止める。そうなれば、銃の狙いは格段につけやすい。

 気合の声を上げる。

 

「いっけぇーっ!!」

 

 引き金を引く。オラクルの発射光が銃口から見える。

 一直線に放たれた赤いレーザーがシユウの頭をまっすぐに貫いた。その瞬間、シユウの身体からガクンと力が抜けた。

 

「なん、だと……」

 

 そう声を漏らしながら、シユウの身体が地面に倒れ伏す。その端からオラクル細胞の結合が崩れ、オラクル細胞一つ一つとして風に溶けていった。

 まず、これで一体。

 

「アラガミ、沈黙しました!」

「やった!」

「よし、一匹! 次のもこの調子でいくぞ!」

 

 エイミーの報告にボクも声を上げる。これで2対1、一気に楽になる。

 そこからは一方的な展開だ。剣形態で攻撃を避けつつ、シユウの身体をビクトルと一緒に切り刻んでいく。みるみるうちに、シユウの全身は傷だらけだ。

 

「サルーキ、もうオラクルも溜まっただろう! 僕が前に立つから、後ろから援護を頼む!」

「は、はい!」

 

 そう声を上げながら前衛でヘビームーンを振るうビクトルの声に従い、ボクは後方に下がった。銃形態に切り替えて、もう一度引き金を引く。

 何度も斬りつけられてダメージを負ったシユウは、頭部をオラクルに貫かれて崩れ落ちた。同時に頭部が結合崩壊を起こす。

 

「く、そ……!!」

「よし、これで――!」

 

 シユウが動きを止めたところで、ビクトルが一気に畳み掛けに行く。何度目か、斬りつけたところで、シユウが一気に起き上がった。同時に両の腕翼を地面へと叩きつける。

 

「なっ!?」

「ビクトルさん!」

 

 その一撃にビクトルの身体がよろめいた。同時に脳を揺らされた彼が頭を振る。

 スタンだ。この状態になるとしばらく、ゴッドイーターは動くことが出来ない。当然防御だって不可能だ。

 まずい。シユウは既に動き出している。このままではビクトルの身が危ない。

 

「おぉぉぉーーーっ!!」

 

 無我夢中でボクは引き金を引いた。狙いを定めようと間を作ることもしない。出来ない。

 果たして僕が放ったレーザーが、結合崩壊したシユウの頭をもう一度貫いた。その一撃でシユウが声を上げてよろめく。

 

「ガ……!」

「よし……!」

 

 当たった。そのことにボクがほうと息を吐く。スタンから快復したビクトルも、安心したように笑みを見せてきた。

 

「助かったよ、サルーキ。ありがとう」

「い、いえ!」

 

 そう言いながら、すぐさまダウンしたシユウへとヘビームーンの刃を入れていくビクトルだ。ボクも負けてはいられない、オラクルも尽きた。ショートブレードに切り替えて突っ込んだ。

 程なくして、シユウが音もなく崩れ落ちた。崩壊していくシユウの身体にビクトルが神機を入れていくと、後方から足音と声が聞こえた。

 

「終わったか。無事か?」

「あ、ユウゴさん!」

 

 ユウゴの傷一つ無い顔を見て、ボクはボディスーツの下で顔をほころばせた。

 よかった、大きな怪我をした様子もない。危なげなくネヴァンを倒してくれたようだ。

 ビクトルも不敵な笑みを見せながら、こくりと頷く。

 

「ああ、問題ない」

「はい、僕も大丈夫です」

 

 ボクも神機を下ろしながら頷いた。怪我も負っていない、神機も壊れていない。全く問題なしだ。

 と、ボクの方に歩み寄ってきたユウゴが、ボクのボディスーツの頭をぽんと叩いた。

 

「さすがだな」

「あ……」

 

 頭を、ボディスーツ越しにとはいえ撫でられたことに、思わず声が漏れる。

 嬉しいような、恥ずかしいような、そんな気持ちになって頬がぽっと熱を持った。

 と、ボクの頭から手を離したユウゴがさっと踵を返した。

 

「よし、帰るぞ」

「ああ」

 

 ビクトルもその背中を追って、ゆっくりと歩き出した。

 二人の背中に、思わず見入ってしまう。戦士の背中だ。とても大きく、頼もしく見える。

 だが、置いていかれる訳にはいかない。ボクもクリサンセマムの正規AGEとして、それを追いかけていかなくてはいかないのだ。

 

「……はい!」

 

 だから、ボクも声を上げて駆け出した。

 これから、皆の元へと帰るのだ。足を止めているわけにはいかなかった。


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