GOD EATER 3 -BEAST- ~人の心を宿した神は、人を守るべく神を喰らう~   作:Ingwelsh

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第3話 - 船長

 ゴッドイーターの彼らに同行し、荒野を進んでいくと、蝕灰(しょくかい)が薄くなったその場所に、一隻の大きな砂上船が停泊していた。

 その開いたハッチの前で、金髪をまとめ上げモノクルをかけた女性が、ボク達を待っていたかのように佇んでいる。腕輪はない。一般人のようだ……一般人?

 ちょっと待ってほしい、確かに喰灰が薄くなっているとはいえ、全く無害なはずはない。長時間いたら人命に係わるはずだ。

 混乱するボクをよそに彼女は、ゴッドイーターの遺体を抱えているボクを一瞥すると、小さくため息を漏らしてビクトルを見る。

 

「また奇妙な拾い物をしたわね、ビクトル」

「すまないイルダ、毎度面倒をかける」

 

 ビクトルはそう言いながらも、表情は常と変わらず淡々とした様子だ。

 彼の返答に苦笑しながら、イルダと呼ばれた女性の目が、こちらを見る。

 

「そこのあなた」

「ひゃいっ」

 

 呼びかけられて背筋を伸ばすボク。そんな僕の前に片膝をついて、イルダは死体を抱えたままの、ガントレットに覆われたボクの手を、そっと包み込んだ。

 

「私達の仲間を手伝ってくれて……それに、死んだ仲間を見つけてくれて、本当にありがとう」

「あ、あう、いえ……その……」

 

 その素直な礼の言葉に、まごつくボクだ。まさか開口一番、こんな優しい言葉をかけてもらえるだなんて、思ってもいなかった。

 視線を一頻り彷徨わせたあと、ボクは自分の身につけたマントを、指でつまみ上げる。

 

「あの、これ、お返しした方が、いいでしょうか」

 

 その言葉に、目を見開く人間たちだ。言葉の意味を測りかねている様子だったが、事情を説明すると、すぐに納得してくれた。

 ボクの手から遺体を受け取ったジーク、と呼ばれていた銀髪の少年が、笑いながら声をかけてくる。

 

「いいんじゃね? 神機は再利用されるし、腕輪はそいつの遺品になるけど、服や携行品はどうせ捨てられんだろ」

「違いない。捕喰されずに残っていただけでも儲けものだ。それに、よく似合っている」

 

 黒髪の青年ことユウゴも、彼の言葉に同調した。どうやら、ボクが死体からマントを剥ぎ取ったことは、特に気にしないらしい。イルダも立ち上がってにっこり頷いた。

 

「そうね、それらはあなたが取っておきなさい。しかし……どうしたものかしら」

 

 頷いてから、ふとイルダが神妙な面持ちになる。困ったように顎に手をやりながら、ボクを見下ろす彼女だ。

 モノクロの奥で、彼女のライトブルーの瞳がちらと輝く。

 

「ねえあなた、あなたは本当に、人間を捕喰しない(・・・・・・・・)アラガミ(・・・・)なのね?」

「あ、は、はいっ! 人間を見ても、どうしてか、美味しそうに思えなくて……」

 

 彼女の言葉に、すぐさま返事を返すボクだ。そう言いながら、イルダの顔をまっすぐ見つめる。

 やはりそうだ。純粋な人間である彼女を前にしても、ボクの捕喰衝動が顕わになることはない。最初から、人間を捕喰の対象として見ていないことは、もう明らかだった。

 そんな僕の姿に、イルダは目を細めながら再び身を屈める。そして、僕のふわふわの頭を優しく撫で始めた。

 

「そう……いい子ね」

「あう」

「お、おい、イルダ」

 

 これに困惑したのはゴッドイーター達だ。

 当然だろう、ゴッドイーターであろうとアラガミに生身で触れることは出来ない。アラガミはその身体全てがオラクル細胞で構成された群体、触れたところにある細胞が、直接触れたものを捕食しようと牙を剥くのだ。

 ましてや、ただの人間がアラガミの頭を慈しむように撫でるなど。正気の沙汰ではない……本来ならば(・・・・・)

 

「おい、イルダ大丈夫かよ、アラガミだぞそいつ」

「素手で触るなんて……フィムを相手にするのとはわけが違うのに」

 

 ジークと、唯一腕輪を右手首だけにつけたクレアと呼ばれていた少女が、狼狽の色を示す。しかしビクトルが、二人を制止しつつ顎をしゃくった。

 

「いや……見てみろ」

 

 彼が視線を投げる先には、悠然と微笑むイルダがいる。捕食されて苦悶する様子は一切ない。ボクの頭から手を離すと、その手のひらを彼らの方に向けた。

 

「御覧なさい、私の手は捕喰されている?」

 

 ボクも下から、イルダの手のひらを見上げる。彼女の抜けるように白い肌は綺麗なものだ。手のひらにも、傷一つついていない。

 その事実にぎょっとしたジークが、困惑混じりに声を発した。

 

「い、いや……」

「……ったく、無茶するぜ」

 

 ぼりぼりと後頭部を掻きながら、ユウゴが吐き捨てる。その点について異論はない。本当に無茶をしてくれるものだ。

 そんな反応の彼らにまた微笑みかけて、立ち上がったイルダがボクの肩に手を置く。

 

「この子がどういうアラガミであるかは議論の余地があるけれど、フィムのように人間に無害な子であることは間違いないわ。社交性もあるし、気になることも多い……私の船で保護しようと思うけれど、異論はある?」

 

 彼女の言葉に、今度はボクが目を見張る番だった。

 保護される? 彼女の船で?

 脳内がパニックになりかけるボクの後ろで、ジークが手を後ろで組みながらニヤリと笑った。

 

「ねーよ。だってこいつ、いいやつみたいだしな」

「イルダさんがそう仰るなら、私は構いません」

 

 クレアも微笑みながら、ジークに同調した。ユウゴも、ビクトルも、同じく異論はないらしい。

 なんということだ、この人間たちは、アラガミのボクを人間たちの砦である灰域踏破船に、迎え入れようというのだ。ボクが真っ当なアラガミでないことはともかくとして。

 目を白黒させるボクに、イルダがにっこり笑いながらボクを見下ろした。

 

「だそうよ。あなたはどうかしら? もちろん、あなたが嫌がるなら無理強いはしない」

「い……いいんですか? ボク、アラガミですけど……」

 

 困惑しながら口を開いて問いかける。我ながら随分と今更なことを言っているものと思うが、言っておかないと後が怖い。

 しかしボクのそんな不安を払拭するように、ユウゴが口角を持ち上げながらボクのもう片方の肩に手を置いた。

 

「心配すんな、ここにいる俺達も、アラガミみたいなもんだ」

「気にすることはない。お前が僕達の仲間を傷つけないなら、歓迎しよう」

 

 彼の後ろでビクトルもうっすらと笑みを浮かべている。

 彼らの言葉に、ボクはようやく、ボクという存在が歓迎されていることを理解した。大きく頭を下げる。

 

「じゃあ、その……お世話になります! よろしくお願いします!」

 

 傍から見たらとんでもない光景だろう、アラガミが人間に自ら首を垂れるなど。

 しかし彼らは、彼女らは、そんな光景をさも当たり前のものであるかのように見やり、そしてボクを船内へと招き入れた。

 

「ようこそ、灰域踏破船『クリサンセマム』へ。歓迎するわ、狼のアラガミさん」

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